グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~   作:ゼロん

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第40話 男女平等、顔面鷲掴み

 

『やー助かったよ。しばらくの間、螺子を壁にブッ刺してぶら下がってたけど、もう手が痛くて。もう手を離しちゃおっかなーって思ってたんだよね』

 

 球磨川が制服の襟部分に空いた穴を見る。

 

『あ、はい。これ。針ちゃんの針』

 

「え……いらない」

 

『!? いやそんなに嫌われてるの!? 普通にちょっとショック!』

 

 そんな漫才をやっている間、手子生は全身を震わせ額に青筋を立てていた。

 

「第二から先はねぇぇぇっ!!! これでくたばれゴキブリがァァァァッ!!!」

 

 投げつけられたのは何の変哲もない水風船、

 

『どうしたの、手子生さん。急に川で遊ぶ子供のような童心が蘇った────』

 

「んなわけねぇだろ、ボケ!! 『デビルズケメストリー』!!!」

 

 ────は突如ピンの抜かれた手榴弾のように爆発を引き起こす。

 

「球磨川くん!!」

 

「きは、きははははっ!! 無駄無駄、直撃だっ!! 生きてるわけが……ね、ぇ、き……は……!?」

 

 球磨川は────言葉で表現するのも控えたいくらいに『損傷』していた。

 

「えぇっ!? ぎゃ、ぎゃぁぁぁ!! 右半身がぁぁぁ!!」

 

『……なんで針ちゃんが叫んでるのさ。実際に喰らってるのは僕なのに』

 

「な、何で……!? は、ははっ、痩せ我慢ってやーつー?」

 

『……ふ』

 

「……!? へ、へ、ヘラヘラ……ヘラヘラとぉ……っ! その顔、すぐに苦痛に歪ませて生きてることを後悔させてやるよっ!!!」

 

 手子生は再び水風船を投げつける。

 当然ふらふらの状態の球磨川は避けられず、直撃! 

 

「!? み、水っ!? あっ……!! 球磨川くん、早くその水を払って────!!」

 

『……? あっ、そういう』

 

「────『デビルズケメストリー』ぃぃ!!」

 

 その瞬間、球磨川にかけられた水は人体を容易に溶かす『超酸』と化す!! 

 

「あぁっ……!!」

 

『うぅ……ぁぁぁ────ーっっ!!!』

 

「きは、きははは!! そ、そうそう! そ、その顔だよ!! そのまま苦痛の中で死んで────」

 

 しかし手子生は気がついた。

 

 いや────気がついてしまった。

 

 

 そして針妙丸も……何となく察してはいた。

 

 

「……く、球磨川くん」

 

 

「き……は、は────はぁっ!?」

 

 身体の半分が人体模型のようになったとしても。

 

「え……ちょ、う、嘘で、しょ……?」

 

『……』

 

 球磨川の歩みは。手子生への前進は。

 

『……僕、痛覚は『無かったことにした』っけ? してたっけかな……まぁいいや』

 

 止まらないことに。

 

『とりあえずは────チェック』

 

「!? ────づあ!?」

 

 ホラー映画のモンスターさながらの気持ち悪い動きで球磨川は手子生との距離を一気に詰める。そして彼女の頭を鷲掴みにする! 

 

「き、きは? み、禊様、なにを……? 女の顔ですよ? え、ちょっと、なにを」

 

『最近、読んだマンガでね。悪役がこんなことをしてたんだけど────男女平等って大事だよね?』

 

 球磨川は顔に残った超酸を無事な方の手に塗ると────時間差なく、その手を手子生の顔に押しつける! 

 

「う、ゔぁぁぁぁぁっぁぁ!!!! やめろやめろやめろやめろぉぉおぉぉ!!! ああぁぁぁぁ!!!」

 

『────僕は悪くない』

 

「く、球磨川くん!! や、やりすぎ!! もう流石に……」

 

『僕は悪くない。僕は悪くないよね、針ちゃん? ────あ、そうだ。手子生ちゃん』

 

 球磨川は何かを思いついたかのように眉を上げる。

 

『仲直りして一緒にデートしない?』

 

 

 ────何言ってんだ、こいつは。

 

 

 針妙丸は耳を疑った。

 

『さすがに僕も、一緒にデートする相手の顔は傷つけてたくないから────うんって言ったら手を離してあげる……どう?』

 

