IS/Drinker   作:rainバレルーk

105 / 250
第105話

 

 

 

「・・・・・何じゃあこりゃぁ・・・ッ?」

 

ISの『あ』の字もインフィニットストラトスの『い』の字もねぇ雑誌の取材が終わった後、俺ぁ高良さんに連れられて長谷川さんが待っとる約束の飲み会場へと向かった。

向かったんはエエんじゃけど・・・案内された場所言うんが、前の世界でも行った事がない映画やドラマやこーに出て来るような”料亭”じゃった。

素人目から見ても『一見さん御断り』みたいな重厚感溢れる趣深い深すぎる外観で、気楽に酒が呑める事と高を括とった俺は中へ入るなり何でか知らんが、歯が痛うなってきてしもうた。

独占インタビューじゃあ聞いて、現場にダメバナ野郎と其の連れが居った時のショックが霞むくらいに衝撃的じゃ。

・・・じゃが、『二度あることは三度ある』たぁよー言うたもんじゃわ。其れさえもカスに思える情景が通された襖の先にあったでよ。

 

「おぉ・・・君が、長谷川が良く口に出す噂の少年か。漸く会えたね」

 

飲み会場へ入った俺へ先に会場入りしとった紳士の一人が声を掛けて来たけん、俺ぁ思わず両目をこすった。

そりゃあそうじゃろう。だって通された部屋には長谷川さんや壬生さんだけじゃのうて、テレビのニュースで良-みる人らぁも居ったんじゃけん。

 

其の正体言うんが、内閣官房長官の『柄本 義明』さんじゃ。

此の人はIS統合対策部本部長も兼任しとるけん、早う言ってしまえば長谷川さんの直属の上司じゃ。

其のボスのボスの周りには、見知らぬ眼鏡ハンサムと渋い顔の人らぁが居るんじゃけど、一目で解る位には只者じゃねぇ。

誰ェ??

 

〈春樹、あの眼鏡ハンサムは内閣総理大臣補佐官の『竹ノ内 秀喜』。渋い顔の方は防衛省政務官の『四十院 芳次』よ〉

 

教えてくれてありがとうな、琥珀ちゃん。・・・って、何じゃあな此の面子は!? 独占インタビューお疲れ様会のメンバーの殆どが、俺と壬生さん以外が政関係ってどんな飲み会じゃ?!

良い酒飲ましてくれる言うけん来たのに・・・えぇッ、どうしょー・・・困惑なんですけどぉ~。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「えぇっと・・・其れじゃあ、若輩者ながら乾杯の音頭を取らせていただきます。あの、その・・・お、お疲れ様でした~?」

 

困惑して動揺する春樹の音頭に合わせて皆が杯を上へと挙げる。そして、各々がビールやらが注がれた杯を打ち鳴らした。

 

「お疲れ様、清瀬君。どうだった、取材の方は?」

 

「えッ? 阿~・・・た、楽しかったですよ。カメラ撮影とかで、ジョジョ立ちとかしちゃいましたし。詳しい話は後で高良さんから聞いて下さいよ、阿破破・・・」

 

現場の状況に未だ口端を引き攣らせる春樹はどうにか思考を安定させようと手探りをかけるが、中々そうはいかない。

 

「どうも、清瀬君。こうしてお会いするのは初めてだ」

 

「おぉッ! 此れは此れはどうもです、柄本官房長官殿!!」

 

「そんなに畏まらなくても結構。今は仲間内の飲みの席なんだ。其れに私も君くらいの年には酒の味を覚えていた。遠慮しないでくれたまえ」

 

「いや、しかし・・・」とぎこちない春樹に柄本はビール瓶を勧める。

此れを断っては申し訳なかろうと、彼は勧められるままに注がれたグラスの中のビールを飲み干していく。

元より、嫌々受けた取材の報酬が今宵の飲み会なのである。柄本の其れを皮切りにやがて場の雰囲気と興に乗って来た飲兵衛の春樹のペースは、始まって一時間を過ぎる頃には出来上がってしまっていた。

 

「阿破破破破破ッ! 此の酒、美ン味ぁあ―――いッ!!」

 

