グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~   作:ゼロん

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いつの間にか一週間以上経ってるじゃねぇか!!

あ、風邪は完治しました。ありがとうございます。




第29話 『また会おう、めだかちゃん』

 正邪が新生徒会を発足し、目安箱を設置した日の昼頃。

 角明学園に来訪者が。

 

「――ようこそ。角明学園へ」

 

 全土に顔つきのよく似た老人、角明学園学園長が目の前の人物へ丁寧に挨拶をする。

 

「これは学園長。こちらこそ、時間をとらせていただいて感謝するぞ」

「いえいえ、まさか箱庭学園の視察代表が生徒会長のあなただったとは――黒神めだか、さん」

 

 学園長室のソファーに座る、絢爛華麗(けんらんかれい)といった言葉が似合であろう美少女、黒神めだかは大胆不敵な笑みを浮かべる。

 

「なに、これも他校との親睦をはかるためだ。学園のためなら私は24時間でも48時間でも、休まずに働こう!」

 

「二日も働けるとは……なんとも頼もしい」

 

 なにせ彼女は学園で24時間、誰からの相談も受け付けると大言壮語を言い放つほどだ。

 本人曰く『見知らぬ他人の役に立つために生まれてきた』とか。

 

「うむ、では早速教室へ案内してもらえるか? 学内の雰囲気がどういうものか早く見てみたい」

 

「もちろんですとも。では――」

 

 

「――そこから先は、俺が案内をしよう」

 

 

 二人が席を立った後、学園長室の扉から銀髪の男が入ってくる。彼の鋭い目つきが学園長を射抜いた瞬間、学園長は狼狽してしまった。

 

「ぜ、全土……」

 

「む……」

 

 黒神は『何者なのだ』と眉をひそめ、突然入ってきた大男の様子をうかがう。

 

 

「じゅ、授業はどうした……?」

 

「ボケたか親父。授業など、とっくに終わってもう昼休みだ」

 

「そ、そうだったか。もうそんな時間だったのか……はっはっはっ……」

 

 ――親父……?

 

「この男は学園長の息子……?」

 

 ぼそっと黒神が全土のことを呟くと、全土は首を黒神の方へ向ける。

 

「初めまして、だな。噂でよく聞いているよ。黒神生徒会長」

 

「あ、あぁ……こちらこそ今日は一日よろしく頼む」

 

「そういうわけだ。親父、俺が言っておいた案件。きちんとまとめておいてくれよ?」

 

「……いつもすまないな。黒神さん、申し訳ございません。ここから先は私の息子が学校案内をします」

 

「うむ、生徒から直接聞いた方が学園の様子もよくわかるかもしれん。では全土、行こうか」

 

『レディーファーストだ』と全土は扉の前から退き、黒神を通らせる。その後に全土も続き、二人は学園長室を去った。

 

 

 

 ▲▲▲

 

 

 ――それにしてもこの男、本当にあの学園長の息子なのだろうか。

 

 学園の広大な敷地を回るため車に乗せてもらっている最中、黒神は彼女の隣に座る男、大多羅全土を注意深く観察していた。

 

「いい天気の中を歩き回るのも悪くないが――この学園の敷地はとても広い。はるばる来てくれた客を疲れさせるわけにはいかないからな」

 

「気遣い感謝するぞ、大多羅三年生。だが私はお前とこの天気で散歩したかったものだ」

 

「――それは失礼。余計なことをしたようだ」

 

 ――箱庭学園先代生徒会長、日之影先輩もこのような威圧感は持ってはいたが……この男は彼以上だ。本当にあの柔和そうな大多羅学園長の息子とはとても信じられない。

 

 それどころが……学園長と彼の外見も印象も全くの正反対だ。

 射抜けば猛獣でさえ殺せそうな鋭い視線。荒々しくも輝かしい銀髪。

 彼の一つ一つの特徴が彼の人間性を如実に表していた。

 

