グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~   作:ゼロん

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第22話 「私」と『僕』のそういう関係

 針妙丸が……死んだ。球磨川に心臓を貫かれて。

 

『相変わらず動じないね、正邪ちゃんは。お友達がやられたっていうのに』

「何度も言わせるなよ。私以外はどうでもいいって」

『……そうだね。君のそういう所が変わってなくて良かったよ』

 

 球磨川は今の正邪に安堵した素振りを見せるとニコッと微笑む。

 

『まったく』『針ちゃんも的外れなことを言うよねえ』

過負荷(ぼく)に行動の真意を問うなんて』

 

「まぁ、そうだな。お前のやること為すことの大体が無意味なことだもんな。台無しにして結局なかったことにしちまうんだから」

 

『あはっ。やっぱり正邪ちゃんは分かってるね。さすが過負荷(こっち)側の思考は違うよ』

 

 正邪はクスッと笑いかける。突然の彼女の笑みに怪訝な顔を見せる球磨川。

 

「けど……そんなお前も結構、負けず嫌いなんじゃないか? さっきお前が見せたのはそういう顔だったぜ。言われっぱなしじゃないってさ」

 

『……。いやだなぁ、正邪ちゃん。マイナスがプラスに勝てるわけないじゃないか』『悪い冗談だよ全く。』

 

「冗談じゃないさ」

 

 正邪の言葉に反応し球磨川の笑顔が……止む。

 

『……どういう意味だい?』

 

「お前にだって本当は幸せ者に勝ちたいんじゃないのか? さっきだって不意打ちだろうとなんだろうとお前は勝ちたかったんじゃないのか? どれだけ死んでもどれだけ過負荷(マイナス)だろうとな」

 

『あんなのを勝ったって言わないよ、正邪ちゃん。降参した相手に追い打ちをかけるなんて、精神的に負けてるよ。だから僕はまた勝てなかったんだ』

 

 はっ! と球磨川の一言を正邪は鼻で笑う。そんな彼女の姿はどこか満足気だ。

 

「勝利を選り好みか。贅沢だが……いいね。負けるとわかっていても最低(マイナス)なままで幸せ者(プラス)に勝とうとする。そこんとこ、私は好きだよ」

 

『えぇ!? うれしいなぁ。「好き」だなんて。惚れちゃうぜ? それで……君は何が言いたいんだい?』

「黒神 めだか」

 

 ピクッと球磨川の眉が動く。

 

 --やはり。思った通りだ。

 

「完全に最も近い人間。不完全……いや、負完全(ふかんぜん)のあんたにピッタリの対戦相手じゃないか。もしくはさらに上、安心院(あじむ) なじみ。あんな化け物を倒そうって言うんだかーー」

 

 正邪の四肢が地面に螺子ではりつけにされ、身動きが取れなくなる。それでも正邪の邪悪な笑みは絶えない。痛みで口元が少し引きつってはいるが。

 

「どうしたよ? 随分と動揺しているじゃないか?」

 

 球磨川の顔は先ほどのように苛立ちで歪んでいる。明らかに動揺している。わかりやすいぐらいに。

 

『……めだかちゃんの事は驚かないよ。君が僕のことを調べようとすればすぐにわかることだ』

 

「へぇ、やけに人間臭いなお前のその顔は。私が会った誰よりも人間臭いその表情、それも気に入ったぞ」

 

 ニヤリと正邪はさらに笑みを濃くする。

 

「表向き誰よりも人間っぽく見えなくて、本当の部分は誰よりも人間臭い。球磨川 禊、お前はなんて矛盾してて……なんて反逆的なやつなんだ」

 

『それよりもさ、「安心院さん」のことをなんで知っているんだい?』『君は……彼女の「端末」なのかい?』

 

「さぁな~? それよりも、それよりもさ……球磨川 禊。私と一つ取引をしないか?」

 

『……言っておくけど、僕は守る気なんてさらさら』

 

「私が差し出すのは情報だ。私についての、な。だから私を生かさなきゃ絶対に情報は手に入らない。()()()私以外には知りえないからだ」

 

 自分のことは自分がよくわかっている。その言葉を的外れというものもいるが、それは自分の全ては自分だけではわからないということでもある。自らの体験、経験、得た感情。知識、好み。それらは全て自分にしかわからないだろう。

 

 球磨川はさらに苛立ちを深め、螺子(ねじ)を片手に持つ。下手をすればさらなる苦痛を正邪は味わうだろう。

 

『聞こえなかったのかい? 君の取引とやらの内容を守る気も聞く気も、僕は一切ないよ?』

 

「そっかー残念だな~。 お前が得られる私の情報の中には当然……私の能力(スキル)についても入っているのになぁ」

 

 球磨川は正邪の顔に突き刺そうとした螺子を引っ込め、興味深げに彼女を見つめる。

 

『へぇ、確かに……それについては興味があるよ、うん。……君がろくでもないこと考えてるっていうのは分かるけど』『いいよ、正邪ちゃん』『ここはあえて』『僕は君の口車に乗ってあげる』