「もう信じられないくらい傷付けてるけど……! 手子生さん! はやく降参して!! そうじゃないと本当に顔が……!」

 

 そして手子生は……

 

「わ、わかった!! わかったよぉぉ!! 行く! デートでも何でも行くから!! もう、これ以上、顔焦げっこげになりたくないよぉ!! デートでも何でもするから離してぇ!!」

 

 手子生には悪いが正しい判断だと思う。デートをしたからって死ぬわけじゃないし。死ぬほど嫌なことには限りないけど。

 

 そう針妙丸は内心少しだけ手子生に同情した。

 

『ほんと!? じゃあ、離すね!』

 

 球磨川は断面図と化した顔に笑みを浮かべると、手子生から手を離した。

 

『じゃあ、さっそくデートプランを────』

 

「いや、そんな場合じゃないから球磨川くん! オールフィクションもないんだし早く手当を……!」

 

「そ、そうだね、禊さま。けどさ、もうデートの行き先は決まってるんだよね。ほ、ほら! 先着二名様のチケットをもう予約したんだ!」

 

『ほ、ほんと!? 嬉しいなぁ、そんなに早くなんて、もう! 行く気満々じゃないか! げふっ!?』

 

「いや、球磨川くん、致命傷だから!! それどころじゃないから!!」

 

「けどね禊様……行くのはあちきじゃないよ? 針妙丸ちゃんと行ってくれる?」

 

『……?』

 

 手子生の口が大きく歪む。

 

「────────ただし行き先は地獄だがなぁぁぁぁっっ!!!」

 

「!!」

 

 手子生は二人に向かって両手を伸ばす!! 

 手子生は両手を酸で溶かしながら、二人の顔に手を押しつけ────

 

 

『やれやれ……君も、用意周到だね』

 

 

 間一髪で球磨川の螺子で串刺しになった手子生。

 

 しかし────彼女が溶かしていたのは自らの手だけでは無かった。

 

 球磨川が足場としている鉄骨を溶かしていたのだ。

 

「き、きは……お前、だけ……は……ころ」

 

『────また勝てなかった』

 

 

 手子生は串刺しのまま、鉄骨の上に残り、足場を失った球磨川はそのまま天井から落下────

 

 

『……手を離してくれるかい?』

 

「……っ!!」

 

 ……しなかった。

 針妙丸がその腕を掴んでいたからだ。

 

『僕の腕も、あいにく溶け落ちかけてるんだ。こうしている間にも、ほら』

 

「……!」

 

『まぁ、死ぬのは嫌だけど。敵を倒して自分も死ぬ。……ただ死ぬ人生にしちゃ、僕にしては上出来じゃないかな?』

 

 手子生の超酸のせいで

 

『いやん、丸見え』

 

「うっさいわっ!! 今真剣にやってんだから黙ってて! ……小槌よ……この者の傷を癒したまえ」

 

『……!? 針妙丸ちゃん、何を……? あっ、まさか僕の傷口をそれで抉って落とす気かい? あげて下げるなんて……なんて君はサディストなんだ!』

 

「いや違うからっ!! ボケないでよ!!」

 

 笑って少しでも気を抜けば落としてしまいそうなのに。こっちも満身創痍なのだから少しは考えてほしい……というかなぜ致命傷を喰らってそこまで余裕があるのか、球磨川。

 

「……はぁっ……! はぁ……打ち出の……小槌……はぁ……! はぁ……! 持ち主の……願いを、なんでも叶える小人族の秘宝。……ただし持ち主の魔力を、時には命を代償に……うっ」

 

『……どうして』

 

 そこまでと言う前に針妙丸は答える。

 

「……最初にこれを使った時、正邪は小槌の代償ことを教えてくれなかったけど」

 

 少し遠くを思い返す。

 

「────本当はあんたなんかに使いたくなかった」

 

 針妙丸は球磨川の目を見る。濁っていて、どこまでも深い、底なんて見えない闇色の瞳を。

 

「わたしはあなたが嫌い」

 

『なら、突き落とした方がいいと思うぜ?』

 

「だけど────あなたはどこか正邪に似てる。そんな気がする。あなたがいなくなったら正邪がきっと寂しがるかもしれないから」

 

