IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第117話

 

 

 

「・・・阿”ぁ~、また此処か・・・」

 

俺ぁ気がつくといつの間にやら”あの場所”に居った。

一階から二階までが吹きぬけになっとる図書館のような場所じゃ。

俺ぁ此処の”主”とは否が応でも旧知の中で、”彼”は椅子の上で微睡む俺に何処か冷たい笑顔を浮かべて話しかけて来る・・・・・と、思うとったが、今回は違うた。

 

〈・・・気分はどう、春樹?〉

 

そう優しくも眠たそうな声色で俺へ言葉を放って来たんは、前にはなかったソファの上でゆったりと身体を横たわらせている白髪の美少女、琥珀ちゃんじゃ。

ソファが黒いけん、彼女の雪みたいに白い髪と着とる紅いワンピースが実に良ー映えるでよ。

 

「・・・どうじゃろうな。微妙な気分じゃわぁ」

 

ここに居る言う事は、福音ちゃんと戦うた時と同じように相変わらずのズタボロの状態でベッドの上で寝よーるんじゃろう。

其ん前にあった事は何処か断片的じゃけども・・・ハッキリ覚えとるんは、あのダメバナ野郎からの不意打ちから俺を守ってくれた琥珀ちゃんの叫び声と野郎に対する純粋な殺意だけじゃ。

其処から先の事は、指の爪先程も覚えとらん。

 

「あぁ・・・怒りに任せて”暴走”した後って言うんは、いっつもこうじゃ。酷い虚無感と罪悪感に苛まれらぁ。まぁ、あの糞の方の織斑に対する罪悪感はこれっぽちもねぇがなッ」

 

〈そうなの。フフッ♪〉

 

俺のジェスチャーを入れたボヤきが受けたんか、琥珀ちゃんは優しい微笑みを浮かべてくれた。

其ん表情に釣られて思わず俺も口端が上がる。

 

「そう言う琥珀ちゃんは、大丈夫なんか? 覚えとらんが・・・かなり無茶をしたんじゃねぇか、俺?」

 

〈そうね。春樹ったら、あんなにも激しく求めて来たもんだから・・・流石の私もグロッキー気味。眠たくてしょうがないわ〉

 

「ッ、そ・・・そうか。そりゃあ、悪かったな」

 

年相応の無邪気な笑顔と違うて、何処か妖艶な瞳に俺は思わずドキッてしてしまう。

意識が目覚めて半年ぐらいしか経ってないって言うに随分とマセたもんじゃ。女の子は成長が早いと云うが、ホンマじゃのぉ。

 

〈だから私・・・ちょっと寝るわ〉

 

「寝るんか? どれくらい?」

 

〈大丈夫、ほんの少しばかりよ・・・しん、ぱい・・・しないで・・・〉

 

琥珀ちゃんはニャンコみたいなアクビをした後、何処からともなく取り出した毛布を頭から被る。

 

〈あ・・・そうそう。ねぇ・・・春樹?〉

 

「阿?」

 

〈ちゃんと・・・ラウラを・・・抱きし、めて・・・あげてね・・・〉

 

「・・・は? どういう意味じゃ、そりゃあ?」

 

「ふわぁ~~~ッ・・・すぐに、わかるわ・・・じゃあ、おやす・・・み・・・・・ッ」

 

また大きなアクビをした琥珀ちゃんはそう言って目を瞑った。

其んアクビが移ったんか、俺も目がトローンとして来て・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「・・・・・・・・痒ッ・・・いや、ホントに痒い!」

 

『『『なッ!!?』』』

 

意識を覚醒させた春樹が亥の一番に気付いた事は、全身を奔る痒みだった。

其れが余程痒かったのか。彼は呼吸器を付けたままノーモンションで起き上がると身体中をガリガリ掻き毟る。

其の春樹の突然の行動にベッドの周りに居た全員が目を剥いた。

 

「だ、大丈夫なのかい清瀬君?!!」

 

「阿ッ? ありゃ、長谷川さん。なして此処に?」

 

「えッ、い、いや・・・君が負傷したと聞いて、急いでIS学園にッ!」

 

「おぉッ、そりゃあどうもありがとうございます。あと悪いんですが、背中掻いてもらえます? 痒い所に手が届かんので」

 

「お前ぇ・・・心配かけやがって!!」

「痛ッ!?」

 

何とも軽い春樹の背中をバチィッンと叩いたのはヤレヤレと呆れ顔の芹沢で、其の隣では壬生を始めとしたIS統合部の面々が彼の無事にやんややんやと歓声を挙げる。

 

