秋の帳が下りる頃。専用機所有者達の技術向上と云う面目で急遽開催される事となったタッグマッチトーナメント。
しかして何処かの阿呆が予想した通り、顔のない顔を持った狼藉者達が出場者達を手にかけんと剥き出しの牙のまま襲撃をかけて来た。
だが、鋼の乙女達が居の一番にメインカメラで確認したものは、悲鳴を上げて逃げ惑うばかりの群衆ではない。
「撃ちぃ方、始めぇッ!!」
《ッ!!?》
まるで自分達を待っていたかの様に轟く鬨の声とライスシャワーの如く撒き散らされる弾丸の雨あられであった。
ズダダダダダダッ!!と扇形陣形へ配備された教師部隊から一斉斉射に襲撃者・・・ゴーレムⅢ達の周囲に白煙が上がる。
《・・・―――ッ・・・》
けれども流石はゴーレムⅢか。
教師部隊の待ち伏せ攻撃に驚いたものの、自分達に向かって放たれた弾丸を機体の周りに浮遊する球状物体を円状に展開。其処からシールドを発生させる事で射撃の全てを容易く防ぐ。
そして、筒状の装置が備えられた左腕を無造作に向けると其処から甲高い音と共に凄まじい光が放たれた。
「ッ、各員散開!」
しかし、放たれた熱戦を流れる様に回避すると二手に分かれて再度射撃を開始する。
尚も懲りぬ教師部隊からの攻撃にまたも此れを防がんとシールドを展開するゴーレムⅢだったが―――――
「目標、左腕砲塔!」
「撃て―――ッ!」
二手に分かれた一方の小隊がゴーレムⅢのシールドを弾き返し、もう一方の小隊が其の開いた穴に向かって弾丸を撃ち込んだ。
勿論、見るからに分厚い装甲を持つゴーレムに唯の弾頭で左手の砲手を潰す事は出来ない。
《―――ッ!!?》
だが、何の策もなく彼女等が攻撃を行った訳ではない。発射された弾頭が左手砲塔に着弾するや否や、瞬く間に其の部分を青白い氷が覆ったのである。よって左手砲手は強制的に機能停止へ陥れられた。
其れを合図に部隊の一人が「今よ!」と誰かに合図を送る。
「こんのぉおおおおおッ!!」
其の合図に応え、瞬時加速でゴーレムへと迫ったのは、近接格闘武器である青龍刀を振り上げた鈴だった。
《ッ―――――!》
されど此の斬撃を右腕に備えられたブレードで耐え忍ぶ。
酷く歪で大きな金属音が戦場に響き渡ると同時に「もらいましたわ!」と云う言葉がショッキングピンクの流星となってカチコチとなったゴーレムⅢの左腕を撃ち抜いた。
撃ち抜かれた左腕は氷結弾とビーム攻撃の温度差に耐える事が出来なくなり、飴細工の様にバラバラに砕かれる。
「鈴さん!!」
「解ってるわよ、セシリア! 墜ちろぉおおッ!!」
《ッッ!!?》
後方からの支援攻撃を構えたセシリアの声に応える様に鈴はズドンッ! ズドンッ!!とゴーレムの頭部目掛けて命一杯の衝撃砲を発射。
其の至近距離の砲口から放たれた不可視の砲弾はゴーレムの頭部をアルミ缶の様にグチャグチャに潰し、地面へと共に落下させた。
《ッ・・・ッ・・・・・!》
「・・・せい!」
頭部電脳を潰されながら尚も立ち上がろうとするゴーレムに鈴は馬乗りとなって頑丈な装甲を無理矢理食い破りつつ留めを刺す。さすれば、ゴーレムは無機質なノイズを呟きながらメインカメラから光を消した。
「よし・・・!」と安堵と喜びの声を上げるのも束の間。彼女の足元に向って一筋の熱線が放たれる。
其の光が来た方へ目を向ければ、此方を見るゴーレムⅢが刃と砲口を向けて佇んで居た。
「もうッ・・・一体何体いるのよ!」
「あら? 鈴さん、別に逃げても構いませんのよ?」
「それこそ冗談! 行くわよ、セシリア!!」
「喜んで!!」
「皆、凰さんとオルコットさんを援護よ!!」
『『『おーッ!!』』』
◆
『ワルキューレ部隊』。
其れは今日のゴーレムⅢ襲撃を予め想定した春樹によって組織された私設部隊である。
構成メンバーは四十院 神楽を始めとした剣道部員と彼等の呼びかけに答えた一般生徒で、前以て襲撃前に訓練機である打鉄やラファールを纏っていた。