時が経つにつれて背後へ転がるビール瓶にお銚子。いつしか其の中にカラの一升瓶までもが積み上げられてゆく。

彼が酒を嗜むという事は長谷川から聞いていた面々も、大樽に頭を突っ込んで酒を飲む大蛇の様な春樹の姿にアングリと口を開けた。

 

「ハハハッ、凄いな清瀬君! なら、これはどうだろうか?」

 

「おぉッ、ありがてぇ! 勿論、頂きまさぁ!」

 

一周回ってあまりに気持ちの良い飲みっぷりに気を良くした柄本が更に彼へ酒を勧め、春樹は其れをガブガブと平らげてしまう。

其の内、部屋に飾られていた有田焼の大皿を杯に代えて浴びる様に酒を飲んでいった。

 

「んグッ・・・ンぐッ・・・んぐッ・・・プッヒャァアア! 阿比比比破破破破破破破ッ! でぇれー美味いがぁ!!」

 

「き・・・清瀬少年、飲み過ぎじゃあないかい? そろそろ酔い覚ましの水を飲んだ方が・・・」

 

「何を言うとるんですか、壬生さん? こねーにエエ酒を飲まして貰うとるのに水を飲むんは、おえんでしょーが。其れに『良い酒は水に似る』って言うし・・・実質、水しか飲んでいないのではァ??」

 

「いや、暴論が過ぎる!」

 

「阿破破ノ破!」と上機嫌な春樹だったが、やはり飲み過ぎだったようで口元を抑えて席を立つ。

誰かが付き添おうかと聞いたが、彼は「大丈夫です、大丈夫です!」とあっけらかんに笑顔を浮かべてトイレへと向かった。

 

「・・・さて、どうでしょうか彼は?」

 

足音が遠くに行ったのを確認したのを機に長谷川は柄本へ疑問符を投げかける。

 

「・・・聞いていた以上だ。まるで戦国時代の豪傑のようだな、あんな戦い方をするのも頷ける」

 

「しかし、長谷川・・・大丈夫なのか?」

 

満足そうに頷きながら清酒を呷る柄本だったが、其の隣では四十院が眉をひそめてビールを飲む。

 

「大丈夫とは?」

 

「お前の話によれば、彼はPTSDと未成年ながらアルコール依存症を患っていると聞く。にも関わらず、あの飲みっぷり・・・不味いんじゃないか?」

 

「ですが、清瀬少年はパイロットとして優秀です」

 

「壬生室長、彼がパイロットとして優秀だとしても人格がそうとは限らない。それに彼は学園でドイツ代表候補性に首っ丈と言うではないか。多感な十代の少年が色恋で落ちては堪らんぞ」

 

「それに関しては、清瀬少年は弁えている事でしょう」

 

「どうだか・・・ああいう手合いはすぐに周りの女に手を出す。スキャンダルを起こす前にちゃんと手綱を掴んでおかんとな。其れに二年前に漸く政権を連中から奪還する事が出来たんだ。彼のスキャンダルのせいで、また政権を奪取されて『女性優遇処置法案』などと言う愚法を提出されては適わん!」

 

ひそめた眉の四十院に壬生は不愉快そうに「ふんッ」と鼻を鳴らす。

そんな二人の間に「まぁまぁ、その辺で」と割って入ったのは、ちびりちびりと飲んでいた竹ノ内だった。

 

「きつい事を聞かされて悪いな二人とも。四十院はIS学園に通っている姪御さんが心配で言っているんだ」

 

「おい、竹ノ内! 口を慎まんか!!」

 

「あぁ、それで。大丈夫、ああ見えて清瀬君は一途な男です。心配はいりませんよ」

 

「長谷川・・・それは私の姪の『神楽』が可愛くないと云う事かッ!!」

 

「あれ!? どこか癪に触る部分があったかッ?!」

 

いきなり激昂した四十院の背後を見れば、二本のビール瓶が転がっているではないか。

 

「いつの間に・・・兄に比べて酒が弱いというのにな。これ、やめんか四十院!」

 

