グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~ 作:ゼロん
「なんでこいつがここに……」
正邪は自分の目の前の机でのんきに寝ている小人、針妙丸を指さす。
それを受け安心院は首を傾げる。
「何って……死んだ君の側に飲まず食わずで、ずっとその場に居て、君の後を追って死んじゃった友達じゃないの?」
「は……!? なんだ……それ?」
彼女に言われたことを飲み込めず、困惑で顔が引きつる正邪。
--そのことについてはおいおい針妙丸に聞くとして……彼女の何かが変だ……大きさか!
よく見れば普段のアイツはせいぜい私の膝下に届くか届かないかぐらいのサイズなのに……今は下克上当時と同じく人間大の大きさになっている……どういうことだ?
そんな正邪の様子を見て、クスクスと安心院は笑みを浮かべる。
「全く……はたから見ればこの子は男の子のようにも見えるのに、女の子なんだよね~。こんな可愛い子が友達なんて羨ましいぞぉ、この、このっ」
--なるほど。こいつの仕業か。
安心院はふざけて正邪をひじで小突いてくる。
バカにされ、いら立ちを隠せない正邪は体を寄せてくる彼女を突き飛ばす。
「よるな! 馴れ馴れしい。それに……私とそいつは『友達』なんてお綺麗な関係じゃねぇ」
正邪は苛立たし気に安心院をにらむ。それでも安心院の人を食ったような態度は崩れない。
「死別した友達が目の前にいるんだよ? もっと喜んだらどうだい?」
「ふん……まぁ、このおバカさんをまた利用できるっていうんだったら、利用できるだけ利用させてもらうってだけさ」
--このお人好しの馬鹿は一度騙されたとしても、また何度でも私に騙されるだろう。さて次はどう使ってやろうか……
眠る針妙丸を見つめながら、邪悪な笑みを浮かべる正邪。
安心院は「はぁ……」とあきれたようにため息をあげる。
「またまたぁ……なんで君は自分の気持ちに素直になれないのかな……」
「あ!? お前に私の何がわかるっていうんだぁ?」
正邪は安心院の態度に我慢できず、声を荒げて彼女につかみかかろうとするが……
「ううっ……せい……じゃ……?」
--しまった、声が大きすぎた。
目をゆっくり開けた針妙丸は見知らぬ風景に驚き、辺りを必死に見回す。
「えっ!! ここどこ!? わたし、また人間と同じくらい大きくなってるし……あっ……」
正邪の姿を目にした神妙丸の薄紫色の目が満月のように見開かれる。
「正……邪……なの……?」
「違います。赤の他人です」
なんとかごまかそうと顔の前で片手を左右にふり、見間違いを指摘する。
「こら」
下手な嘘をついた正邪の頭をこつんと安心院が叩く。
「やっぱり正邪だ! せいじゃぁあああ!!」
感極まって正邪に向かい全速力で走りだす針妙丸。顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら向かってくる。
正邪は彼女の突進をよけきれず、自分の胸に激突。
「ぐぇっ! おい、くっつくな!! はなれろっての!!」
「会いたかった……! 会いたかったよぅ……せいじゃ……せいじゃぁぁ……!!」
「はぁ……」
もうどうしようもない、と観念し正邪はげんなりする。
針妙丸の涙と鼻水でせっかくの綺麗になった服が一気に汚くなっていく……
「おい……姫、もういいだろ。いいかげん離れろ」
やっと気が済んだのか、正気に戻った針妙丸はハッと正邪の拘束を解き、離れる。
「あ、ごめん……だって、また正邪と会えたことがうれしくて、つい……」
「私は全っっぜんッッ! うれしくありませんけどね。……あの世に行くなら私一人で行きたかったよ……ったく」
心底嫌そうな顔をして正邪は床に唾を吐く。お前と一緒なんて死んでもごめんだ、と言いたげだ。
「本当は嬉しいくせにね……ぷぷぷ」