だからこそ襲撃時、春樹の緊急校内放送を機にロックされたセッションを無理矢理抉じ開け、非武装の一般生徒の避難を開始。即座の対応をする事が出来た。
・・・・・しかし。
《―――――!》
「くぅう・・・!」
其の避難の途中、ゴーレムⅢの襲撃に合ってしまった。
無論、模擬戦闘を前提とした第二世代訓練機が第三世代クラスの殺戮マシンに適う訳もない。
何とか自身最大の技量で立ち向かえど、劣勢に強いられる事は確実。
《―――――!!》
「ッ、きゃぁあああああ!!」
「ハミルトンさんッ!」
ゴーレムのブレード攻撃に押し負け、シールドごと後方へと吹き飛ばされるティナ・ハミルトン。
四十院はそんな彼女の援護に向かいたいのだが、なにぶんと彼女も我儘な鋼の乙女の刃を受け止めるのに忙しい。
しかも背後にはシェルターに急ぐ一般生徒もいる為、安易に後ろへ退くことが出来ない。
「ッ―――!」
「ぐッ・・・うぅ・・・!」
そうこうしている内、ゴーレムⅢの圧倒的に力量に押されて四十院も後方へ歪な金属音と共に薙ぎ倒される。
其れによって彼女の背後へ控えていた一般生徒達から怯えた悲鳴が叫ばれ、其の叫びに反応したゴーレム達が彼女達に無機質なメインカメラを向けてノイズを吐く。
「ッ・・・さ、させません!」
避難生徒を襲わせわせんと四十院はすぐさま態勢を立て直し、ゴーレムの身体に刀を突き刺ささんと刃を向ける。
《・・・?》
「なッ・・・!?」
されど頑丈なゴーレムの装甲を貫く事は適わない。
其のままゴーレムは四十院の刀を右腕のブレードで叩き折り、左腕砲手を彼女の目の前へと突き出す。
反射的に思わず四十院は目をつむってしまうが・・・待てども待てども射撃による衝撃が来る事はなかった。
不審に思った彼女が目を開けてみれば、其処には古びたブリキの玩具様な動きをするゴーレムが居るではないか。
「シャルロット! 今だッ、やれ!!」
「了解!!」
「!」
四十院の頭の上に浮かんだ疑問符を掻き消す様に彼女の上を飛び越えたシャルロットが振り上げた六十九口径のパイルバンカーを突き立てる。
「いっけぇえええええ!!」
ドォウンッ!と云った破裂音と空薬莢が宙を舞った後、グシャリ!とゴーレムの電脳が刺し潰された。
「大丈夫か、四十院?!」
「は、はい! ありがとうございます、ボーデヴィッヒさん!」
ラウラとシャルロットのペアに助太刀され、漸う胸を撫で下ろす四十院。
されど一体のゴーレムを倒した所で、其の後ろには新たなゴーレムが控えている。
「四十院・・・皆を連れてシェルターへ急げ」
「し、しかし!」
「ここはボク達と先生達に任せて!!」
合流した教師部隊が避難生徒達の前へ槍衾ならぬ銃衾を築いて立ち塞がる。
しかし、一体どれだけの時間が稼げるであろうか。ゴーレムⅢに真っ向から立ち向かえるISはラウラとシャルロットの機体しかないと言うに。
「撃てぇええッ!!」
だが、其れがどうしたと言わんばかりに教師部隊は氷結弾の装填されたライフルで一斉射撃を行った。
弾頭がゴーレムの機体表面へ着弾する度に氷の結晶が一面に飛び散って周辺の気温を下げてゆき、少しでも長く生徒達が避難する為の時間を稼ぐ。
「早く!」
「神楽、ここは先生達と二人に任せて!!」
「わ・・・解りました。さぁ、皆さん! 行きましょう!!」
自分の弱さに下唇を噛み締めながらも四十院は一般生徒達を連れて地下にある避難シェルターへと駆け出した。
《ッ―――――ッ!!》
「ッ!?」
しかし、そんな彼女らに向けて氷結弾の被害を免れた一体のゴーレムⅢが無造作に左手主砲を差し向ける。
そして、砲口が熱線を吐き出す為に赤く熱を帯びた・・・・・其の時だった。
「退けぇッ、雑魚共がぁああッ!!」
『『『ッ!!』』』
左腕砲手を構えたゴーレムが、ザギィイイッン!と云った甲高い金属音と獣の様な唸り声と共に真っ二つに斬り裂かれる。
目の前で起こった状況と其の唸り声へ驚嘆する皆を余所に声の主は更に自分の手に握られた長得物の槍で残ったゴーレムⅢ達を薙ぎ払う。
