グッドルーザーズ!! ~球磨川禊と鬼人正邪による反逆の学園生活!~   作:ゼロん

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すみません。少し遅くなりました!


第6話 大多羅全土の強食論

「……はぁ?」「あいつは何を言ってるんだ?」「……?」

 

 全土(ぜんど)の一言、もとい暴言によって新入生の間にざわめきが広がる。

 

「聞き取れなかったようだな。貴様らは……強者(オレ達)の下で管理され喰われる家畜に過ぎない、と言ったのだ」

 

「何……あの人……? 自分の言ってることがわかっているの……?」

 

 三人の中で一番人の悪意に敏感な針妙丸(しんみょうまる)がたまらず小さな悲鳴を上げる。慶賀野(けがの)もたまらず口元を両手で押さえている。

 

「……!!」

 

 言葉も出ないようだ。

 

 

「しかぁし……ただの家畜からその飼い主になる方法がお前たちには残されている」

 

 

 全土は片手を振り上げ、チョップでステージの教壇を音もなしに真っ二つに叩き割る。

 綺麗な切断面を見せながら、()()()()()()()がステージ上にカラリと床に崩れ落ちる。

 

 

「それは強者となることだ」

 

 

 コートに付いた木の粉を彼は手で払い、右手の人差し指をスッと持ち上げる。

 

 

「腕の立つ者は戦士に、頭の回るものは策士に、料理が上手い者は料理人に。金への執着が強い者は商人に……自分の長所を他人の追随を許さぬくらいに伸ばせ。それができぬ奴には……地獄が待つだけだ」

 

 

 話が終わったのか全土はマイクを床に置く。

 その瞬間、全土のいるステージに一番近い席にいたリーゼントの男が立ち上がる。

 

「てめぇ……ふざけやがって……理事長の息子だからって好き勝手言うのもいい加減にしやがれ!!」

 

 全土は機嫌が良さそうに、立ち上がった不良少年を値踏みするように見つめる。

 

「ほう……確か貴様は……桜街(さくらこうじ)だったか。オレの一番近くにいたというのに怯まず、意見するとはな……」

 

 彼が不良らしき男の名前を言うと、さらに周りにざわめきが広がる。

 

「桜街……桜街ってあの……?」「『素手つぶしのコウジ』? こんなとこまでケンカを売りに来たのか?」「地元で暴走族を一人でつぶしたって噂の……?」「しかも素手でだってよ」「マジかよ……」

 

「あぁそうだ。そのコウジだ。おめぇが偉いのかどうかは知らねぇが……要するに弱肉強食ってことだろ。てめえが言いてぇのは。くだらねぇな!」

 

全土は余裕の笑みを浮かべながら桜街との距離を詰めていく。

 

「ふむふむ……その勇猛さ、気に入ったぞ桜街。もう一つお前にいい話を聞かせてやろう……『蜘蛛の糸』という話を知っているか?」

 

「あぁ? なんだよいきなり?」

「ある一人の罪人が天国に続く一本の糸にしがみつく話だ」

 

「……他にもその糸を掴んでくる亡者がいて、それを突き落としたら糸が切れたってやつだろ? 欲張る奴は損をするって教訓の」 

 

「違うな」

「なにぃ!?」

 

 頭に血が上り、とんがりリーゼントの男……もとい桜街はステージに上り、全土に飛びかかり

 

 

 --全土の胸倉に手を伸ばした瞬間、桜街の体が突然ひしゃげる。

 

 

「あ、ぐぁああああああぁあああああッッ!! がぁッッ!! あぁッッ! あああぁ!!」

 

 叫び声をあげながら、地に伏し、四肢の骨があり得ない方向に曲がっていく。まるで何かにつぶされたみたいに。

 

 桜街の全身から血が噴き出し、噴水ができあがる。

 

「あれはな、他者を振り落とし、切り捨て、糸が途中で切れたとしても……天国の糸にしがみ続けるものこそが強者であり勝者……というメッセージだ」

 

「あ……がッッ……」

 

 骨があらぬ方向にへし折れ、人間アートとなってしまった桜街を見ても全土は動じない。それどころか「短く、ためになったろう?」と一笑している。

 

 無残な桜街の姿を見て、新入生全員の心が折れたのか……皇庭(こうてい)は完全に静まり返っていた。

 

 ある者は口元を手で押さえ、繊細な者は朝に食べたものを戻しかけ、そしてある者は現実から目をそらし逃避する者もいる。

 

 この場で響くは全土の声と桜街の小さくなったうめき声のみ。

 

「さて……と、これで話は終わりとしよう。どうした? 何を静まり返っている?」

「全土様」

 

 ステージ上にまた新たな男が現れる。現れた男は長身で、全土に比べればはるかに細身の男だった。だが容姿は明らかに美男子に入る部類だろう。

 

