グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~   作:ゼロん

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前に長くて言ったし…………嘘をつくのも嫌なので、まとめちゃいました!

結果、今回だけ10000字超えた盛りだくさんの回となっております。

予告通り長めなので、のんびり読んでいってね!

では、手子生戦、中盤です。


第39話 過負荷vs過負荷 その3 最低の仲間意識と

『「酸素を操る能力(エアロ バイカー)」。僕が螺子伏せた彼女のスキルは、彼女自身に害はなくて、異常(プラス)染みてたけど……それに比べ君のスキルは、実に過負荷(マイナス)だ』

 

 球磨川は臓器も身体もボロボロの状態でフラフラと立ち上がる。

 

『……その能力、より危険な物質を手から()()出そうとすればするほど。その被害を()()()受ける危険性(リスク)も当然多くなる。……素敵だよ。素敵なまでに過負荷だ』

 

 球磨川は嬉しそうに口を三日月に変えている。

 

『だから君は、普段は他の物を変化させることで、自分への被害を最小限にしてる……けど、さっきのは違う』

『君がダメージを受けたのは、あの三フッ化なんちゃらを直接出したから……いや、扱うものが()()()()()()()()()危険なものだったからだね』

 

「…………きはっ」

 

 手子生(てごまる)は肩をプルプルと震わせ、そして、

 

「きはははっ! 同感っ! あちきのスキルで直接出すのは結構危ない。けどなぁ……汚れずに傷つかずにできることなんざぁハナっから少ねーんだよ!! 自分だけ傷つかずに目的達成とか……なーんて! ムシが良すぎるってモンでしょーよぉ! きはは!」

 

『……感動的だね。ぬるい友情、尊い犠牲……と過負荷(マイナス)のモットーに加えたいところだ』

 

 球磨川は口元に微笑を浮かべる。

 

「手子生さん。リスク上等…………とはいったけど、あなた、ずいぶんと球磨川くんのスキルを警戒してるみたいね」

 

「あん?」

 

 針妙丸の突然の挑発に、手子生は顔をしかめる。

 

「だって、そうでしょ? だれのスキルかは知らないけど……球磨川くんのスキルだけをピンポイントで封じて、集中的に狙う。これは明らかに球磨川くんをあなたが恐れてるって証拠。けど残念だったね。球磨川くんが予想以上にしぶとかったうえに、自分の能力の正体まで見破られた。…………さっさと降参したほうがいいんじゃない?」

 

『……針ちゃん、何もしてないよね』

 

「黙ってて」

 

 隙を突こうとしても、全く見せないのだから仕方がないだろう。

 

「なるほどなるほどぉ…………ふぅん…………少名ちゃんはそう考えてる、と。まぁ、少名ちゃんをイジメないであげてるのは、あちきのコレクション魂のせいだけど、さぁ」

 

「うぇっ」

 

 何とも言い難い不気味な視線を向ける手子生に、針妙丸は顔をしかめる。

 

「まぁけどさぁ……わかったからって、どうなの?」

 

「…………タネがわからない手品をさせるよりも、タネをバラされた手品をさせる方が手品師は困るでしょ?」

 

「きはははっ! 困るぅ? あちきがぁ!?」

 

 一笑。

 

「あちきが『大嘘憑き』を恐れる? 封じたのは()()()()保険だよ。お前らを確実にぶっ殺すための。いいこと少名ちゃん、例えばさぁ、アルコールは消毒にも使われるよね? 塩酸だって実験だけじゃない、医療用や農薬にも使われてる!」

 

 困らない。『大嘘憑き』など存在消去以外は彼女にとっては何も困らない。

 束縛し、永遠に殺し続けることができる能力こそ『大嘘憑き』攻略の糸口。

 

 少なくとも、彼女のスキルを使い、毒ガス室を作れば永遠に殺し続けることはできる。

 

 そして逆に球磨川がやけくそでスキルを使ったとして……世の中消されたら困る物質が多すぎるのだ。

 仮に消すとして、どれくらいの化学物質を消せばいい。彼曰く『「大嘘憑き」は乱用できない』。

 

