二話分を統合したので長くなっちゃっいました。
「失礼します」
専用機所有者だけによるタッグマッチ戦の開催日が刻々と迫りつつあるある日の放課後の事。
専用機『紅椿』の所有者にして出場者の一人である箒は第二アリーナの扉を推す。
「いらっしゃい、”箒ちゃん”。待ってたわよ」
貸し切りとなった練習会場へ入って見れば、既に自分のパートナーである楯無が自らの専用機『ミステリアス・レディ』を纏って佇んでいた。
「ッ、すいません。遅れましたか?」
「ううん、まさか。遅れるどころか、約束の時間の十分前よ。えらいえらい」
自分が約束の時間に遅れたと危惧する箒に何とも人懐っこい笑顔を浮かべる楯無。
元々二人は二学期始め、鈴と共に一夏の稽古に携わっていた。其の縁もあってか、此度のタッグマッチ戦で一夏からペア組を断られた箒を楯無の方から誘ったのである。
「更識会長は―――――
「ノンノン、そんな他人行儀の呼び方はダ~メ。一緒に手を取り合って戦う仲なんだから、もっとフレンドリーに接してくれなきゃ」
―――――・・・”楯無さん”は一体いつからココに?」
しかし、何処か捉え処のない雰囲気を醸し出す『人たらし』な彼女に対し、箒は若干距離を置きたい気分だったが。
「そうねぇ。朝からずっと・・・って言ったらどうする?」
「え!?」
驚きの表情を晒す箒に「な~んちゃって!」と薄紅色の舌を出す楯無。だが、よくよく彼女の身体を見ると滴った汗がISスーツを伝って地面を濡らしていた。
其れがどういう事を意味するのか、解らない彼女ではない。
「さぁさぁ、それよりも今日のトレーニングを始めましょうか。いつまでも喋ってると、あそこで見張ってる虚ちゃんが怖いからね」
楯無が視線を使って箒へ合図を送れば、其の先の管制室には三つ編みの布仏 虚が自前の眼鏡を光らせて此方の様子を伺っているではないか。
どうやら彼女は隙あらばサボタージュを決行しようとする楯無の御目付役のようだ。
そんな監視の目を背に箒は紅椿を纏うと楯無監修の元、タッグマッチ戦の為のトレーニングを開始した。
トレーニングの内容は来るタッグマッチ戦の為にお互いのペアとしての相性や戦闘コンビネーションを確かめ合うと云うもので、今回は空中を漂う射撃機構を有するドローンを仮想敵機体とした模擬戦闘を行った。
「はあああああッ!!」
戦闘開始早々、攻撃を仕掛けんと次々と勢い良く立向って飛んで来るドローンを展開装甲であるエネルギーシールドで防御する箒。
展開装甲は自動支援プログラムで動いている為、彼女は容易くドローンから発射されるカラーペイント弾を受け流すと一気に瞬時加速其の機体を主力武装の一つである雨月で刺し斬り、自分と距離をとっている敵にはもう一振りの主力武装である空裂のエネルギー斬撃で放つ。
「くッ・・・!」
しかし最初は善戦する箒だったが、徐々に徐々に劣勢に追い込まれていき、機体表面にショッキングピンクのペイントが施されてゆく。
劣勢の原因として考えられるのは、やはり機体のシールドエネルギーを使った攻撃であろう。
其れを補う為、紅椿には第一次形態でありながらエネルギー増幅能力を持つ単一能力『絢爛舞踏』が備えられている。
・・・・・だが。
≪ッ!!≫
「うわ!?」
紅椿との初陣であった『銀の福音事件』以降、彼女は此の単一能力を任意で発動する事が出来ずにいたのである。
此れを好機と捉え、指揮官機のドローンがエネルギー消費によって疲弊した箒の顔面目掛けてペイント弾を発射。
ドロリと弾の内部に溜まった液体が彼女の顔を汚す。
「箒ちゃん!」
≪ッ!!?≫
顔を汚された彼女を見兼ねてか。様子見をしながら距離を取っていた楯無が漸く助太刀に加わった。
そんな楯無の接近に気付いた指揮官ドローンだったが、迎撃態勢を取り成す前にミステリアス・レディから放たれた超高周波振動する水を螺旋状に纏ったランス、蒼流旋によって破壊されてしまう。
「大丈夫、箒ちゃんッ?」
「だ、大丈夫です! それよりも―――――・・・!」
自分を助けてくれた楯無に対する礼よりも未だ周囲を漂っているであろう敵ドローンへ注意を向ける箒だったが、彼女は自分が視線を移した楯無の方を見て愕然とする。
