グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~   作:ゼロん

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第32話 全土の右腕、寒井美紀

「ここが多目的棟……」

 

 でかい。ただその一言に尽きる建物だ。

 見たところ四階建の建物で横に広く、旧体育館と思わしき古い建物も見える。

 あまりの広さに、地図なしで入ったら出てこれるのかも怪しい。

 

『いやぁ〜こういうでかい建物見てると、爆弾とかでボーンって吹っ飛ばしたくなるよねー! なんかスッキリしそう。爆発とかハリウッドのアクション映画とかじゃ定番でしょ?』

 

「……本気?」

 

『嘘嘘。言ってみたかっただけだって。それに僕はテロリストじゃないし。この建物が無くなったら依頼主も困っちゃうでしょ?』

 

「ほんと、ヤメテよね……」

 

 全てを台無しにしてしまう球磨川なら本当にやりかねない。球磨川がその気になれば彼のスキル『大嘘憑き(オールフィクション)』とやらで全人類でさえ一瞬で消せるのだから。

 

 ――まぁ、流石にそんなことはしないと信じたいが。

 

 針妙丸と球磨川が多目的棟を見ていると、近くにいた男子生徒と女子生徒が近づいてきた。

 

『ん? 誰だい、君たち?」

 

「あっ、あなたたちが新生徒会ですか?」

 

 最初に声をかけてきたのは実験用の白衣を着た赤毛の綺麗な女子生徒だ。

 

「はい、D組所属の少名針妙丸です! あなたたちが今回の依頼主?」

 

「そうですね! あちしはB組所属、手子生丸々(てごまるまるまる)! ほら、キミも挨拶挨拶ゥ」

 

 手子生に軽く軽く背中を叩かれ、前に出てきたのは細身の男子生徒。

 黒髪が前にかかっていて、幽霊のような印象を受ける少年だ。肌も色白な分、余計にそう見えてしまう。

 

「ぼ、ボクはC組所属の、次木(つぎき)次木要二(つぎきようじ)って言います。はい」

 

 次木は自身が無さげに何度も会釈をする。

 

「ど、どうも。こちらこそよろしくね次木くん」

 

 挨拶に応じようと針妙丸が手を出そうとすると、次木はビックリしたのか、急に腕を引っ込める。

 

「……? どうしたの?」

 

「あぁー……次木クンはすっごくシャイでね。握手は勘弁してやってくれないかな?」

 

「そ、そうなんだ。ゴメンね、次木くん」

 

「い、いいんです。当然のことなんです。穢らわしいボクなんかが、神聖なじょ、女性に触るなんて……お、恐れ多い事なんです」

 

『……。』

 

 球磨川は目の前にいる次木という少年をじっと見つめる。まるで物珍しいものにでも会ったかのような……

 

「あ、キミからも名前聞かせてもらってもいい?」

 

 そうしているうちに球磨川が手子生(てごまる)から声をかけられる。少し反応が遅れたことから、ただ単にぼうっとしていただけかもしれない。

 

『僕? なんてことない、球磨川禊ってどこにでもある名前さ。針ちゃんと同じく、D組所属の劣等生だよ』

 

 ――苗字も名前も結構珍しい名前だと思うのだが。

 

「ってあんた、さりげなく私まで劣等生に位置付けてない?」

 

『言葉のあやってやつだよ』

 

「あや……」

 

「そういえば、次木、さっきあなたに触ったけど、あちしのことは女性って認識じゃないわけ?」

 

「そ、そういうわけじゃなくて……そ、それよりも、さ、早速なんですけど、ここを占拠したA組の生徒たちを、お、追い出してもらいたい――」

 

「――あっ!なーんだぁ〜! おっそいじゃない! 私様、随分と待ったって言うくらい待ったったよ〜!!」

 

『「!!」』

 

 四人は突然聞こえた声の方を向く。多目的棟の屋上の方からだ。

 

「ヤッホーやっほやっほーぅ! でも、よく来てくれました。私様、大変……満・足、です!」

 

 派手な色をしたセーラー服にピンク髪のツインテール。服の色と合わせたハイヒールが音を立てその存在を掻き立てる。

 