「次の行き先までにはまだ少し時間がある。少し箱庭の話を聞かせてくれないか?」

 

「ちょうどいい。私も貴様に聞きたいことがあったところだ」

 

「ほぅ……何を聞きたい? ()()()()()である俺に答えられる事なら何でも答えよう」

 

 全土は頬杖を解き、少し興味深そうに黒神の方を見る。

 

「まず一つ、大多羅三年生は生徒会長なのか?」

 

「ははっ、いいや。俺は生徒会長などという器ではないよ。さっき言った通り、俺はただの一般生徒だ」

 

「一般生徒の……一人」

 

 ――ならばなぜ彼を見た人は()()()()()()()()()彼を避けるのか。

 

 全土が用意してくれた車に乗る前に見かけた数人のD組生徒。彼らの全土への反応は明らかに『怯え』。信頼や友情などとは程遠い。

 あえて言うならば、為政者への絶対順守。

 

「それで……なぜその質問を? なにか俺に変な噂でも立っていたのかな?」

「いや。単に気になっただけだ」

 

 全土は含み笑いを浮かべ、黒神の表情をうかがってくる。

 

「それはよかった。言うのは勝手だが、陰口というのは目の前に出てくると、どうしても気になるものだからね」

 

「あぁ、悪い噂はない。君の陰口ももちろん。学園の悪い噂は一つも。――だがどうしても気になるんだ」

 

『ん?』と眉を上げる全土に黒神は身体を向ける。

 

「――悪い噂が……()()()()()んだ」

 

 視察に行く前に他校の良し悪しを調べるのは当然。黒神はあらゆるネットワークを活用し、情報を収集していたのだが、

 

「集めた情報の中に角明学園に関する悪い噂が……何もなかった。ソーシャルメディア、他人の書き込み欄の一言にも……なかった」

 

 最低でも一人は、学校のことをよく思っていない人間がいてもおかしくない。

 学園の裏サイトの書き込みまでも調べたが、そういった類の発言、『ここが気に入らない』という一言すら見当たらなかったのだ。

 

「――いいことではないか。特に不満に思う点はない。生徒()()がこの本校の環境に満足しているということではないか」

 

「……」

 

 間違いない。彼の口ぶり、この学園はやはり何かを隠している。

 でなければ先程の生徒が、ただの一般生徒である全土にああも怯えるはずがないのだ。

 

「黒神生徒会長。()からも聞きたいことがあるのだが……」

「な、なんだ」

 

 ――なんだ……心の奥底にまで滑り込んでくるような声。

 

「――上に立つ者は……どうあるべきと思うね?」

 

 彼が問いを出した瞬間、黒神は頭を上から押さえつけられるような奇妙な感覚を覚える。底知れぬ威圧感が……車内を覆っていた。

 

「聞けば君は、先代生徒会長である日之影空洞を改心させ、彼に勧められて生徒会長になったとか」

 

「――!! なぜそれを……」

 

 日之影空洞の異常性(アブノーマル)知られざる英雄(ミスターアンノウン)』によって箱庭学園全校生徒は彼のことを一切認識できないはずだし、記憶からも消えてしまっている。

 そんな彼を一体どうやって……

 

「うちの生徒会には非常に優秀な副会長がいてね。情報を集めるのが非常に得意なんだ。依頼したら、二つ返事でOKしてくれたよ」

 

「……その副会長は」

 

「あぁ、悪いが彼は今入院中だ。……なにせ、不測の事態があったのでね……不幸なことだよ」

 

 ――今は会える状態ではないということか。

 

「そうか、先代を見つけるのは容易ではないからな。どうやって調べたのか聞きたかったんだが……残念だ」

 

「まぁ方法はどうであれ、会うはずの相手を調べておくのは当然のことだよ」

 

 少し脱線してしまった。

 

「して、上にいる者はどうあるべきか……だったな。大多羅三年生」

「――ぜひ、君の意見を聞きたい」

 