「良かったッ、本当に良かった! 一時はどうなる事かと持ったが・・・本当に、本当に・・・申し訳なかったッ!! 暴走していたとはいえ・・・私達は君へ向けて―――――」

 

「ちょ、ちょっと! 泣かんでくださいよ、壬生さん!! 其れに、しょうがないですよ。プッツンしたとはいえ、俺ぁ暴れていたんですから。止めるのは当然ですよ」

 

「そうですよ。それに言ったでしょ、コイツは殺しても死ぬような人間じゃないんですから。だから、少し手荒な真似しても構いませんよ」

 

「其れは其れで酷ぇな、芹沢さん!!」

 

『『『ぷッ・・・はっはっはっはっは!!』』』

 

三人のやり取りに対し、先程までズーンと沈んでいた空気がパッと明るくなって皆の笑いが部屋全体に響き渡る。其の皆の笑い声に釣られて春樹も又、彼独特の奇妙な笑い声を上げた。

しかし、彼は其の笑い声を早々に切り上げるとキリリと目を三角にし、「其れで・・・状況はどねーですか?」と低い声を出す。

すると、其の声と表情に釣られて皆の表情が一気に険しくなった。

 

「襲撃者であるゴーレムは君達、専用機所有者と教師部隊・・・それにワルキューレ部隊だったかな? 皆の活躍でその全てを撃墜する事に成功。それに君が色々と準備していてくれていた御蔭で被害は最小限に抑える事が出来た。若干の負傷者はいるものの・・・皆、無事だよ」

 

「そいつは良かった。其れを聞いてホッと一安心ですよ。・・・因みにですけど、襲って来たゴーレムは何体居ったんですか?」

 

「清瀬少年が晴天極夜で何体も一気に消し炭にしてくれた御蔭で、詳細な数は把握できていないが・・・その他の専用機持ち達の破壊した残骸の計数から見て五十体程度だろう」

 

壬生の言葉に春樹は「そうですか・・・」と頷くと考え事でもするかのように眉をひそめたが、すぐに別の話題を口にした。

 

「処で・・・織斑の野郎はどうなりましたか?」

 

其の言葉に皆は何とも度し難い表情をする。芹沢と壬生に至っては、怒りの感情を隠す事無く晒している。

 

「こう言ってはなんだが・・・血迷った彼の行動のせいで、清瀬少年を氷結弾で強制停止する事に至った。当然、我々としては彼を許す事など出来ない」

 

「壬生さん、そんな丁寧な言葉を使わなくてもいいんじゃないですか? あの野郎は、清瀬の言う通りのクソ野郎だった。俺にはそれで十分ですよ」

 

芹沢の言葉に「阿破破破!」と春樹は笑うと今度は「其れで倉持の人達は、まだいますか?」と彼等に聞いた。

其の質問の意図が解らない皆は顔を見合わせて疑問符を浮かべる。

 

「あ、あぁ・・・まだいるぞ。君が此処に運ばれて来てから、まだ一時間も経っていないからな。臨時避難所になっている格納庫にいるんじゃないか?」

 

「破破ッ、そいつは好都合。誰か、俺の制服の上着を持っとりませんか?」

 

そう言って制服の上着を探す春樹に芹沢が疑問符を投げ掛ける。「・・・何考えてんだ、清瀬?」と。

どうして彼がこの様な問いかけをしたのか。

其れは春樹の顔がどことなく歪んでいたからだ。何かを謀を企む薄笑いを浮かべていたからだ。

 

「破破破破破ッ。なぁに・・・唯、野郎に責任を取ってもらうだけでさぁ」

 

そう言って彼は高良から受け取った上着の内ポケットに収納されていたスキットルの中身を勢い良く呷る。

 

「うわ・・・禄でもない事を考えてるな、コイツ」

 

此の春樹の企み顔に芹沢を始めとした何人かが苦笑した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

―――――此処はIS格納庫兼整備室。

ある水色眼鏡っ子にとっては思い入れのある場所であるが、現状では臨時の避難所兼治療室へと変貌している。

中ではゴーレムⅢ軍団を退ける事に成功したものの、名誉の負傷を受けてしまった功労者達が集まっていた。

・・・まぁ、名誉の負傷と云っても重篤な生傷を負った者は一人もいない。

此れも鋼の乙女達との戦闘時に距離を取って闘うようある飲兵衛に指摘された為だ。御蔭で彼女達は傷を負ったとしても軽度の火傷や打撲ぐらいで済んだ。

・・・しかし。

 