「やれやれ」と柄本が取り成してくれた御蔭で危うく乱闘騒ぎになる事は回避出来た。

 

「ところで四十院。今度の次世代IS量産機体計画はどうなんだ?」

 

「あぁ・・・このまま何事もなく順調にいけば、IS統合対策部が次期次世代IS量産機体計画を任せられるだろうな」

 

「本当ですか!」

 

其の言葉にパッと顔がほころぶ壬生だったが、四十院は「しかし!」と語尾を強めた。

 

「今年度の初めに設立されたばかりの君達よりも、第二世代型の『打鉄』で確かな信頼と実績を得ている倉持技研を押す人間も多い。だから、壬生室長・・・連中を黙らせる為、早く二機目の機体を製作してくれんか?」

 

「口で言うのは容易いですが・・・それがどれ程難しいか解っておりますか?! 自分で言うのもなんですが、元々ウチはヲタクと変人の寄せ集め集団なんですよ!」

 

「そのはみ出し者共を纏め上げるのが、君の役目だろう!」

 

酒が入っている為、論に熱がこもる壬生と四十院。

其れを長谷川と竹ノ内が抑え込み、柄本が二人を諫める。

 

〈・・・ねぇ、春樹? 私は一体何をやらされてるの?〉

 

「しーッ・・・琥珀ちゃん、其のまま其のままじゃ」

 

部屋の中でちょこんと座る琥珀を盗聴器にし、春樹は部屋の外で聞き耳を立てる。

席を立った理由は吐き気を催したのではなく、長谷川達の話を盗み聞く為に部屋を出たのだ。しかし、彼が聞き耳をたてる内に未だトイレから帰って来ない春樹を心配して部屋の中が騒がしくなって来た。

〈・・・春樹、リミットよ〉と琥珀に促され、春樹は漸く部屋の中へ戻って行く。

この後、盗聴を諦めた春樹は再び煌びやかな色彩を持った有田焼の大皿を使ってぐびぐび酒を平らげていった。

・・・しかし、今宵の春樹は少々飲み過ぎである。其れが色々と問題なのだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「阿破破破・・・エエ気分じゃわぁッ」

 

料亭での一席が終わった後の事。春樹は長谷川一行の乗った車の側でフラフラしながら笑みを浮かべていた

此の明らかな酔っ払いの彼に車の後部座席に乗った長谷川が「おいおい、大丈夫かい?」と心配そうな視線を送る。

 

「大丈夫ですってば! ありゃ・・・スキットルがねぇぞ? 落としたか? 迎え酒しようと思ったのに・・・」

 

「あれだけあった酒を全部飲んでおいて、まだ飲むつもりかよ・・・! ウワバミにも程があるだろう、清瀬少年!」

 

呆れる壬生に「阿破破ノ破! 其れ程でもねぇでさぁ!」と照れる春樹へ長谷川は「ヤレヤレ」とため息を吐く。

其れも其の筈。なんと彼は料亭へ置いてあった酒を全て飲み干してしまったのである。

御蔭で店は早々に灯を落とす破目となり、其れに伴って飲み会も御開きになった。

 

「清瀬君。ほら、スキットル」

 

「阿ッ・・・そういやぁ、高良さんに渡しとったんじゃった。ありがとうございますだ」

 

しかし、此の飲兵衛は未だ満足に達していなかった。

春樹は高良から受け取ったスキットルの中身を何とも旨そうに飲んだ。

 

「かっはー! 舌の上で天使が叫びょうらぁ!」

 

「私はあの席でそれほど飲んではいないが・・・君の飲みっぷりを見ているだけで吐きそうになるよ」

 

「ホントに一人で帰れるのか?」

 

「えぇ、勿論! このまま”飛んで”帰りすけん!!」

 

「「「・・・え!?」」」

 

三人は何かの聞き間違いかと耳を疑った刹那、春樹の背中へ深い蒼の六枚羽が広がった。

聞き間違いではない。彼は学園への足を使わないつもりだ。

 

「其れじゃあ、お疲れ様でした!!」

 

「あッ、おい待ッ―――――」

 

