グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~ 作:ゼロん
生徒会庶務、
『人はどうしてこんなにもか弱いのだろう』と。
自分の能力に彼が気が付いたのは小学一年生の頃。お楽しみの給食の時間、自分のデザートはこんにゃくゼリー。彼の好物であり、学校に行く唯一の楽しみだった。
だがその楽しみは奪われた。いじめっ子の
非常に悔しかった。が……仕方がないのだ。圭太は自分よりも体が大きくケンカも強かったから。当時の自分では逆らえなかったのだ。
けど強いはずの圭太はこんにゃくゼリーをのどに詰まらせてあっさりと死んだ。この頃からすでに自分の異常性は開花していたのだ。
友達にシャーペンを貸したらシャーペンの芯が心臓に突き刺さり死んだ。刺した血管から芯が入り込んでしまったのだろう。
中学時代、大嫌いな奴に廃材をぶん投げたら相手が脳震盪を起こした。そいつは今でも目覚めない。
高校時代。大好きな剣道で相手の小手を突いた。するとびっくり、相手の手に風穴が空いてしまった。高校生になって、百々はようやく自覚したのだ、自分の持つ異常性に。
相手に重傷を負わせる度、百々はこう思った。
『人って、すぐ死ぬんでありますな』と
今まではただの偶然だと思い込んで現実から目を背け続けてきたが、自我が中学の頃よりもはっきりとしていて、相手に風穴を開けたとなると。もう自覚せざるを得ない。
自分はその気になれば簡単に人を殺せてしまう異常者なのだと。実行するに十分な力を不幸にも持ってしまった事を。
以来、彼は部屋に引きこもり学校に行くことも家族と関わることもやめた。
ひたすらに怖くなったのだ。人と関わらなければもう誰も傷つけなくて済む。誰も嫌な思いをしないと。
するとある日、考えることすらも放棄しようとした彼はある一人の人間に出会った。
「君は……他の人と違う、特別な何かを持っているな? 少し見せてみてくれ」
その男は
「少し怒らせてしまったか? これは済まないことを言ったな」
「!? な、なんで……」
彼の足に穴は開いていなかった。それどころがいつの間にか百々の背後に全土は回っていた。
「ち、近づくな! 自分にもう関わらないでくれ!!」
「近づくな、関わるな、か。私には君の言葉がひどく薄っぺらく聞こえるよ」
「なに……!? で、でたらめを言うなであります! お前に自分の何が……!!」
「本当の君は誰かと関わりたがっているのにな」
「!?」
「誰も傷つけたくない、だから人と関わらない。嫌われたくないと考えている人間ほど友を、人とのかかわりを欲している」
「う、うるさい! 黙れ黙れだまれぇ!!」
「自分の持つ恐ろしい
語り続ける全土に本人も意識していなかった本音を言い当てられ、百々は動揺した。なのでつい
「死ね」
自分の持っている木刀で全土の顔面を吹き飛ばそうとした。
「その証拠に君は……人を殺すことに、傷つけることに何のためらいも躊躇もないじゃないか」
「は、放せ!!」
その木刀も全土に受け止められた。全土は左手でがっしりと木刀を握り、引き抜こうとするも……何故か一ミリも動かすことができなかった。
「百々君。君は何も怖がることなどない」
「え……」
全土は木刀を放し、百々に手を伸ばした。逆立った銀髪をたなびかせ彼に向かって微笑みかけたのだ。
「そんな君を……この全土は許容しよう。君のその力、私のために役立てる気はないかね?」
百々は唖然としました。この人はもろくない。自分といてもきっと壊れない。自分を受け止めてくれる。親以上に自分を理解してくれる存在に出会えたと。
「私のメールアドレスと電話番号だ。あと……住所も後で送っておくよ。いつでも私の家に来てくれ。一緒に
この時、肉親の言葉にさえ一度も揺さぶられなかった百々は初めて誰かに心を動かされた。
全土と会ってから、
「なるほど……百々。確かに君が傷つけてしまった者にきみが罪悪感を感じるのも仕方がないことだろう。だが……気に病むことはない」
「全土、様……どういうことでありますか」
