IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第108話

 

 

 

タッグマッチ戦の対戦表が発表されて幾数日が経ったある日の朝。

 

「はぁッ・・・ハァッ・・・はァッ・・・!!」

 

開放されたグラウンドを酷く青い顔をしながら走る生徒が居た。

もう一体何十周走ったかは解らないが、後ろ手に括った金髪の一本一本間を滴る汗が朝陽に反射して実に美しい。

 

「おい! 何をノロノロしているデュノア”二等兵”ッ?! さっさと走らんか!」

 

「さ・・・サー・イエッサー・・・」

 

「声が小さい!!」

 

「サーイエッサーッ!!」

 

しかし其の背後からは、同じく朝陽で煌めく銀髪を揺らす鬼教官が怒号と共に彼女を追い駆け回していた。

お察しの方もいると思うが・・・疲弊した表情で走り続ける新兵がシャルロットで、其の後ろから声を荒らげている上官がラウラだ。

何故に此の様な状況が展開されているのか。其れはタッグマッチ対戦表が公になる前のペア決めのある発言まで遡る。

 

「ラウラ、ボクと一緒にタッグマッチ戦に出ない?」

 

タッグマッチ戦が開催される事が決まった其の日。シャルロットはルームメイトであるラウラへペア組を申し込んだ。

同じ人間へ想いを寄せる恋敵同士ではあるが、其れを除けば二人は仲の良い親友であった。

加えて二人の戦闘スタイルは相性が良く、手を取り合えば必ず勝ち残る事が出来るとペアを誘われたラウラも確信していた。

しかし・・・其処でシャルロットはラウラに対してある事を口にした。口にしてしまった。

 

「ラウラ・・・ボク、強くなりたいんだ!」

 

「・・・ほう?」

 

キャノンボール・ファスト襲撃事件の一件以来、第二次形態移行に達した琥珀を纏う春樹に対して負い目を感じていた。

何故ならば、襲撃事件終結直後に彼女は春樹から差し出された手を思わず拒否してしまったからだ。

当時の彼はシャルロットには恐ろしい怪物に見えて仕方がなかった。其の恐怖から自分の手を拒んだ彼女を春樹は責める事はなかったが、想い人からの手を拒んでしまった事をシャルロットは後に酷く後悔した。

そうして「自分がもっと強ければ・・・」と力を渇望する様になった彼女は、どうすれば強くなれるだろうかと自分なりに考えた結果・・・学年別トーナメントで春樹を鍛えたラウラにペアの申し込みと共に稽古を頼んだのである。

・・・此の時、まさかドイツ式新兵訓練をさせられるとは露にも思っていなかったが。

 

「はぁッ、ハァ! も・・・もうだめ・・・ッ!」

 

基礎体力作りのランニングに壁々し、其の場にへたり込んでしまうシャルロット。

口の中と喉から鉄の味がして堪らない。

 

「またか、二等兵! 本当ならば、丸太を抱えて走らせているところを走るだけにしておいてやってるのだ! ガッツを見せてみろ!!」

 

「う、うぅッ・・・うぅ~~~!!」

 

早朝五時から毎日続く厳しい訓練に思わず涙ぐんでしまうシャルロットだったが、唇を噛み締めて立ち上がると半ばヤケクソ気味にランニングを再開した。

其の後、基礎体力訓練は五分休憩を挟んで近接格闘訓練へと移行し、朝食の為に食堂が開けられるまで組手が続いたのだった。

 

「うッ、うぅ~・・・疲れたよぉ~・・・!」

 

「だ、大丈夫ですの?」

 

朝食時、食堂のテーブルに突っ伏すシャルロットへセシリアが心配そうに声をかける。

其れに対し、彼女は疲労感の溜まった弱々しい声で「だ・・・大丈夫じゃない、かな?」と返すと大きな溜息を漏らす。

 

「むッ。おはよう、早いなセシリア」

 

「おはようございます、ラウラさん」

 

「うむ。おい起きろ、シャルロット。朝食を持って来てやったぞ!」

 

「あ、ありがとうございます・・・”少佐”」

 

「しょ、少佐って・・・」

 

二人分の朝食を持って来たラウラに礼を述べるシャルロットの言葉遣いにセシリアは口端をヒクヒク痙攣させて苦笑いを浮かべた。

 

「ラウラさん。見た所、随分とシャルロットさんがグロッキー状態ですが・・・これで訓練の効果はありますの?」

 

「問題ない。少なくともこれで気迫と自信がつく。それに、この特訓で春樹も成長したのだからな!」

 

