グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~ 作:ゼロん
若干のセリフ改変、独自解釈はお許しくださいませ。
まずは……彼女たちの話からするとしよう。
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しかしながら、その楽園にも強弱関係は存在する。強き人間は弱き人間を、強き妖怪は弱き人間と妖怪を支配する。
弱肉強食が当然であり秩序満ちるこの楽園を気に入らないものがいた。
それが--『逆襲の天邪鬼』こと、
『姫、あなたたち
一人でいた『ある協力者』に正邪はスッと手を伸ばす。
正邪はその人のことは『姫』と呼んでいる。何といっても
『……ッ!! うん! やろう正邪!! 私たち
覚悟を決めた彼女は伸ばされた手を力強く握り返す。
そして二人は二ッと笑った。
『さぁ、弱者が見捨てられない楽園を作るのだ!!』
『おぉーーッッ!!』
楽園を自分たち弱者が支配する世界にしようとしたのである。雲より高い上空に浮かぶ逆さの城、
計画を邪魔をする者には彼女自身の『何でもひっくり返す程度の能力』をフルに活用し、存分に苦しめた。
その結果、彼女は……
「はぁ……はぁ……クソッ、
……計画は見事失敗に終わり、彼女は逃亡生活を余儀なくされていた。
彼女の協力者であり、計画の実行犯である『とある弱者』--『小人の
今まで幻想郷に反旗を翻した者は少なくないーーが、正邪の目的は『楽園の崩壊・支配』であったためスキマババァ……ではなく妖怪の賢者達に追われる指名手配犯となった。
彼らは容赦なく彼女の捕獲……あるいは抹殺を実行しようとしたが……正邪は抵抗し、ひとまず彼らの猛攻をしのぎ、現在も逃亡中だ。
正邪に利用されていたことに気づいた針妙丸も追手側だったが……暴力ではなく正邪を説得して捕まえる姿勢を彼女は最後まで崩さなかった。
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『正邪ッッ! 止まって! もう下克上は終わったの!』
『え? 何を言ってるんですか? これからですよ。弱者が強者を支配する、本当の下克上は……ね』
正邪は説得をいまだに試みる針妙丸に邪悪な笑みを向ける。
そんな彼女に今にも泣きそうな顔で針妙丸は抱き着く。突然の抱擁に驚き、正邪は目を見開く。
『正邪……お願い。もう逃げるのなんてやめて……私と一緒に降伏しよう……今ならきっとみんな許してくれるよ』
『姫、お言葉ですが……やなこった! だぁれが降伏なんてするかッッ!!』
降伏の言葉に対し、あっかんベーをする正邪。
降伏勧告の完全否定。つまり力づく以外にとらえる方法は失われた。
徐々に針妙丸の顔が曇っていく。
『ごめんなさい、正邪……みんな、どうかお願いします。正邪を……捕まえてください』
その瞬間、針妙丸の後ろから追手がぞろぞろとやってくる。針妙丸もそれに続く。
『ふん……所詮あんたも
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それから数年後。
輝針城での針妙丸への態度はお芝居とはいえ、針妙丸と共に幻想郷への反乱を企て、共に笑っていたのも……今では昔の話。
「姫……クソッ……なんであんな裏切り者のチビのことなんか思い出しているんだ。……くだらない」
--芝居とはいえ……反乱の後押しをしてやったっていうのに、あっさり裏切りやがって。
「まぁ……あいつを見捨てた私も人、いやアイツのことを言えないけどな。ハハッ、アイツはただの人じゃなくて小人だったなぁ……そういえば」
正邪は先ほどの自分の思考を鼻で笑う。二本の角が生えた頭を指で掻きながら、やれやれ、と。
くだらないとはわかりつつも軽口をたたく。何しろ……腹に大穴があけられているのだ。見事にぽっかりと、隙間風が入るくらいに。
独り言でも叩かなくては……激痛ですぐにでも意識が飛んでしまう。
口から真っ赤な血があふれ、腹の血が正邪の重ね矢印のワンピースに滲み、吐いた血が履いているサンダルに付着する。
「ゲホゲホッ……あ~ぁ……まだ終わってないんだがな……下克上」
心底残念そうな顔で森の木々に囲まれた空を見上げる。そこに赤い影が一つ。
--視界がぼやけてよく見えない。
「チッ……また私の邪魔をしたクソ巫女か……来いよ」
動かなくなった足を叱咤して何とかして立ち上がろうとする。
「正邪!! やっと見つけ……ッ!! ひどい怪我!!」
ーー違う。妖怪退治のあの巫女ではない。こいつは……
「姫……いや裏切り者が……今さら、私に何の用ですか?」
「違っ……! 私はただ正邪に……罪を
最後の追手……少名針妙丸は彼女の悪意のある言葉に怯みながらも正邪に食いつく。
正邪はそれを鼻で笑う。光を失いかけたその目で、針妙丸をまっすぐに見つめながら。
「はッ! お口では何とでもってやつですよ……ゴボッ、ゴホッゴホッ!!」
血を吐きながら正邪は悪態をつく。最後の最後まで彼女は頑固でひねくれもの。
たとえ生涯最後に会える相手が針妙丸でも……それは変わらない。
「しゃべっちゃダメだよ! そこを動かないで!」