其の槍の穂先で突き刺して切り裂く様はまるで物語に出て来る戦士其の物であり、加えて竜の形の鎧を纏った姿が更に猛々しい。
「「ッ、春樹!」」
其の勇将の名をラウラとシャルロットが朗らかな笑みを浮かべて呼ぶ。
其の声に反応し、一切合切を斬り裂き刺し潰した春樹が石突を床へ差し向けて彼女等の方を向く。
「応ッ、ラウラちゃんにシャルロット。何体倒した? 俺ぁご覧の通り・・・何体じゃ? やべぇ、数えるの忘れとったわ」
〈春樹、さっきのを合わせて十一体よ〉
両肩に手を回す琥珀の言葉に春樹は「えッ・・・多くね? 想定外なんじゃけど」とヘラヘラ言葉を並べ、ゴーレム達から噴き出たオイルで汚れた四ツ目のヘルメットをサンバイザーの様に上げる。
人目に晒された琥珀色の炎が漏れる彼の両眼を見て、避難生徒の何人かが何処かウットリとした表情をしていた。
「ボクとラウラでさっきの機体を合わせて三体目だけど・・・って、どうしたのかなラウラ?」
「い・・・いや、何でもないぞ!(そうか、春樹はもう十体以上も・・・・・流石は私の夫だな!!)」
琥珀の言葉を聞いて満足そうに頷くラウラに彼女の声が聞こえないシャルロットは疑問符を浮かべる。
春樹は、そんな二人の頭を「そうか、そうか!」と撫でてやった。
「阿? おぉッ、四十院さん! 大事はないか?」
「え、えぇ・・・私は大丈夫です。そうだッ、清瀬さん。壬生室長さんからこれを・・・」
自分達のやり取りを何処か羨ましそうに見ていた四十院に春樹が声をかけると、彼女はイコライザとして背負っていた武装を彼に渡す。
其れは春樹が前々からIS統合対策部に制作を頼んでた対装甲IS用ショットガンライフルであった。
「おぉッ! ありがとうな、四十院さん。じゃけど、使ってくれても良かったんじゃで?」
もっともな春樹の言い分に苦笑いを浮かべる四十院の隣で、ハミルトンが彼に噛み付いた。
「それには使用制限のロックが掛かってるの! 御蔭で神楽は荷物を背負いながら戦ってたのよ!!」
「ッ・・・そうなんか? じゃあ俺ぁ君に迷惑をかけ―――――」
「謝らないで下さい、清瀬さん。もしロックがかけられていなくても、私はこれを使う事はしません」
「どうして?」と春樹から投げかけられた疑問符に四十院は「だって・・・私は銃は苦手なんです。それよりも弓が得意なんです」と答える。
其の彼女の笑顔に「そうか!」と春樹が笑顔で返すと何故か隣に居たラウラとシャルロットがプクリ頬を膨らませていた。
「じゃあ、あれじゃ。此の逆叉を使うてくれや」
「えッ、よろしいのですか?」
「応。其れに薙刀使いの巧みな四十院さんなら、上手う使うてくれるじゃろうけんな」
「は、はい! お任せください!」と春樹から長得物を受け取った四十院達は一般生徒達を連れてシェルターへと急ぐ。
そうしてラウラ・シャルロットペアと教師部隊に合流した春樹は戦闘教員の一人からショットガンの弾薬各種を受け取ると第一アリーナの方を向いた。
「他の拠点は先生らぁが意外と頑張ってくれよーるけん、大丈夫じゃろう。フォルテ先輩とケイシーパイセンのバカップルも気怠うても戦ってくれとるようじゃし」
「ならば、あとは第一アリーナだけか?」
「じゃー。あっこはゴーレム共の巣窟になっとるけんな。早う行って榊原先生や簪さんらぁを助けちゃらんと! 二人はまだ大丈夫か? 先生らぁも戦えます?」
「ふんッ。舐めてもらっては困るぞ、春樹! 私をみくびるなよ?」
「うんうん。ボクだってまだまだ戦えるよ!!」
「私達も大丈夫よ、清瀬君!」
鋭い眼で笑みを浮かべる二人と部隊各員に「阿破破ノ破ッ、其の意気は良し!」と奇天烈な笑い声を上げた後、春樹は面当てを下ろして目的の場所に向かってブースターを吹かしたのであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