『清瀬 春樹は、織斑 一夏を嫌悪している』
此れは学園へ在籍している誰もが知っている周知の事実である。
そんな事ある毎に対立し、其の度に言葉と物理の暴力によって互いを牽制して来た二人の様子を間近で見ていた専用機所有者達は、春樹の放った「お前を許そう」等という言葉に唖然茫然としてしまう。
「えッ・・・あ・・・・・き、清瀬・・・ッ?」
かく言う骨の一本や二本を折られる事を覚悟していた一夏も目を真ん丸にして言葉を淀ませる。
しかして彼に降り注がれたのは鋭く尖った言葉と固く握られた拳骨ではなく、晴れやかで爽やかないつもの春樹らしからぬ笑顔であった。
「は・・・春樹?」
「ん? どうしたんなら?」
此の何処か不気味な雰囲気を醸し出す彼に優しく抱き留められているラウラも疑問符を浮かべるが、春樹の柔らかな表情には些細な疑問であり、彼女は再び彼の胸へ顔を埋める。
其の柔らかな表情に疑問を抱く学園サイドの隣では、彼と初めて出会う倉持技研の面々が、聞いていた噂と違う春樹の人物像に別の意味で驚いていた。
されど・・・何故に此の男が今まで憎悪し、嫌悪し、逆怨んでいる一夏へ容赦の言葉を投げ掛けるのか。
鈴の考える様に身体全体へ撃ち込まれた氷結弾の影響で、脳と心の思考回路が狂ってしまったのだろうか。
「壬生さんに聞いたよ、織斑。大変だったな・・・白式が”暴走”しちまうなんてよぉ」
「え・・・ッ?」
『『『え!!?』』』
朗らかな春樹の表情から出た思わぬ言葉に一夏だけではなく其の場に居た全員が又しても驚いた。
倉持技研の面々に到ってはギョッとしてしまう。
「ゴーレム共の攻撃で、機体の制御が訊かなくなったんじゃろう? じゃけぇ、俺に攻撃してしもうたんじゃろう? なら、お前を責めても仕方ないわなぁ。阿破破破」
「え・・・い、いや俺は・・・ッ!」
予想外の表情と言葉に一夏は再び言葉が詰まるが、春樹の”策謀”がまだ始まったばかり。言い淀む彼を尻目に春樹は突如としてギョロリと射殺す様な鋭い視線を倉持技研の面々へ向けた。
「じゃけん・・・俺はアンタらが許せんわぁ、倉持技研!! よくもよくも白式を暴走させやがったなッ!!」
「ちょッ、ちょっと待ってください! 織斑選手が清瀬選手へ攻撃したのは、決して我々の―――――」
春樹の発言に慌てふためく倉持技研チーム。
勿論、倉持技研のスタッフ達は反論しようとするのだが、彼がそう易々と難癖を付けた相手に喋らせる訳がない。春樹は「喧しいッ!!!」と怒声を撒き散らす。
其の到底十代の少年が出す事はないであろう並々ならぬ気迫に倉持技研の面々は圧倒されてしまい、思わず押し黙ってしまう。
・・・ここまでは範囲内。
「やめんか、阿呆!」
「ぎいぇッ!?」
一瞬にして現場の空気を持ち前の獣性と咆哮で掌握した春樹だったが、そんな彼の頭を叩く者が居た。其れは彼の後から追い付いて来たIS統合対策部の芹沢である。
「なッ、なにをするだー!?」
「小一時間前に起きたっばかりで、大人しくしとけと言ったろうが!」
「じゃけどなぁ、芹沢さん!」
最初は癇癪を起した童の様に喚き散らす春樹だったが、芹沢の後からドシドシと彼を追いかけて来たIS統合対策部の面々に取り囲まれ、感情を抑える様に説得をされていったのだ。
此れに倉持技研のスタッフ達は胸を撫で下ろす。難癖を付けた来た相手が相手の仲間によって説得されているのだから。
・・・しかして此れも策謀の一つであった。
春樹は後から出て来た仲間であるIS統合対策部スタッフ達からの諌言を受託したという”てい”で不満顔を晒しながら抱き留めているラウラ共々芹沢達の背後に回る。
其れと入れ代わり立ち代わりで倉持技研スタッフ達の前にある人物が現れた。
「申し訳ありません、倉持技研さん。ウチのテストパイロットが。私はIS統合対策部の金城と云う者です」
其の人物とは、IS統合対策部の中でも数少ない女性職員の一人である金城 沙也加である。