だが彼以上に自分を安心させてくれる存在はいなかった。
「誰かの犠牲がなくては……世の中も人生も成り立たないとは思わないかね? 権力者が人民から金を搾取するように、親が子供のために身を削るように。何かを犠牲にして世の中と我々の生活は保たれている」
「……お言葉ですが、自分たちはその世の中からも阻害……邪魔者扱いされているのでは」
「『消えてほしい』とでも誰かに言われたのか?」
ビクッと百々の肩が大きく揺れる。
「他人が言うことや周りを気にすることなどない。人間は……本音のところ自分を一番に愛するものなのだ。自分が傷つかないように強き者を自分と同じように弱くしようとしているのだよ。……孤立させてな」
「では……強き者のままでいるにはどうしたら……」
「簡単だ。お前がやっていて楽しいと、やりたいと思うことをすればいいのだよ」
この日から百々が周りを傷つけることへの罪悪感が……一切消えた。
「強いものだけが……好きなことをできるのだよ。優れた頭脳を持つ者がバカ者を上手く使うように、肉食動物が自分より弱い動物を喰らうように。権力を持つ者が民衆を操るように……な」
全土の支配する学校へ転学し、生徒会庶務として学園の問題児を叩き潰し、相手にトラウマを植えつけた後……百々は度々考えた。
『人を傷つけることは楽しい』と
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「く、くまがわぁっーーーーっ!」
百々は真っ二つになった球磨川を見て、ため息を吐き自分の持っている竹刀を肩にあてる。
「弱い……弱すぎるであります。……滑稽すぎるくらいに」
正邪は球磨川の元へ駆け寄るのを見て
「空気を切っていた方がまだ手ごたえがあるでありますなぁ?」
「く、球磨川! おい!」
「ダメだよ……正邪。もう球磨川は……」
針妙丸の言葉に反応し、正邪の顔が青ざめ、現実を受け止めきれず首を横に振る。
「そんなはずがない! くっそ、どうしたんだ!? いつものように蘇って来いよ! なぁ!!」
半分になった球磨川の体をゆするも当然ピクリとも動かない。
--まさか……こいつの謎の能力が、発動しなかったのか……?
「なぁに、なにも怖がることはないでありますよ? 鬼人正邪」
「くっ……」
正邪は『絶対に出てくるな』と針妙丸をポケットに強く押し込む。
百々は肩にあてていた竹刀を正邪の方へ向ける。
「どうせ、お前も同じところに逝くことになるでありますから」
「……そうはならねぇな」
「ん……?」
静かにその場から立ち上がった正邪に百々は眉をひそめる。
「だって逝くのはお前だけだかんなぁ!!」
「!!」
正邪は両手に先ほど百々が投げつけてきたシャーペンを指の間に挟み、前方から雨あられと投げつける。
「てめぇの能力はズバリ! 『あらゆる武器の威力を上げる』程度の能力ぅ!! シャーペンや木の棒だって使い方次第では武器だからな!」
「……」
百々は忌々し気に正邪をにらむ。正邪は嬉々として彼のいら立ちの顔を眺める。
「飛び道具は効かないとまだ分からんでありますか?」
「……え」
百々は器用に竹刀をプロペラのように振り回し、飛んでくる全てのシャーペンを弾き飛ばす。
「ダメ押しにもう何本!!」
「むだっっつてるでありますよマヌケがぁ!!」
正面から再び投擲されたシャーペンが正邪に跳ね返される。
「いぃっ!? 馬鹿な!! 私の妙案が通じんだとぉ!?」
「自分のスキルに対策しようとも無意味であります。……まっどうせ、自分が威力が上げた武器を使えば大ダメージを与えられると踏んだのでありましょうが……」
百々は勝負は決したと正邪に向かい勝ち誇る。
「……って言うとでも思ったか? ばぁーか! 周りをよく見てみな!!」
「ッッ!! これは……」
自分がはじき返したシャーペンが地面に落ちる直前、進行方向が地面から百々へと全てひっくり返っていく。
「き、貴様……」
「お前は私の策にはまったんだよ!! 題すれば!! 『どうしようもない処刑法』ってところかな!?」