 

「そうか、やけにあっさり話を呑むんだな」

 

『うん。安心してよ正邪ちゃん。僕はエリートは大っ嫌いだけど……()()()()()()には優しいから』

 

「ははっ。私はどっちなんだろうな? ま、どっちもだろうけど。いや、どちらかと言えば『()()()』寄りか」

 

 手足が螺子に貫かれる激痛を感じながらも、正邪はニタニタと球磨川を見て笑っている。

 

『で、僕のメリットは正邪ちゃんの好みの下着情報と全裸写真でいいとして』

 

「おい待て。私の個人情報はともかく、純潔をやるなんて言った覚えはないぞ?」

 

『……っていうのは冗談でぇー』

 

 先程と変わらず笑う正邪から今までにないぐらいの殺気が飛んでくる。

 

 螺子で彼女を(はりつけ)にしているとはいえ、さすがの球磨川も身の危険を感じたようだ。彼は誤魔化すように咳ばらいをする。意外と男女関係に関しては彼は純粋(ピュア)なのだ。……『ちぇっ』とつぶやく声は聞こえるが。

 

『君が僕にお願いしたいことって……何だい?』

 

「さすが球磨川。よくわかってるじゃないか。『取引』には交換条件が憑き物だ」

 

 正邪は一呼吸置いた後、覚悟を決めて口を開く。

 

 

 

「お前の能力所有者(スキルホルダー)探し。それ、私にも協力させろ。これが私がお前に求める利点(プラス)だ」

 

 

 

 どや、と自信に満ちた顔で正邪は球磨川の返答を待つ。

 

『……は』

 

「……ん?」

 

 球磨川の肩がプルプルと震え、口が開かれる。

 

 

『ハハッ……はっはっはっはっはっ!!」

 

 

「!?」

 

 しかし彼の口から出たのは怒声でも罵声でもなく……大きな笑い声だった。

 

 --球磨川が……爆笑した……。微笑んでることはあっても、こんなに声を出して笑うことなんて……

 

 そう、一度もなかった。突然笑い出した球磨川に困惑の表情を見せる正邪。

 

 腹を抱えるくらい笑った球磨川は『ははっ、は……はぁ~ぁ』と落ち着きを取り戻していく。球磨川は目元に浮かんだ涙を拭き、再び正邪に向き直る。

 

『……いいよ』『ちょうど仲間がほしかったんだ』

 

「ほ、本当か!? ……いや、お前の場合信用できないな」

 

『安心して。僕は君の味方だ』『歓迎するよ。正邪ちゃん、過負荷(こっち)へようこそ。こっちの水は甘依存(あんまい)よ?』

 

 球磨川は心底嬉しそうに片手を出し、正邪は迷いなくその手をとり握手をする。

 

 --ブワッ!!

 

「!? また泣き出した!」

 

『……ご、ごめん。僕、前にいた学校でも握手なんてしてもらったことなくて。みんなすぐ手を引っ込めちゃうんだよ! ほんと失礼だよね!』

 

「あ、あぁ。そうだな相手がお前とはいえ、さすがに失礼だよな」

 

 --まぁ理由は分からないでもないが。

 

 正邪には球磨川の普通の手が……毒蛇が周りに巻き付き、手の平にはびっしり禍々しい色の猛毒がついた呪いの腕に見えた。一度相手に触れて絡みついたら決して離れず、触れた者を内側から呪い腐らせていく。そんな腕に。

 

『……けど。そこに転がってる針ちゃんは生き返らせないよ? それでもいいかい?』

 

「どうぞご勝手に。そいつはいつも私のために、自分から進んで犠牲になってくれる大切な仲間(どうぐ)だ。私のために死んだとなりゃぁ、こいつも本望だろうよ」

 

 --よし、まだ手は届くな。

 

 正邪は悪女を思わせるような手つきで動かなくなった針妙丸の頭を優しくなでる。なでた後は『じゃぁな、おバカなお姫さん』と正邪は亡き針妙丸を冷たく見放していく。

 

『……』

 

 球磨川は顔を下げ、正邪から彼の表情が見えなくなる。

 

 --さすがに怒ったか?

 

『正邪ちゃん……!! 僕は今、猛烈に感動しているよ……!!』

「え?」

 

 球磨川は引き気味の正邪に詰め寄る。熱意を伝えるためなのか、両手で彼女の手をがっしりと掴む。

 

『死した仲間の行動を無駄にしないなんて……!! 君にも仲間想いな所があったんだね!! 素晴らしいよ! 君は少年ジャンプの体現者だ!』

 

「へ? あ、うん?」

 

 --よくわからんけど感動された。お前だからいいけど……そろそろ手、放してくれねぇかな……?