 まっすぐに尖った針のような針妙丸。

 捻じ曲がった針金のような正邪。

 

 二人は真逆。だが先端は二人とも同じく────尖っている。

 

 

「……それに、少なくともここにいる間はあなたは仲間だから」

 

 

 尖っている。それは確実に相手に刺さる。

 

 

『……なるほどね。正邪ちゃんが連れ歩くわけだ』

 

 球磨川はため息をつく。

 今日は敗北の多い日だと、いやいつもか。

 

 そうつぶやいて。

 

「負けたよ。僕の負けだ。君は……愚か者の方にいれておくとするよ」

 

 球磨川は苦笑する。

 

「……もう少しいい枠はないの?」

 

「……君は弱くはないからね」

 

 ────そうだろう? 少名針妙丸。

 

 

 *****

 

 

 

「……まだ正邪に付きまとい続けるなら、あなたは知っておいて」

 

 長い廊下の中、致命傷だけを回復させたものの疲労困憊の二人。

 

 針妙丸が球磨川をおぶっている形になる。

 

『くんくん────これは……女の子の匂い! あと、ビオレ……あ!? あ、違う、アンモニア臭だった!! うわ、くっさ!!!』

 

「人の話聞け!! あと、女の子に臭いっていうんじゃないわよ!! あと、それ言うなら、あんたも臭い!」

 

 ────手子生の薬品のせいだ。

 

 あのね……と感情を引っ込めて針妙丸は続ける。

 

「わたしと正邪は、この世界から隔離された楽園……別の世界から来た妖怪。人間じゃない」

 

『……!』

 

 容姿は、人間に似てはいるけれど。

 

「あなたが言うところの、安心院さん。それに近い人外よ。わたしは一寸法師の末裔の小人族。正邪は────知ってのとおり、天邪鬼」

 

『へぇ〜……』

 

 一瞬目を見開くも、すぐにまた興味なさげ……というか、豆知識を知った程度のリアクションをする球磨川。

 

「いや、リアクションうっっすっ!?」

 

『いや……まぁ……酸素操ったりとか、支配者を操る能力を持ってる人だとか……人間離れした人らを相手にしてきたから、感動も薄くて』

 

「……はは」

 

 あぁ、なるほどね。

 針妙丸は苦笑する。

 

『でもまぁ、安心してよ! 僕は君たちに態度を変えたりとかはしないからさ! むしろこれまで通りにやろうよ!』

 

「その神経の図太さだけは大したもんだね……」

 

「……ていうか、もうありえないくらいの年月生きてる人外もいるから、正直迫力に欠けるっていうか……」

 

「? 急になんか素っぽくなったね」

 

『────気のせいだと思うよ。それよりも早く進んでよ。これだとうさぎに追いつけないぜ!』

 

「……置いてってやろうか、このアブラムシ」

 

 そういえばさ、と針妙丸。

 

「球磨川くん、よく勝てなかった勝てなかったって言ってるけど……普通に今回は根性で勝ってたんじゃない? オールフィクションも無しにあそこまで追い詰めてたし」

 

 

『オールフィクションなんて、ただの手品さ。……それに、僕は手子生ちゃんの心は折れなかった』

 

 ────『わ、わかった!! わかったよぉぉ!! 行く! デートでも何でも行くから!! もう、これ以上、顔焦げっこげになりたくないよぉ!! デートでも何でもするから離してぇ!!』

 

『あれも、嘘だったしね』

 

「あんな誘い方しかできないの……? ていうかあれで行くと?」

 

『ああいうプロポーズの仕方しか僕は知らないのさ。愛情を伝えるには肉体的接触は不可欠なのさ……』

 

「いや、あんたの場合、接触じゃないでしょ。暴行と脅しじゃん」

 

 ──────『けどね禊様……行くのはあちきじゃないよ? 針妙丸ちゃんと行ってくれる────────ただし行き先は地獄だがなぁぁぁぁっっ!!!』

 

『あそこまで追い詰められていても……あの子は戦意をこれっぽちも失ってなかったんだ。僕を完膚なきまでに叩くっていう意志を……』

 

「……?」

 

『だから────また勝てなかった』

 

 





おまけ



「き、きは……禊さまー……痛くはないけど……せめてここから下ろしてー……だれかー……」


手子生は天井に串刺しのまま置いていかれていた。


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