IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第111話

 

 

 

「え~っと・・・此れって??」

 

今日の此れより開催されるは、専用機所有者だけによるタッグマッチトーナメント。

其の開会宣言が刻々と迫る中。唯一人単独で今大会に臨む春樹は、バックアップチームとして学園へと赴いたIS統合対策部の面々が居る控室で口をへの字に曲げていた。

 

何故に彼が疑問符ばかりを浮かべているのか?

其れは、今日此の日の為に制作された新型ISスーツへ対する反応に困っているからに他ならない。

今回、新しく開発された春樹のISスーツは、今までのIS運用データに基づいて作成されたウェットスーツ状の全身タイプなのであるが・・・配色は赤と銀色を基調とし、其の胸の中央部にはサファイアの如き鏃型のランプが付いていた。

 

「―――――いやッ、”カラータイマー”やんけ!!」

 

「そうだよ」

 

「「そうだよ」ッ!?」

 

何ともあっけらかんとした壬生の肯定文に「えッ、マジで言ってんの?!」と、信じられない声を上げて顔をひしゃげた。

 

『カラータイマー』。

其れは、初代ウルトラマンを始めとする全てのウルトラ戦士の胸に取り付けられている丸いランプの名称である。

作品によってはライフゲージやエナジーコア、パワータイマー等と様々な呼び方をされているが、要するに『活動限界を知らせるもの』だ。

起源は諸説あるが、『怪獣に対して無敵すぎる設定を鑑み、『時間制限』という弱点を設けた』と云うものが有力な説の一つである。

 

「いやいやいやいやいやッ、おかしいでしょ!! なしてカラータイマー付けたんですか?! 此れがピコンピコンって鳴ったら、「俺ッ、弱ってます!」って宣言してるようなもんですからね!! 此れじゃあまんまのウルトラマンじゃねぇですかッ!!」

 

春樹の言い分は、ごもっともなものであった。

上記にもある様にカラータイマーは活動限界を知らせる時限装置。エネルギー量が残り少なくなってくると、此のサファイアの輝きが血を思わせるルビーの色へと様変わりし、警告アラームを周囲へと響かせる。そんなものが付いていては、戦闘に悪影響が出る事は必須であろう。

しかも、ちゃんとISを纏った状態でもカラータイマーが露出する様に琥珀を調整する始末。

 

「何考えてるんですか!!」

 

「ぎゃーぎゃー喚くな、清瀬。ちゃんと考えてある」

 

「やれやれ」と面倒臭そうに溜息を吐く芹沢に「ホントかよ?! つーか、此れって円〇プロにちゃんと許可取りしてるんですか?!!」と勢い良く差し迫る。

そんな彼を「まーまー」「その辺にしてください、我らが刃」「どうかここは冷静になって」と周囲の技術者連中がなだめた。

其れが通じたのかどうかは定かではないが、一応の落ち着きを取り戻した春樹は「・・・で、頼んでいたものは?」と疑問符を投げ掛ける。

すると、「其の言葉を待ってましたッ!」とばかりにどっと周囲の声が弾んだ。

 

「勿論ですとも、我らが刃! 刃殿に応えようと総力を上げて作り上げました!!」

「まずは最新の実装武器としてリクエストされた『槍』武装!」

「中でも試作品として完成に扱ぎ付けた品を持ってきました!!」

 

餌を求める雛鳥の様に口喧しい担当技術者連中が持って来たのは、彼らの身の丈を優に超える六尺ばかりの得物であった。

 

「試作壱號型高熱斬槍、名を『逆叉』!!」

「モデルとしては、日本独自の進化を遂げた『大身槍』を基調としております!」

「穂先は一尺強。その長大な穂先を利用した薙ぎ払いも可能で、扱いは難しいとは思いますが、我らが刃の手に掛かれば無類の強さを―――――」

 

「解った、解ったッ、解りましたから! そねーに一遍に喋らんでくだせぇよ!!」

 

担当開発者達の口から放たれる雪崩の如き怒涛の説明文と謎の圧迫感に「もう止めてくれ」とばかりに春樹は両掌を挙げる。

其れに対し、壬生が未だ喋り足りない彼らを何とか抑えると、対装甲IS用大身槍『逆叉』は春樹の掌へと握られた。

 

「ッ・・・こりゃあ・・・!」

 

担い手の元へと収まった逆叉はキィインッ!とけたたましく鳴いたかと思えば、其の穂先をルビーの様に真っ赤に染め上げた。

 

「おぉッ、逆叉が喜んでおる・・・!」

「自らの主がわかるとは・・・我々はまたしてもとんでもないものを作ってしまいましたな!」

「いやいや、これもすべては我らが刃の御力故よ!!」

 

逆叉の嘶きに何を感じ取ったのかは知らないが、やんややんやと騒ぎまわる彼らへ「喧しい!!」と芹沢の一喝が響き渡る。

 

「ッチ、まったく・・・騒ぎ過ぎだぞ、お前ら。清瀬、とりあえずそれは琥珀に仕舞っとけ」

 

「はい。其れで、ショットガンの方は?」

 

「心配するな、清瀬少年。そっちは試合までには調整しておくよ」

 