 ————————————下手をすれば、()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「他にも薬品の用途は様々! 他にも無数にある化学薬品、化学物質を! どうやって消し去ろうと、無かったことにしようと言うんですかねぇ〜〜!? 消し去った後が困るよねぇ、んん? 少名ちゃああああん?」

 

「!!」

 

「それにあちきの能力の正体が、バレようとバレなかろうと、どうだっていいんだよぉ! あちきはなぁ、禊サマの無限コンティニューと全回復さえ封じれればそれでいいのさ! あとは一回! たった一回このモブ顔をあちきがぶっ殺せばいいんだからなぁ!!」

 

『…………モブ顔って、酷くない?』

 

 彼女は自分の能力が『大嘘憑き』に無力化されにくい性質を理解してここへやってきた。

 球磨川の推測が本当なら、彼女の『悪魔の化学実験(デビルズケメストリー)』。

 手に触れたものを好きな化学物質に変え、手からも直接好きな化学物質、危険な気体や液体、薬品を生産し出すことが可能。

 

 その危険性あふれる能力と歪みまくった人格。

 それらがあれば、十分球磨川と戦えると、見通しの甘い者なら思うだろう。

 

「──────まぁ、禊ちゃんなら、世界中の化学物質を無かったことに……だなんて無茶もするかもだしねぇ」

 

 先ほどまでの興奮が嘘のように手子生は冷静に話す。

 彼女の推測を受け、球磨川は、はっはっはっ、と両手をあげて笑う。

 

『嫌だなぁ、僕はそんなことしないよ』

 

「きははっ、どうだか……禊サマのツラ。あちきの見立てだと、目的のためならどんな手段だって使いそうだからねぇ」

 

『……』

 

 口元が笑っているもの。説得力なんてあったものじゃない。彼女も、短期間で球磨川の心理を正確に分析しているようだ。

 

「だから──────あちきや美妃様の進言で、全土さまにお力を貸していただいたよ。彼曰く、『大嘘憑き』を無力化する力を、この施設全体に適用してくださったのさ」

 

「オール……フィクションを……?」

 

 針妙丸は手子生から語られた衝撃的な話の内容に、口をぽかんと開ける。

 

 ……彼女の口ぶり。では、あの銀髪の男。

 学園支配者、大多羅全土の能力は能力の無効化なのか……? 

 

『……少名ちゃん、今は彼の能力のことなんて考えなくていいと思うよ。今探っても、単なる憶測でしかないからね』

 

「…………。球磨川くん、ずっと思ってたけど、わたしへの当たりきつくない?」

 

『僕は君が嫌いだからね』

 

「そんなストレートに言う!?」

 

 一切悪びれることなく平然と球磨川は言い放つ。

 

「あああああーーー……にしても。くっそしぶとい奴だなぁ禊サマ。三フッ化塩素まで使ったのに……いい加減ジワジワぶっ殺すのも面倒になってきたなぁ。─────────つまらんが一瞬で殺すか」

 

 先ほどまでマイペースに浮かべていた笑顔が、彼女が顔を覆っていた手を外した瞬間、別人のように様変わりする。

 手子生の攻撃を受けず、一番余裕のある針妙丸が周りを見渡す。

 

 たしか彼女の代理をしていたラグビー部の……たしか石垣と言ったか。

 彼の姿が見えない。

 

「……! (実験室の端……? 何をしてるの!?)」

 

 後ろを向くと、意外とすぐに彼を発見できた。

 しゃがみこんで何かしているようだ。

 よく見ると、部屋の端の方から何かが溶ける音とともに、異臭がする。

 

「時間稼ぎは……まぁこんなところか。──────おい、そろそろ起きたか、なんの可愛げのねぇクソゴリラぁ!! あえてそっちにはあちきの能力が届かないようにしてやってんだ、きちんと仕事はしたのかぁ、あぁ!?」

 

『!? あのたぶんスッゲー周りから忘れられそうなモブキャラ生きてたの!?』

 

 手子生が乱暴な口調で後ろへ怒鳴る一方、球磨川は驚いた表情でひどい発言。

 

