グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~ 作:ゼロん
みんな忘れてた?
多目的棟に向かって走る人影が一つ。
「正邪の姉御ぉ!! 少名さーん!! どこだぁっーー!?」
「ぁ……ぅぁ……!」
「い、いた!! 少名さん!! それに球磨川も!」
──どうして。
「す、少名さん? どうした? 姉御は?」
『やっぱ……邪魔だなぁ。お前ら」
──どうして。どうして!
「コウジくん……私……ずっと、ずっと正邪の」
──どうして私はいつだってこうなんだ!
「正邪の足手まといなの……!?」
針妙丸はゆっくりと
「少名さん……それは……!」
『そうだねー。正直に言って邪魔なだけだと思うよ?』
針妙丸の後ろに立つのは……すんなりと頭部を戻した無傷の球磨川禊。
「球磨川……!」
『だってさ、さっき身代わりになったのだって。針ちゃんが逃げ遅れちゃったからでしょ? ──ビビっちゃって』
少しづつ表情に真剣味を帯びてくる球磨川に針妙丸は気圧されてしまう。
「そ、それは……!」
足が一歩自然と後ろに下がって。
『それって……足手まとい以外の何でもないよね? 結局正邪ちゃん捕まっちゃったんでしょ?』
「……っ」
「球磨川禊! テメェ!」
桜街が球磨川に殴りかかろうとしたその瞬間、
『──ま、過ぎたことは仕方ないさ!』
「……えっ」
けろっと球磨川は笑顔になった。
『針妙丸ちゃん。コウジ君。ここは僕一人に任せてよ。バシッと行って二人を助けに行ってくるからさ』
「け、けど……球磨川くん一人じゃ」
『君たちはここで僕の帰りを待っててよ。大丈夫。僕には完全無欠の「
「……あっ……そっか」
『だからさ、安心して僕に任せてよ。いつだって、僕と正邪ちゃんの二人がいれば、革命学園の
「……うん」
『君たちにはここで、僕を信じて、僕らの帰りを待っててほしいんだ。
あっ、でも立ってるの疲れたらコンビニとか適当なとこで休んでてよ。
少し長くなるかもしれないからさ』
「……そうだね」
『もし無事にこの件が解決したら、みんなでご飯とか食べに行こう! 次の休みは遊園地とかいいね!』
「ふふっ、それも……いいかも。みんなで……正邪と」
『もちろん僕のおごりさ。この中じゃたぶん一番歳上だからね。それに一応副会長だし』
「珍しく気前がいいね、球磨川くん」
「……」
針妙丸が笑みを浮かべるなか、コウジは黙って口を紡いでいた。
『もちろんコウジくんもさ。だいじょーぶ! 君だけハブるなんてことはしないからさっ!』
ポンポンと桜街の肩を叩く球磨川。
「……ぉぉ」
しかし彼に対する桜街の反応は著しいものではなく。
『おや、元気ないね? まっ、いっか。それじゃあ僕行ってくるね!』
球磨川は二人に手を振りつつ多目的棟の入り口扉へ向かう。
『じゃあ、二人は僕に任せて! 後のことだって、僕と正邪ちゃんですんなり解決してあげるからさっ!』
そう言って球磨川は入り口扉のドアノブを握る。
「──待てよ、球磨川副会長」
桜街の声に反応しピタリと手の動きを止める球磨川。どうしたのだろうか。そう思い針妙丸は怪訝な顔をする。
──だって後のことは球磨川くんが、
「少名さん、あんたは……本当にそれでいいのかよ?」
「……へっ」
桜街に両肩を捕まれ、針妙丸はふっと我に帰る。我ながら間抜けな声を出していることに気がついた。
「球磨川副会長に……言われっぱなしで悔しくないのか?」
「……こ、コウジくん。一体何を言ってるの?」
「少名さんは……『自分が正邪の姉御の足手まといでしかない』って、本当に思ってるのかって聞いてんだ!!」
桜街の突然の大声に肩を震わす針妙丸。
——どうして……どうして怒っているの? コウジくん。
「だ、だって……コウジくん。私が行ったって、何も。どうせまた……誰かが私の代わりになって」
「今はその話をしてんじゃない。あんたが本当に姉御の足手まといでしかないって、自分でも思ってんのか聞いてんだっ……!
──質問に答えやがれ!!」
静かな声色から徐々に強く剣幕を張る。
「──思ってるよっ!!」
──ずっとずっと……そう思ってた……!
「そのせいで……正邪は死んだ……! 何度も! 何度も何度も!!」
彼女の一度目の死は……私の罪も被って死んだ。
二度目も……私を庇って死んだ。
今回も……私をまた……!!
「だって……! 正邪はいつも言ってたもん!! 邪魔だって! うっとおしいって!! 邪険にするし、イタズラするし、家事も押しつけられて! 私のことなんか……!!」
「っ……少名さん……」
『……』
針妙丸が引きつった笑みを浮かべるなか、球磨川はドアを開けようとせず静止したまま動かない。
「今回だって……私が
私が何も言わないで一人で行けばよかったのに……! 私がああいう風に言ったから……正邪は反発してついてきたんだよぉ……!!」
「っ……!」
鬱憤を晴らすかのようにまくし立てる針妙丸に一歩後退する桜街。
──なんで、正邪。どうして?
