魔王を倒したので元の世界に帰ります   作:柚子檸檬

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ダンジョンには危険がいっぱい?

 捜査は足で稼ぐものだと刑事ドラマで聞いたことがある。実際はどうか知らないが、いい言葉だ。それに倣って俺達二人は今までのダンジョンをもう一度隈なく探索してみることにした。

 

 ゲームでもやりこみ要素で既にクリアしたダンジョンに変化があったり隠しダンジョンに通じていたりするのはRPGではよくある事だし、当てもない今、それに賭けてみるのもアリだろう。

 

「キシャアアアア!」

 

「ガァァアアアア!」

 

「ボブァアアアア!」

 

 襲い掛かってきた魔物は俺達二人によって瞬殺されている。弱いとはいえこうも何度も出現したら流石に面倒だ。ホリイがいたら弱い魔物を近づかせない呪文で戦闘する手間が省けるのだが、仕方ない。次は魔物除けのポーションでも用意しようか。

 

「にしてもこの辺の魔物弱いな」

 

「そりゃ、俺とアイザックだけで旅してた頃に行ったダンジョンだしな。でも油断はするなよ」

 

 アイザックめ、知らないうちに抜け駆けしてDT卒業までしやがって。一緒に娼館行こうとか誘っておいて、娼館前で怖気づいて引き返したあの頃のお前はもっと輝いていたぞ。結婚式のスピーチでバラしてやるから覚悟しとけよ。

 

「何にもないな……」

 

 思わず呟いてしまう程、このダンジョンには何もない。さっきからゴブリンのような雑魚モンスターばかり出現して何も目新しいものが見当たらない。

 

「はっ! こ、これは!?」

 

「え、何!? 何かあったのか!?」

 

「ガラス玉が落ちてた。綺麗だぞ」

 

「よ、良かったな」

 

 無邪気にガラス玉を見せびらかすシルヴィアに俺は曖昧な表情で返事をすることしか出来なかった。

 

 シルヴィアの告白兼宣戦布告からしばらく経つ。一応駄目元で身構えてはいるものの、彼女は朝方にベッドに潜り込む以外は特に何も変わったことはしてこない。それだけでも俺の中のナニカがごっそりと削られていくのだが。もし裸ワイシャツだったらやばかった。

 

「はっ、これは!」

 

「今度は何!?」

 

「干し肉が落ちてた。勿体ないな」

 

「貧乏じゃないんから拾い食いはするなよ。というか虫集ってるからな」

 

 昔のシルヴィアは手掴みで食事したり、地面に落ちて土まみれになった食べ物も平気で食べていた。必死で矯正させたのにその頃の癖がまだ抜けてないんだなぁ。

 

「はっ、これは!」

 

 この気配は天丼の予感。

 

「今度は何だよ!?」

 

「パ、パンツの紐が切れた……」

 

 思わず噴き出した俺はきっと悪くない。

 

 地面に落ちてるパンツだった黒い布、顔を赤らめながらプルプル振るえて服の裾を抑えているシルヴィアの姿はジャブどころか肝臓にボディブローが入った勢いだった。あの裾の内側の事を考えると思わず鼻血が出そうだ。恥じらいというスパイスがあるだけでこうも違うのか。

 

「と、とりあえず俺のズボン貸すから。向こう向いてる間に着替えてくれ」

 

 バックの中から昨日洗ったばかりのズボンを取り出してシルヴィアに投げつけると透かさず明後日の方を向いて目を閉じた。

 

 帰り道、シルヴィアがちょっと嬉しそうに自分のズボンを履いていると思うと妙な気分になってしまい、何度かズボンをチラチラと見てしまう。そしてそれに気づいた彼女は何かを察し更に嬉しそうになっていた。よくよく考えたらシルヴィアもパンツの替えくらい持ってるわけで、それを敢えて言わなかった辺りが最高に策士だ。気付かなかった俺が馬鹿なだけかもしれんが。

 

 もうあのズボンは履けなくなった。

 

 

 

 

「我が名はへカトンケイル! 貴様らに亡き者にされた父、ギガントスの息子なり! 貴様を殺して我が新たなる魔王となりて――――」

 

「煩いし長いし隙だらけだし」

 

 ――――一閃。

 

 さっきからペラペラとくっちゃべってたヘカトンケイルとやらは頭から真っ二つとなった。

 