「……は、はい。ご、ごほっ! ごほっ! もちろん準備はすでに……」

 

 手子生の存在感が濃くてすっかり忘れていたゴツい男、石垣が咳き込みながらヘコヘコと頭を下げる。

 

 返事を聞き取った手子生はにぃぃと崖から人を突き落とすかのような笑みを浮かべる。

 

「オーケーィィ……じゃあ……こいつで締めだなっ!!」

 

 ゲス顔のまま地面に思いっきり地団駄を叩きつけ、彼女は針妙丸を抱きかかえる。

 

 ————————————チャンスだ。これならゼロ距離で攻撃が放てる。

 

「輝針け──────」

 

「さぁて少名ちゃん。死にたくなかったら暴れないでね?」

 

 ハートマークが付きそうなくらいに甘ったるい声で手子生がささやく。

 

「あんまりおいたが過ぎると──────腕もぐよ?」

 

 彼女の警戒は針妙丸にも忘れられず向いているにゾッとする。

 

「手子生さん、わしは──────」

 

 石垣は

 地面の揺れが足元から伝わる。

 

「すまないね。代理ゴリラ。おまえの生存は計算に入れてなかったわー……アホなあちきを許しておくれ」

 

 へ……? と大男に見合わぬ間抜けな声が漏れる。

 

「じょ…………冗談ですよね……?」

 

 手子生はテヘペロっと両手を合わせて首を傾げ、

 

「ま、仲間だからさ! 大目に見てよ!」

 

「は……!?」

 

 やはりこいつも球磨川同様の過負荷だ。最低の仲間意識。

 彼女にとって、彼はあくまで作戦遂行の道具でしかなかった。

 

 瞬間、実験室の床が抜け、手子生は小型フックショットを袖から発射。アンカーが突き刺さり実験室の天井に固定され、手子生だけが落下から助かる。

 

「きははははははっ!! 落ちろクソどもがっ! まとめて旧体育館の幽霊にでもなれよっ!! きはははっ!」

 

「球磨川くん!!!」

 

 思わず手を伸ばすが、当然届かず。

 

『!! うわああああああああっ!!』

 

「うわああああああああ、手子生さまぁぁぁっぁ!!!」

 

 実験室の天井は──────遥か遠く。

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

 手子生丸々。

 あらゆる化学物質を手から生み出し、直接触れたものを好きな化学物質に変化させる過負荷(マイナス)の持ち主。

 

 ————————————あらゆる化学物質を? 便利ではないか。

 

 ————————————これほどまでに社会に役立つものはない。

 

 何も知らないものはそう言うだろう。

 だがこの能力が過負荷たらしめるのは、

 

 彼女は、常に何かしらの化学物質を出し続けなければならないからだ。

 

 現在に至る前に背負っていた彼女の以前の過負荷(マイナス)

 それは──常に手から、危険化学物質を垂れ流すというものだった。

 

 彼女の手からは常に、運の良い日はアンモニアや二酸化炭素。

 

 悪い日は、塩酸、水酸化ナトリウム……彼女が使っていた超危険化学物質の一つ、チオアセトンが生まれ出てた。

 

 それらが彼女の周りを覆い、手に纏う中、握手はおろか、彼女に近づけるものなどいない。

 

 文字通り、彼女の半径数メートル以内には、立っていることさえできない。

 全身の感覚を麻痺させるほどの悪臭と危険液体で、周囲の人々の失神、入院など当たり前。

 

 逆に彼女に少しでも近づいた者は、一生他人に嫌われるほどの臭いをまとわなくてはならないというオマケ付きだ。

 

 故に当然、

 

『おい、薬品オンナ! 相変わらずクッセェな!』

 

『こいつをかけたらちょっとはマシになるんじゃねぇか!? あははは』

 

 彼女はだれかに遠ざけられる毎日だった。

 だれかと共にいることを物理的にも精神的にも禁じられた世界。

 

 しかし、本人は、そんな自分を不幸とは思わなかったようだが。

 