何故ならば、其処には自分よりも多くのドローンの残骸を作った楯無と少しの汚れもないミステリアス・レディが居たからだ。
「ッ・・・!」
其の姿に箒はギリッと下唇を噛む。
箒は第四世代を持っているにも拘らず、未だ弱いままでいる自分に圧倒的な差を見せつけられているように感じたからである。
◆
「はい、箒ちゃん」
「あ・・・ありがとうございます」
トレーニング終了後の事。模擬戦闘の結果に落胆する箒へ楯無は自分の奢りである缶ジュースを手渡す。
「大丈夫よ、箒ちゃん。誰にだって苦手な事はあるものよ。私も君ぐらいの時は全身がショッキングピンクに染められちゃったことだってあるし!」
落ち込む彼女を励まそうとする楯無だったが、「は、はぁ・・・ッ」と返って来るのは溜息によく似た返事ばかり。
此れではダメだと様々な言葉を使って元気づけようとする楯無だったが、溜息の代わりに返って来たのは何処か余所余所しい引き攣った笑顔。
「むむむッ・・・!」と此の反応に楯無も溜まらず口端を引き攣らせて焦燥感を募らせる。
そして昔、自分の妹である簪と確執が生まれてしまった時、彼女は簪に思ってもいない事を言ってしまった過去があった為に其の二の前を踏んでしまうのはないかと思い、あんなにも饒舌だった口が鈍くなる。
「・・・はぁ・・・清瀬君だったら、どう言うかしら?」
思わず楯無はそう言葉を紡いだ。
楯無と簪の間に出来た溝を埋める切っ掛けを作ってくれた男の顔とあの珍妙な笑い声を思い出す。
二人がトレーニングを行った第二アリーナは、姉妹仲良く彼に説教を喰らった場所であった為、余計に印象が強い。
「・・・清瀬ッ?」
「あッ・・・ううん。何でもないのよ、箒ちゃん!」
此の時、まさか思わず自分の口から出てしまった名前が、箒の琴線に触れるとは楯無は思いもしなかった。
「清瀬・・・・・アイツ・・・あいつだけは・・・ッ!!」
「ほ・・・箒ちゃん?」
春樹の名を聞き、箒の脳内に映し出されたのは『第二次福音討伐作戦』が決行される前の場面であった。
其処で、彼女は慢心のせいで一夏を傷付けてしまった事に落胆する自分を嘲笑って自身の紅椿を取り上げた男の表情を思い出す。
そして、こうも仮定した。またあの時の様に落胆する自分を見れば、あの男はどういう反応をするのだろう?・・・かと。
「阿破破ノ破!」と何処からか、自分を小馬鹿にする嘲笑が聞こえて来る。
「ッ、楯無さん!」
「は、はい!?」
「もう一戦お願いします!!」
楯無はカラの缶ジュースを握り潰して迫って来た箒に「も、勿論です!」と呆気に取られて思わず敬語になってしまう。
しかして、其の口端は上へと吊り上がっていた。
実は、箒へペアを申し込む前、楯無は彼女のISステータスをチェックしていた。すると入学前の適性検査では『C』だったIS適正が『S』まで上昇していたのである。
適性度『S』を出した者は、世界でも『ブリュンヒルデ』や『ヴァルキリー』ぐらいしか居ない激レア。しかも、入学から僅か半年程度で此れ程の変化を見せた者は前例が無い。
此の急激な適性向上に楯無は、彼女の姉にしてISの発明者である束が関わっているのではないかと推測し、其の調査も兼ねていたのである。
「ふふ・・・おもしろいわね」
其の件も含めての彼女の今の反応・・・・・楯無の好奇心がくすぐられない訳がなかった。
「何してるんですか、楯無さん! 置いていきますよ!!」
「はいはい、そんなに焦らなくたってアリーナは逃げたりしないわよ!」
◆◆◆
一方、其の頃。
整備室の一角では、ある黒髪と水色髪のコンビがタッグマッチ戦への戦略を練っていた。
「織斑君の白式はただでさえ燃費が悪い・・・だから作戦うんぬんを立てる前に慎重な行動をとって」
コンビの片割れである簪が静かに諭す様な口調で目の前のコンビ相手である一夏に言葉を連ねる。
「慎重な行動って?」
「まず・・・敵の懐に安易に飛び込まない。戦闘に対して熱くならない。あと攻撃の一つ一つにフェイントを入れる」
「えーっと・・・簪さん、それだと俺がまるで考えなしのバカみたいなんだけど・・・」
「まだわからないの・・・実際そうでしょ? あなたは典型的な猪武者。あと・・・気安く名前で呼ばないで」