壬生の言葉が紡がれる前にビューン!・・・と瞬時加速を行って空へ舞い上がるや否や、一気に亜音速に乗って学園方向へと舵を切る。

其の姿はまるで流星の様であり、衝撃波で揺れる車の中で長谷川達は其れをポカーンと眺めるばかりであった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

鈴は掻いた汗を鬱陶しそうに振り払いながら歩いていた。

 

タッグマッチ戦を行う事が伝えられたあの日、彼女は箒に遅れを取るまいと真っ先に一夏へペアを申し込んだ。

だが、彼はこの申し出を拒む。

何故に拒んだのか。其れは彼が生徒会長である楯無からある”お願い”をされていたからである。

其の”お願い”の為に鈴は一夏とのペアを諦め、代わりに前々からペアを組むことが多かったセシリアとタッグを作る事と相成った。

 

其れから彼女はセシリアと共にタッグマッチ戦を勝ち抜く為に様々な策を弄し、模擬戦闘を行って来たのであるが・・・今宵の鈴はそんないつも感じと違っていたのである。

 

「ッ・・・あぁ~も~~! なんかスッキリしないわねぇ!!」

 

モヤモヤした心中を吐露する様に叫ぶ鈴。けれども、どうして彼女がこんなヤキモキした気分になっているのか。

其れはやはり想い人である一夏が箒と一緒にティーンエイジャーに大人気の雑誌『インフィニット・ストライプス』の独占インタビューを受けたと云う事案が原因であろう。其処で二人が揃って写真撮影などしたと聞いたのなら猶更である。

しかし、何故に鈴がその様な事を知ったのか。

理由はいろいろと省くが・・・端的に言えば、独占インタビューから(鈴から見て)仲睦まじそうに帰って来た二人と偶然出会ってしまったからである。

其処から始まった鈴の質問に何処か上の空の一夏を尻目に何処か(鈴から見て)勝ち誇ったかのような表情をする箒から事情を聴いたのだ。

此れに嫉妬の感情が内へグルグル回り出した彼女は其れを沈めんとたった一人で自主練を行い、気が付けば時計の針は夜の十時を過ぎていたのである。

 

「戻ってもうちょっと練習しようかしら・・・でも、千冬さんにどやされたくないし・・・」

 

自主練の合間合間に軽食をとっていた為、夕食を食べ損なったという気分ではない。

だが、自主練に熱中するあまり消灯時間ギリギリまで外出していたのである。寮監の千冬に見つかれば大目玉は免れない。

鈴はなんとか自分を抑え、自室への帰路を歩む。

 

「こらッ!」

 

「ッひ!? す、すいません!!」

 

ところがどっこい。恐る恐る寮へ帰還する彼女の背後から怒声が聞こえて来たではないか。

思わず鈴は身を縮めて謝罪の言葉を口にしてしまう。

 

「おっと、まさかそねーに吃驚するとは思わなんだわ。阿破破破」

 

「・・・ふぇ?」

 

振り返れば、其処に居たのは頬と鼻を真っ赤にした春樹がヘラヘラしているではないか。

 

「な、なによ! 誰かと思ったら清瀬じゃない!! ビックリさせないでよ!!」

 

「悪ぃ悪ぃ。ちょっとした出来心じゃ、許してつかぁさい」

 

「もう、寿命が縮まるかと・・・ってか、何か臭いわよ! あんたまさか、お酒飲んでんの?!」

 

「阿? あぁ、ちょいとした飲み会でのぉ。なに・・・付き合い程度じゃけん、ちぃっとばっかしじゃ。”しょうしょう”じゃ、”しょうしょう”」

 

「”しょうしょう”ねぇ・・・」

 

何気ない会話だが、ある食い違いが起こっていた。

話の中に出た「しょうしょう」を鈴は『少々』と変換したのであるが、漢字変換の正解としての「しょうしょう」とは一升二升の『”升”々』なのである。

実際、春樹が飲みほした酒の量単位は『升』ではなく『斗』であるが。

 

「少々で顔が真っ赤っかなんて・・・あんたって意外とお酒に弱いのね」

 

