「せーのっ!」
『『『一夏ッ、誕生日おめでとう!!』』』
「お・・・おう。皆、ありがとうな!」
パァーンッと、鈴の掛け声を合図に箒と五反田兄妹がクラッカーを弾き鳴らす。
銃声とは違うクラッカーの軽快な音が部屋へと響き渡る。
キャノンボール・ファスト襲撃事件から僅か数時間後の夕方17時過ぎ。
あんな惨劇を経験したにも関わらず、未だ気力と体力が余っていた一夏をはじめとした一行は、途中から合流した中学時代からの友人である御手洗 数馬と五反田 弾に彼の妹である蘭と共に事件現場となったアリーナスタジアムから程近くにある織斑家宅へ集合。
事件解決の功労者の一人である一夏の誕生日パーティーを行っていた。
・・・しかし、祝われている当の本人は何処か浮かない固い笑顔を浮かべる。
「何よ一夏、そんな辛気臭い顔して? まさか・・・どこか痛むの?」
「何ッ!? そうなのか、一夏!?」
「大丈夫なんですか、一夏さん?!!」
「えッ・・・い、いや違うって。ちょっと今日は疲れたなって・・・と言うか、近いぞ皆!!」
自分を心配し、身を前に乗り出す彼女達に向かって首を横に振る一夏。
確かに彼の言う通り、今日は色々とあり過ぎた一日であった。
ファントム・タスクの襲撃を受けて何とか撃退したものの、其の次は襲撃者との戦闘の事で取り調べを受けたのである。
「そうね、コッチはテロリスト退治でクタクタだってのに・・・あんな事されるなんて最悪よ!」
「あぁッ、それも四時までだぞ! まったく何を考えているんだ!!」
「・・・・・」
サイレント・ゼフィルスやゴーレムⅡとの戦闘後に傷の手当と並行して行われたまどろっこしくて長ったらしい取り調べを思い出し、しかめっ面を晒す箒と鈴。
・・・ただ、一夏としては其の取り調べに不満があると言う訳ではなかったのだが。
「あッ・・・あ、あの・・・ッ、一夏さん!!」
「へ?」
「私、ケーキ焼いて来たんです! 良かったら食べませんかッ?!」
そんな彼の心情を知ってか知らずか、重い空気へ蘭の声が分け入られる。
「あ、あぁ・・・ありがとな、蘭。今日は楽しめたか?・・・って言っても、途中からめちゃくちゃになっちゃったけどさ」
「いえいえ! 一夏さんが悪者をやっつけてくれたから、私も無事だったんですよ!!」
「ッ・・・そ、そうか」
彼女の言葉に言い淀みつつも頷く一夏。
何とか気分を切り替えようと蘭の用意したチョコレートケーキへ手を伸ばすのだが・・・
「いや~、でも凄かったよな・・・あの”ドラゴン”」
「ん? ドラゴンって何よ、お兄ぃ?」
「・・・ッ」
・・・弾の何気なく言った一言に彼の手が止まった。
「ドラゴンだよ、ドラゴン。銀色で目が四つあるヤツだ、見なかったのか?」
「・・・私はお兄ぃに置いてかれて、それどころじゃなかったんですけど」
「それに関しては本当にスマン! だから、じーちゃんにはチクらないでくれよ!!」
蘭へ手を合わせて頭を下げる弾の横で、話のタネとなったドラゴンを自分も見たと数馬も口を開いた。
「あれは凄かったよ。だってあの黒っぽいロボットみたいなヤツを一発でぶっ飛ばしたし、それにあの光線技が凄くてさぁ!」
「そうそうッ。こう腕を十字に組んでさ・・・スペシウム光線っての? まるでテレビの中から出て来たヒーローみたいだったぜ!!」
事件当時、避難客の濁流に巻き込まれてそれどころではなかった蘭は二人の話に興味なさそうな「ふ~ん、あっそ」といった具合で露骨な態度をとるが、「ちょ・・・ちょっとアンタ達、その辺で・・・ッ」と当事者の一人である鈴がやんわりと話を止めに入る。
だが、其れで止まる男子二人ではない。テロリストと戦ったドラゴンの話は増々ヒートアップし、弾は一夏も話に巻き込もうとした。
「なぁ、一夏? あのドラゴンってお前の知り合い―――――」
「やめろッ!!」
「―――なのか?」と弾が言葉を紡ぐ前に一夏はそうハッキリと言い放つ。
悲壮感に満ちた怒声が部屋へ木魂する。
「い・・・一夏さん・・・?」
「お、おい・・・どうしたんだよ、お前?」
「ッ・・・わ、悪ぃ・・・俺、トイレ行って来る・・・」
自分の怒号に怯える蘭や驚く弾たちを見て我に返った一夏は、ひとまずトイレへ行く為に席を立つ。
後に残されたのは、何とも言えない冷めた空気。・・・とりあえず、鈴と箒は弾の頭を叩く事にしたのだった。
一方、噂のテロリストと戦ったドラゴンはと言うと―――――
◆◆◆◆◆
馴染む・・・実に馴染むでよ。阿破破破破破ッ!