歯に衣着せぬ簪の言葉に「うッ・・・」と表情をしかめる一夏。
「それは違う!」と申し開きを入れたいが、そうすれば容赦のない簪の自己分析表の餌食になる事は明白・・・と言うか、もう既になっていた。
此の作戦会議を行う前、一夏は彼自身と白式の弱点を簪からパワーポインターで懇切丁寧な説明を受けていたのである。
「わ、わかった! かんざ・・・更識さんの言うように気を付けるからさ! 取りあえず、作戦を考えようぜ!」
「・・・あなたみたいな人間の「わかった」・・・なんて、アテにならないけど。まぁいい・・・織斑君はどんな作戦を考えてる?」
「え・・・そうだな・・・俺が近距離担当で、更識さんが中距離担当。それで俺の零落白夜をセーブしつつの更識さんがメインってのは?」
意外にも真っ当な作戦に「・・・いいかも」と頷く簪に「なら!」と先程とは打って変わって表情が明るくなる一夏だったが・・・・・
「・・・でも、得意としてる得物だとそうなるけど・・・多分絶対に読まれてる。だいたい・・・さっきも言ったけど、白式は高燃費。長期戦になると二対二の関係性が一気に崩れて不利になる」
此の一夏・簪ペアのネックとなるのは、やはり白式の単一能力である零落白夜の使い方であろう。
何故ならば、零落白夜は有り余る威力を持った一撃で相手を戦闘不能にすることが出来るが、其の代償として膨大なエネルギーを使用しなければならないからだ。
「わ・・・悪い。そうだよな」
「別に・・・その分だと早く勝負を決めてしまえばいいだけの事」
「勝負を早く決める?」
「うん。二対二で互角の勝負をするよりも・・・ニ対一に持ち込んでの各個撃破が望ましい」
此の簪の提案に一夏が眉をひそめる。
其れを感じ取ってか、彼女は更にこう続けた。
「卑怯に感じるかもしれない。でも、向こうだって・・・お姉ちゃんも多分私と同じ考えだと思う。と言うか、誰だってそうする」
「それは、そうだけどさ・・・」
尚も渋い表情の一夏に対し、簪はずいッと顔を寄せて彼の瞳を覗き込む。
余りの唐突な急接近に一夏は「ちょッ、更識さん!?」と顔を赤らめて慌てるが、そのまま簪は確りと目を見つめながら言葉を紡ぐ。
「織斑君・・・勝つことには必要悪だっているの。それに勝てば・・・みんなだって認めてくれる」
「いや、だけど・・・ッ」
「今は・・・私を信じて?」
あんまりにも強い意志を持った瞳でそう語り掛けられるものだから、一夏は「お・・・おう。わ、わかったよ」とついつい首を縦に振ってしまった。
其れを確認した簪は自分なりの「・・・ありがとう」と精一杯の笑みを浮かべる。
「(私は・・・私自身をあの人たちを認めさせる。あの子を・・・奪われない為にも、絶対に。だから・・・・・悪く思わないで。それに・・・もともとこれはあなたのせいなんだからね?)」
其の静かな微笑の下で冷たい思考を張り巡らせて『目的の為ならば、手段をいとわない』と言った具合に自分の思惑を隠しつつ、簪は一夏と共にタッグマッチ戦に対する迎撃作戦を練っていくのだった。
◆◆◆
「やぁあああああッ!!」
「ッ!!」
上記の二組が様々な思惑を張り巡らしている同時刻。
剣道部が部活動で使っている武道場では、部活顧問と一年生部員達に見守られながらある二人の生徒が防具を身に纏って試合を行っていた。
されど其の二人の生徒が手にしている得物は練習用の竹刀ではなく、別の競技である練習用薙刀先竹である。
「てぇえええええい!!」
「おっと!?」
試合は出入口向かって右側の生徒が凄まじい勢いで猛攻を仕掛けていき、普段着慣れぬ防具の動きに手こずる左側の生徒を劣勢に虐って有利に立っている。
上下左右、縦斜めから来る振りに胴当てごと上半身を貫かんとする突き。
其の有り余る気迫に圧倒されて対戦相手の生徒のみならず、周りに座す部員たちも固唾を飲んだ。
「おわッ! マジかよ!?」
「ッ・・・てやぁあああああ!!」
そんな猛攻に堪えられなくなったか。劣勢を強いられている方の生徒がバランスを崩し、後ろへと倒れる。
此の隙を見逃さず、止めを刺さんと一気に右方の生徒が距離を詰めた・・・・・其の時!