「ホントじゃわぁ。年じゃろうか?」

 

「未成年がなに言ってるのよ。ふふッ」

 

若干の食い違いがあるものの、春樹の冗句に鈴はクスリと笑みを溢す。

しかし、彼女の笑みの次に春樹が放った「そーゆー凰さんは、こねーな遅い時間になにしょーるんなん?」と言う言葉に鈴は表情を曇らせた。

 

「ありゃ? 俺なんか・・・不味い事言うたか?」

 

「う、ううん。別に・・・別になんでもないの!」

 

「ほぉ~ん・・・」

 

曇った表情を取り繕った笑顔で隠す鈴に春樹は口をへの字にしていたが、何を思ったのか口端を大きく吊り上げた。

 

「破破破ッ、今宵の俺は酔っ払い♪」

 

「え・・・な、なによ?」

 

急にへべれけな声で歌い出した春樹に不信感を持った鈴だったが、彼は構わず即興曲を紡いでゆく。

 

「飲み過ぎ飲み過ぎ喰らい過ぎ♪ じゃけん、明日にゃ記憶なし♪ 今宵の事は記憶なし♪ じゃけぇ、何話しても構わんぜ♪」

 

「・・・・・あ、あのね清瀬?」

 

自分の目の前に居るのは、明日には今日の事を忘れる大酒を喰らった飲兵衛の男。其れを知った鈴は、其の酔っ払いにモヤモヤした自分の気持ちを吐露する事にした。今度開催されるタッグマッチ戦で一夏にペアを断られた事や、自分の与り知らぬ所で想い人である彼が箒と逢引きした事にショックを受けている事をだ。

 

「ホント、一夏のヤツってば私がどれだけ勇気を振り絞ってるのかわかってないのよ!! 言っても、「ん? 何か言ったか?」って聞こえてないしッ!」

 

「・・・・・」

 

取り合えず寮の中へ入った春樹は、中広間で自分の驕りである缶ジュース片手に鈴の内心の言葉をただ黙って聞く。

そんな聞く態勢の彼に興が乗ったか、鈴は一夏の鈍感っぷりに対する日頃の恨み辛みさえも吐露していった。

 

「でも・・・でもね・・・自分でもわかってるのよ、子供っぽいヤキモチっだってことは! でも・・・でも・・・・・ッ!」

 

「・・・凰さんって、健気じゃなぁ」

 

目頭を熱くし、俯く彼女の頭に春樹は自分の手を乗せた。

普段の彼なら到底しないし、出来ない行為に頭を撫でられている鈴は思わず硬直してしまう。しかし、優しくゆっくり自分の頭を撫でてくれる春樹の手に強張った身体から余分な力が抜けてゆく。

 

「あぁ・・・妬ましいのぉ。こねーに可愛ええ人に想いを寄せられるとは・・・ホント、あいつ嫌いじゃわぁ」

 

「・・・・・」

 

「阿? どうしたんなん、凰さん? 急に黙りこくってよ~」

 

「ッ! な、なんでもないわよ! あ、ありがとうね話聞いてくれて!!」

 

彼の手によって撫でられる快感から我に返った鈴はすぐさま春樹との距離をとるが・・・其の時、彼女は偶然にも彼の瞳を見てしまう。琥珀色の炎が漏れる艶やかな眼を。

 

「・・・綺麗・・・」

 

「綺麗? そりゃあ・・・君の事じゃろう」

 

いつもなら到底有り得ない色っぽい春樹に顔を紅潮させる彼女のリンゴの様な頬へ片手を添える春樹。

窓から漏れる月明かりに照らされた朗らかに笑う艶やかな彼の表情に何故かバクバクと鈴の心臓が飛び跳ねた。

 

「ッ・・・鈴!!」

 

「ッ!?」

「・・・ッチ」

 

だが、そんな彼女の名を呼ぶ男の声が聞こえて来る。

鈴が振り返ってみれば、其処には自分の想い人が酷く眉間にしわを寄せているではないか。

 

「よー、ダメバナ野郎。夜更かししてっと、きょーてぇーブリュンヒルデお姉ちゃんどやされるでよ?」

 