『ハハッ、随分とハイテンションなのが出てきたね』

 

「この学校って……まともな人、数えるぐらいしかいないのかな……?」

 

 ――もしかして、あれが誘拐の手紙の主、寒井美紀なのか。

 よく考えれば百々の方がまともだったのだろうか? いやあちらも辻斬りまがいなことをしているし……。

 

「あっ〜頭おかしい人発言、ちょっと傷つくなぁ〜。……でも、そんな言葉でも飲み込むのが、私様の度量の深さなのです」

 

「は、はぁ……」

 

 ――うん、とりあえず、めんどくさい人であることはわかった。

 

「そ、それよりも……は、早く多目的棟を解放してください!」

「そうよ、あちしも実験室が使えなきゃ実験ができないじゃない!」

 

「あー……ごめんね、耳遠くてー。こっからじゃ位置的にも下々達の声が聞こえないわ全く」

 

「さっきバリバリ聞こえてたじゃないですか!?」

 

「シャラップ!! アンタらは黙ってなさい。あー聞こえない聞こえない!」

 

 美紀(みき)に怒鳴られ、押し黙る手子生と次木。

 

 屋上のドアが開き、数人の生徒が椅子に縛り付けられた一人の生徒を連れてくる。

 

「ん〜聞こえない~聞こえない〜、聞こえないよね、ね? 功名新入生♪」

 

「ッ――!! ンン――!!」

 

「功名さん!!」

 

 そんな中、椅子にテープとロープで縛り付けにされている慶賀野の様子を思慮深げに観察する球磨川。

 

『……。あれもあれでアリかも』

 

「何の話よ!? 球磨川、あなたの万能能力でなんとかならないの!?」

 

 針妙丸は球磨川に助力を願うが、

 

『んじゃあ、この建物ごと消しちゃおっか』

 

 このタイミングで球磨川がロクでもないことを言いだすのは、流石に彼女も予想していなかった。

 

「は……はぁ!? あんた、そんなことしたら、慶賀野さんが落下死しちゃうよ!?」

 

『ん〜……そこは我慢かなぁ。大丈夫! 落下死の痛みなんて、ほんの一瞬だから。バンジージャンプ失敗の経験者の世界一ツイてない僕が言うんだ。間違いない』

 

 ……人間としてすでに終わっている発言だ。

 痛いのは一瞬だから、殺されるのを我慢しろなど外道にも程がある。

 

「失敗ってアンタちょっと……!?」

 

『じゃあ、改めまして……!!』

 

 球磨川は両手を広げ、高らかに能力発動の宣言を――

 

 

『なーんてね! 本気かと思った? ダメだよ、落下死とか。人様に迷惑かかるからね!』

 

 

「ほっ……」

 

 ぶっちゃけ球磨川なら本気でやりそうで気が気じゃない。

 

『そもそも、学校の備品ごと消しちゃうとか、依頼主にも正邪ちゃんにも怒られちゃうからね。流石にそこまではしないよ』

 

「……正直そんなのお構いなしにやるかと思ってた」

 

『まさかジョークが通じないなんて人生の半分損してるぜ、針ちゃん。

 

 ――けど……あそこの主催者さんには冗談が通じるみたいだね』

 

「えっ……?」

 

 針妙丸が狼狽える中、美紀は屋上でドンと構えていた。

 絶対の自信を持った目で悠々と。

 

「――へぇ〜……千太郎っちの言った通り、あんた、なかなか面白いやつじゃない。球磨川禊」

 

『ハハ、美紀先輩ほどじゃないさ。じゃあ、こっちに降りてきて一緒にお話しでもどう? ……できれば慶賀野さんもセットで』

 

「バーガーポテトセットで、みたいな感覚で言わないでくれる? それと、私様はファストフードじゃないわ、特上ステーキよ」

 

「気にするとこ、そこなんだ……」

「お高いのよ。私様は。ありゃとーございましたー、ってコンビニ感覚で買われちゃ不満なわけよ」

 

 どこかズレた美紀の指摘に苦笑する針妙丸。

 

