「はあ、異世界に通じるものに関連した情報ねぇ……」
仲間二名の電撃入籍事件から二日、やはり情報収集は大事だということで俺とシルヴィアは現在、路地裏で待ち合わせていた情報屋に問い合わせている。
ちなみに昨日は二日酔いで丸一日潰れた。シルヴィアも同じくらい飲んでいた筈なのにピンピンしている。やはり種族の違いは大きいのか。
情報通のラットと言えばこの界隈では有名人。噂では政治家の汚職から酒場にいるウェイトレスのパンツの色のローテーションまで何でもござれな情報通らしい。事実、今までの旅でラットに助けられた回数は数知れない。
「七色に輝く魔石、稲妻を纏う魔剣、精霊の加護を受けた鎧等々と結構な情報を仕入れていやすがそういった情報はございやせんね」
「やっぱりかぁ……」
そんな彼でも今回の要求には難色を示した。彼で駄目となると他の情報屋を当たってもいい情報を期待できないだろうなとがっくりと肩を落とす。
稲妻を纏う魔剣とやらに俺の中の男心が刺激されるが、さほど重要な事ではないので今は置いておく。でも、することが無かったらちょっと探しに行ってもいいかもしれない。
「しっかし何でまた異世界へ? この世界を救ったらまた別の世界でも救うおつもりでやすか?」
「まあ、そんなところだよ。ほら」
そう言って呼び出し料として銀貨を三枚ラットへ渡し、「毎度あり」と笑顔で懐へと閉まっていく。
「あ、そうそう。これはまだ未確定の情報なんでやすが、何でも魔王が討伐されたことで東の島国から使節団がこっちに来るそうでやしてね」
「使節団ねぇ……交易?」
「さあ?で、本題はここからでやしてね。何でも使節団の中には過去、現在、未来を見通す巫女がいるとかなんとか」
正直言うと眉唾物だ。その手の預言者やら千里眼の持ち主を名乗る人物は見てきたが、ほぼ全員がそうやって人から金を巻き上げている詐欺師だったし、そいつらを懲らしめて兵士達に突き出した事もある。もしそんな人種の集まりだったらまた面倒な事になりそうだ。
◆
「ハルは元の世界に帰りたいのか?」
ラットと別れた後。行く当てもなくブラブラとしていたらさっきまでずっと黙っていたシルヴィアが突然言い出した。
「そうだよ」
「何故だ?」
「元の世界には家族がいるからかな」
RPGは好きだし、剣と魔法の世界に憧れはあった。でもその世界で骨を埋める気にはならない。今だって両親が俺が生きていると信じて探してくれてるかもしれないと何度思ったことか。魔王を倒せば役目も終わり元の世界に帰れると縋ってたのにこの様だ。
「家族か……」
そう呟くシルヴィアには何も感じられるものは無い。彼女は両親に捨てられたと言っていたから無理も無いのかもしれないな。
彼女は世にも珍しいエルフ同士から産まれたダークエルフ。本来ならそんなことはあり得ないと不気味に思った彼女の両親がまだ幼い彼女を追放。おまけに悪い男に騙されて奴隷として売り飛ばされて、悲惨な人生を送っていたのだから。いくらエルフが排他的な種族だからって自分の娘を追放なんて酷い話もあったもんだ。夢も希望も無いじゃないか。自分の境遇と重なって酷く同情したからこそ彼女を引き取ったのだ。
「それに、もう魔王が倒されたし俺の役割は終わったんだよ。今の俺はこの世界にとって異物でしかないんだよ」
「そんな……寂しい事言わないでくれ。ハルがいたから今の私がある。私はハルがいなくなったら寂しいし悲しい」
「そっか、ありがとう」
シルヴィアが俺の事を好意的に見てくれてるのはなんとなく分かるし素直に嬉しい。でも、元の世界に帰るのだからその気持ちには応えられない。そんな無責任でいられるほど俺は屑になれない。
「ハル、私はハルが好きだ」
「お、おお……?」
「私はハルと家族になりたいと思ってる」
「突然どうした?」
何だかシルヴィアの様子がおかしい。こちらを見てくる眼は嫌になるくらい真剣で熱っぽい。それに俺の手首をギュッと握って断乎として離そうとしないでいる。というかこんな風にストレートな告白をされるのは初めてで照れくさくなってしまい、思わず目を背けてしまった。
「ハルは私という家族が出来たら帰らないでくれるのか?」
「まず質問に答えて」
「答えたぞ。私はハルが好きで家族になりたいと思ってる。魔王を倒したら気持ちを打ち明けるつもりだったが、アイザックとホリイの件で言い難くなって機会を伺ってた」
シルヴィアは俺の手首を放すと間髪入れずに俺の腰に手を回した。所謂だいしゅきホールドというやつだ。がっしりと固められて身動きは取れないし彼女のホリイほどではないにしろ充分ダイナマイトボディと言っていい感触が直に伝わる。
「私には魅力は無いか?」
「違う」
「ダークエルフの女は嫌いか?」
「そうじゃない」
「私が元奴隷だからか?」
「そういう事言うの止めろって何度も言っただろ」
「非処女だから駄目なのか?」
「いい加減にしないと怒るぞ。俺はお前にそういうことさせるために引き取ったわけじゃないんだよ」
シルヴィアは魅力的な女性だ。この世界じゃダークエルフはどちらかと言えば魔族側に近い一族だからと嫌われる事も多い。しかし単眼、複眼であったり下半身が蛇やら馬やらだったりでさえHENTAI国家日本では一つのステータスとして扱われてる。ダークエルフだからなんだ、寧ろ個人的には美人だがお堅いエルフよりもアリだ。
でもシルヴィアをそういう目で見るとシルヴィアを奴隷として扱っていた連中と変わらないような気がしてそういった気にはなれなかった。
「……すまない」
口調を強くしたせいか、シルヴィアは怒られたペットのようにしょんぼりとしてしまった。しかし拘束力は弱くなったとはいえだいしゅきホールドは解かれていない。感触は惜しいがいい加減に解かないとちょっと拙い事になりかねない。
「フフフフフ」
何か突然笑い出した。
「大丈夫? 診療所行く?」
「いや、別に頭がおかしくなったわけじゃないからな。ただ、ハルは私の事を大切に想ってるくれてるんだと分かると嬉しくて」
あながち間違ってはいないがやけにポジティブだなと、どさくさ紛れに拘束を解いた。「ああ……」というシルヴィアの名残惜しそうな声を振り切った自分を褒めてやりたいところだ。自分も名残惜しいよ、こんな美女に抱きつかれるなんて多分元の世界に帰ったら無いんだもの。
「だから、私はハルを振り向かせるために頑張る」
不覚にもその笑顔にドキリとしてしまう。今までは普通に接してこれたのに、こんなんじゃ俺、このダークエルフに即落ちさせられちゃうよ。
ちなみにホリイがGでシルヴィアがEです