 全土は含み笑いを黒神の方に向ける。

 

「――まず私はその問い自体を否定する」

「ほぅ……」

 

「全土、人に上も下もない。全て平等な、一つ一つの命だ。たとえ貧富、能力、人格に格差はあれど、価値など決められない。みんな、かけがえもない個人だ」

 

 黒神は扇子を懐から取り出し、全土に突きつける。

 

「私が生徒会長なのは、みんなを幸せにしたいからだ。あえて言うなら――他人を幸せにできる。それが皆を導く者の務めだ」

 

 黒神は決意を込めた瞳を全土に向け、まっすぐ彼の目を射抜く。赤く燃える、大きな野心を秘めている彼の目を。

 

「――それはすばらしい。まさに指導者として理想的な答えだ」

「そうだろう。自分の働きで皆が幸せになれる。これほど快感なことはない」

「だが同時に……残念でもある」

 

 全土は目を伏せ、黒神は怪訝そうな顏を浮かべ次の瞬間、警戒の色に、

 

「確かに君の考えはすばらしい。私も君の意見に一理あると思う」

 

 全土は目をカッと開く。呆れと侮蔑を込めて。

 

「――だがそれは君が言えることなのかね?」

「……」

 

「言っては失礼だが……私は君のその思想は、その考えはあまりにも()()()すぎる」

 

「そんなことはない! ただ私は皆を――」

「誰よりも人を壊してきた君が――それを言うのかね?」

「――!!」

 

「認めるよ。君は誰よりも人を愛している。君ほど人を信じられる人間もそうはいまい。だが、黒神めだか。――お前は誰よりも人を見誤っている。……愛は盲目とはよく言ったものだ」

 

「なに……?」

 

 

「――人は、平等ではない」

 

 

 全土のあまりにも強い『断定』に黒神は怯む。

 

 

「君は、『人に上も下もない。全て平等な、貧富、能力、人格に差はあれど一つ一つが大切な命。』と言ったな」

 

「あぁ……それがどうした?」

「私から言わせれば、それは命の()()()だ」

 

「どうして……」

「なら一つたとえ話をしよう。まず二人の子供がいたとする」

 

 全土は人差し指と中指を立て、二人の子供に見立てる。

 

「二人とも命に関わる重態。君はどちらか一人を治療できる」

 

 全土は中指を折り、一人と。

 

 黒神の答えはこの時点で決まっていた。

『医者を増やして二人とも救う』だ。

 

 

「だが一人は身体が弱く、治療しても、もって数日。……そしてもう一人は治療をすれば、その後最低でも六十年は生きられる」

 

「――!!」

 

「それと、新たな医者が来るころには子供は二人とも死んでしまう。本当に()()()()()()()()。残酷な取捨選択だ」

 

「なに……」

「さぁ、君はどちらを選ぶ?」

「ふざけるな! こんなの……!!」

 

 黒神は少し腰を浮かせ、怒鳴る。

 だが全土は全く動じていない。

 

「当然、誰でも長く生きられる方の子供を選ぶ。――わかったろう。皆、人の将来性を考え、無意識に人に価値をつけるのだ」

 

「ちがう!! そんなのはただの例えだ!」

「そうだ。これはあくまで例えだ。だが……残酷な選択肢は非常に現実的だ」

 

 ――バカげた話だ。

 もし、黒神がその気になれば二人を治す奇跡ですらやってのけるだろう。しかし――

 

「そう、世の中には()()()()()()()()()()()()()()()人間と()()()()人間がいる。――さて、人々はどちらを望むかね?」

 

「全土……!!」

「当然、人々は奇跡を起こせる人間に価値を置く」

 

 全土は黒神の突き出した扇子を手で払いのける。

 

「もう一度言おう、黒神生徒会長。命は――平等ではない。人の価値は能力と財力、つまり力によって決まる。弱肉強食こそ、この世の全てだ」

 

「――!!」

 

「力のある者が弱き者を、能力無き者を虫ケラの如く踏みつぶす。そして――何者にも踏みつぶされず、すべてを支配できる者こそ……頂に立つ者だとは、思わないかね?」

 

 この男は――!!