「あぁらよっと!」
「な!?」
バランスを崩した左方の生徒が其のままバク転を決めて体勢を立て成したではないか。
そして、其のまま自分を追い込んでいた右方の生徒へ反撃の一手を振う。
「ヴぇぉおろぉお阿”ァアアア!!」
「ッ、きゃぁあああああ!!?」
バシィイイッン!と強烈な薙ぎ払いにより、左方の生徒の持っていた薙刀は取り落とされるどころか、武道場の壁へと叩きつけられる。
其れを合図に「そ、それまで!」と顧問の試合終了の声が掛かるのだったが・・・・・
「ぜぇッ・・・はぁッ・・・ハァ・・・ッ! つ、疲れたぁあ・・・!!」
逆転勝ちを決めた左方の生徒は、其の場に息を切らしつつ四つん這いとなってしまったのだった。
傍から見れば、此れではどちらが勝ったか解らない有様である。
「はぁ、はぁッ・・・お見事です」
黒星を付けられたにも拘らず、未だ余力が残っていそうな左方の生徒が面当てを外しながら頭を振う。
すると其の中から出て来たのは、編み込みを入れて下ろした清楚な黒髪ロングヘアーと端正な顔立ちであった。
「み、見事ねぇ・・・お世辞でも嬉しぃわぁ」
そんな大和撫子に返答しつつ、勝ったんだか負けたんだか判らない疲弊した右方の生徒が面当てを脱ぐ。
さすれば、其処から晒されたのは、白く変色した頭髪と琥珀色と鳶色のオッドアイであった。
「いえ、お世辞なのではありません。私の正直な感想です、”清瀬”さん」
「阿破破破破破ッ・・・ありがとうな、『四十院』さん」
そう言って奇天烈な笑い声で答える春樹に対戦相手の『四十院 神楽』は朗らかで上品な微笑みで返す。
其の二人のやり取りに何故か周囲からは拍手が鳴っていた。
・・・しかして、何故に此の二人が試合を、其れも剣道ではなく薙刀で行っていたのか。其れは今から数刻前に遡る。
其の日の放課後、春樹はいつもの様に生徒会室をカフェ代わりにしようと訪れた。
だが、彼はお目当ての紅茶を頂く事は叶わず、代わりに生徒会室の仕事を承ってしまったのである。
其の仕事と言うのは、剣道部が使用している倉庫の整理整頓だ。なにぶんと重い荷物が大量にある為、男手が欲しかったのだろう。
しかして普段の春樹ならば、この様な戯言は断るのだが・・・なにぶんと美味しい紅茶をご馳走してくれる虚からの頼み事であった為に此れを承諾した。
・・・因みに。
後に上記の事柄を聞いた普段から彼にないがしろにされている楯無はブウを垂れて拗ねたと言う。
そんな事もあったりなんかしつつ、仕事を片付ける為に剣道部へと向かう春樹。
だが、てっきり男子生徒は男子生徒でも学園のアイドルである一夏が来るものだと思っていた部員達には肩透かしであり、冷ややかで白い眼を彼へ突き刺した。
あからさまに歓迎ムードではない痛い視線に胸を悪くしながらも、春樹は一人で仕事を片付けて行っていく。
其の時であった。春樹は片付けの途中で練習用の薙刀先竹を発見する。
今度行われるタッグマッチ戦において自分の提案した槍が実装される事を聞いていた彼は、唯なんとなしに其の薙刀を振ってみた。
其れが何となく性に合った為、「俺ぁ学園のランサーよ!」と何処かの猛犬の様に朱槍に見立てた薙刀を振う。
・・・けれど春樹は失念していた。彼がファンであるクランの猛犬の幸運値が『E』であることを。
たまたま片付けの様子を見に来た剣道部顧問に自分の剣舞・・・もとい槍舞を見られてしまい、何が何やら解らぬ内に練習台として剣道部員との試合を行わされる事と相成ったのである。
「・・・なんでじゃ!?」と最初は嫌がっていた春樹だったが、『ISがなければ唯の弱い男』と舐めて掛かって来た部員達が癪にさわり、ムカついた相手にはついついガンダールヴを使って勝利してしまう茶目っ気を披露してしまった。
其れが部員達の勘に触ってしまい、彼を五体一や十対一の試合を申し込んで袋叩きにしてやろうと画策したのだが・・・並みの修羅場を潜っていない春樹にとって彼女達の剣は畳の上の水練でしかなく、幾ら束になろうと無駄であった。
