グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~   作:ゼロん

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なぜ、だ……! 休みなのに小説が、かけ、ない……うごごごg、



第35話 二分する道

 

「……ほぅ。美妃がみごと正邪を捕らえただと?」

 

『はい、全土様。残るくまが……最重要警戒対象の一人も、時間の問題かと』

 

 全土は携帯電話を耳に当て電話の主の返答に満足する。

 

「わかった。こちらもすぐに終わる。寒井には『よくやった』と伝えておいてくれ」

 

『———かしこまりました』

 

『報告ありがとう』と言って、全土は通話を切る。

 

「今のは?」

 

 学園の出口に向かって走る車の中。黒神は全土に向かって電話の内容を問いかけるが、全土は『友達からさ』と、さも平然と答える。

 

「今日の放課後に遊びに行かないかと誘われてな。もうすぐ中間試験だというのに、のんきだな……」

 

「ははっ、大多羅三年生は友人が多いのだな。紹介してもらった生徒のほとんどはお前の顔を知っていた。特にこの学園の生徒会から非常に慕われているじゃないか」

 

 いいものを見たと言いたげに機嫌よく黒神めだかはシートの背もたれに寄り掛かる。

 どうやら、記憶操作はうまくいったらしい。球磨川のことは忘れているようだ。

 

 全土はちらりと運転席にいる男性に目をむける。運転手は特に何も言わないまま運転を続けている。

 

 ———運転手は『どんな嘘偽りをも見抜く』能力(スキル)をもっている。彼が自分に何も合図を送らないということは。

 

 つまり、黒神めだかは完全に『球磨川禊を見かけた』という記憶を忘却している。

 

「ありがとう。これでも人脈作りは得意でね。入学した時もうまくやっていけるか不安ではあったが、クラスメイトや友人。後輩のおかげで特に問題なく過ごせているよ」

 

「そうか……君もいい友人を持っているな」

 

「黒神生徒会長ほどじゃないさ。私も……君といい友好的関係を築けて本当によかったと思っているよ」

 

 ちょうど学園の出口に着き、車はゆっくりと停止する。

 

「これから中間テストに向けて備えなければならない。ついていけるのはここまでになってしまうが……」

 

「よい。学業は学生の本分。君の身を削らせるほど、私は偉くない。生徒会長である私だって、箱庭学園の生徒の一人にすぎないのだから」

 

 黒神はにこにこと敵意の無い目で全土を見る。扇子で口元を隠し、ふふっと微笑を浮かべている。

 

 全土は車のドアを開けて黒神におじぎをする。

 

「黒神生徒会長。せっかくのお客様にここから歩いて帰ってもらうのは、こちらも申し訳がない。ここからは彼が君を箱庭学園まで送っていってくれる」

 

 そう言って全土は車の中を覗き込み、車内にいる運転手を親指で指す。

 

「疲れただろう。箱庭に着くまでゆっくり休んでくれ」

 

「心遣い感謝する。大多羅三年生」

 

 黒神もおじぎを返し、車のドアが閉まり全土の視界から遠ざかった。

 

『———友人との絆を大切にな』

 

「……」

 

 全土は遠ざかっていく車の様子を見て、ふと、黒神に聞いた質問の内容を思い返していた。

 

『……私の目標? そうだなぁ……しいて言うなら———全人類を幸せにすることだ!』

 

 まるで人の頂に立つべくして自分が生まれたかのような言い草。

 

「……全人類を幸せに、か」

 

 理想。

 あくまでも理想的な響きだ。友達百人できるかなとか、世界を平和に……と言うのもアホらしいレベルの。

 

「まぁ……全人類の頂、という点では……私も似たような考えだがな」

 

 と全土は禍々しく笑みを浮かべる。

 

「よい友人か。———さて、今度は私の『目標』のためにも、生徒会の『友達』諸君にはがんばってもらわなければ、な」

 

 他人も。弱者も。世の中にあるすべての規則も。平等も。

 同等の強者も。

 