最後に言われた正邪の言葉が頭に響く。
『やっぱ……邪魔だなぁ。おまえ』
「なんで私なんかを助けるのよぉっ!! 正邪のバカァッ!!!!」
肺の酸素を絞りに絞った。もうこれ以上大きな声は出ないと針妙丸が思ったところで、
「──バカは少名さんの方だろっ!!」
もっと大きな声が、針妙丸の頭を通った。
「そんだけずっと一緒にいて……! なんで姉御と付き合いの浅いオレでもわかることがわっかんねーんだよ……!!」
「はぁ……?」
「正邪の姉御は!! アンタを足手まといでしかねぇとか思ってるはずがねぇだろ!! ずっと……誰よりも大切に思ってんだよ!!!」
「う、嘘だよ。だって」
「あっぁぁぁぁぁあっ!!! ざっけんじゃねぇ!! ほんとは心ん中ではその事に気づいてんだろ!?
じゃなきゃとっくにオレたちのことなんか見捨ててるはずだ!!
テメェの自信無くなったところを球磨川副会長の甘言に惑わされやがって! メンタル紙かあんたは!?」
『……』
球磨川は二人にバレないように少し下がった口元を隠す。
「か、紙って……」
「いいか、弱虫庶務。オレは行くぜ。本当に姉御の足手まといだろーが、それでも行く。足にひっついてでも行く。
──いつか、姉御の隣に立てる時のために」
ハッと針妙丸は桜街の顔を見て、
「オメーはどうする? 助けに行くか!? 行かねぇのか!?」
「……」
押し黙った針妙丸に桜街は呆れたそぶりを見せて。
「はぁ……。球磨川副会長。というわけで、オレは行くぞ。おふくろに頼まれる以外の留守番は嫌いなんだよ」
『……そ。じゃ、行こっか』
「──待って、球磨川くん」
鈴の音色のような声に球磨川は立ち止まった。
「私も行く。いえ、行かせて」
んー、と針妙丸の言葉を受けて球磨川は悩ましげな声を出す。
『……足手まといが、いくらくっついて来ても正邪ちゃんや僕らの邪魔になるだけじゃないかな。ここで大人しく──」
「イヤ。絶対にイヤ。……私は、私の責任をとらなくちゃいけないの。
『責任? 君に責任なんてないよ。
────「君は悪くない。」
君には無い責任をとる必要も、負う必要も無いんだ』
「あるよ。言い出しっぺは……私だもの」
そう言って、場はしんと静まりかえる。しかしそれも一時の間。
『君はどうしてそこまでするんだい?』
水の上で波紋を打つように場面は再び動き出す。
『君は自分が正しいことをしてれば、いつか正邪ちゃんが素直になってくれるって思ってるんだろうけど、
──とんでもない誤解だよ』
負の波紋は球磨川を中心に広まり大きく波を立たせる。
『多少の
「──それでもっ!!!」
枯れかけても、肺から酸素を絞りに大声を張り上げる。だって──
「それでも私は正邪の隣に居たい!!」
ずっと友達で居たい。嫌だって言われても、ずっと一緒にいたい。
──我ながらストーカーじみてるよね。
いずれ一緒にいてって言われるように、言ってくれるって信じてるから。
『もうとっくに……やり直してるだろーが』
きっと……互いに分かり合えるって。信じてるから。だからその時のために。
「球磨川くん、あなた一人では行かせない!! 私も行く!! 正邪と慶賀野さんを助けに!! たとえ今が足手まといでも!
──いつか胸を張って正邪の隣に立てるように!!」
……言った。
「はぁ……はぁ……」
……言ってやった。
「だとさ、球磨川副会長」
けどその瞬間、
私たちの身体は凍りついた。
「……球磨川く、」
後ろ姿でも振り返らなくてもわかるように、
『ッ……!!』
青筋を浮かべて不愉快の文字をその顔にベッタリと貼り付けていたから。
『……』
だがそれも一瞬。彼が顔を手で覆うと、ぱっと元の柔和な表情に戻る。
『惜っしぃ〜〜い』
『もうちょっとで針妙丸ちゃんを』
『一般にすることができたのに』
くるっと笑顔で針妙丸と桜街の前に振り返る。
『嫌なことから逃げて、全〜っんぶ……それを他人に押し付ける』
『一般人に』
──恐ろしい。
「っ……!?」
今改めて目の前にいるモノの恐ろしさを痛感した。
『いやぁ〜困るよコウジくん。君さえいなければ、きっとうまくいってたのにぃ』
ただ怒りを見せるよりも……今の球磨川の方が恐ろしく感じている。身体が……いつのまにか震えている。
「てめぇ……少名さんの志折って何企んでやがる……!!」
『べっつにぃ〜?』
『企むなんて……そーんな深い考えなんてなかったよ』
『単に』
『嫌いな奴が堕ちていくところを見たかっただけさ』
ほんのジョークを言ったかのように球磨川はヘラヘラと笑っている。
──球磨川くんは……私を堕落させようと、していた……!?
『まっ、失敗しちゃったけどね』
危ない、ところだった。球磨川くんの言う通りコウジくんがいなかったら……私は。
『せっかく針妙丸ちゃんも、「
「てんめぇ……!!」
改めて、球磨川たちは多目的棟に足を踏み入れる。
『まっ、二人とも行くってことで。行ってみよっか』