彼女は先程の春樹の非礼を詫びる様に深々と頭を垂れたのだが、「・・・しかし、今回の一件をあなた達はどう責任を取るおつもりで?」と顔を起き上がらせたと同時に口を三日月に歪めた。
此の言葉に再び倉持技研スタッフ達の心臓が飛び上がる。
「せ、責任とは・・・ッ?」
「無論、ウチのテストパイロット・・・清瀬氏の暴走を誘発させた責任ですよ。もしや・・・このまま済し崩しになかったことにされようとは思っておりませんね?」
「ま、まさか! し・・・しかし、何故に我々が責任を問われる事に?」
此の質問に金城は乾いた笑い声を響かせるが、其の目は完全に冷めきっていた。
「面白い冗談を言われますな。別に我々は織斑氏を責め囲んでも構わないのですが・・・それだと、そちらに大変不利益が生じるのではないですか? そうですよね、織斑先生?」
「・・・・・」
金城の言葉に千冬は目を逸らし、彼女の言葉に漸く何かを察した倉持技研の面々は顔を青くする。
「ま・・・待ってくれよ!」
「あん?」
そんな時、やっとショックから我に返った一夏が声を上げた。
彼は自分の起こしてしまった過ちに向き合おうと決心し、倉持技研スタッフ郎党とIS統合対策部代表の金城との話し合いに割って入る。
「あ、あれは・・・清瀬の暴走は俺の・・・俺の責任なんだ! あの時・・・俺がアイツに零落白夜を撃たなきゃ、こんな事にはなってないんだ。だから―――――」
「―――俺が責任を取る!」・・・等と彼は言いたかったのだろう。
だが、彼の台詞に金城は自分の台詞を被せてこう言い放つ。「・・・”子供”のあなたに一体どんな責任が取れると言うんですか?」と。
「これは大人同士の話し合いです。責任の取り方を知らない子供は・・・引っ込んでてもらいたいのですが」
「なッ・・・何だよ、それ!!」
「やれやれ、これだからガキはッ」とため息交じりの金城に噛み付こうと一夏は声を上げようとしたが、其れを意外な人物が引き留めた。
「やめんか、一夏・・・!」
「ッ、ち・・・千冬姉・・・?」
其れは一夏の姉であり、世界最強ブリュンヒルデの名を冠する千冬であった。
彼女はいきり立つ彼をいつも以上に静かで低い声と鋭い眼光で制止すると、一夏に噛み付かれる寸前だった金城へ目配せをする。
そんな千冬からの視線に彼女はニヤリとほくそ笑むと、ガヤガヤざわつく周囲に気取られないようなトーンで話を始めた。
「・・・倉持技研さん。さっき清瀬氏は自分の暴走の原因は、織斑氏の専用機である白式の暴走であると言い放った。ここは”そういう話で纏める”のが、一番の得策だと私は思うのですが・・・如何でしょう?」
ニタニタといやらしい笑みで微笑む金城に倉持技研の面々の多くが、瞳孔を震わせる虚ろ気味な目で頷く。
其れでも渋る輩がチラホラと居たが、其の様な者達も彼女の次の言葉である。
「責任として、我々の要求を呑むのであれば・・・この件はこれ以上の深掘りは致しませんので、どうかご安心を」
・・・と云った文言に歯を鳴らしながらも残った面子も頷いた。
しかし、何故に彼らは急に大人しくなったのか。其れは金城が一夏の責任を追及すると言い放ったからだ。
彼が個人的な見解で故意に春樹へ不意打ちを喰らわせた事が追及されれば、一夏は専用機の剥奪の他にも傷害や殺人未遂の罪による罰を喰らわされる事になるだろう。
そうなってしまえば、そんな危険人物に専用機を付与したという事で倉持技研の権威は失墜し、政府から与えられたIS開発許可権を取り消されてしまう。
だが、春樹が皆の耳に聴こえる様にわざとらしく自分の暴走は、襲撃者であるゴーレムの攻撃によって引き起こされた白式の暴走による不意打ちだという事にしておけば、上記の様な最悪の展開になる事だけは幾分かまだ避けられる。
「それで・・・我々にどうしろというのですか?」
「そうですねぇ・・・・・」
虚ろな倉持技研に対し、余裕綽々で仕方ない金城は顎に人差し指を当てて思い悩む。どんな”貢物”を貰おうかと思い悩む。
けれども・・・最初から”目的のもの”は決まっている。