「・・・出来れば、今此処で貰いたかったんじゃけどな」と呟く春樹に壬生が「更識代表候補性に”例の件”を話したのか?」と問うた。

 

「いや・・・実は、まだ・・・・・」

 

「おいおいッ・・・まだ話してなかったのかよ! もうコッチは話が纏まってる。本人の預かり知らぬ所で進めるのはマズいだろうが!」

 

「落ち着け、芹沢。例の件は、トーナメントが終わってからでも遅くはあるまいて。長谷川副本部長も了承しているんだ、焦るなよ。それに・・・清瀬少年の話だと、今日も”また”あるかも知れないからな」

 

そう言って壬生はドカリと春樹の目の前へ幾つものアタッシュケースを並べる。

開けば、中には水色の液体の詰まった弾頭が敷き詰められているではないか。

 

「・・・話は通してあります。榊原 菜月って言う美人な先生に渡して下さい」

 

「だけどよ、本当に襲撃なんて来るのか? あんまりにも備え過ぎじゃないか?」

 

「其れもまた良しです。襲撃がなかったらなかったで、其れもまた良し。笑いものになるのが、俺だけで済む話ですよ。破破破ッ」

 

ケラケラ奇天烈な声で笑う春樹であったが、其の眼は緊張感に満ち満ちたものであり、其れを見た技術者たちは思わず息を飲んだ。

そんな彼らに対し、春樹は「其れじゃあ、俺ぁ此処いらで。新しい大業物をありがとうございました」と礼を述べて控室を後にする。

 

「さてさて・・・それじゃあ俺達も準備に取り掛かるか」

 

「しかし、室長。我らが刃の予言する様に・・・襲撃なんて本当にあるので?」

 

「だったら賭けてみるか? 俺は清瀬少年の予言的中に二万だ!」

 

壬生の此の発言に「賭けになりませんよ!!」とドッと笑いが巻き起こった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「それでは・・・全学年専用機持ちタッグマッチトーナメント開会の挨拶を更識 楯無生徒会長からして頂きます」

 

第一アリーナに設けられた特設ステージ壇上脇へ立つ虚の挨拶により、檀上中央に立っているマイクスタンド前へと楯無が立つ。

其の隣では、生徒会メンバーである一夏を始めとした面々が立っている。

 

「おはようございます。皆さん、今日は全学年専用機持ちタッグマッチトーナメントです。勿論の事、専用機持ちと銘打っているだけあって出場選手はたったの十一名。ですが、その試合内容は決して見ていて無駄になるような物にはならないと思います」

 

会場に居る全員の視線が集まる中でも関わらず、相も変わらぬ圧倒的存在感を放ちながら一切淀みのない澄んだ声でスラスラと流れるように言葉を紡ぐ楯無の姿は、流石の生徒会長と云ったものだ。

 

「・・・・・ん?」

 

しかし、厳粛な雰囲気の中で一夏はある違和感を覚えた。

其れは起立した姿勢のまま視線だけを動かして生徒達のすぐ近くに並んで集合している教師陣の中で、コソコソと不審な行動をする人物がいたからである。

其の人物とは、逆三角形が特徴的なフォックス型眼鏡をかける一見御堅めに見える教頭先生であった。

先程から何故か自分達を睨み付ける様な視線を送っているのだが、其の表情は何処か青白い。

 

「ん~~~? どうしたの、おりむー?」

 

「いや・・・なんでもない」

 

未だ眠気眼を引き摺る本音からの問いに気のせいかとばかりに一夏は首を横に振るった。

だが・・・彼は見逃し、失念していた。ポケーと呆ける彼女の隣で、口端を吊り上げる男が居た事を。

 

「さて・・・お堅い話はここまでにしといて!」

 

「・・・え?」

 

そして、此の生徒会長が普通に開会式挨拶を終える筈がない事を。

 

「今日は参加しない生徒の皆さんにも思う存分楽しんでもらう為、生徒会でとある企画を考えました。その名も『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』!!」

 

極々普遍的な淡々とした挨拶の最後を締めたのは、とても弾むようないつもの楯無の声と胸元で開いた『博打』と書かれた扇子だった。

 

「えッ・・・えぇぇッ!!?」

『『『ッ、うわぁあああああああ!!』』』

 

楯無からの宣言に対し、綺麗に列を作って並んでいた生徒達が一夏の疑問の声を掻き消して一斉に湧く。

 

「ちょ、ちょっと楯無さん! これって完全な賭け事じゃないですか!!」

 

「大丈夫よ、織斑君。一応、これは生徒達の応援の一環・・・所謂、レクリエーションの一つであって賭け事ではないの。それに、もう既に交渉済みよ」

 

「こ、交渉って・・・まさか!」

 

脊髄反射でそう楯無にツッコミを入れた一夏が恐る恐る教師陣の方へ視線を移してみれば、千冬や山田教員を除いた全員の視線が上か下ばかりを見ているではないか。

 

「もしかして・・・先生達を買収したんですか、楯無さん?!」

 

「買収だなんてとんでもない。ちょっとした取引をしたの、取引を」

 