 バトル漫画だと必殺技の名前を叫びながら攻撃するシーンがよくあるけど、実際はそんな余裕はない。魔法を使うのでなければ、無言で歯を食いしばって相手をkill。この手に限る。

 

「あんたより弱い中ボスは、流石にいなかったな」

 

「くっ……うぉおおおおおおお! 魔王様万歳!」

 

 そう言い残して特撮ヒーローアニメに出てくる怪人のように跡形もなく爆散して消えた。

 

「あいつ何だったんだ?」

 

 俺もそう思う。

 

 こいつ何しに出てきたの? とか、魔王はとっくに死んだのに万歳してどうするんだ? とか、敵を討つのに長ったらしい前口上は必要だったの? とかツッコミ所は色々あったが、敢えて言わせてもらえば、

 

「何で百の手(ヘカトンケイル)なのに腕が10本しかなかったんだ……」

 

 本編終了後に出てくるボスといえば、魔王ほどではないにしろ結構な強さの敵が目白押しが定石でありながらこの体たらく。

 

「ここにも何の手掛かりもなかったな!」

 

「シルヴィアさんや、何でそんなに嬉しそうなんですかね。当然と言えば当然だけど」

 

 カタシアの洞窟、ロトロ遺跡跡地、ギガントスの洞穴、クイーンラミアの巣、天竜の塔とめぼしいダンジョンを周ってみたものの見落としたアイテムがいくつかあっただけでそれ以上の収穫は無し。訂正、さっきの腕が10本しかないヘカトンケイルが隠し持ってた財宝と装備してた魔剣が五本が追加さる。その中にはラットが言ってた稲妻を纏う魔剣もその中にあった。本格的に宛が無くなってしまって困る。

 

 いやマジで困る。

 

 天竜が天に帰った天竜の塔はともかく、古代文明の遺産がかなり残ってたロトロ遺跡跡地なら何か手掛かりくらいあると思ってたのに、残ってたのは古代兵器のや壁画の残骸ばかり。畜生、姫様が暴れて遺跡が崩壊しなければ何かしら分かったかもしれないのに。もう神様的なものを探してそいつに送還してもらうしかないのか。

 

 現実的じゃないな。文字通り神頼みだ。

 

「もう観念してここに永住したらどうだ? 金はあるし、家も建った。それに……わ、私もいるし」

 

「照れくさいんなら言わなきゃいいのに。それにあれは家じゃなくて仮拠点だから」

 

 仮拠点にするには勿体ない規模だけどな。あれはちょっとした新築一戸建ての建築物だ。あれだけ広いと返って居心地が悪いし掃除だって大変だ。

 

「なあ、シルヴィア。俺に拘る必要は無いんだぞ」

 

「んん? ハル、お前は何を言ってるんだ?」

 

「世界は広いんだ。俺よりもいい男なんていっぱいいる」

 

「ハル?」

 

「お前にはもっと視野を広く持って欲しい。この世界に留まる気が無い俺なんかよりも、最初からこの世界にいる俺よりもお前を大切に出来る奴がきっといる。だから、俺に拘る必要なんて……」

 

 次の瞬間、俺の頬に衝撃走る。

 

 殴られたのだ。しかもグ―パンで。

 

「あ痛ッ!? え? ええっ!?」

 

 シルヴィアに殴られたのだ。初めて会った頃は警戒されて殴られたりひっかかれたり噛みつかれたりする事はあったけど暴力ふるわれるのはそれ以来だ。

 

「ハルは分かってない! 私はハルが良いって言ったのに全然分かってない!」

 

 シルヴィアは瞳いっぱいに涙をためながら俺を睨みつけている。俺は圧倒されて二の句を告げる事が出来なかった。

 

「何でだ! 何でハルは私を遠ざけようとする! こんなにもハルが好きなのに! 暗い世界にいた私を連れ出してくれたハルが大好きなのに! ハルがいないと生きている意味なんて無いのに! 何で分かってくれないんだ!」

 

 俺は間違っていた。俺はシルヴィアを同情で連れ出した責任を取らなければいけない。だから元の世界に帰った後でも自分だけで生きていけるように俺に未練を残さないようにするべきだと思っていた。それがそもそもの間違いだった。シルヴィアはそんな事を望んではいなかったのだ。

 

