「・・・・・ッチ」
其の日、春樹は”二度”眉間にしわを寄せて短くはっきりと舌を打ち鳴らした。
一度目はワザとらしく誰が見ても解る様に、自身の不快感を周囲へ決定付けるかの様に響かせる。
二度目は逆に周囲へ聞こえないよう心の内でひっそりと木霊させた。
「清瀬・・・ッ」
一度目の舌打ちの理由は、自分だけだと聞かされていた特別独占インタビューの場に自分の嫌う男と其れを慕う乙女が居たからである。
◆
「これは・・・一体どういうことですかッ?」
独占インタビューとして招かれた部屋で、話に聞かされていなかった一夏と箒の二人の存在を春樹の付き人として付いて来ていた高良は怪訝な表情で担当者に疑問符を投げかけた。
彼から発せられる圧に担当者は「えと・・・その~・・・」としどろもどろとなって言葉を詰まらせる。
「阿~・・・良いですよ、高良さん」
そんな担当者に助け舟を出したのは、意外にも春樹であった。
彼は静かに激昂する高良を引き寄せ、そっと静かに耳打ちする。
「しかし、清瀬くん。これは契約違反だよ! 今回のインタビューは君だけだった筈だッ、それなのに他の人間もいるなんて聞いていない! それもその人間が君の一番嫌う―――――」
「まぁまぁまぁ、落ち着いて下せぇ。状況から鑑みて、あの人たちは要するに”蝙蝠外交”の極小版をやった訳じゃ。まんまと嵌められたんは気に食わんが、此処で騒ぐんは得策じゃない気がするでよ」
「・・・大丈夫、なのかい?」
高良は湧き上がる怒りの感情を落ち着かせ、心配そうな眼差しを春樹へ向ける。其の視線に対し、彼は「えぇ、大丈夫です。俺も大人にならんと」と表情を緩ませた。
・・・と言っても、春樹は其の頭部を黒々としたフルフェイスのマスクで覆っていたが。
現状、春樹は実に周囲の目を引く姿をしていた。
頭部を覆うフルフェイスマスクに加え、闇の様な真っ黒なジャケットにゴツゴツとしたアーミーグローブを嵌めている。
全身黒ずくめで、仮面や服の下にある皮下組織を一切晒さない紫外線シャットアウトの完全防備だ。
顔出しNGを原則とした結果が今の彼の装いである。
「其れじゃあ行って来まさぁ。もし、俺が野郎に手を挙げそうになったら・・・其ん時は頼みまさぁ」
「冗談で言ってるんだろうけれど、冗談に聞こえないよ。あと、なるべく標準語でね」
「解ってますよ、”兄さぁ”」と春樹は高良にそう言ってインタビュアーが待つ場所へと此の日の為に買って貰った高い靴をコツコツ鳴らして行った。
◆
「さて・・・織斑君と篠ノ之さんは妹の方から聞いていると思うけれど、もう一人の人の為に一応ね。私は『インフィニット・ストライプス』の副編集長をしている『黛 渚子』よ。皆さん、今日はよろしくね」
取材の為に用意された落ち着いた空間で、今回のインタビュアーである渚子が三人へ自己紹介をしたためる。
其れに対し、一夏と箒は自分の名と挨拶をしたため返すが、春樹はシーンと黙したままだ。
「えーと・・・そんなに固くならなくて良いわ。リラックスして構わないわ、清せ―――
「ギデオンです」
―――ッえ?」
「本名で呼ばれるのは、気に喰いません。『ギデオン』・・・と、そうお呼びください。あとリラックスしろと仰られるのならば、そうさせて頂きます」
突っぱねる様に春樹は渚子へ言うと、足を組んで伸ばす。
其の礼儀を弁えない彼の態度に横に居る箒は顔をしかめた。
「そ、それじゃあインタビューを始めましょうか。まず最初の質問は・・・そうね、織斑君ときよ・・・ギデオン君に聞いてみようかしら」
三人の不穏な空気を感じつつも渚子は恐る恐るレコーダーのスイッチを入れ、インタビューを開始した。
「IS学園は二人以外の生徒は全員女性だけど・・・どう? 女子高に入学した感想は?」
「そうですね。最初は戸惑いの連続だったけれど、周りのみんなが良くしてくれますし・・・楽しくやってますよ」
「そう、ありがとうね。・・・ギデオン君の方はどうかしら?」
当たり障りのない一夏の回答に一応の納得を示した後、彼女の興味の矛先は春樹へと向く。
「ふむう。彼と一緒・・・では駄目ですかな?」
「私はあなたの言葉で聞きたいのだけど?」
