IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第103話

 

 

 

「・・・・・」

 

織斑 一夏は黙す。

キャノンボール・ファスト襲撃事件以来、彼は思い悩む時間が増えた。

理由は明白。目の前で起こった先の一件の事実に未だ首の上に乗っかった脳みそが追い付いていなかったのである。

 

IS学園入学以来、一夏は数々の騒動に巻き込まれて来た。

クラス対抗戦を襲った謎の無人IS機による『ゴーレム事件』や学年別トーナメント準決勝第一試合で巻き起こった『VTS事件』に自身の機体が二次形態移行を遂げた『銀の福音事件』。

様々な災難に見舞われながらも、彼は其の身にある勇気と姉である千冬から受け継いだ剣で斬り結んで来た。

・・・だが・・・だが、しかし!

 

そんな強くなった一夏の数歩先を行く男が一人。

最初、彼は皆から『オマケ』や『代用品』と蔑まれ、悪意のない悪意の海の中で藻掻き苦しみ項垂れていた。

されど常人ならば廃と化す状況にも関わらず、彼は唯只其の場に居た。

何故ならば・・・彼は其の時点で、其の以前から常人ではなかったからだ。正気を保つ以前に彼は正気ではなかったからだ。狂気に歪んだ異常な状況下で正気を保とうとあがく異常人であったからだ。

 

彼の名は『清瀬 春樹』。

何故か知らず知らずの内に”此の世界”へ迷い込んだ哀れな飲んだくれ。

そんな哀れな飲兵衛が何故にISを扱うことが出来るのか。其れは単衣に彼の左手の甲へ刻まれているルーン文字の御蔭なのであるが、其れを知るのは本人以外の誰も知らない。

 

そんな彼が一夏へ見せたのは・・・いや、魅せ付けたのは圧倒的力量の差でありました。

『文化祭襲撃事件』では不意打ちを喰らったとは云えども自分が手も足も出なかったオータムをズタボロにし、今回巻き起こった『キャノンボール・ファスト襲撃事件』では苦戦必至を強いられたサイレント・ゼフィルスと互角以上の戦いを繰り広げ、手下のゴーレムⅡ達をほぼ一人で一掃する始末。加えて、彼もまた自らと同じように自身の専用機を二次形態移行へと昇華させた。

二学期の初め、彼は生徒会長である楯無が審判を務めた非公式試合で未だ一次形態の琥珀を纏う春樹に惨敗している。格の違いをまざまざと見せつけられ、今や二人の力の差がどれ程開いているのか考えるだけでも一夏は焦燥を感じられずにはいられなかった。

其れにサイレント・ゼフィルスとの取っ組み合いの最中に彼が一瞬だけ見た彼女の素顔・・・・・

其の事を千冬に聞こうにも聞けぬまま事件から一週間以上経っても尚、一夏の頭の中はぐるぐる色々な事が巡り巡っていた。

 

「おい、一夏! 聞いているのかッ?」

 

「え・・・あ、あぁ・・・・・何だよ、箒?」

 

だから休み時間に話しかけて来た箒の話にも何処か上の空であった。

 

「まったく・・・今度のタッグマッチ、一夏はその・・・誰と組むか決めているのか?」

 

「あぁ、アレか」

 

箒が切り出したのは、此度行われる『全学年専用機持ちタッグマッチ』についてのパートナー選びであった。

現在のIS専用機持ちは、一夏・春樹・箒・セシリア・鈴・シャルロット・ラウラ・簪の八人に加えて上級生からは生徒会長の楯無にギリシャ代表候補性のフォルテとアメリカ代表候補性であるダリルの三人を足した計”十一人”である。

十一人という奇数の為、早い所でパートナーを決めないとあぶれ者となってしまう事は確実だ。

・・・因みに。春樹の策略によって文化祭で自他共に公認の仲となったダリルとフォルテの間へ割って入ろうとする無粋な人間はいないことを此処に明記する。

 

「ど、どうしてもと言うのならば・・・わ、私がお前のパートナーになっても良いぞ!!」

 