堪えきれず安心院は噴き出してしまう。
それを正邪がギロリとにらむと、「おぉ怖い怖い」と薄ら笑いを浮かべる。
「じゃあ本題に入ろうか。正邪ちゃん」
「早くしろ。いいかげんお前の気持ち悪い笑顔を見るのはごめんだ」
明らかに敵意のある正邪の態度に針妙丸はむっとする。
「正邪! 初対面の人にそんなこと言わないの! ごめんなさい、えーと……」
安心院の名前がわからず彼女は困惑する。
純粋な彼女に対して好印象を覚えたのか、安心院は優しく微笑みを返す。
「私のことは安心院さんって呼びなさい。私は現実世界……君たちの言うところの外の世界で箱庭学園って学校の創設者をやっているんだけどね……」
「へぇーそりゃすごいすごい」
誰かとのそんなやり取りに慣れているのか、気にすることなく安心院は話を続けようとする。
逆に針妙丸の彼女の話を聞く態度は真剣そのものだった。さらっと出た彼女の『学園の創設者』の
「ってことは……安心院さんって学校で一番偉い人なの!? すごい!」
「あぁそうだよ。そう言ってもらえるとボクもうれしいよ」
安心院の話によると、彼女の創った学園……箱庭学園に来てほしい生徒がいるそうだ。その生徒が今回の依頼において非常に重要であるとのことだった。
「そいつは正邪ちゃん、君よりもはるかに厄介なひねくれ者でね。いつまでたってもその子の宿敵がいるボクの学校に来ようとしないわけさ」
「あ~わかった。その問題児を何とかしてこいってのがアンタの頼み事か?」
「いや、違うよ。たぶん……ぶん殴られたり、話して動いてくれる子じゃないだろうからね。それは期待してないよ」
見当違いと言われ、正邪の顔がたまったイラつきをあらわにする。
「は!? じゃあ何をすればいいんだよ?」
「正邪! 話は最後まで聞く!」
「チッ……だからお前が嫌いなんだ……」
しかりつけてくる針妙丸にはかなわないのだろうか、拗ねて机の上であぐらをかいて正邪は黙る。
「針妙丸ちゃん、本当にいい子だね。君と違って」
「うっさい! 親かてめぇは……前置きはいいから早く依頼を言えよ」
正邪は安心院に話を進めるように彼女を顎で指示する。
彼女はそれを受け、やれやれ、とすこしもったいぶってから正邪達に向かって腕を広げる。
「君たちにはね……その問題児が来る予定の学園に彼より一足早く入学してもらいたいのさ」
「は……!? はぁああああああああ!? お前……何を言っているかわかっているのか!? 私たち妖怪が人間の学校に通えっていうのか!? 冗談じゃないぞ!」
机から降り、安心院に食いつく勢いでつめ寄る正邪を針妙丸がおさえる。
「正邪! ちょっと落ち着いて! ……だけど安心院さん。本気なの? 人間大の大きさで人間の姿に近い私はともかく……角のある正邪とか外見的にアウトだと思うよ?」
暴れる正邪の腕が針妙丸のかぶっていたお椀に当たり、針妙丸は正邪を抑えている方とは別の片手でそれを抑える。
それを見てクスクスと笑う安心院。
「そこに関しては大丈夫だと思う。コスプレキャラって現代じゃ普通だし」
「適当すぎだろ(ですよね)!!」
自然と息が合ってしまったのか、正邪はあわてて口を両手でおさえる……すごく不機嫌そうだ。
それに対し針妙丸は顔を赤らめ、ハハハ……と笑っている。
「もちろん、君たちを完全蘇生させるし、存在もボクの方で何とか安定させるよ。存在自体が幻想の君たちにボクや妖怪の賢者のサポートなしじゃ外の世界はきつそうだしね……」
--幻想郷の賢者……スキマババァ……もとい『境界を操る程度の能力』を持つ最強の妖怪、
「じゃあ……私たちの能力についてはどう説明する……!?」
今の針妙丸には『打ち出の小槌』がないため、彼女の『打ち出の小槌を操る程度の能力』は使えない。その代わりに自分の体の大きさを人間大から人間の膝下ぐらいの元のサイズまでコントロールできるようになったようだ。