『『『・・・・・・・・』』』

 

学園を襲った賊軍を最小限の被害で撃退したというにも関わらず、皆の表情は暗いものであった。

理由は言わずもがな、原因は防衛戦の終盤であった第一アリーナで行われた敵味方入り乱れての総力戦。

其処で、ある若輩の騎士が同じく防衛勢力の金目として敵陣深く斬り込んでいた銀飛竜の逆鱗をあろう事か荒い鑢で削った。

其のせいでブチ切れた銀飛竜は怒り狂い、敵であるゴーレムⅢどころか味方である防衛勢力さえも消し炭にしようと金の焔を振り撒く。

もし彼の仲間の機転と恋仲である黒兎の能力がなければ、全員が炭化されていた事だろう。

 

「・・・ッ・・・・・」

 

さて・・・其の原因を作る事と相成った若輩の騎士は、チラチラと事情を知っている人間達に晒されながら格納庫の隅でブツブツと何やら呟く。

其の隣では彼を思う紅の鎧を持つ乙女がオロオロしながらも寄り添い。其の前では騎士の姉である世界最強の戦乙女がゴゴゴッと云った具合のオーラを放っている。

其れをアワアワと眺めるは騎士のバックアップチームだ。

 

襲撃事件終幕後。

氷漬けとなった飲兵衛が運ばれる隣で、フレンドリーファイアを行った騎士は自身の姉に頬を叩かれての折檻を受けた。

其の様は傍から見ても背筋が凍って顔が青ざめる様なものであった為、折檻を受け終わった後の彼に皆は同情の目を向ける。

・・・だが、そんな周囲の情けの目に流されない人間が少なからず居た。

 

「・・・」

 

其れは若輩の騎士と共に今回のタッグマッチトーナメントへ挑む筈だった水色の眼鏡っ子こと、簪である。

彼女はキリリと精一杯の潤んだ三角眼で騎士を睨み、ワナワナと一番近くに居ながらも彼の蛮行を止めることが出来なかった自分を悔いた。

 

「簪ちゃん・・・」

 

そんな彼女の両肩に手を添えて寄り添う楯無も生徒会長でありながら力を発揮できなかった自身を責める。

されど・・・上記の二人よりも自分を責め、若輩の騎士を呪う人物がいた。

 

「織ぃい斑ぁあ一ぃい夏ぁあああ・・・・・ッ!!」

 

其の人物とは、泣く泣く想い人である銀飛竜に刃を向けた・・・向けてしまった銀髪の黒兎ことラウラである。

事件終幕後、彼女は自分の恩師に説教を喰らう若輩の騎士の頬を拳骨が折れるぐらいの力で殴り抜いた。

御蔭で彼の左頬は若干赤紫に腫れているのだが、其れでも殴打を繰り返そうとするラウラをシャルロットや鈴を始めとした全員が止めに入り、落ち着かせようとセシリアが彼女を抱き締める。

そんなセシリアの十五でありながらも豊満な胸の中でラウラは声を上げて泣いた。

悔しくて悔しくてしょうがない気持ちの悪い何かが胸の中をグチャグチャに駆け巡って堪らない。許される事ならば、想い人の仇を取りたいと願うばかり。

けれども、其れは許されぬ事だと彼女は理解できるぐらいの理性が残っていた為、余計に苦しさが増す。

時間が経てば経つ程にシクシクシクシク、灼眼と眼帯に隠された琥珀色の瞳からポロポロ流れる涙はセシリアの青いISスーツを暗く染め、其れと同じ様に暗く重い雰囲気が部屋全体を支配している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――其の時であった。

 

「オープンセサミ!」

 

『『『!!』』』

 

突如としてババーンッと開かれた臨時避難所の扉。

其処から現れ出でたのは―――――

 

「阿破破破! 諸君、任務お疲れさん!!」

 

『『『なッ・・・なぁああああ!!?』』』

 

―――あの奇天烈で奇妙な笑い声を上げるあの銀飛竜だった。

 

「阿ぁん? なんじゃなんじゃ、なんじゃーな其の反応は? 布仏さんいつものトロンとした目がパッチリしとるし、榊原先生は真昼間にグレイ型宇宙人みたいな顔しやがってよぉ。破破破ッ!」

 

「だ、だだ、だって~・・・!」

「う・・・うそでしょッ・・・!?」

 

四白眼に見開く皆の目を余所に一人ケラケラ笑う今回の襲撃事件終息の最大功労者である金眼四ツ目の銀飛竜こと春樹。其の元気な姿に全員が吃驚仰天し、中には白目を剥いて倒れる者もいる。