針妙丸は来ていた赤い着物の袖を破り、包帯代わりにしようとする。
それを見た正邪の顔が怒りに歪む。
--冗談じゃない。
正邪は自分の足を何度も叩き、ムリヤリ自分の言うことを聞かせようとする。
結果、立ち上がり数歩だけ歩いて後、生まれたての小鹿のようになっていた彼女の体は近くの巨木の側で力尽き、崩れ落ちる。
「正邪!!」
慌てて正邪に駆け寄る針妙丸。
すでに正邪は虫の息。『なんでもひっくり返す程度の能力』を持つとはいえ、それすら使えないほど彼女は衰弱していた。
使い方次第では強力な能力の保持者でも彼女は天邪鬼であり弱小妖怪だ。鬼のように強靭な肉体を持つわけでもなく、吸血鬼のように傷を瞬時に治す力もない。ただのひねくれ妖怪だ。
「どうしました? 絶好のチャンスですよ……私はすでに虫の息。小槌の力がないあなたでも楽勝なんじゃないですか?」
「何言ってんの!? できるはずがないじゃん!!」
「……。そんなに弱かったら仲間に引き入れるまでもないんですけどねぇ……けっ」
ふっ、と馬鹿にするような笑みを浮かべ挑発する。アマノジャクとはいえど彼女にもプライドがある。
自分の判断や計画に落ち度はなかったとは今でも思っている。あの反乱が間違っていたなど微塵も思っていないし、相手への嫌がらせも、裏切りも、嘲笑も何とも思っていない。
ーーそれでも唯一の誤算は……
「違うよ! 違うよ違うよぉ!! なんでわからないの!? 私は! 正邪のことが大好きだから!! 死んでほしくないからとどめなんか刺さないの!! ほら、立って!!」
自分の協力者が裏切られてもなお自分を信じるくらい……純粋で、優しい……大馬鹿者だったことだ。
伸ばされた針妙丸の手を忌々しげに正邪は振り払う。
針妙丸は我慢できずに持っていた針を投げ捨て、血だらけになるのも構わず、正邪の胸に飛びつく。針妙丸の着ていた赤い着物にも血のシミが広がり、正邪の胸につけてあった上下逆さまの青いリボンが彼女の涙でぬれる。
「はぁはぁ……!! 私は……大っ嫌いですよ……! 姫のことなんか……どうでもいいって、ゴホッ……くらいに。どっかで野垂れ死ねってくらいに……!!」
抱き着く彼女をなんとか振り払おうとするが……もうそんな力も残っていない。
度重なる戦闘、負傷、徐々に減っていく自分の力、最も決定打になったのは……最後に負った致命傷。まだ針妙丸の姿が見え、喋れる余裕があるのが奇跡なぐらいだ。
--正直に言えば……針妙丸のことは嫌いにはなれなかった。もちろん強者を忌み嫌い避ける自分とは違い、強者に恭順し順応するその姿勢は気に食わないし嫌いだ。
だが彼女は非常に優しく、純粋な少女だ。どこまでも前向きで、自分と同じように彼女も弱いくせに……別の弱きものに『一緒にがんばろう』と手を差し伸べる。そんな情に厚い所は……甘いが、嫌いじゃあなかった。
そんな彼女といたから、この下克上は絶対やり遂げられる、やり遂げてみせる。そう思った。たとえ……
下克上が仮に成立したとしたら……彼女と輝針城で、弱者たちが強者を支配する……そんな世界で悪態をつきながら過ごすのも……悪くない。そう思ってもいた。
ーーそれでも、死ぬ前でもそんな本音は絶対に言わないが。
彼女は……最後までみんなの嫌われ者、アマノジャクでいたいから。その誇りが甘えを許さなかったから。
--もう喋る気力も……失せてきた、な……
周りの景色がぼやける中、唯一見えていた針妙丸のぐしゃぐしゃの泣き顔も見えなくなる。
「……じゃあな。せいぜい強者の世界で楽しくやってろ……裏切り者のお、ひめ……さん……よ」
「正邪……しっかりして……!! 正邪! せいじゃぁ!!」
最後まで悪役で……嫌われ者でいい。最後にとどめを刺されるのが強者の中の強者、妖怪の賢者でなかっただけでも幸い、といったところ。
死ぬ間際でも彼女は強者嫌いの反抗者だった。
言いたいことは言い終え、光を失った正邪の瞳が閉じていく。
それを見た針妙丸の顔が絶望の色で染まる。
「いやだ……いやだよ……お願い、目を開けて……!! せいじゃ……! せいじゃぁ……!! ぁ……」
罵られても、悪意のある言葉をかけられても……針妙丸は彼女のそばを離れず、ずっと泣きつき続けた。
そして……正邪はゆっくりと息を引き取った。
「あ~こんなところで終わっちゃつまらないのだよ。アマノジャク君」
--それが最後に私が聞いた言葉だった。
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目覚めたときに自分がいたのは……外の世界では学校と呼ばれるところの教室。
--いや……それに似た空間だ。ここはどこか異質だ。私以外に誰かがいる気配がしない。
「ここは……どこだ? 私は確か……」
--死んだはず。間違いなく針妙丸に泣きつかれて……その後に自分は死んだはずだ。
いつの間にか正邪は机に座っていた。驚いて椅子を引き、席をサッと離れる。
「こんにちは。いやこんばんはかな? それより……初めまして。鬼人正邪ちゃん」
気がつくと目の前の教卓の上に見覚えのない……ヘッドバンドを付けた黒髪ロングの少女がチョコンと座っていた。