IS言うもんは、我が運命と言う路線図を百八十度変えちまった忌々しいもんじゃったが・・・実になんと身体へ馴染む機体なんじゃろうか!!
阿破破・・・阿破破破破破ッ・・・阿―――ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!!
んッ、ン~~~♪
実に清々しい気分じゃ。歌でも一つ歌いたいようなエエ気分じゃ!
”三年前”に此方の世界へ来たんじゃけれども・・・此れ程までに絶好調の晴れ晴れとした気分は無かったわぁッ!!
最高に『ハイ』ってヤツじゃぁあ!! 阿破破破破破破破破破破ッ!!!
「おい、清瀬。大丈夫か?」
「・・・阿? あぁ、すんません・・・ちぃとばっかし居眠りをしょーりましたわ」
・・・・・さて、現実逃避もこれ位にしとこうかのぉ。
キャノンボール・ファストでサイレント・ゼフィルスちゃんと鉄屑共を撃退した俺ぁすぐに取り調べを受けた。
自分で言っちゃあ何じゃが・・・俺ってば、事件解決に尽力した功労者じゃと思う。
じゃけど・・・俺を待っとったんは、射殺しそうな視線を送る織斑先生と数人の教員じゃった。
其処から始まる質問に次ぐ質問の嵐。
やれ、「どうして機体が二次形態移行したッ?」だの。やれ、「あの超えた測定不能の速さと動きは何だ?!」だの。やれ、「あの破壊力を持った武器は何だッ?!」だのと言うた具合じゃ。
十五のガキ相手にマジで青筋立てて責め立てて来るけん、思わずプッツンする所じゃったわ。
取調室・・・いや、尋問部屋に壬生さんらが来るんがもうちぃとばっか遅かったら、感情的なった俺が先生らぁの顔面へグーパンチを決めとったな。
そんでもってやっとこさ取り調べが終わったと思うたら、今度は壬生さんらぁからの質問の嵐じゃった。
まぁ・・・さっきの先生らは兎も角、壬生さんらぁは今回の事件で二次移行した琥珀ちゃんを設計開発した技術者の人らぁじゃけん、仕方ないわな。
特に飛行ユニット担当の井出さんが、「何で飛翔滑走翼がエナジーウィングになってしもうたんじゃ?!! 僕はそねーな設計はしとらんでよ!!」・・・って、泣きべそを掻きながら俺に聞いて来た時は笑っちゃ悪いが吹いてしもうたでよ。
・・・そんで、そんな俺は現在―――――
「すんません、芹沢博士ぇ? まだ検査は掛かりますかぁ?」
―――――緊急の全身メディカルチェックを受けよーる最中じゃ。
◆◆◆◆◆
キャノンボール・ファスト襲撃事件によってIS学園の教員並びにIS統合部の開発チームから怒涛の質問を喰らった春樹は、都内にある日本政府直轄の研究所の一つで全身スキャンチェックを受けていた。
担当医は勿論この人。IS統合部所属の精神科医にしてオールラウンダーを自称する芹沢(兄)博士である。
彼もまたテレビの中で暴れまわる春樹を見届け、弟の芹沢技師と共にアリーナスタジアムへ駆けつけた一人であった。
「うぅ~む・・・」
「博士・・・俺は一体・・・?!」
診察結果のカルテを見ながら眉間に皺を寄せる芹沢博士に対し、其れを心配そうな表情で見守る春樹。
思い悩む博士の態度にまさか自分は何か重い病気を患ったのかと覚悟する彼だったが―――――
「なんて事だ・・・何処にも異常が見当たらない!」
「なッ・・・何じゃあな、おい! 驚かせんで下せぇよ、博士ぇ!!」
―――芹沢博士の言葉を聞き、ズッコケそうな勢いで春樹は突っ込んだ。
彼は「あぁ、もう! 心配して損した!!」と胸を撫で降ろすが、相変わらず芹沢は訝し気な表情でカルテを再度じっくりと読む。
けれども結局は『異常なし』の結果だけが其処には書かれているだけであった。