「と、取引って・・・!」

 

未だ納得のいっていない一夏が口元をヒクヒクさせていると、本音を隔てた隣から普段では絶対に聞こえては来ないであろう甲高い声が聞こえて来た。

 

「水を差すようで申し訳ございませんが、皆様方! どうやら、今し方の生徒会長よりの御言葉に納得のいっていない人間がチラホラいるようでして・・・」

 

「き・・・清瀬?」

 

言わずもがな。声の主はケタケタ笑みを浮かべる学園一の飲んだくれである春樹だ。

其の彼の声に皆が耳を傾ける。

 

「しかし、此処は民意を反映いたしましょうやぁ! さぁ・・・さぁさぁッ、此のレクリエーションに賛成の者はどうぞ拍手を!!」

 

『『『わぁあああああ!!』』』・・・と、春樹の掛け声と同時に巻き起こったのは、賛同を表す満雷拍手の雨あられ。

彼は其の拍手に気を良くしたのか。「・・・ッチ!」と舌打ちをする千冬を前に「阿ッ破ッ破ッ破ッ!!」と奇天烈な笑い声を響き渡らせた。

 

「清瀬、お前一体なにを・・・! ま、まさかお前も?!!」

 

「破破破ッ、そねーに怖い顔をするな糞垂れの方の織斑ちゃん? 此りゃあ唯のレクリエーションなんじゃけん」

 

「そーそー。これを決めるための多数決を取る日も、おりむーは生徒会室に来なかったからね~」

 

「じゃよねぇ、布仏さん。じゃけぇ、オメェに文句を言う権限はないんじゃなぁ・・・此れが!」

 

「て、テメェ!!」

 

春樹のしたり顔に一夏は、今日此の日の為に今まで懸命に切磋琢磨して来た自分を始めとする出場者達を馬鹿にされたのではないかと感じ、彼に食って掛かる。

しかし、そんな憤る一夏に春樹は相変わらずの嘲笑を浮かべながら「其れにじゃ・・・ほれ、あれ見てみぃ」とある場所を指さす。

 

「ッ・・・!」

 

其の指差された場所を見た一夏は思わず息を詰まらせた。

何故ならば其の視線の先に居たのは、お祭り騒ぎの周囲に流される事なくキリリッと集中した表情を保つ出場者達の姿があったからだ。

 

「ん~、何ともエエ顔じゃ。実にそそられる仕上がった表情じゃ。其れに比べて・・・オメェは何て顔をしとるんじゃ?」

 

「なんだと・・・ッ?」

 

「あの会長の下賤な策を聞いたオメェの顔・・・ホントに無様とした言いようがないでよ。エエか、織斑? こー言う時はな・・・笑え、笑うんじゃ。破破破破破破破ッ!」

 

ケラケラ笑う春樹にゾワッと一夏の背中に寒気が走る。

此の男の此の笑い声が、実に実に自分の癪に障る事が改めて理解することが出来た。

 

「清瀬・・・俺はお前に勝つ!」

 

「勝つ? 阿破破破ッ! 此れは実に面白い。オメェは未だ自分と俺の実力差を理解できていないようじゃ」

 

「うるさい! 確かに・・・俺はお前より弱いかもしれない。でも、俺はお前と違って泣きもすれば笑いもする人間だ! 諦めないッ、逃げ出さずに戦える人間だ!! 人間を舐めるなよッ!!」

 

「ッ・・・破破破・・・阿ーッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!!」

 

一夏の言葉に目を見開いた春樹だったが、次に彼の口より紡がれたのは相変わらずの嘲笑染みた笑い声。

其の笑い声に一夏は益々憤りを感じ、彼の胸倉を掴もうとしたのだが・・・ふと、あんなにも騒がしかった周りが静かな事に気が付いた。

 

「素敵・・・!」

「さすがは千冬様の弟ね! あのバーサーカーに啖呵を切ったわ!!」

「そんなヤツ、コテンパンにやっちゃえ織斑君!!」

『『『織斑! 織斑!! 織斑!!!』』』

 

「え・・・えッ・・・?」

 

振り返ってみれば、一夏を応援する熱を帯びた織斑コールがアリーナ中に響き渡っているではないか。

其処で、漸く彼は自分が場を盛り上げる為の出汁にされてしまった事に気づいた。

 

「阿破破破破破ッ。さぁ、会長! 幕引きの御言葉お願い致します!!」

 

「(まったくもうッ、清瀬君! これじゃあ私が添え物みたいじゃない!!・・・まぁ、いいわ)出場者の皆さん、思うことはあると思いますが・・・しっかりと準備をして試合に挑んでください。それではこれで開会式を終わります」

 

そう言って楯無はステージ上で深々と礼をし、タッグマッチトーナメント開会の挨拶を締めくくる。

跡に残ったのは、アリーナの大半を占める熱狂と申し訳程度にある困惑の感情だけ。

 

「うわぁ・・・流石は清瀬少年の通う学園だな・・・ッ」

 

「・・・どいつもこいつもイカれてやがる」

 

・・・そんな状況をモニターで見ていたIS統合部の面々は、若干引き気味であったと云う。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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