魔王を倒したので元の世界に帰ります   作:柚子檸檬

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デートには懐かしいがいっぱい

 実際に元の世界に帰るにしてもどういうものなのか。

 

 魔王城に世界を越える装置でも存在するのか。それとも召喚の逆である送還魔法について記載されている魔導書でも存在しているのか。

 

 後者の類なら自分の好きなタイミングで帰る事が出来る可能性が高い。しかし前者の類だと魔王城に行って即帰還となる可能性が高い。RPGでいうここから先はセーブ出来ないぞというやつだ。この世界でやり残したことがあったら先にやっておこう。

 

 それでシルヴィアにも何か心残りがあったら気軽に言ってくれといった結果、

 

『デート……デートがしたいな』

 

 という要望を貰い、デートする事となった。シルヴィアとはデートとか色んなものをすっ飛ばして関係を持ってしまった気がするが、今更気にしても仕方ない。

 

 ということで俺達二人はデートをしているのだが。

 

「美味いなこれ」

 

「ああ、そうだな……」

 

 シルヴィアは現在、左手に豚肉の串焼き、右手に焼きトウモロコシと食に夢中。さっきから俺達は食べ歩きしかしていなかったりする。元の世界なら遊園地、水族館、映画館、デパート、ゲームセンターと行く当てはいくらでも思いつくのに、この世界にはそういった無難なデートスポットが無いのは辛い。せめて祭りでもやっていれば良かったのだがそんな事も無い。おまけに食べ歩きなら休日によくしているから普段と何も変らない。せめて手を繋ぐとか腕を組むとかしたいのに、両手が塞がってたらそれも叶わない。

 

 ああ、もやもやする。焼きトウモロコシに醤油が塗ってないものあって余計もやもやする。この世界に醤油が無いから仕方ないのかもしれないけど、やっぱり焼きトウモロコシに醤油は欠かしちゃいけないよ。

 

「勇者様! 腸詰焼き安くしとくよ!」

 

「ホタテ貝焼き立てですよー!」

 

「スープもどうだい! 具沢山にしとくよ!」

 

 商魂たくましい屋台のおじちゃんやおばちゃん達は、顔馴染みの俺達を見るなり声を張ってくる。見せてくる料理はどれも美味そうだ。やはりこの臨場感は屋台でしか味わえない。

 

「おおっ、どれも美味そうだな」

 

「あはは、そうだな」

 

 こんなことならアイザックかホリイにでもおススメのデートスポットを聞いておくんだった。そう思いながらも結局全部買っていく俺であった。

 

 両手のものを片付けたシルヴィアはふとこんなことを言い出した。

 

「やっぱり、ハルの世界はこことは違うのか?」

 

「そら違うよ。魔法も亜人(デミヒューマン)も魔物も無いけど文化はかなり発達してる」

 

 移動魔法が無ければ移動手段が馬車や帆船だし。胡椒のような香辛料、砂糖、塩といった元の世界では安価で購入出来るものがこっちでは高価値で中々手が出せなかったりと改めて先人の知恵のありがたみを知る事が出来た。

 

「それに食器やら鍋やらに鉛が使われているのには驚いたなぁ」

 

「そんなにおかしなことなのか?」

 

「おかしいというか危険だな。病気になったり、精神に異常をきたしたりする」

 

 聞くところによると、若くして亡くなったシャーリーの母、つまり女王陛下は頭痛や手足の痺れに悩まされて最後には寝たきりになってそのまま息を引き取ったという。これはいかんと思った俺は、国王には神託を受けたとか何とか適当な事を言って鉛を使った食器や調理器具の生産を止めさせて、その代わりにガラスの食器や鉄の調理器具の生産が増えるようになった。

 

 本当に驚くべきはたった一年でここまでの数のガラス製品、鉄製品を安定して作り上げている職人の方々なのかもしれない。元の世界じゃ機械による大量生産万歳だし。

 

「あれ?」

 

 ふと周辺を見回して気が付いたが、いつの間にかシルヴィアの姿が見えなくなっていた。何か興味を惹かれるものでも見つけたんだろうかと目を凝らして周囲を見渡してみた。すると、少し先に屈んでいる彼女がいた。そして隣の泣いている子どもを見て何となく事情は察した俺は、彼女たちの前まで歩みを進める。