自信満々に語るラウラの言葉に「あ~・・・それで・・・」とセシリアは何処か納得した様に頷く。

よくよく思い出せば、春樹の情緒が一気に不安定になったのは学年別トーナメント以降であったからだ。

 

「みんな、おっはよー・・・って、どうしたのよシャルロット?!」

 

「お・・・おはよ、鈴」

 

グロッキー状態のシャルロットに驚く鈴だったが、セシリアから事情を聞き、彼女もまた「あぁ、それで」と納得した。

こうして何やかんやありながら集まった四人は朝食をとりつつ、此度のタッグマッチ戦を話題にする。

 

「そう言えば・・・一夏は簪と一緒に出るんだったな」

 

「・・・・・」

 

しかし、ラウラが其の話題の中でポロッと口にした内容に鈴が表情を暗くした。

 

「ちょっと、ラウラさんッ」

「あ・・・すまない、鈴!」

 

「・・・別にいいのよ。私は大丈夫」

 

鈴が表情を暗くした理由は、やはり彼女の想い人である一夏が自分とではなく簪とタッグマッチ戦へ出場する事だろう。

無論、此れが残念な事に変わりはないのだが、切り替えの早い鈴は自分と相性の良いセシリアと共にペアを組んで事に臨もうとしていた。

 

「でも・・・私はいいとして、問題は箒でしょ。あの子、なんか当てつけみたいな感じで生徒会長とペアを組んだみたいだし」

 

「そうなんですの? 確か、生徒会長って・・・」

 

「そう、簪のお姉さん。どうなのかしら?」

 

「箒もそこまで私情を挟むのかな? と言うか、生徒会長・・・簪のお姉さんって強いかな?」

 

シャルロットのふとした疑問にセシリアは「それは生徒会長ですから・・・・・ねぇ、鈴さん?」と隣の鈴に同意を求めた。

其れに対して彼女は「う~ん・・・どうなんだろ?」と口をへの字に曲げる。

 

「え? 鈴は箒や一夏と一緒に生徒会長と特訓してたんじゃないの?」

 

シャルロットの疑問は勿論である。

二学期の始め、彼女達は生徒会長である楯無にISの稽古をつけてもらっていたからだ。

 

「でも私、あの人とは模擬戦やった事ないのよ。ほとんど一夏に付きっ切りだったし」

 

「そうなんだ」

 

「って言うか、私よりもはる・・・清瀬の方が詳しいんじゃないの?」

 

「どうしてだ?」

「(・・・ん? 鈴さん、今・・・)」

 

「だって、清瀬はあんなのでも一応は生徒会の一員でしょう?」

 

鈴の発言に「あんなのって・・・」とシャルロットは苦笑いを浮かべるが、彼女の言葉は中らずと雖も遠からずな為に皆は頷きを入れてしまう。

 

「それにこの間偶然見たんだけど、生徒会室から出て来たとこ見たし」

 

「へ、へぇ~・・・そうなんだぁ・・・」

「(シャルロットさん、目が・・・)」

 

IS学園の生徒は春樹と一夏を除いた全員が女生徒。つまりは必然的に生徒会も女の園という事になる。其処から出て来たという事が癪に障ったのか、シャルロットの瞳から光が消える。

 

「ほう、そうなのか」

 

「あら? 何よ、ラウラ。あんたもシャルロットみたいにヤキモチでも焼くかと思ったのに」

 

「なッ!? ちょっと、鈴!」

 

「むぅッ」と頬を膨らませるシャルロットの隣で、ラウラは「別にそんな事をしなくてもいいではないか」と返す。

其れに対して「どうして?」と鈴が疑問符を投げ返すと・・・

 

「どうしてもなにも・・・どこに行っても、アイツの帰る場所には私が居るからな」

 

「「「「ッ・・・!」」」

 

さも当然とばかりに平然と答えたラウラに三人は息を飲む。無論、四人の近くで朝食をとっていた生徒達も思わず共に息を飲んだ。

 

「ん? みんな、どうかしたのか?」

 

「・・・なんでもないです。そろそろ行きましょうか、”少佐”殿」

 

「え? シャルロット、なんでラウラを少佐って呼んで―――――」

 

鈴の疑問を聞く前にシャルロットはラウラの手を引いてさっさと席を跡にしてしまう。

後に残されたのは、「なによ、もう」と口を尖らせる鈴と「フフッ、ごちそうさまです」とほくそ笑むセシリア、並びに悶える周囲の女生徒達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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