 一番安全な食塩水の日。

 クラスでみんなと一緒に過ごせるわずかな時間。

 その給食の時間、ほぼ毎日牛乳を頭にかけられるのが日課だった。

 

『うわぁークッセェ〜』

 

 笑い声、笑い声。笑い声に嗤い声。

 

 嫌だというより————————————彼女としてはうっとおしくて仕方がない。

 けどまぁ、この時はまだ良心なんて枷が手子生にはあった。

 自分はまだ優しいのではないかな? と彼女自身も思っていた。

 

『おいおい、また手子生のノート黄ばんでるぜー?』

 

『まぁた、手からなんか出したんですか~? けらけらけら』

 

 彼らも、彼女らも、自分と同じ能力を手にしてみれば、がらりと世界は変わるだろう。

 そんな能天気な気分でいた。

 

『……ま、まぁ。そうかもね。そういう色の薬品も出るから…………』

 

 テストも勉強でも、友達でも体育でもトップのクラスメイト達。

 まぁ彼らもストレスがたまっているのだろう。周囲からの重圧とかなんとか。

 

 様々な思考の中、彼女が導き出した最大の悩み。

 それは将来有望な彼らの人生を、何時にめちゃくちゃにしようかどうか、だった。

 

『……きもちわりぃ! 寄るんじゃねぇよ、くっせぇな!』

 

『冗談じゃなくてマジで気ぃ失いそうになるわー』

 

『死ね! さっさと死ね害虫! カメムシ野郎!』

 

 しかたがない。

 親とかからもプレッシャーとかをかけられて、イライラがたまっているんだ。

 よくよく自分が読む漫画でもいるじゃないか、こういうキャラ。

 嫌いではない。それも人間のもつ本能の一つだ。

 

 自尊心と、優越感。

 そういう類の者にはこの二つがいる場合もあるのだ。

 

 彼ら、彼女らは自分とは違うのだろう。

 

『悪魔め! なんで……なんでお前みたいな人間が僕らの娘なんだ!』

 

 中には親も優しい人もいるのだろうな。中にはモンスターならぬ、虐待ペアレンツ? もあるのかもしれない。

 正直、同情する。

 

『……消えろ、消えてしまえばいいのに、この悪魔め!』

 

 隔離したりせず、有無も言わず『怖いよな。大丈夫。○○と○○はいつも一緒だよ』

『○○は僕らの娘だ。たとえどんなでも、それは変わらない』とかカッコいいセリフを吐いてくれるんだろうなぁ。

 

 飯もうまいものを喰わせてもらっているんだろうな。

 残飯や霞とか生ごみとかじゃなくてね。

 

 まぁ——————そういう良い親から死んでくんだろうけどね。現実でもフィクションでも。

 ほら、師匠キャラでも良い親の模範に近いもの、モブキャラでもすぐに死んでいくだろう? 

 

 箱庭学園の総合病院。

 異常と呼ばれる子供たちの診断をし、その程度を測る施設……なんとも面倒なものだ。

 

『……精神面、異常なし……健康状態……あれ?』

 

『どうかしましたか? 人吉先生』

 

『……あの、手子生さん』

 

『はい』

 

『あなたの手……普通では見られない火傷の跡が多くあるわ』

 

『……』

 

 ロリ医者が。余計なことを勘づきやがって。その童顔を溶かしてひん剥いてやろうか? 

 人親でその若さだと? お前、何歳にピーしたんだよ。

 

『……それだけじゃない。これはずいぶんと前みたいだけど……足と二の腕にも似たような跡があるわ』

 

『……すみません。言えないんです』

 

『そ。じゃあ……その腕……見せてもらっていい?』

 

 異常かどうかを診断する診療所。

 頭の切れる医者がほとんどか数人か。

 少なくとも、医者はバカではない。欺くのには準備がいる。

 

 しかも中でもこの……人吉、とかいう医者。かなり頭が切れる。

 数多いる異常どもを今まで見てきているんだ。他の馬鹿どもみたく簡単には()()()()()()ごまかせない。

 

『……汗かしら。ちょっと緊張しちゃったのかな?』

 