 ———もちろん生徒会の彼らも。

 所詮は俺がもっとも望むものを手に入れるための手段(コマ)でしかないのだから。

 

 

 そう思いながら、全土は再び学園へ足を向けた。

 

 

 =====

 

 

 球磨川禊にうっかりダメにされかけ、多目的棟に突入した針妙丸一行。

 

「……少名さん、気をつけろよ? 仲間っつっても……」

 

「……うん」

 

 ——球磨川くんは……どうしようもなく過負荷(マイナス)だ。

 

『へぇ~ここが多目的棟ね。まぁ、籠城戦にはもってこいなのかな、ここ。機材や部屋の数もかなりあるし、監視カメラまでついてる』

 

 決して普通の人に混ざれない、他人を蹴落とし堕落させることで引き下げる。自分と同じ立ち位置に立たせることでしか他人と交わる術がないのだ。

 

「油断はしないよ。さっきので……たぶんわかったから」

 

「……あんなの序の口、なんだろうな。正邪の姉御が目にかけるくらいだ」

 

『きっともっととんでもない本性を隠しているに違いねぇぜ』と言う桜街だが、

 

 ——『「五月蠅(うるさ)い」』

 

 少し前に私は、彼の本性をほんの一時の間だが垣間見た。

 

「……」

 

 あれは、人間の『負』そのものだった。

 幻想郷に引きこもっていた自分達でも、この地球上にあそこまで『(マイナス)』を体現した存在はいないだろう。

 

「少名さん? 少名さーん」

 

 私達妖怪は物理的な攻撃には人間よりもはるかに強い。

 だが、精神はその限りではない。長く生きられる代わりに、妖怪は精神攻撃にはめっぽう弱い。もしあんな男を幻想郷に連れて行ったらと思うと……ぞっとする。

 

「おーい少名さーん?」

 

 その点、正邪は例外なのだろうか?

 正邪は他の大妖怪とは違って圧倒的な力は持たないけれど、狡猾さと精神攻撃には群を抜いている。その舌の餌食になって騙された者は数えきれないだろ——

 

「少名さん!!」

 

「ひゃっ!?」

 

 針妙丸は桜街に耳元で呼ばれ、宙に少しの間足を浮かせる。

 

「なに敵のアジトの真ん中でボ~ッとしてるんすか? それよりも分かれ道ですよ。分かれ道」

 

 本当だ。右か左か二手に道が分かれている。針妙丸はちらちらと左右の道を見る。こういう分かれ道では分担がセオリーだが……

 

『ハン〇ー×ハ〇ターのクラピカいわく! 迷う未知の道は無意識に左を選択するらしいから……ここは右かな?』

 

「こういう時は一緒に同じ道に行った方がいいと思うんだけど」

 

 いちいちツッコむのも面倒くさいので、針妙丸は球磨川を無視することにした。

 

『……いや、だけど心理的盲点を突いて左かな!?』

 

「いや、片方が罠だったら一網打尽だぜ?」

 

『コウジ君も無視? そこは「漫画知識かよっ!?」ってツッコんでくれるのを期待したんだけど』

 

「———てめぇの冗談なんか知るかっ!!」

 

『テヘペロ』とあざとい表情を見せる球磨川に『あーこいつぶん殴りてぇ』と拳を震わす桜街。

 

「……はぁ、それよりも、やっぱここは二手に分かれて行くべきなんじゃねーの?」 

 

「……そうだね。引き返してる時間も惜しいし……ってあれ?」

 

 やはり二手に分かれようと意を決そうとしたとき、針妙丸はあることに気がついた。

 

 不安を払拭しようと周りを見るも、その場にいるのは桜街と自分だけ。

 

 ———球磨川が……いない。

 

 針妙丸は前後ろとあたりを見渡すが、彼の姿はなかった。

 

「球磨川くん!? ど、どうしよ! こんなところで……!」

 

 なんということだ。

 ねじ曲がり切って性格も歪んではいるが、あれでもこのメンバーの中では最高戦力には間違いない。彼を失ってはこの建物にいる敵を攻略することは……不可能ではないものの、かなり厳しくなる。