 

「シルヴィア、急にいなくなるなよ」

 

「ハル、この子は……」

 

「迷子か?」

 

「母親とはぐれてしまったらしい」

 

 さて、どうしたものか。ベソかいている子供の相手なんてしたことないし。

 

「えーっと、僕? お名前は何ていうのかな?」

 

「……ラティア」

 

「おおっ、格好いい名前だね。男の子ならあんまりベソかいちゃ……」

 

「ラティア、女の子だもん」

 

 余計に泣かれてしまった。

 

 どうやら俺は子守の第一歩を盛大に踏み外してしまったらしい。でも髪は短めだし、ズボン履いてボーイッシュな格好だから仕方ないよね。

 

「おい、どうするんだこれ」

 

「さて、どうしようか……」

 

 格好つけて言ってみても内心は汗だらだらだ。このままだと俺が泣かせたみたいな事になるかもしれん。かといって放置して逃げるのも後味が悪い。

 

 ちょっと下手だけど、あれをやってみるか。 

 

「~~♬」

 

 そう、歌である。歌は万国共通、子どもであっても変に難しい歌でなければ聞き入る事だろう。それにチョイスは俺が子どもの頃によく視ていた某国民的アニメとくれば例え異世界であってもある程度興味を引くだろう。

 

 というか現状思いつく中での最終手段なのでこれでどうにかならないと困る。

 

「♬~~…………ふぅ」

 

 とりあえず一曲歌い終わった。

 

「……」

 

 とりあえず泣き止んではいる。しかしこっちをめっちゃ見ていた。ラティアちゃんだけでなくシルヴィアや通行人の何人かもだ。

 

「他には?」

 

「え?」

 

「もーいっかい、もーいっかい」

 

「ええ……」

 

 思っていた以上に好評だった。後で知ったことだが、J-POPのような曲調の音楽はこっちの世界では珍しかったらしい。

 

「歌うのはいいけど、君のお母さんを探しながらだぞ」

 

「はーい!」

 

「シルヴィア、この子を肩車してやってくれ。俺がやると色々問題が発生する」

 

 そう、事案という問題がな。勿論そっちの趣味は無いが、世間体のため。そしてラティアちゃんの尊厳のためには必要な事だ。

 

「……? 分かった。この子を肩車すればいいんだな」

 

「わー!」

 

 肩車して貰ったラティアちゃんはいつもより視点が高くなって楽しそうだ。首を傾げていたシルヴィアだったが、笑顔の少女を見て彼女も微笑んでいる。

 

 変わった曲調の歌を歌っている男と少女を肩車しているダークエルフは周囲から見ると目立っていることもあって少女の母親はすぐに見つかった。

 

「本当にありがとうございます」

 

「いえいえ大したことはしてないですよ」 

 

「よかったらどうぞ。うちの果樹園で採れたリンゴです」

 

「いやいや本当にいいですって!」

 

 殆ど押し切られるように袋一杯のリンゴを受け取ってしまった。袋からのぞかせるそれは紅く瑞々しそうでなんとも美味そうだ。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとー!」

 

「元気でなー!」

 

 俺達に手を振りながら母親に連れられていくラティアちゃんを見て俺にもあんな時期があったのだと懐かしい気分になった。

 

「母親か……」

 

「シルヴィア?」

 

「羨ましいな」

 

 そう言った彼女の笑顔はとても痛々しかった。

 

「私はもう両親の顔もよく覚えていない。会えば思い出すかもしれないけど、今更会ってなんてくれないだろうし……」

 

 そんな辛そうな顔をして欲しくない。俺はそう思いながら彼女の優しく握る。だって、辛い思いをした先に楽しい事や嬉しい事が無かったら悲しいだけだから

 

「ハル……」

 

 シルヴィアの潤んだ目にまるで引き寄せられるように――――

 

「うわあ、往来でイチャイチャしてる……」

 

「あーあー、なんでか知らへんけどここだけ暑おして敵わへんなぁ」

 

「「!?」」

 

 何かいた。

 

「神楽さんにシャーリー!? 何でここに……」

 

「うちは観光どすえ」

 

「で、私はその案内役って事。凄いでしょ」

 