自分を便所のネズミの糞でも見るかのような侮蔑の目の春樹を無視し、一夏はすぐさま鈴の手を取って距離をとる。

 

「ティナが心配して、俺のとこまで来たんだ。帰るぞ、鈴! 」

 

「ちょッ、わかったから! そんなに強く引っ張らないでよ、痛いから!」

 

「おい、痛がっとろうが。離してやりんさいや」

 

「ッ、うるさい!!」

 

春樹の声に思わず声を荒らげる一夏。

其の彼の姿に鈴は「い・・・一夏?」と驚き、春樹は耳まで裂けるかのような酷く下卑た笑顔を浮かべた。

 

「おや? おやおやおやおやおやぁ? どうしたんかなぁ、織斑 一夏くぅん? そねーな余裕のねー顔してさぁ? もしかして、焦ったか? 俺に凰さんを・・・いや、”鈴”さんを盗られるかぁ思うてさぁ」

 

「え・・・?」

 

春樹の言葉に鈴は一夏の顔を咄嗟に見る。

彼が紡いだ言葉が図星だったかどうかは解らないが、一夏はギリリと歯噛みをしつつ春樹を睨んだ。

 

「図星か・・・ナァ~~~ッ??」

 

「黙れよ・・・!」

 

春樹の安い挑発に一夏は待機状態である白式を差し向ける。此の威嚇に「おぉ、きょーてぇーきょーてぇー」とヘラヘラ笑う。

其の態度が益々気に入らない一夏は、何か言い返してやろうと精一杯のニヒルな笑みを浮かべてこう言った。

 

「そういうお前こそ、ラウラが居るのに鈴をナンパしようなんて・・・そんなにアイツに本気じゃないだろ?」

 

「・・・・・阿”ッ?」

 

周囲の温度が幾何か下がったように鈴は感じた。

明らかに今の一夏の発言は春樹の癪に障った事だろう。ギョロリと彼の目が獲物を見る眼になった事が手に取る様に理解できた。

 

「それもそうか。お前は血も涙も、思いやりの欠片もない人間だもんな!」

 

「ちょっと一夏! 止めなさいよ!!」

 

心無い言葉を吐く一夏を制止しようと声を荒らげる鈴だったが、「・・・別にエエよ、鈴さん」と春樹は掌を彼女へ見せた。

 

「確かに・・・俺ぁ、オメェの言うように血も涙も思いやりもない人間かもしれん。じゃが、そりゃあそうじゃろうな」

 

「・・・なに?」

 

「俺はオメェと違い・・・血を流して専用機を、琥珀ちゃんを手に入れた。涙を流して生き残った。そして、心を潰してあの娘を・・・ラウラちゃんを手に入れた。俺の中にゃあ、もう何も残っとりゃあせんじゃろうな」

 

「阿破破ノ破!」とどこか寂しそうに笑った後、銛の様に獲物を突き刺すような鋭い目つきへと変わる。

 

「じゃが・・・じゃがなぁ、糞鈍感腐れダメバナ野郎・・・俺ぁあの子を、ラウラちゃんにゃあ真剣と書いて”マジ”なんじゃ。其れこそ、今にでも彼女を孕ませてやりたい程にのぉ!!」

 

「ッ!!?」

 

一夏はギョッとする。

背筋に氷でも入れたかのような冷たさが彼を襲う。

 

「オメェはどうじゃ? 本気で人を好きになった事のないオメェに・・・与えられるばかりで、奪われた事のないオメェには何がある?」

 

「ッ・・・行くぞ、鈴!!」

 

恐ろしい形相の春樹に居た堪れなくなった一夏は、鈴の手を引いて彼の前から立ち去った。

後に残ったのは、ゲラゲラゲラと奇妙奇天烈な笑い声を上げる酔っ払いだけである。

 

「・・・・・・・・えへへ・・・ッ」

 

一方、思わぬ所で想い人に手を引かれるイベントが発生した鈴は素で照れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





今年最後と言う訳で、長めです。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
それでは皆様、良いお年を。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。