 そのおかげで……日程をできるだけずらして()()()()()()調整しなくてはならなかった。

 

『……い、言えないんです。人吉先生。……ごめんなさい』

 

『どうしたの、手子生さん。わ、また汗が…………今はあなたのお父さんはいないわ。私でよかったら……話してくれる?』

 

『……や、……焼かれるんです。お父さんに……お母さんに。わけのわからない水まで手にかけてきて……あちき、わけがわからなくて……痛くて……痛くてたまらないのに、二人とも笑ってて……ひ、人吉先生、あちし……どうしたら……』

 

『……お父さんを呼んできてもらえる?』

 

 診断は、人吉先生から両親への呼び出しと、怒声の混じった説教と……警察行きの注意勧告で終わり。……かなり警告に近いものだったが。

 

 普通、それかそこそこ上に合わせる。

 そういった理性的な面も、()()()()()()()()()()()()()()()()()重要なのだ。

 

『先生っ!! 違いますっ! この子は————————————』

 

 だが、人吉先生との面談途中はすこしヒヤッとさせられた。

 冗談じゃない。せっかくまともで、かわいそうな境遇の純粋女児を演じたというのに。

 こいつのせいで全て台無しではないか。

 

『お父さん————————————ぎゅってしていい?』

 

 ……が、こう言えば、済む。

 すぐに両親の顔がゾッと青ざめるからだ。

 

『……すみません。取り乱してしまって……』

 

 ちなみに、診断が終わって帰るときに手子生は父にこう言った。

 

『……お父さん、だぁいすき』

 

『近づくな、この悪魔め!』

 

『きはっ』

 

 いつか—————————こいつらの顔面を、クラスメイトも、自分を見下ろして笑う彼らを泣き崩し、グチャグチャにしてやったら、どれだけ気持ちのいい悲鳴をあげてくれるのだろうなぁ……

 

 その裏、手子生は小学生活をそんな想像を走らせながら一人、喜悦を浮かべていた。

 

 *****

 

 

『うっぐ……ひっぐ。おまわりさぁん……助けてください……父さんが、父さんがおかしくなってしまったんですぅ。……毎日、毎日あちきにこんな火傷をぉ……ひっぐ』

 

『……ち、違う!! こいつが……こいつが自分でつけたんだ!! 妻もこいつに殺されたんだ!!』

 

『とりあえず、あなたを署まで連行させてもらいます』

 

『……ち、ちがうんだ!! はなせぇぇぇ!!』

 

『…………ひっぐ……ひっぐ…………………………きはぁっ』

 

 そして新たに『何かを』失い、今の過負荷を手にしたのは、中学一年の頃。

 内心、これまでの人生を不幸とは思ってはいない。

 

 嫌われようが、遠ざけられようが、隔離されようが、愛されなかろうが、友達がいなかろうが、仲間がいなかろうが、踏みにじられようが、生意気な奴がいようが、殴ってくる奴がいようが、犯そうとするやつがいようが、なんだろうが。

 

『あぁぁぁぁぁぁっ!!!!! かおがっ、うでがあぁぁぁぁ!!』

 

『あっそ。あっそあっそあっそあっそ。しっかしかわいくねー面だなぁ。皮もいらねーや』

 

 通う中学校の放課後の帰り道はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図。

 毎日毎日下校時に殺人事件とはおっかない。

 しかも完全犯罪ですって旦那。まぁ、死体も残らないからね。

 

 世間では行方不明事件なのだが。

 

『いやだっ!! いやだっいやだいやだいやだっ! 助けてぇぇえ!!』

 

『あ、川森さん顔の皮だけ全部くれるー? 最近、顔洗ったら皮溶けちゃってさー。流行りの移植ってやつー?』

 

 夜に起こる殺人を殺人事件と知るのは実行犯一人。

 だれも、何も知らずに、日々を過ごして送っていく。

 

『あやまる!! いままでのこと全部謝るから! 頼む、助けてくれ! なんでもする!! だから身体を返してくれぇぇぇぇ!!』

 

『……きはっ、何でもぉ? 迷っちゃうなぁ…………だが断るぅ』

 

 そろそろー、廃校かな? 