「おぉ、神井(かのい)生徒会長。どうした? 今日はお前たちは休みのはずだが?」

「全土様が出席なされる舞台に我々生徒会がいないなど……考えられません」

「物好きめ。あくまでもオレは生徒の一人だぞ?」

「だとしてもです……それよりも」

 

 長身のイケメン……生徒会長は先ほどまでの優しそうな笑顔から一転。獰猛な肉食獣のような鋭い目つきで、文字通り潰された桜街を見つめる。

 

「この無礼なゴミはいかがいたしましょうか。もっと()()()()()してミートボールにでもいたしましょうか?」

 

「いいや、よせ。せっかくA組の生徒と超能力者(アルカナ持ち)達が作ってくれたステージだ。これ以上血で汚すのももったいない。それにまだ桜街は入学したてだ……コイツをすぐに保険棟に連れて行き、『法王』に治療させろ」

 

「寛大なご配慮……!! まぁ……これでこいつも全土様に逆らう気も失せるでしょう。すぐに能力を解除()()()()

 

 生徒会長が手招きをした直後に、彼と同じく白い学ランを着た学生が担架(たんか)を運んできた。うぅ……気持ち悪い、と言いながら重症の桜街をステージの外へ運んでいく。

 

「ここからは生徒会が指揮をとる。各自、生徒会メンバーから指示があるまでここで黙って待機すること。以上だ」

 

 皇庭の外に運び込まれていく桜街。しかし、無残な姿になった彼の姿を見るものは誰もいなかった。

 

 新入生は皆顔を伏せ、少しでもつらい現実から目を背けようとする。針妙丸も慶賀野もみんなそうだった。

 

 

 ただ一人、正邪を除いて。

 

 

 皇庭から消えていく桜街の姿を最後まで真っすぐと……その目に映していた。

 

 全土も教室棟に歩き、棟の中へ消えていく。

 

 

「う、うわああああああああああああああああああああぁぁぁッッ!!」

 

 全土が視界から消えて、精神のタガが外れたのか新入生の一人がパニックになり、必死の形相で皇庭を飛び出そうとする。

 

 

「黙るであります」

 

 

 知らない男の声が聞こえた瞬間、逃げ出した生徒が糸が切れた人形のように崩れ落ちる。少年の血で地面の芝生の色が徐々に緑から赤色に染まっていく。

 

 席を立ちかけた他の新入生も口を手で押さえ、席に戻る。

 

「席に戻れとまでは言ってないでありますが……自分は『生徒会 私刑執行部』庶務(しょむ)百々千太郎(どうどうせんたろう)であります。ちなみに剣道部部長であります」

 

 青い着物を着た男、百々千太郎(どうどうせんたろう)は手に持っている、そこらにあったのだろう棒切れについた血を払う。

 

「しかし、()()を見た後に早速会長の命令に逆らうとは……寮に移る前に見せしめにもう一人、斬っといた方がいいのでありましょうか?」

 

 百々は目に見えない勢いで近くにいた適当な生徒との距離を詰める。突然目の前に現れた百々に生徒は「ひっ……!」と悲鳴を上げる。

 

「まぁ深くは斬らないし、『法王』の治療を受ければ死なずには済むでありますから。恨むなら、最初に逃げようとしたアイツを恨むでありますよ」

 

 先ほど斬った、血だまりの中にいる生徒に指をさし、目の前にいる生徒に冷笑を浮かべる。

 

「君はこれからあの世を見れる貴重な体験ができるであります。良かったでありますなぁ。君たちも! これ以上この子のような犠牲者が出ないよう! 尽力するでありますよォ!!」

 

 百々は手に持っていた棒きれを頭上に振り上げる。傍から見れば簡単に折れそうなただの棒きれ。今から犠牲者となる少年にはそのただの棒きれが、人体を容易に切り裂く刀に見えた。

 

 --そして少年の体は斬られ、体は音を立てて地面に転が……

 

ひっくり返れ(リバースイデオロギー)

 

「あれ? なぜ……椅子が代わりに斬れているのでありますか?」

 

 --らなかった。あったのは百々(どうどう)に両断された椅子のみ。

 

「……!? え? 俺なんで……?」

 

 少年と近くにあった椅子の位置が『ひっくり返っている』。

 

「おい、保険棟っていうのはどこにあるんだ?」

 

「え……あ、あぁ。保険棟ならお前たちの寮のすぐ隣にあるであります。さぁお前たち! 寮に案内するであります! 遅れぬよう早く進めであります!!」

 

 そう言って百々は先陣を切って歩いていく。その後に正邪を含めた新入生達も続く。

 

「むむ……おそらくさっき何かしたのはアイツでありますな…………十分な警戒が必要であります」

 

 鷹の目のように鋭くなった百々の目は前から正邪の顔をじっと見つめていた。

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