 

「ハハッ、そう悪く考えるな。考えてもみてくれ、すべてを支配できるというのは……己の庇護下で他人を不幸にすることも、幸せにすることもできるということだぞ?」

 

「――弱きものを犠牲にしても、か……?」

 

「フフフッ、そんな場合もあるかもしれないな……だが君もそうしてきただろう。己の幸せを求めるため、欲を満たすために」

 

 何を言っているのだ。そんなわけ――

 

「君は幼少期の頃から、まさに神童、と呼ばれるにふさわしい力を持っていたね」

 

 ピタリと黒神の動きが止まる。

 

「そして、君に相談に来た多くの学者の研究を、たった一瞬で『完成』させた。彼らのかけた生涯も、時間も、労力も……全て文字通りに『無駄』にしたというわけだ。君のちょっとした達成感を得るために、彼らの全ては犠牲になったというわけだ」

 

「ちがう……あれは」

 

 ただ、彼らの助けになると思って……あんなつもりでは、なかった。

 

「知らぬ間に数多くの弱者を食い物にしているのだろうなぁ。もちろんこの私も。だが……その分、我々強者が幸せになることこそ、その犠牲となった者にとっても……幸せではないかね?」

 

「そんなのはタダの暴論だ! 犠牲が出ないように――」

 

 黒髪は声を張り上げ、胸を張る。この自分しかない男の心を変えるために。

 

 ――しかしそれも彼女が窓の外を見るまでの間だった。

 

『おおっ、このエロスな本。僕の好みをわかってるぅ~!』

 

「――!?」

 

 ――嘘だ。そんなはずがない。

 あいつが……球磨川がエロ本片手で、ここにいるなんて。

 

 黒神は全土を手で退け、急いで車の窓を開ける。

 

「球磨川ぁぁぁっ!!」

 

『……?』

 

 反応した少年が本をどける前に、黒神を乗せた車は少年が見えないところまで去っていってしまった。

 

「全土!! どういうことだ!? 球磨川は……球磨川禊がここにいるのか!?」

 

「球磨川……球磨川ねぇ。聞き覚えがないな。うちの生徒にそのような名前の生徒はいなかったはずだが」

 

「とぼけるな! 少ししか見えなかったが、あれは間違いなく球磨川だ! すぐに私を下ろせ! 今すぐに確かめて――」

 

「――暴れられては困るな」

 

 車を出ようともがく黒神の首元に、全土は勢いよく手刀を放ち一瞬のうちに気絶させる。

 気絶した黒神の肩を支え、そのまま席に寝かせる。

 異変に気がついた運転手が車をいったん止め、後ろを振り返る。

 

「全土様、どうかなさいましたか?」

 

「――ん、いや。教育棟の方へ向かってくれ。確かA組に記憶操作が得意な奴がいたな」

 

「は、箱庭の使者に手を加えるのはまずいのでは……」

 

「いや、手を加えるのは『球磨川を見た』という記憶だけだ」

 

 ――二人にこの学園で戦ってもらっては困る。

 

 

「……ややこしいことになりかねないからな」

「わ、わかりました」

 

 

 

 

 ▲▲▲

 

 

 

 黒神の車が通りすぎた後、球磨川は先ほどの声が聞こえた方角を不思議そうに見つめていた。

 

 しばらくして彼も気が済んだのか、再び球磨川禊はD組の寮に向かい歩きだした。

 

 

『……ま、気のせいか』

 

 

 懐かしむような、切ないような……そんな静かな笑みをそっと口元に浮かべて。

 

 

 

『――()()会おうね。めだかちゃん』

 

 

 

 




おまけでタイトルロゴも作ってみました。


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