 

「いや、少名さん。あれ、あれ」

 

 桜街が半分呆れ気味に左側の通路の方に指をさす。トイレのある方向だ。すると、ドアを開けて球磨川はけろっとした顔で出てきた。

 

『——おまたせ~! ごめんねートイレ我慢できなくってさ!』

 

「……心配するだけ無駄だと思うぜ? 少名さん」

 

「……はぁ」

 

 心配したら、これだ。

 針妙丸は心の底からため息をつく。なんでこんな緊張感の『き』の欠片もない男を警戒しているのだろう。馬鹿らしいと自分に言い聞かせる針妙丸。

 

「球磨川くん……困るよ。勝手にいなくなっちゃ。行くにしてもせめて一言言ってよ」

 

 敵陣のど真ん中で(かわや)にいく奴がどこにいるのか。

 そう思いつつ針妙丸は左側の道に、球磨川の方に向かって歩き出す。

 

『だからごめんって。あっ! もしかして針ちゃん』

 

「なっ、なによ……」

 

 はっとわざとらしく球磨川は口元を手で隠す。

 

『さては僕のマル秘シーン目当てでトイレに突撃したかったとか!? ごめんね。気がつかなかったよ、針ちゃんがそんなにエッチだったなんて! はずかしー!』

 

「———だれがアンタなんかに!! それに私は痴女じゃないし!!」

 

 頼まれたって見るか。仮に見てしまったら完全に黒歴史だ。お前を殺して私も死ぬ。

 

『まったまたぁ~! あっ、そっか! 針ちゃんの好みは男性じゃなくて「こっち」だもんね』

 

 と球磨川は手を斜め横に向ける。

 

『百合の方♪』

 

「ちっがぁう!!!」

 

 確かに正邪はどんな形であれ、いつも自分を助けてくれる恩人だ。好きではある。

 けど、自分はけっして同性愛者じゃない。けっして『好き』であっても恋人の『好き』ではない。これは親愛の『好き』なのだ。

 

『……正邪ちゃん。カッコ可愛いもんね。針ちゃんが「そっち」方面に目覚めちゃうのもしょうがないか』

 

「あぁもう! やめてよ! そんなこと考えるアンタの頭が腐ってるよ!!」

 

『お生憎様、すでに僕は性根が腐ってるから』

 

 頬を赤くする針妙丸にニヤリとする球磨川。できれば球磨川にはあのままトイレにずっと隠れておいてほしかった。そうすれば大義名分で球磨川を放置できたのに。

 

「……おい球磨川副会長。少名さんイジるのもそのくらいにしてやってくれ」

 

『ちょっとしたジョークだよ、コウジ書——』

 

 球磨川が言葉を言い終える前に天井からシャッターが凄まじいスピードで下りる。

 

「うわっ!?」

『……!!』

「な、なんだぁ!? み、道が……」

 

 来た道がシャッターで完全にふさがってしまった。球磨川と針妙丸は左側の通路。桜街は一人右側の通路だ。

 

「球磨川副会長!! 少名さん!!」

 

「こ、コウジくん!! シャッターが……」

 

『まぁまぁ、こんなの壁になんかならないって。

 

 ——「大噓憑き(オールフィクション)」』

 

 いつものように対象物に手を当て、能力の発動を宣言。球磨川の目の前のシャッターは一瞬にして消え、

 

『……!!』

 

 消えなかった。当然のようにシャッターは消えず、ただそこに存在する。

 

「く、球磨川くん……? どういうこと!? 早くオールフィクション使ってよ!!」

 

『……!? な、なん、だ……!?!? そんな、そんなバカなことが』

 

 球磨川は彼らしくもなく、全身を震わせ焦燥を隠すための手まで冷や汗をかいている。動揺……針妙丸を堕とすのに失敗した時よりも遥かに焦っているのだ。

 

「球磨川くん……? ねぇ、大丈夫!?」

 

 ……球磨川の顔色が悪い。

 

『……「大嘘憑き(オールフィクション)」で、なかったことにできない』

 


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