「ま、アンタらが上がってきたら、話は聞いてあげてもいいよ? それまではここで律儀に気長に待っててあげるからさー」

 

「ふ、ふざけないで! あなたがそこから降りてきなさいよ! みんな迷惑してるの!!」

 

 ふう、と一息ついた後、再び美紀は口を開く。

 

「――聞こえなかった? 『上がってこい』って」

 

 ――とてつもない怖気。

 

 美紀は横に置いてある慶賀野付きの椅子を屋上から蹴飛ばそうとする。

 

「ンン――――!?」

 

「け、慶賀野さん!! アンタ何すんの!?」

 

 少しでもバランスを崩せば落下する位置で、あえて美紀はスカスカと慶賀野の椅子から蹴りを外している。

 

「……あなた達に選択権なんて、無い。『私様の言うことを聞く』。それ以外の選択肢なんて――ハナっからアンタらに無いのよ」

 

 下手をすれば本当に慶賀野を屋上から落としかねない。大嘘憑きがあるとはいえ、死の痛みは――

 

『……しょうがないなぁ』

 

 迷う針妙丸の思考を断ち切るように、球磨川が前に出る。

 

「球磨川、くん……?」

 

『……僕としては気が進まないけど。わかった。……美紀さん、ちゃーんと上って。そこまで行ってあげる』

 

「ふふ、階段を使って、入り口から上ってね? じゃないと、せっかく時間かけて準備した意味がないから」

 

 あからさまに罠だと言っているようなものだ。

 

『言われなくても、そうさせてもらうよ』

 

「ダメ……絶対に罠よ!」

 

『……針ちゃん。人生には、通りたくなくても、通らなきゃいけない道があるんだ』

 

 球磨川はスタスタと建物の入り口に向かって歩いていく。

 

『だから僕は行かなくてはならない』

『仲間を救うためなら』

『身体の傷くらいわけないさ』

 

「球磨川……くん」

 

「はーい! 一名様ごあんな」

 

『――――でも楽には済ませたいよね』

 

 歩く途中で球磨川は螺子を美紀に向かって投げつけた。

 

「ヤバッ!?」

 

 高速で迫る螺子に少し体の反応が遅れる美紀。

 

『――甘いね』

 

「――アンタもね」

 

 ――瞬間。飛ばされた螺子は確実に、

 

「う、そ……!」

 

 球磨川の頭部を吹き飛ばした。

 

「ありゃりゃ吹き飛んじゃったかー。まぁ、でもまた元に戻んでしょ? 『大嘘憑き(オールフィクション)』だっけ? これじゃあ投げ返しても無駄だったな〜」

 

 あー焦った焦ったナイスキャッチ私、とその割には気楽そうにポケットから取り出した扇子で自分を仰ぐ。

 

「球磨川、くん……」

 

「で? そこのおチビさんはどうすんの? 逃げる?」

 

「……!!」

 

 ――逃げてたまるものか……。功名さんを助けるまでは……!

 

 未知の強敵と戦う恐怖を堪え、針妙丸はグッと背中に背負った輝針剣を抜く。

 

「――その意気だ。さすが元レジスタンス(ひっくり返す者)

 

「えっ……?」

 

 突然後ろから伸びた手に肩を掴まれ、針妙丸は目を見開く。

 

「あとは私に任せろ」

 

 その手はもう何度も見た細くて強い手で。

 

「正邪……?」

 

 正邪は近くで球磨川の遺体に愕然としていた二人の生徒の内一人を捕まえて、突然お姫様抱っこをする。

 

「ちょっと体借せ」

 

「えっ、ちょ――あちし、お姫様抱っこなんて初めてで――」

 

 すると、すぐに正邪の腕から声が聞こえなくなる。そして正邪は背を向けたまま寮の方へ歩き始める。

 

「……。よし針妙丸。帰るぞ」

 

「え、け、けどまだ功名さんが……」

 

 正邪はニンマリと笑い、腕の中にあるはずの生徒を見せ――

 

「こ、功名さん……!? 一体どうして……」

 

革命返し(リバースイデオロギー)

「『慶賀野』と『さっきの生徒』の『位置』を、()()()()()()()

 

 

 

 

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