食い下がる渚子に春樹は幾等かばかり考えた後、思いの丈を話す事を決めて言葉を紡ぎ出した。
「ふむ。なら遠慮なく・・・息苦しいですね」
「へぇ、息苦しいとは?」
「考えてみて下さい。貴女がもし或る日突然、家族と引き離されて野郎共しかいない男子校に押し込められた場合・・・想像したくないでしょうが、想像してみて下さい」
「・・・OK、解ったわ。なら引き続き聞かせてもらえる? ギデオン・・・その名前を名乗るって事は、君はベルギーで起こったテロ事件に現れた謎のIS『ギデオン・ザ・ゼロ』と同一人物なの?」
「はい」
「『はい』・・・って!!?」
「なんだと!?」
「え・・・?」
迷いなく肯定を示した春樹に渚子と箒はギョッとする。
何故ならば、夏のベルギーで行われたIS新機体発表会で襲撃して来たテロリストを撃退した人物とキャノンボール・ファスト襲撃事件で大活躍を果たした目の前の彼が同一人物なのだから。
何の事だか解らない一夏は、上記の事件を知らなかった為に呆けるばかり。
「えとッ、その・・・! ごほんッ・・・ごめんなさい、取り乱したわ」
「いえ、構いませんよ。いつかはバレる事なので」
何処の大手出版社でさえも掴んでいない大スクープに心が躍るのを隠せない渚子だったが、なんとか其れをグッと堪えて別の人物へ質問を問いかける事にした。
「こほん・・・時に篠ノ之さん? あなたは臨海学校の二日目にお姉様である篠ノ之 束博士から専用機を譲渡され、その後に日本代表候補性となったそうね」
「はい。それが・・・何か?」
「警戒しないで、別に深く勘繰るつもりはないわ。私が聞きたいのは、今度のタッグマッチ戦であなたが誰とペアを作るのか。先のキャノンボール・ファスト襲撃事件で高い実力を示したあなたとね」
タッグマッチ戦の事を聞かれ、箒は無意識に隣にいる一夏に目線をやる。
其の目をみすみす逃す渚子ではない。
ニマニマと口角を緩ませるが、「こほん!」と春樹の咳払いが部屋に木霊した。
「これでは俺は・・・いや、私は邪魔者だな。そろそろお暇しましょうかね?」
「あッ、待ってギデオン君! 君にはまだまだ聞きたい事があるの!!」
席を立とうとする彼を引き留める渚子だったが、彼女の後ろに居た高良が首を横に振った。
「そうですか?」
「そうそう! 例えば・・・君はどうして顔を仮面で隠しているのか、とか! 君の専用機の事とか! 色々とね!!」
「ふうむ・・・其れだと私一人だけと話した方が良いのでは? 此の二人と一緒にインタビューを受ける必要性はないと私は思いますが」
「そ・・・それは・・・」
言い淀む彼女に春樹は仮面の下でバレない様にニヤニヤとほくそ笑む。
仮面を被っていても彼の動向が理解できてしまう高良は「あ、彼の悪い癖が出て来たな」と怪訝な表情を晒す。
「・・・おい」
「・・・阿?」
そんなSっ気を出して来た春樹に水を差して来たのは、勿論とも言って良い人物である一夏であった。
一気に部屋へ息苦しい険悪な空気が流れる。
「清瀬・・・お前、さっきから黛さんに失礼だろう!」
「おっと、頭の弱いオメェからそねーな正論を言われるとは思わなんだ」
「なんだと・・・!」
椅子から立ち上がった一夏に春樹はクスクスと嘲笑う。
其の間に「やめないか、二人とも!」と箒が割って入り、渚子の後ろに佇む高良は口パクで「やめろ、清瀬君! あと訛ってる!」と伝える。
「清瀬ぇ・・・ッ!!」
「阿ァ? やんのか、この野郎~?」
「えッ、ちょ・・・二人とも?!」
このまま何とか事態は平行線のままインタビューは終息するのだが・・・この後、専用スタジオで行われたモデル撮影まで針で突っ突かれる様なピリピリした雰囲気が春樹と一夏の二人から発せられ、実に息の詰まる現場となってしまった。
・・・・・此れが春樹の打った一度目の舌打ちの詳細である。
なれば、二度目の舌打ちの理由は何なのか。
其れは―――――
「・・・えぇ~~~~~ッ???」
―――独占インタビュー終了後に約束された飲み会の面子が、とんでもない面々であったからである。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