 

 正邪は苦笑して球磨川の気持ち悪さに目をつぶる。もし両手で彼女の手を掴んできたのが球磨川でなかったら、正邪は遠慮なく履いているサンダルで頭に天空かかと落としを決めていただろう。

 

『もう不満はないよ! 君は僕のパートナーだ! これで晴れて君も過負荷(ぼく)の仲間入りだね!』

 

 感極まったのかブンブンと腕を振って握手をする。

 

 --こいつ、いつも以上にテンション高くねぇか……?

 

「仲間じゃねぇよ。……()()()だ。お前とは利用し合う関係でちょうどいいんだよ」

 

『いいよ、それでも。君が僕を手伝ってくれる限り』『君は僕の共犯者だ』

 

 正邪は針妙丸の遺体に指をさす。

 

「私がこの学園に溶け込むにはこいつらの存在が非常に役に立つ。だからもうしばらくこいつらを()かしてもいいか?」

 

『うーん……いいよ。僕は嫌だけど』『君がそこまで言うならしょうがないなぁ』

 

 球磨川が手を針妙丸に向かってかざすと、針妙丸に突き刺さっていた螺子(ねじ)が消え、傷も跡形もなく無くなっていた。

 

『うん。これで大丈夫なはずだよ。たっぷりと、いつものように彼らを利用してね』

「嫌味はいらんおまけだが、ありがとうな。……私もたっぷりと恩を返すよ」

 

 正邪は倒れた針妙丸を抱え、その場から立ち去ろうとする。

 

「たっぷりと()()、恩を返すよ」

『……え? あれ? 正邪ちゃん、君がどうして動いて……? ん?』

 

 球磨川が気づいた時にはもう……先程まで正邪を打ち付けていた螺子が、球磨川の手足を貫いていた。

 

革命返し(リバースイデオロギー)

 

「私とお前の立場を」「ひっくり返した」

 

 手足に螺子が刺さり絶体絶命の正邪、余裕で佇み自由に動く圧倒的な球磨川。この二人の立場を逆転させ、自由に動け余裕で有利な正邪、四肢を封じられ敗北同然の球磨川へとひっくり返したのだ。

 

「すべてをひっくり返す」「熱いお茶を冷たくするぐらいしか使い道がない、私の過負荷(マイナス)だ」

 

『……革命、返し(リバース イデオロギー)

 

 球磨川は手足から血を流しながら正邪に言葉を返す。

 

「約束通り、教えたぜ。じゃあな球磨川。また明日」

 

『……正邪ちゃん』

 

 球磨川との距離を離しているというのに彼の声が耳元に響く。

 

 --距離をなかったことにしたのか。

 

「安心しろよ。おまえが裏切らない限り、私はお前を裏切らないよ。利用できるまで利用するリサイクル。私は環境にも優しいんだ」

 

『僕は何度でも言うよ』

 

 球磨川の言葉に引っ張られるように正邪の足が止まる。

 

『君にプラスは似合わない』

「……」

 

『彼らとずっと付き合ってちゃ』『君もプラスになっちゃうよ』

 

 --そうだな。私もここに来てからずっと悩んでいたことだよ。

 

『僕だったら死んでもゴメンだね』

 

「おいおい、ジャンプの三大原則は『努力、友情、勝利』じゃなかったのか? こいつらとつるんでて私に悪いことはねぇだろ。どうせ勝ったら捨てるんだし」

 

『うん。けど現実(リアル)漫画(フィクション)は違う。「無駄な努力、ぬるい友情、空しい勝利」、これが現実だよ』

 

「かかっ、なるほどな。仙人みてぇに悟り開いてんな、お前」

 

 --現実……か。確かに、お前の言ってることは極端に言えば正しい……いや、事実なんだろう。まぁ努力は無駄とか、友情がぬるいってのは否定しないよ。

 

「球磨川、聞こえてんなら耳かっぽじってよく聞け」

『……この状態じゃ耳も掻けないけどね。なに?』

 

 

「勝利は空しくねぇ」

 

 

 正邪は再び前に向かって進む。針妙丸を背負って。

 

「卑怯者だろうが何だろうが最終的には笑ったもんが勝ちなんだ。私は勝ちが欲しい」

 

 正邪の履いているサンダルが芝生に当たり、静かに音が響く。

 

「だから私はお前やこいつらをとことんまで利用する。雑巾を絞り切るように使いきって使いきって、気に入らねぇ全土(エリート)どもに勝つ」

『……。』

 

「私とお前は共犯者だ。お互いに利用し合おうじゃないか。私もお前を邪魔とわかったらすぐに捨ててやるから、それだけは覚えとけ」

 

 口を開かず黙っていた球磨川は……正邪からは見えないが、笑っている。そんな気がした。

 

『油断しないでね、正邪ちゃん。いつかきみの寝首を』『かくかもしれないぜ』

「それでいい。お前と私はそういう関係なんだから」

 

 正邪もふっと笑い、後ろを振り返らない。

 

『じゃあね、正邪ちゃん。絶対に幸せ者(プラス)になっちゃあダメだよ?』

 

 

 

 

「……まぁ()()()()()、してみるさ」

 

 

 




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