グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~   作:ゼロん

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タロットカード
『戦車』……逆位置。暴走、独断的、不注意、好戦的、劣勢、周りが見えない

を表す。正位置、逆位置、いずれにしても視野が狭くなりがちである。


第20話 『大嘘憑き』

 

「もう……!! 遅いよ。正邪ぁ……!!」

 

「おぅ泣き虫姫。元気してたか?」

 

 --早速使ってみてわかった。

 

 正邪はちらりと自分の持っているハンドガン……安心院の渡した『とっておき』を見る。

 

 --これは私が外の世界で弾を……弾幕ごっこで使っていた妖力を弾丸にできる装置だ。

 

 正邪がここに来てもう数週間。彼女は外の世界において、幻想郷の住人であり、妖怪でもある自分が実際に存在を保っているとはいえ、だいぶ自分の力が弱まっていることに気がついた。

 

 一番大きかったのは、以前なら体力の続く限りできた……能力の連続使用ができなくなっていたことだ。

 

 --空を飛ぶことも、弾を放つこともできなかったが……この道具を使えば弾幕とは言えないまでも、銃のように弾を撃つことができる。

 

「全く……こんな道具があるなら最初からわたせってんだ」

「正邪? どうかしたの?」

「いや、なんでもない。時間稼ぎご苦労だ針妙丸。後は……私がやる」

 

 針妙丸を下がらせ、百々(どうどう)に向かって銃を構える。

 

「ほーお、随分と動揺してるじゃねぇか。らしくねぇ」

「……蘇った。いや死んでいなかっただけでありますかな」

「さぁ、どうかな?」

 

「いずれにせよ……貴様に自分のスキルを破ることなど不可能であります」

 

 百々は竹刀を再び構え始めるも

 

「易しいな先輩。私に土産をくれるなんてよ」

 

 再び正邪は銃を放つと銃口から矢印の形をした弾が飛び出し、百々の持つ竹刀を弾き飛ばした。

 

「しまっ……!」

「お前の能力の正体はさっき自分で言っちまったなぁ?」

 

 --そう、道具の殺傷力向上。そのスキルは道具無くしては機能しない。

 

「撃ち落としゃあ使い様がねぇんだよ!!」

「……!! クソォッッ!!」

 

 百々はエアガンを取り出し引き金に手をかける。

 

「遅ぇ!!」

「……くっ!!」

 

 百々が撃つ直前に弾を放ち、エアガンを遠くへ弾き飛ばす。

 

「銃は剣よりも強しってなぁ。あんたがハジキを持ち出すってことは読んでんだよ」

 

 --悪いが幻想郷じゃあ弾幕ごっこなんて日常茶飯事なんだ。人生……いや妖生、撃ち落とすか撃ち落とされるかだ。

 

「降参しな。もうあんたに手札はねぇよ」

 

 正邪はにぃッと笑いながら銃を構える。

 

 --むろん、弾幕ごっこで使われる弾には殺傷性はない。死なないとこ甘々だが、当たるとすごく痛いぜ?

 

「……さぁて、それはどうでありますかなぁ?」

 

 いつの間に集めたのか、百々の両手には大量の砂が握られていた。

 

「なっ!? しまっ……!!」

 

「細かすぎる物ならぁ!! 弾き落とせないでありますよなぁ!!」

 

 --まさか動揺している精神状態でそれに気がつくとは!! 私の! 私の過負荷はまだ使えないのか!?

 

 慣れ親しんでいる何かを『ひっくり返す』感覚。それはまだ正邪の手元にはなかった。

 

 --うそ……だろ……!? こんな時にぃ!

 

 打開策がない事態。正邪はその事実に気が付き、絶望する。

 

「どうやら貴様のスキルは発動できんらしいなぁ? 負け犬の劣等生にはお似合いの能力(スキル)であります。じゃあ……蜂の巣になるがいいであります!!!」

 

 百々の無慈悲な殺人弾幕がその手から乱れ飛ぶ。

 

 正邪はせめて痛みだけでも和らげようと両腕で顔を覆い--

 

 

 

 

 

 

 

 

『全く……可愛い女の子達を泣かせたり、いじめるなんて』『許せない奴だぜ。』

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 正邪が腕を下げた時には、正面に砂はなく……代わりに球磨川(くまがわ)が平然とそこに立ち、正邪に背を向けていた。

 

「球磨川……!! おせぇよ!!」

 

 球磨川は正邪の方を振り向くと、いつものように呑気な表情を見せる。

 

『うん。しばらくぶり! 正邪ちゃん元気してたー?』

「相変わらずだな……少しは緊張感ってもんがねぇのか……」

 

 空気になりつつある百々は苛立ちつつ声をあげる。

 

「く、球磨川禊……き、貴様まで……!!」

『オッス! 百々君! 君も元気してたかい? ずいぶんとお疲れのようだけどー、何かあったのかな?』

「き、貴様……!! 砂はどうした! 自分の投げた--」

 

『……何のことかなぁ? さっき飛んで来た砂利なら……「無かったこと」にしたけど』

「それは……どういう……!?」

 

 動揺した百々の隙を突き、正邪は急いで百々の能力のことについて伝えようと球磨川の元へ駆け寄る。

 

 --しめた! 球磨川がいればこの状況を打開できる!