若干声を震わせつつも箒は半ば叫ぶように一夏へそう告げた。

キャノンボール・ファスト襲撃事件後に行われた彼の誕生日会で、彼女は鈴に遅れをとったと自分自身思っていた。

何故に其の様な考えを箒が持ったかと言うと、其れは一夏の左手首に巻かれた鈴の専用機と同じ色彩を持った腕時計のせいであろう。

しかし・・・鈴が所用で教室を外している内に仕掛けるのは結構な事だが、其の仕掛けに些か”素直”さが入っていないところを見れば、流石は彼女の持って生まれたサガである。

 

「・・・なぁ、箒。その話なんだが―――――」

 

「やっほー! ちょっといいかしら?」

 

現状では精一杯の箒からのお誘いに一夏が答えようとした矢先。一年一組の教室へ聞き馴染みのない声が響く。

声のする方へ振り返ってみれば、何時か取材を申し込んで来たであろう新聞部所属の二年生、黛 薫子が居るではないか。

 

「あなたは確か、新聞部の・・・何でしょうか? 要件なら私が伺います」

 

「うん、ちょっと今から専用機持ちの人に取材して回っててね。今は二人だけ?」

 

「はい、それが何か?」

 

「ふーん、だったらちょうどいいかも。二人に頼みたい事があるんだよね」

 

「頼み、ですか?」

 

黛はそう笑顔を浮かべながら二人へ手を合わせる。

少々一夏に色目を使う彼女に対し、「其の『頼み』とは一体何だ」と訝し気な表情を見せる表情を晒す箒。

 

「実は私の姉がね出版社に勤めてるんだけど・・・ほら、これの副編集長をしてるの」

 

そう言って彼女が取り出したのは、言わずと知れたティーンエイジャー向けのモデル雑誌『インフィニット・ストライプス』。

 

「その姉さんがキャノンボール・ファストの一件で活躍した人達に独占インタビューがしたいんだって」

 

「独占インタビュー・・・」

 

「うん。あの襲撃事件で皆をテロリスト達の魔の手から守った実力者として取り上げたいって訳なの」

 

思わぬ話の内容に呆ける一夏を余所に箒は口をへの字に曲げた。

 

「ありがたいお話ですが・・・今回はお断りさせていただきます。雑誌に載りたくて戦ったわけではありませんので。なぁ、一夏?」

 

「え・・・あ、あぁ」

 

雑誌の中身がISの『あ』の字も、インフィニットストラトスの『い』の字もない内容であった事がお気に召さなかった箒は丁重に御断りを申し出る。

 

「え~! そんな事言わないでよ、篠ノ之さん! オルコットさん達にも頼んだんだけど、ダメだって言われちゃったしさぁ!」

 

「残念ですが、申し訳ない」

 

「ちぇ~ッ、そうなると・・・・・来月号の表紙は清瀬くんだけになるわけかぁ」

 

「・・・・・ッ、なんだって?」

 

申し出を断られ、ブウをたれながら去ろうとした黛の呟きに今まで呆けていた一夏が反応した。

 

「やばッ、私ったらついつい・・・」

 

「それって、本当なんですか?」

 

すっとぼける黛に対し、一夏は疑問符を投げかける。

其の表情は先程の呆けた表情とは打って変わり、キリリと険しく眉間へしわを刻んでいた。

此の彼の表情に箒は「い、一夏?」と疑問符を浮かべ、黛は「・・・シメた!」と口角を引きつらせる。

 

「いやぁ実はね、ここだけの話・・・色んな出版社が先の件で大暴れした彼に取材を申し込んだらしいんだけどね、姉さんの昔の伝手で独占取材が出来るようになったらしいのよ。誰にも言わないでね?」

 

「・・・・・」

 

「お、おい一夏!」

 

春樹の対抗心からか、其れを聞いて黙する一夏を不味いと感じた箒が割って入ろうとしたのだが、黛はそうはさせんと透かさず迎撃体制へと移った。

 

「まぁまぁ、篠ノ之さん。これを見て考えを改めて貰えないかしら?」

 

「これは?」

 