 

『手子生さん!! おねがいっ! やめて! もうやめてよぉぉぉぉっ!!』

 

『ごめんねー吉田さーん。正直、君のことは嫌いじゃあなかったよー? 人生で一番あちきと接触した時間が長かったし。けどまぁ…………可愛く生まれたのが運の尽きってやつだね。ま、将来男に汚されるよりは、良いじゃん! 代わりに──────あちきが大事にしたげるっ!』

 

 自分より優れて、いつだって自分の……手子生丸々のマウントをとりたい奴ら。

 

『どうして…………どうして、手子生さん…………こんなことしても、なんにも…………』

 

 思えば、理由を問われたのは初めてだったかもしれない。

 

『……きはっ、同感。なんになるんだろうね。けどさ……これで吉田さんも、みぃんな、一緒にいられるねっ! そうでしょそうでしょそうでしょぉぉ!? きはははははははっ!!』

 

 意味なんてない。すべては負越。

 全て溶かして、バラシて、気に入った部分だけを『保存』する。

 

『……あぁ、なんてホルマリンって素敵なんだろう』

 

 だれにも何も言われない。何もされない。なにより…………めんどくない。

 これで、あちきは誰かと一緒にいられるねっ。

 

 

 

 ******

 

 

 

 球磨川の噂や情報を取り入れ、手子生は彼に対して特に警戒を払っていた。

 そして、作戦の提案者である寒井美妃にもこう進言した。

 

 ————————彼らの戦力を二手に分かち確実に球磨川だけは仕留めるようにと。

 

 案の定、彼と出会い、手子生は確信した。

 

 ————————————あぁ、こいつは自分と同じ、過負荷(同類)なのだと。

 

 なぜだろうか。見た瞬間に、すこし惹かれるような……引力のようなものを感じた。

 横にいる少名針妙丸も、見逃せない。

 

 ぜひ二人と一緒に瓶越しに話したいものだと。

 ぜひぜひ、自分のトモダチコレクションに加えたかった。

 

 

 しかし…………思ったよりも、彼はしぶとかった。

 

 常人なら絶対に失神する化学物質『チオアセトン』。その極悪臭を嗅いでも倒れず。

 少量でも激痛の中で死んでいくほどの殺傷性と危険性をもつ、『三フッ化塩素』。

 

 これらを喰らわせても、球磨川禊は倒れず、なお自分に向かってきた。

 さすがにイラつきを超えて、尊敬の念を抱いてしまう。

 

 だが————————————もう、始末してやった。

 今の球磨川は『大嘘憑き』は使えない。回復も、復活も、床をくりぬいたことを無かったことにもできない。

 

 抜け落ち崩れゆく床と共に、下の体育館へと真っ逆さま。

 生きていたとしても、落下の衝撃と瓦礫で戦闘不能。即リタイアだ。

 

「どうかな? あちきの切り札の一つ……人体やあんな脆い床なんぞあっという間に溶かす最悪の化学物質……『超酸』の威力は」

 

 コンクリートの床を老朽化させ、人体に大火傷を負わせるほどの威力をもつ濃硫酸。

 だが……この超酸はその威力をはるかに超える。

 

「純粋な硫酸の()()()()威力……触れれば人体だけじゃない……肌も! 骨も皮も肉も全部溶け落ちる!! それを床の端から端へブチまけて床を切り抜いてやったのさっ!」

 

 フックショットでぶら下がった手子生と針妙丸は、実験室の床が下へと落ちていくのを見下ろしていた。

 

「酸性雨でもコンクリを腐食させるんだ。濃度がより強く、量もバカにならん、あちきの超酸をぉ! ブチまけまくったらトーゼン! 腐り落ちちまうでしょうよぉ! きはははっ!」

 

「……あぁ……!」

 

 針妙丸は無駄と知りながらも手を伸ばす。

 実験室の床だったものが下層に到着。落下の衝撃に耐えきれず、床だったものが轟音と共に一瞬で瓦礫と化す。

 