 

「それよりもアイツのスキルのことなんだが……」

『あぁ彼の「道具の殺傷力を上げる」ってスキルのことかい? のんびり聞かせてもらったよ』

「ん?」

 

 正邪は球磨川の言葉にどこか引っかかりを覚えるが……すぐにどうでもよくなってしまった。球磨川の纏う雰囲気がいつもとは違っていたからだ。

 

 --なんていうか……別人ってわけじゃないんだが、より彼の持つ凶悪さが顔に現れたような……?

 

『百々君。ついさっき……君のスキルを大したことがないって言ったけど……訂正するよ』

「ほう、さいでありますか。自分の『戦車(キリングチャリオット)』を認めると」

 

『あぁ。自分で喰らってみてわかったけど』『君のその「戦車(キリングチャリオット)」は恐ろしいスキルだ。人を殺すのにそれほど最適なスキルはなかなかないだろうね』

 

 言った内容とは逆に、球磨川はすこしがっかりしたように見えた。

 

『だけど人を殺すためのスキルじゃあ』『人外である安心院(あんしんいん)さんは倒せない』

安心院(あんしんいん)……!? だ、誰だそいつは……? いや、今はどうでもいいでありますな」

『そっか。ならいーよね。おかげで説明する手間が省けたよ』

 

 驚くべきことに球磨川がいつの間にか百々の背後にいたのだ。まるで……『球磨川が百々の背中に移動するまでの時間』が『なかったこと』のように。

 

「貴様!? い、いつの間に!!」

『これが僕のマイナスだぜ。百々君』『すべてをなかったことにする』『この世で最も取り返しのつかないスキルだ』

 

 百々は絶句し、尻が地面についてしまう。戦意喪失だ。

 

「すべてを……なかったことに……!?」

『そう、だから……』

 

 

 

 

『君の持つ道具の殺傷力を』『なかったことにした!』

 

 

 

「え、う、嘘だ……そ、そん……な……」

 

 試しに木の枝を近くにあった木に振るうも、効果はなかった。

 

『あれー? 何してんの! うわーただの木の棒で木が切れると思ってんの? うわ恥っずかしいー』『どんだけ虚構(フィクション)にあこがれてんの、君?』

 

 球磨川はヘラヘラと笑いつつ絶望した百々の肩に手を乗せる。

 

『ま、よかったじゃん。百々君。だって君がなりたかったのは特別な人間なんかじゃなくて……』

『本当は()()()()()()()()()()()()()』『君はなりたかったんだから』

「……」

 

 最初、百々は最も警戒すべき対象を鬼人 正邪だと思っていた。

 

『僕はかわいそうな君の姿を見ていられないから』『君の願いを叶えてあげたんだよ!』『だから』

 

 しかし、それは間違いだった。

 

 

『僕は悪くない』

 

 

 最も警戒すべき対象は……いいも悪いもすべていっしょくたにかき混ぜて台無しにするこの男、球磨川 禊だったのだ。

 

「……殺せ」

『ん?』『どうしたの? 急に暗くなっちゃって』

「いまさら……生徒会の役に立てなくなった自分に……価値なんてないであります」

 

 正邪はすっかり憔悴しきった百々を冷めた目で見ていた。

 

 --決まった。もう、百々の心はぽっきりと折れた。

 

『おいおい、人を犯罪者にするなよぉ』『人殺しなんてできるわけないじゃないか』

「……」

 

『だけどいいのかな?』『僕の能力や彼女の能力の情報を』『君の仲間は欲しがっているんじゃないのかい?』

「!!」

 

 百々の目に急に光が戻るが一瞬で消える。目の前にいるこの男に見逃してもらえる保証など、どこにもないのだから。

 

『しかし……戦意を喪失した君にとどめを刺すのは気が引ける』『……だから交渉してあげる』

 

 あっさりと言ってのける球磨川の言葉に飛びつく百々。『自分はどうすればいい』と言いたげな目をしている。

 

『君らは今後、僕の行動を見逃してくれるだけでいい。その代わりに今、僕は君を見逃そう』

「あ……あぁ!! わかった!! それでいい!」

 

『うん。じゃあ交渉成立だ』と球磨川は百々を起こす。

 

『さぁ消えな』『僕は帰ってジャンプの続きを読みたいんだ』

 

「……わかったであります。すぐに消えるでありますよ」

 

 百々は球磨川に背中を向け全力で走る。

 

 

 

 --馬鹿め!! 貴様らの能力さえ知れれば全土様にとって大きな助けになる!!

 

 しかし百々は今後は見逃すつもりはなかった。

 

 --自分が潰さなくとも、他の生徒会メンバーが必ず貴様らを潰すであります!! ざまぁみろ鬼人正邪! ざまぁみろ、くまが

 

 

『ごめん。今のなしで。』

「!?」

 

 百々の背中に容赦なく一際巨大な螺子が突き刺さる。螺子に鮮血が付着し、百々はえずき口から血を垂れ流す。

 

「な、んで……!? や、約束は……?」

『悪いけど、僕は気分屋なんだ』『ごめんね。百々君』

 

 百々の体が痙攣を始め、口から血を吐きながら地面に倒れ伏す。

 

「このぉ……!! ……おお……うそ……つき……めぇ……ぁ」

 

 百々は完全に意識を手放した。沈黙した百々に向け、球磨川は凶悪そうな笑みを浮かべる。

 

 

 

『そう』『「大嘘憑き(オールフィクション)」』『名前だけでも(おぼ)えて帰ってね』

 

 




球磨川君を早く登場させたかった結果、連続投稿となりました!
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