そう彼女が差し出したのは、誰もが一度は耳にしたことのある一流ホテルのディナー招待券とパンフレットだった。

 

「今回のインタビューの報酬よ。勿論、ペアの。いらないんだったら、凰さんの方に話を持ち掛けるけど・・・どうする?」

 

「ッ・・・そ、そういう話なら仕方がない。この話、受けます! なぁ、一夏!!」

 

「お、おう」

 

「なら良かったわ。それじゃあ今度の日曜日に取材ね。時間はおって伝えるから」

 

まんまと二人を言い包めた黛は満足そうに軽やかな足取りで教室から出て行く。

後に残ったのは、想い人とのディナーデートを想像して頬を染める乙女と対抗心に火を付けられて再び黙する様になった朴念仁だけであった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「・・・・・」

 

所変わって此処はIS格納庫兼整備室。

色々と思い出深い此の場所で、簪は自身の専用機である打鉄弐式をメンテナンスの為に無人展開していた。

 

「・・・大丈夫、大丈夫だから」

 

そう呟きながら、簪は機体表面を触る。まるで我が子の頭を撫でる母親の様に。まるで自分に言い聞かせる様に。

何故、彼女がこの様な事をやっているのか。理由の一つとして挙げるのならば、やはり其れは先の襲撃事件であろう。

 

あの時、簪はレースのトップ集団の中に居た。

機動性に特化した打鉄弐式は其れはもうとてつもない速度で駆けていた。そんな機体をまさか実質一人で組み上げたとは誰も思っていなかっだろう。

そして、”もし”あのままレースで優勝していれば彼女は一躍時の人となっていた事だろう。

だが、結局はIfの話である。

現実はキャノンボール・ファストを襲ったサイレント・ゼフィルス一団の攻撃を受けて早々に脱落。

其の後に何とか回復して一体のゴーレムⅡへ致命傷を与えるも、皆の評価や関心は機体を二次形態移行へと昇華させた春樹に持って行かれてしまった。

 

確かに二次形態移行を果たした琥珀は美しくも力強かった。そして其れに簪は魅せられてしまった。まるで御伽噺や寝物語に出て来る圧倒的な力を持ったあの姿に惹きつけられ、同時に彼女は恐怖してしまった。

自分がどれ程までに知恵を絞って努力を積み重ねようと覆せない追い付けない存在があるという事をまざまざと見せつけられたと感じたのである。

機体が幾ら強かろうと其れを扱う搭乗者が弱ければ意味がない。簪は打鉄弐式の良さを引き出せずにいる自分が悔しかった。

 

そして、二つ目の理由と言うのが彼女を悩ませる最大の事案。

其れは、次に行われるタッグマッチ戦を一夏と共に出るように要請する倉持技研からの案内状であった。

キャノンボール・ファスト襲撃事件を治めた春樹の活躍により、IS統合対策部開発室は次の日本国次世代量産機体開発を任せられる有力なチームの一つとして名を挙げた。

此れを余り良く思っていないのが、現在の日本のIS量産機体開発を担っている倉持技研である。

当初、倉持技研はIS統合対策部と合同開発を行うよう画策していたのだが、そんな思惑は何処かのアル中テストパイロット生や技研を毛嫌いする技術者達によって水泡へと消えた。

 

もうこれ以上後がない倉持技研の開発者チームは何とか成果を上げようと何処から聞きつけたか、今回のタッグマッチを耳にして此れを利用しようと考えたのである。

元々、打鉄弐式は開発放棄されたとは云えども所有上は倉持技研であった。なので案内状には、今回の要請を断った場合には厳正なる処置を判断する等と言った内容が書面されていたのである。

『厳正なる処置』とは何か。簪の頭をよぎったのは、専用機の”没収”と言う二文字であった。

極端な話だが、今の倉持技研には十分考えられる内容である。

 

「・・・させないッ・・・そんな事、絶対に・・・させないからッ!」

 

奪われて堪るものかと簪は強く強く熱の籠った眼で打鉄弐式を撫でた。

 

「・・・・・かんちゃん・・・ッ」

 

其れを物陰で心配そうに本音は彼女の背中を見るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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