「きはっ……知ってる? 少名ちゃぁん、人がエレベーターに乗ったまま安全装置なしで最下層まで落下したら、助かる確率なんて全くないらしいねぇ。今がまさに、そういう状況なんじゃないかなぁ?」

 

 手子生は耳をすませ、何かに気がついた様子で下に指を指す。

 

「ほら見てぇ、あそこ。落ちた床が崩れて全部、下の階の体育館に落ちちゃってる。あらあらあら! あれも見てよぉ〜! お前らがあちしだと思って倒した石垣の死体。見事にぐっちゃぐっちゃだぁね。かわうそー」

 

「……!!」

 

 仲間の無残な死さえ、彼女の心は痛まないのか。

 針妙丸はそう言いたいのだろう。

 

「そう睨まないでよー。あちきだって残念に思ってるんだよ〜? せっかく禊サマの苦痛に歪んだショタ首を、ゲットだぜ! できなかったんだから」

 

「……っ。どうでもいいんだね」

 

「はぇ? なぁにが?」

 

 手子生は訳が分からなーい、とフックショットのワイヤーを少しづつ、足場になりそうな鉄骨に下ろしていく。

 

 こいつに同情の余地なし。

 彼女の心境的に、そう判断せざるを得ないと言ったところか。

 

 高度が下層の体育館の天井近く、端から端へまっすぐと伸びた長く太い鉄骨の上に二人は降り立つ。

 

 球磨川がどうなったのかはわからない。けど、まだ遺体が見つかっていない以上、死んだとは考えられない。

 

 彼の生命力は大嘘憑き無しでもゴキブリ並だ。

 いや、そう言うとゴキブリに失礼なのか。

 

 ————————————と、おそらく少名ちゃんは考えているのだろう。

 

 

 *****

 

 

「少名ちゃん、今、それでも球磨川禊なら。そう思ったでしょ?」

 

「!!」

 

「希望なんて持たずとも、禊サマもきっとあの瓦礫の中で原型とどめないくらいにぐちゃぐちゃになってるからさぁ!」

 

 手子生はゲラゲラゲラ、と腹を抱えて笑う。

 彼女は目的を達成したと思い油断している。

 

 自ら避けにくい地形に降り立ち、針妙丸との距離も油断して詰めている。

 

 この機会を逃すわけにはいかない。

 

 針妙丸は今一度輝針剣に手を伸ばそうとする。

 が、

 

「──────言ったよねぇ? 少名ちゃん、後悔するよって」

 

 手子生の目玉がギョロリと針妙丸の方へ。

 

「!!」

 

「殺気がぁ〜〜……ダダ漏れなんだよっ!!」

 

 手子生が手に持ったスイッチを押した瞬間、水が噴出しマスクの内に溢れる。

 

「……!!!?」

 

 溺死……いや、違う!! 

 

「『悪魔の化学実験(デビルズケメストリー)』」

 

 今まで吸い込んだ水が突然変異する。

 息苦しい、だけじゃない。

 

「……!? 〜〜〜〜っっ!!!!」

 

「致死量の塩素水の中で溺死しろォ! きはははははっ!」

 

 苦しい! 痛い! なんだこれなんだこれ!? 

 めまいもする、吐き気が止まらない、いがいたい痛い痛い痛い痛い!! くらくらする、息ができない、すえない、吸いたくない、怖い。怖いこわいこわい!! 

 

「あぁ……っ……! 少名ちゃん、今のあなたの表情はさいっこうの苦しみに……恐怖に歪んでて……っ……!」

 

 目が……視力までやられた。

 もう何もかもがぼやけて見える。死ぬんだ。

 少名針妙丸は死ぬんだ。こんな訳のわからない場所で。

 

 誰にも、だれにもその死を悟られないまま、苦しみ抜いて死んでいくんだ。

 

「さいっこう!! 今のあなた最高だよ!? 少名ちゃあん!」

 

 最後に見るのが、自分の死にゆく顔を見ながら悶絶しているやつなんて……

 

 霊夢。魔理沙……そして……正邪。

 みんなごめんね。

 

「……ごぼっ」

 

 もう……だめ…………みたい。

 

 

 ────────「もう終わりか? お姫様」

 

 

 ……正邪? 