 きっと心のどこかで、シルヴィアの好意は雛鳥が初めて見たものを親だと思い込むようなものだと考えていたんだろう。

 

 俺は最低だ。

 

 責任なんて全然とれてないじゃないか。

 

「……ごめん」

 

「謝ってなんて欲しくない」

 

「でも、ごめん」

 

「ハルは、結局私の事をどう思ってるんだ」

 

「前にも言ったけど、種族とか純潔とかで嫌いにはならないし、大切な仲間だと思ってる。それに無責任な事は出来ないと今も思ってる」

 

「ハルにとっての私は仲間でしかないのか……?」

 

「……」

 

 正直に言うと断言は出来ない。女性にこんなに好かれたのは生まれて初めてだ。素直に嬉しいとは思う。しかし、相手が今まで苦楽を共にした大切な仲間なだけに下半身で動きたくないのだ。

 

「じれったいな」

 

 シルヴィアはそう言うとジリジリとこちらに歩いてきた。俺は思わず同じペースで後ろへと下がりだす。

 

「あの、何で距離を詰めてくるの?」

 

「ハルが後ろに下がるからだろう?」

 

「いや、その理屈は何かおかしい」

 

 シルヴィアが前へ、俺は後ろへを繰り返していくうちに俺は後ろの壁へと阻まれた。

 

「要するにハルは無責任に私に手を出すつもりはないのだろう? なら私から手を出す分(・・・・・・・・)には何の問題も無いわけだ」

 

「……はいぃ?」

 

 シルヴィアがとんでもないこと言いだした。

 

 このままでは拙い。非情に拙い。

 

「ま、待て! 早まるな、話し合おう!」

 

「話し合いならさっきしただろう。その結果を踏まえて私なりに答えを出したのに、おかしなことを言うやつだ」

 

 とうとう二人の距離は零となった。こんな状況でなければロマンチックだったというのに。

 

 そしてシルヴィアは両手でがっしりと俺の頭を掴んで引き寄せてそのまま――――

 

「んむっ」

 

 唇から伝わる生温かくて湿った感触。どっちかの唇が切れたのだろうか、口の中に血特有の鉄の味が広がる。

 

 俺のファーストキスは血の味でした。

 

「ぷはぁ!」

 

 思考回路の大半が停止していたせいで長いのか短いのか分からない接吻が終わる。シルヴィアは魅了(チャーム)の呪文でも使えるんだろうか。彼女の熱っぽい顔とさっきまで俺の唇と重なっていた薄いピンク色の唇から目を離せない。

 

「やってやったぞ。次は……」

 

 シルヴィアは放心してた俺に足払いをかけてそのまま地面へと押し倒す。その衝撃で俺は正気に戻って現状を把握した。

 

 これは所謂「お前がパパになるんだよ!」というやつでは?

 

「シ、シルヴィアさん! これは流石に拙いって!」

 

「ここまで来て止められるか!」

 

 彼女は俺のズボンに手をかけて下ろそうとする。俺はそれを下ろされないように引っ張り上げるという何とも訳の分からない構図が出来上がった。

 

「やめろ! ズボンが破ける!」

 

「ならさっさとその手を放せ!」

 

「分かった! 特大牛カツ奢るから一旦落ち着こう」

 

「………………駄目に決まってるだろ!」

 

 こいつ今ちょっと悩んでたぞ。

 

「やーめーろー!」

 

「はーなーせー!」

 

「あのぅ……」

 

 おや? 今第三者の声が聞こえたような。

 

 気のせいではなかった。そこにいたのは城で見かけた女性兵士だが、名前は知らない。気まずそうな表情でこちらを伺っていた。

 

「お取込み中だったようなので話しかけづらかったんですけどぉ、こちらもちょっと緊急の案件だったのでぇ、思い切って声をかけることにしましたぁ」

 

 見ようによっては情事と思われても仕方ない状況で声をかけるってどんだけ肝が太いんだ。

 

 シルヴィアが物凄い表情で兵士を睨んでいる。兵士は兵士でビクビク怯えながら話を続け出した。

 

「東方の国ジパングの使節団の巫女様が交渉の場に勇者の同席を求めていましてぇ。何でも魔王を倒した者がどういう人物か見極めたいとかぁ」

 

 とりあえず執行猶予が出来たと思えば易いものである。

 

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