 そう言ってシャーリーは薄い胸を張った。

 

「どうしたんだよ急に。シルヴィアの事を妖魔って言われたことにキレてただろ?」

 

「それに関しては向こうセンリョだったって謝ってきたわよ。ところでセンリョって何?」

 

 お前の親父みたいな人の事を言うんじゃないかな。

 

 勿論口には出さないでおく。

 

「ええなぁ、羨ましいわぁ。うちの旦那は最近淡白やし、うちもまた昔みたく燃えるように愛されたいわぁ」

 

「さいですか……旦那?」

 

「だ、旦那って、もしかして結婚してるの!?」

 

「してますで。こないな見た目だけどうちは今年で39どす。流石に39で結婚してへんかったら売れ残り確定どすなぁ」 

 

 おかしそうにクツクツと笑う神楽さん。

 

 だが、ちょっと待って欲しい。年齢なんて関係ない。見た目若くて美人ならそれはそれでアリなのでは? 

 

「二人を見てるとあの人に求婚されたあの日を思い出すわぁ。初夜まで手ぇ出してこーひんかったけど」

 

「何? ハルは告白したその日に押し倒してきたぞ?」

 

 やめろ。

 

 俺の初体験をバラすんじゃない。

 

「お盛んどすなぁ」

 

「わー! わー!」

 

 唯一そっち方面に免疫が無いシャーリーは混乱していた。一応こんなんでも大切に育てられてる王女様だというのが分かる数少ない一面だったりする。

 

 そんなこんなで俺とシルヴィアの初デートは終わるのだった。

 

 たまにはこんな風に古風(ベタ)なのもいいんじゃないかな。

 

 

 

 

 準備が出来た。

 

 とうとう魔王城へ向かって出発する。

 

「なあ、やっぱり俺達だけでも……」

 

「何言ってんだ。俺達は仲間だろ」

 

 アイザックが強めに肩を叩いてくる。

 

 そう、アイザックとホリイがついてくると言っているのだ。勇者パーティーが復活するのは嬉しいが、二人も忙しいだろうし、ホリイにいたってはお腹が目立ってきた以上戦闘なんてさせられない。

 

「ホリイの移動魔法で送って貰うだけでも……」

 

「これで最後かもしれません。ですからお見送りをさせて欲しいんです」

 

「ああ、友達を見送りたい。それは迷惑か?」

 

 二人は笑顔でも、その意志は固かった。

 

 迷惑な筈なんてない。そんな事思っているわけがない。

 

「ハル、仲間っていいものだな」

 

「そうだな」

 

 シルヴィアの言葉にちょっと泣きそうになった。

 

 何度も死にかけたが、よく皆ここまで生きていてくれた。これで本当に最後になる事を祈る。

 

「では行きます」

 

 彼女が一度でも立ち寄った場所であれば何処にでも一瞬で到着する事が出来る移動魔法。それにより一瞬で魔王城に行く事が出来た。

 

 あんなに魔物がいた魔王城も魔王亡き今はその影もない。

 

「シルヴィア、どうだ?」

 

「周辺に魔物の気配は感じられないな。音も聞こえない」

 

「用心しておくか。アイザック、後ろは任せたぞ」

 

「任せときな!」

 

 そうして魔王城の探索が始まった。

 

 しかし、書斎、会議室、食堂等と結局魔物と遭遇せずに調べる事が出来たために拍子抜けしてしまった。

 

 残ったのは魔王がいた玉座の間のみ。

 

「おいおい収獲無しは勘弁だぜ」

 

 そう言いながら玉座の間への扉を開けようとした瞬間にシルヴィアに手を掴まれた。

 

「どうしたんだ?」

 

「気をつけろ。玉座の間に何かいる。かなり強いぞ」

 

 気が付いていなかった俺達3名はその言葉に息をのむ。

 

「……とりあえず構えておくか。ホリイは下がって、アイザックは俺と前へ、シルヴィアは弓矢で援護を頼む」

 

「は、はい」

 

「準備は出来てる。いつでもいいぜ」

 

「いこう」

 

 扉を開けてすぐさま剣を構えた。

 

「ひぃいいいい勇者きたぁぁああああ!」 

 

 角が生えて真っ青な表情で怯えている少女が現れた。 

 

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