しかし、其の内に部員の一人が『春樹の持つ得物が長いから卑怯だ』と言い出す。
そんな事もあってか、薙刀の師範代を祖母に持つ四十院に白羽の矢が立ったのである。
「す、すごーい!」
「IS使ってなくても強い・・・って、半端ない!」
「流石は学園のバーサーカー・・・侮れないわね」
だが、其の四十院まで降してしまった春樹に対し、部員達は遂に彼の実力を認めざるを得なかった。
「ご苦労だったわね、清瀬」
「ッ・・・なにが「ご苦労だった」ですか、榊原先生ぇ! ぶっとうしで試合を続けやがって!! 俺ぁ試合をしに来たんじゃのーて、倉庫の片づけをしに来たんですよ!!」
「そんなに噛み付かないで。君の御蔭で皆、いい勉強になったと思うわ」
「何をいけしゃあしゃあと―――――」
其の場にへたり込む自分に上から労いの言葉をかけて来た今回の元凶である部活棟の管理を任されている教員、『榊原 菜月』へ春樹が更に噛み付こうと声を荒らげた矢先・・・「き・・・清瀬、くん!」と彼を呼ぶ声が聞こえて来る。
振り駆れば、其処には先程まで自分へ殺気を指し向けていた部員達が正座をしているではないか。
余りに意外な其の彼女達の姿に対し、「えッ・・・ど、どしたん?」と急激に春樹が冷静さを取り戻した次の瞬間。
『『『す・・・すいませんでした!!』』』
「阿ッ???」
部員達は一斉に春樹へ謝罪の言葉を述べたのである。
此れには流石の学園のバーサーカーもタジタジだ。
「え、あの・・・四十院さん、此れって何じゃぁな?」
「みなさん、今まで清瀬さんに対してあまり良い印象を抱いていなかったので。それを謝罪しているんですよ」
「・・・ほ~ん、今更のぉ」と呟いた春樹の一言に皆の身体がビクッと震える。まるで親に大目玉を喰らう前の幼女の様にだ。
・・・しかし。
「・・・・・阿ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!」
『『『!』』』
怯えて萎縮する部員達を前にし、春樹はいつもの様に快活で奇天烈な笑い声を轟かせる。
「皆、素直で可愛えのぉ。大丈夫じゃっちゃ、そねーな事で気ぃ悪うする程・・・(まぁ、ちぃとばっかしムカついたけど)俺ぁそねーに怒っとりゃせんでよ」
「ほ・・・ほんとに?」
「応ッ、構ん構ん。阿ッ破ッ破ッ破ッ」
ニヤリと笑って頷く彼にパァーッと部員達の表情が明るくなった。
「う・・・器が大きい! か、かっこいい・・・!」
「な、なに・・・清瀬くんの笑顔見てたら何だか胸がぽわっとする・・・!」
「なんかボーデヴィッヒさん達が惚れてる理由がわかるかも・・・ッ」
・・・明るくなるどころか、若干頬に赤みを帯びている部員も居たが。
「さて・・・其れじゃあ榊原先生の驕りで食堂のパフェでも喰おうやぁ!!」
「・・・えッ、ちょっと!!?」
此れもあまりに唐突な発言に『『『えッ! いいんですか、先生?!』』』と期待に胸を膨らませる部員達の眼が声を上ずらせて驚嘆する榊原に向けられる。
「ちょっと清瀬、私はそんな事―――――
「榊原先生?」
―――――な・・・なによッ?」
「俺ぁ・・・タダじゃあやらん質なんです。断りゃあ・・・勝手に俺をタダ働きさせた事で、出るとこ出てもらいますよ、先生ぇ?」
ニッコリと彼女に向けられた春樹の笑顔は、部員達に向けられたものとは全く違う文句を言わせぬドス黒い微笑だった。
此れには榊原も「は・・・はい」と頷くしかなく。其れを皮切りに今まで静かだった部員達から歓声が上がる。
「破破破ッ。阿、そうじゃ。なぁ、四十院さん?」
「はい。なんでしょう、清瀬さん?」
「ちょっと、相談に乗って欲しい事があるんじゃけど・・・よろしいかね?」
自身の財布の中身を確認しながら項垂れる榊原を余所に春樹は今までとは違った悪戯っ子の様な無邪気な笑顔を浮かべるのであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