--以前戦った『時を操る程度』の能力を持つメイドがやっていた手法の再現だ。彼女は時を止めて自分の四方八方にナイフを投げていた。今回はその物まねだ。
私が投擲すれば反射的にはじき返そうとする。自分とは別の方向に飛ばすために。相手がはじき返した武器は当然四方八方に飛ぶ……が、逆に! それの進行方向を
しかし百々は跳ね返ってきたシャーペンを……避けもせず、はじき返そうともしなかった。
「……訂正。よく考えるでありますな。自身のスキルをここまでうまく使うとは。だが……無意味に変わりないであります」
一瞬。正邪の胸から赤い華が咲く。
「うっ……!! がはっ!!」
「正邪ぁ!!」
心臓を何かで撃たれ、足の力が抜け地面に仰向けに転がってしまう。血が地面に広がる度、正邪の体温が冷たくなっていく。
「う、が……なに、が……!! かはっ!」
「せ、正邪! しゃべっちゃダメ! ッッ! 急所の位置……!!」
「こら! 出てくるな……ごふっ!」
ポケットから出ようとした針妙丸を引き止めるも、百々に頭を踏みつけられ地面に頭をこすりつける形になってしまう。
さらに口から血が漏れ出し、呼吸をすることも難しくなる。口元の血が自然と外にあふれ出る。
「せっかくの奇襲も奇策も無駄になったでありますな」
「お、まえ……!! なんで」
「……スキルの解除くらいできなくてはやっていられんでありますよ。まぁ、操作可能になったのはつい最近のことでありますがな」
百々のいた場所にはただのシャーペンがゴロゴロと転がっていた。威力の上がったシャーペンが暗器並みというなら跳ね返せばいい。その作戦はただのシャーペンに戻った時点で完全に失敗したのだ。
百々は自分の片手に持っていたのは……エアガンだった。
「さっきお前は自分のスキルについて言い当てようとしていたでありますが……さきほどお前が言ったのは、ズバリ使い方の一つに過ぎないであります」
「……!? なん、だ、と……!!」
「正確には自分のスキルは……『殺傷力を上げる』能力であります。自分に触れたものは石ころや食べ物や薬であろうと全部!! 殺傷性の高いものに早変わりであります」
「…ぁ…!!」
おもちに触れれば相手の喉に詰まらせ窒息死させる危険物へ。薬は毒薬へ。シャーペンは相手を死に至らしめる凶器へ。
「しかも! 元々殺傷性のある物は倍倍の強さの物になるであります。刀であればその分切れ味が。貫通力も威力も、物によって倍倍であります」
百々のスキルがなくても、箸だろうと棒切れだろうと使い方によっては大けがを負わせられる。木刀や竹刀も廃材も使い様によれば人だって殺せるのだ。エアガンのBB弾も……撃ちようによっては鳥を一撃で殺すこともできる。
百々は正邪の頭にエアガンを突きつけるが……その顔は勝ち誇ったかのような顔ではなく、当惑の顔だった。
「くく……ハハッ。ふふふ……」
「貴様……なぜ笑っているでありますか? 死への恐怖で気でも狂ったでありますか?」
正邪は顔を上げ、負けているはずなのに自慢げに顔を引きつらせながら笑っていた。
「笑わずにはいられるかってんだ。つらくて泣きたいってときは……私は笑うことにしてるんだよ」
「……理解しがたい習慣でありますな」
怪訝そうに顔をしかめる百々に正邪は血の混じった唾を吐きつける。百々の顔に『不快』の二文字が浮かび上がってくる。
「習慣じゃねぇ。生きざまだよ。正直、死ぬほど痛ぇし……つらくて泣いちまいそうだ」
正邪はその赤い目を細め、口元についている血をぬぐう。
「けどなぁ!! どんなにつらくて苦しくて泣きたいときでも、私は逆に笑うんだよ! 私は鬼人正邪!! 生まれついての天邪鬼だ!!」
吠えた後、正邪は憎たらし気にニヤニヤと笑う。だれがお前なんかに命乞いなどするか、と。
「……それで満足か? じゃあ……死ねであります」
百々が引き金を引く直前。自分をかばおうと腕をよじ登ろうとする針妙丸を遠くに投げる。針妙丸の悲痛に歪んだ顔が鮮明に正邪の目に映る。
--今度こそ、死んでくれるなよ。……姫様。
「いやああああああああッッ!!」
針妙丸の悲鳴は虚しく、容赦なく引き金は再び引かれたのだった。