現に彼女は「やったよ正邪! 自由に体の大きさを変えられるよ!」と教室の端で喜び、新たな能力を使って遊んでいる。
--おそらくこの安心院とかいうやつの仕業だろう。
しかし、自分の『全てをひっくり返す程度の能力』はどうやら健在のようだ。
--この手のひらにある感覚でわかる。傷が無くなり、体力も万全の今ならこの能力を百パーセント使いこなせる。
試しに近くの机と椅子を指を鳴らし、『ひっくり返す』。すると椅子が机の上に、椅子の下に机が。見事に二つの位置が『ひっくり返った』。
--いける。今なら物の位置だけでなく、事象ですらも『ひっくり返せる』気がする……パーフェクトだ。
……だが、そこが問題なのだ。第三者から見る私の『ひっくり返す』能力は超能力
異能力を持つ
それに必然的に私が出くわすことになるのは、このおかしな空間を生み出している安心院が『厄介』と言う程の相手だ……少なくとも私の能力を使わずに済むほどの相手ではないだろう。
「あぁ……君たちのこれから行く
幻想郷の強者の中には妖怪だけでなく、人間もいた。その全員が当然、能力持ちだ。
『空を飛ぶ程度の能力』や『魔法を使える程度の能力』、『時を操る程度の能力』といったようにバケモノ染みている。
しかも一人一人が強大な力を持つ妖怪とタイマンを張れるだけの実力者ぞろいだった。
そんな人間が何人もいるかもしれない角明学園は、弱小妖怪の正邪にとってみれば地獄に等しい。
その情報を前に正邪は--
--ほう、それはなかなか楽しめそうだ。
「なるほど……逆に私たちが能力を持っていた方が都合がいいわけか」
「その通り。特に君の能力は使い方次第では非常に強力だ。けど……学内ではうまく立ち回ってね。
少し引っかかる言い方に疑問を覚え、正邪は警戒する。
--考え方が単純な針妙丸は聞き流すだろうが、天邪鬼の私からすれば……これはきな臭い。きな臭すぎる。何か裏がありそうだな……その学校。
嫌な予感を感じ、口元に手をあて、少し考えこむ正邪。
「へぇ……人間の学び舎か……行ってみたいなぁ……正邪! 行ってみようよ! 安心院さん、その学校に入学するだけでいいんでしょ?」
「あぁ、入学して単位を取ってくれれば構わないし卒業まで、とは言わない。ただ件の問題児と会うだけでいいからさ。もちろん、終わった後は生き返らせた状態で幻想郷に戻してあげるから」
「ふむ……」
--どの道生き返らなければ私の下克上は完成しないままだ。ならば……たとえ飛び込むのが蛇の腹でも飛び込んでみるか……?
「そうと決まれば早速!! あ、手続きの方はボクの端末……もとい分身が済ませておくからさ! 心配しないで行ってきてね!!」
「あッ!! 待て!! まだ聞きたいことが残って……!!」
安心院が指を鳴らすと、急な眠気が正邪たちを襲う。
くらくらして立っているのもやっとだ。
「クソッ……本当に何者だおまえ……!!」
「何者かって聞かれればボクはボク。安心院なじみさ……じゃあね正邪ちゃん。○○○君によろしくね」
肝心な人物の名前があまりの眠気で聞き取れずに終わり、正邪は再び重くなった瞳を閉じた--
『打ち出の小槌』:実際の童話『一寸法師』で有名な小槌。
一度振ればどんな願い事も叶う小人族の秘宝。
しかし、願いの大きさによって代償を支払わなければならない。
願いによっては持ち主に災厄をもたらしかねない諸刃の剣。
この代償については小人族の間では忘れさられてしまったため、正邪の口車に乗せられた針妙丸は代償のことを知らずにこれを使用した。
正邪はそのことを知っていて彼女にこれを使わせた。自分のために無知なる弱者を利用する、まさに外道である。
その結果、下克上時の人間大の大きさから、人間の膝に届くか届かないかのサイズまで縮んでしまった。
これを扱えるのは一寸法師の末裔である針妙丸のみ。