「だが・・・しかし、おかしい。あんな動きと攻撃を受ければ、並外れた技量を持ったIS操縦者でさえ骨の一本や二本・・・いや、臓器まで無事では済まない筈だ。”異常なし”という事が”異常”だ」
「でも、異常なしじゃったらエエんじゃないですか?」
「確かに良いのだが・・・良いんだけど・・・良いんだけれどなぁ・・・ッ。清瀬君よ、もうちょっと詳細な検査を受けてみるつもりはあるかね?」
「ないです。もう当分、検査は結構です」
バッサリと自分の申し出を断る春樹に項垂れる芹沢。だが、今日はもう色々とあり過ぎた。春樹としてはさっさと帰ってゆっくりしたい。
全ての解析が終了して待機状態となった指輪の琥珀を装着し、さっさと帰り支度をし始める。
「ふむ・・・やはり家に”恋人”が待っていると早く帰りたい気持ちになるよな。解るぞ、少年よ」
「え・・・」
「隠さんでもよろしいよ。恋愛感情は自由意志だ。しかし、人目もはばからずにあんな濃密なキスを交わすとは・・・やはりドイツ人もヨーロッパ人と言う事か」
何故、芹沢がこんな事を言っているのかと言うと・・・此の施設へ来る以前、彼を含んだ一団が春樹を引き取る際にラウラが春樹へ別れ際のキスを交わす現場を目撃していたからだ。
其のキスと言うのが、舌と舌を絡め合わせてぴちゃぴちゃと水が滴るかのような濃いものであったのである。
「あ・・・いや、すいません・・・」
「何を謝る必要がある。清瀬君が普通の高校生と同じように青春をしている事が微笑ましいし・・・それに私としては、優性人間である君が遺伝子強化素体である彼女と仲良くしている事は大変興味深いのだ」
「うわッ、途中まではエかったのに最後で台無しじゃ。芹沢博士、俺ぁ博士の言う優性人間じゃないってあれ程―――――」
「いや、何を謙遜する必要がある? 君は間違いなく優性種、ガンダムで言う所の
「ッ~~~・・・じゃからぁ・・・・・!」
頭を掻いてどう説明しようかと悩んだ挙句、春樹は「はぁ・・・」と溜息を吐いて思考を停止した。
こうなった芹沢は、何を言おうと聞く耳を持たないのだ。
「あぁッもう、取り敢えず此の話は終わりです。俺ぁ帰りますよ!」
「おっと待ち給え、一人で帰るつもりかね? 学園までの車が用意されているから、それを使いなさい。まだ近辺にテロリストの残党がいるかもしれん」
「大丈夫ですよ。サイレントちゃん・・・もとい連中はもういないでしょう。居たとしても、様変わりしちまった俺を見つけられるかどうか」
そう言って春樹は自分の頭を指差す。
指差した先には、もう元の黒髪はメッシュとなりかけ、大部分が白く変色した毛髪で覆われた頭があった
「甘いな・・・いや、優性種たる君の余裕か? それとも慢心か? 我々の観察対象である君が消されてしまっては元も子もないだろう」
「あの・・・博士は俺の事、大切に思ってます?」
「思っているとも・・・君は世界に二人しかいない大切な”研究対象”なのだよ? 勿論さ」
「・・・・・はぁッ・・・それじゃあ博士、また」
「あぁ。またね、清瀬君。いつでもこのラボにおいで」
「はい(出来れば遠慮したい)」
『類は友を呼ぶ』と言う言葉があるが、自分が見て来た変人の中でも疲れる部類だなと改めて感じた春樹はマッドサイエンティストの診察室を後にする。
そして、彼はぐぅーと大きく背伸びをした後に背後へ語り掛けた。
「さて、帰る前に聞いておきたいんじゃけど・・・君は誰じゃろうか?」
〈・・・・・ふふふ〉
振り返ってみれば、其処に居たのは春樹と同じ新雪のような髪と金色の両眼を持った幼い少女が笑みを浮かべていたのだった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