 

 ─────「このまま、終わるのか? それはあっけなさすぎねぇか? くくっ……情けないねぇ。それでも私と共についてくるってか。脆くて話にならんな」

 

 

「……ごぼごぼっ。(んなわけないでしょ)」

 

「……ん?」

 

 手子生丸々。わたしをなめるな。

 少名針妙丸を──────なめるな。

 

「少名ちゃん……なんで?」

 

 もう人形じゃない。

 わたしはあの頃みたいな……物言わぬ人形じゃない。

 

「なんでそんな、まだ諦めてない面してんの? これから死ぬんだよ、おまえ。もう何もできないんだよ? 逆に何ができるんですかね?」

 

 ──────「まだ倒れるなよ。まだやれるだろ」

 

「ごぼごぼっ……!! (うるっさい……!!)」

 

 目が霞むくらいなんだ。痛いのが何だ。

 頭なんてどうでもいい。視界なんてどうでもいい。

 ぼやけけていても、彼女がどこにいるのかさえわかれば。

 

 ────「そうだ。奴の調子に乗った、くそったれな面に」

 

 一撃っ、かましてやるっ!!! 

 

「ごぼぼぼっ(輝針剣っ)!!!!」

 

「なっ──────!?」

 

 閃光。

 針妙丸の針の剣が光を纏い、速く、最速の一撃が。

 手子生の顔面に向かい最期の一撃が飛ぶ。

 

「───クソっ!! 『デビルズケメストリー』ぃぃいいぃ!!!」

 

「──────────っ!?」

 

 全く予想もつかない痛みが走る。

 頭でも、顔でもない。

 

 身体中を溶かされるような。焼ける激痛が。

 

 ────────走る。

 

「───────なっ!?」

 

 針妙丸の攻撃はそれでも止まらなかった。……が。

 輝針剣の狙いはズレ、手子生の頰をかすめる。

 

「……そんな……」

 

 届かなかった。私たちの……

 

「ふぅ。……コレクション対象の身体を少し傷つけたのは、痛かったけど。まぁ……少名ちゃん。よく頑張ったよ」

 

 針妙丸は最後の気力も体力もつき、鉄骨の上に倒れる。

 その身体が落ちないように、手子生は針妙丸の身体を足で踏みつけ固定する。

 

「きーっはっっはっはっはっはっはっ!! 勝利ぃ! あちきの勝利ダァ!! 聞きましたか全土さまぁ! 美妃さまぁ!! 球磨川禊は再起不能! 少名針妙丸は死亡! あちきがぁ! 手子生丸々が仕留めましたぁ!!」

 

 自分の足の下で倒れている針妙丸を、手子生は凝視し、

 

「げほっ! ごほっごほっ!!」

 

「……あ?」

 

 マスクが、外れているのを見た。

 

「はぁ? はぁはぁはぁはぁはぁ!?!? 意味わかんんねぇ! なんで!? なんでなんでなんでぇ!?」

 

『そう、理解不能(わからない)

 

 手子生は勢いよく後ろを振り返る。

 

「……ぁあ、あ……?」

 

『それがマイナスだぜ。手子生ちゃん』

 

 球磨川禊。

 

「────あぎゃああああああああああああああっ!?!?」

 

 手子生の右腕が螺子で貫かれる。

 

「球磨川くん……」

 

『君の一撃はたしかに届いたぜ。針ちゃん。素直にここは褒めておこうかな』

 

「…………なんで若干偉そうなの?」

 

 血が、血が噴き出し止まらない。手子生はしばらく悲鳴をあげたのち、今までにないくらいの殺気を込めた目で球磨川をにらむ。

 

「くぅぅぅ……まぁぁ……があああぁわぁぁぁっ!!」

 

『さぁ————————————第二ラウンドといこうか。手子生ちゃん』

 

 

 




次回、手子生戦はクライマックスへ。

最近投稿時間まばらだなぁ…………
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