 

「じゃあ、ちょっと其処よろしいか?」

 

『『『は、はい!!』』』

 

そんな彼女等の間を海を割る如く退かせると、其の間を歩んである人物の前へと立った。

 

「セシリアさん・・・よろしいか?」

 

「えッ・・・えぇ、勿論・・・勿論ですわッ。ラウラさん!」

 

声をかけられたセシリアは驚きつつも、いつもの様に優しく微笑みながら自分の胸の中で泣いていたラウラを彼の前へ突き出す。

一方の突き出された方のラウラは、状況が未だ解らずに目をまんまるにしている。

 

「ッ、は・・・はる・・・はる、き?」

 

「応、そうじゃけど?」

 

「はるき・・・はるきっ、はるきハルキ春樹・・・・・春樹ッ!!」

「うわおッ!?」

 

漸く状況を理解したラウラは春樹に飛び付く。

いつかの夏の病院での夜を思い出す春樹だったが、あの時と違う所がハッキリと一つあった。

 

「ごめん、なさい・・・ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・ッ! 許して、ゆるしてくださいッ・・・!!」

 

『『『ラウラ(さん)・・・ッ』』』

 

ラウラは春樹に許しを請うていた。

先程以上に涙をボロボロボロボロ流しながら謝罪の言葉を彼女は口にし、最後は「お願いだから、私の側からいなくならないでくれ!」と懇願し出したではないか。

 

「・・・ラウラ・・・」

 

其れを何故か申し訳なさそうな表情で見ている人間が居る。彼女の恩師である千冬だ。

彼女は「いやだいやだ、いなくならないでくれ!」と叫ぶラウラの声が耳について敵わなかった。

 

「おい・・・ボーデヴィッ―――――」

 

遂に千冬が彼女の言葉を遮ろうとした時、其れよりも早くラウラを黙らせる人間が居た。

 

「―――――・・・んむッ」

「ッ!!!??」

 

『『『!!?』』』

 

涙に濡れる淡い薄紅色の唇を春樹は己が口で塞ぐ。

アッと驚く周囲の喧騒など何の其。彼はラウラの銀髪を右手で優しく梳きながら、彼女の唇を何とも美味そうに味わう。

最初は此の春樹からの突然のキスに驚いて目を見開いてしまったラウラだったが、すぐに彼へ自分の全身を預けてウットリと目を細めた。

 

「ッちゅ・・・・・落ち着いたか、ラウラちゃん?」

 

「う・・・うん・・・だ、だいじょうぶでひゅ・・・はい・・・ッ」

 

キスを終え、とろりと恍惚の表情を晒すラウラを「・・・そうか」と短く言葉を切って彼女を優しく抱き留める。其の実に絵になる様に「はぁ・・・ッ」と思わず周囲の面々は溜息を洩らしてしまった。

しかして、此の男がただ単純にラウラへのキスだけで終わる筈があろうか。

 

「あッ、そうそう・・・なぁ、フレンドリーファイアの織斑や?」

 

「ッ・・・!?」

 

否、断じて否である。

春樹はラウラを抱きとめたまま、其の近くで俯き嘆く悲劇のヒーローへ声をかける。けれども、声をかけられた若輩の騎士・・・一夏は春樹の方へ顔を向ける事が出来なかった。

其れもそうだろう。いつも春樹を”卑怯者”やなんだかんだと散々扱下ろしている筈の一夏が、今回は其の”卑怯者”であるのだから。

 

「・・・ゴクリッ」・・・と誰かが固唾を飲み、思わず手元の得物を掴む。何故なら、また”あの惨劇”を起こされては敵わないからだ。

 

「織斑、俺は・・・・・・・・お前を許そう」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

「・・・・・・・・・・・え?」

「「・・・・・・・・え?」」

「「「・・・・・え?」」」

『『『え・・・えぇえええええッ?!!』』』

 

此処に居る全員が、春樹の口から紡がれる事は決してないと思っていた言葉の羅列に再び驚嘆の声を上げた。

そして、「何故?」と疑問符ばかりが彼女等の頭の上を飛び交う。

 

「えッ・・・あ・・・・・き、清瀬?」

 

「阿破破破ッ。どうしたよ、織斑?」

 

かく言う加害者であろう一夏も思わず目を四白眼にする。

そんな驚いて自分を見る彼を春樹は満面の笑みで出迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・もうちょっと続きます。あと一話ぐらいでしょうか?
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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