「それでは、技研さんにいらっしゃるパイロットと機体・・・個人名を挙げれば、更識 簪氏と打鉄弐式を技術提携という面目で頂きたい」
『『『なッ!?』』』
「え・・・?」
金城の言葉に吃驚仰天する倉持技研の面々の隣で、名前を挙げられた簪が鳩が豆鉄砲を食った様な表情を晒す。
するとそんな顔を晒す彼女に金城がしたり顔の視線を送る。
「ちょッ、ちょっと待ってください!! それはあまりにも無茶な要求ですッ!!」
「一度、本部に帰ってから此方で検討を―――――」
「・・・あ”あ”ん?」
あまりに狼狽えてたじろぐ面々に金城の不機嫌な疑問符が響き、其の後ろで控えるIS統合対策部スタッフ達の表情が歪む。
「あんたら・・・自分達の立場がどうなってんのか、わかってないようですねぇ。でも・・・別にいいですよ。一度、本部に戻って検討いただいても」
「な、なら―――――」
「し~か~し~・・・本部に戻っている間、此処に居る誰かが情報を漏らすかもしれませんねぇ~」
そう言う金城の背後では、誰もがおもむろに自分のスマホの画面を開いた。
「それに・・・聞くところによりますと、あなた方は更識氏に今回のタッグマッチトーナメントで織斑氏と組む様に無理強いしたというではありませんか。選択の余地は・・・ないと思いますがね、私は」
「お・・・脅すつもりか?!」と倉持技研サイドの一人が声を挙げるが、彼女は「まさか!」と相変わらず厭味ったらしい笑顔を浮かべる。
「ッ、だ・・・だが、それは本人の同意が必要なはず!」
「そ、そうだ! 本人が拒否すれば、無理強いは出来ないでしょうが!!」
「そうでしょう、更識さん?!!」
技研の一人が言った言葉に全員が乗り、話のタネに上がった簪へ期待の眼を送る。
・・・『犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ』と云う。そんな言葉がある様に彼らは簪が自分達の与えた恩に報いる事を願ったのだろう。
・・・・・・・・だが・・・
「・・・金城、さん?」
「はい。なんでしょうか、更識氏?」
「契約書の書き方・・・教えてもらえませんか?」
『『『なッ、なぁああ!!?』』』
「えぇ、勿論です」
今まで受けて来た倉持技研からの”仕打ち”を『恩』と感じる程、簪はM気質ではなかった。
実を言うと簪は自分の専用機である打鉄弐式が制作放棄された時点で倉持技研を見限っていた。其れでも倉持技研サイドに居たのは、一重に打鉄弐式の所有権を彼らが持っていたからだ。
しかし、もうそんな心配をする必要はない。心置きなく出立することが出来る。右手中指に填められた待機状態の戦友と共に。
「さ、更識さ―――――」
されど納得のいっていない一人の職員が、IS統合対策部の契約書の書き方を聞こうと金城に近づく簪を物理的に止めようと距離を詰める。
だが、そんな彼の足元に突如として赤い鋼が突き刺さった。
「馴れ馴れしゅう近づいてんじゃねぇよ、おわんごが」
ビィイーンッと床に突き刺さったのは、血の様な赤で染まった刃の刀身。其れが飛んで来た方向を目を移せば、其処には酷く恐ろしい顔をした夜叉が立って居た。
其の恐ろしい形相から醸し出される気迫と狂気に職員は思わず尻餅をつく。
「さて、それでは参りましょうか」
「は・・・はい!」
「あッ、私も簪ちゃんの保護者として同伴します!」
「ご自由に」と金城は簪と其の引っ付き餅である楯無を引き連れ、IS統合対策部の所属契約書を書く為に別の場所へと移動する。
一方、跡に残された床に突き刺さる鍵鉈MVSを春樹は引っこ抜くと、倉持技研の面々へニタリと不敵な笑みを浮かべる。
其の笑みに今まで置いてけぼりを喰らっていた一夏が意外にも何かを察した。
「清瀬、お前まさか最初から・・・・・ッ!!」
其れに春樹はいつも彼に向ける目・・・どうしようもない程に相手を侮蔑する目と口パクで答える。
「ざまぁ見晒せ」
「ッ!」
「阿破破ノ破ッ! それじゃあ、俺はもうちょっとだけ休んでくらぁ。皆も今日は早めに休むんよぉ~!」
そういつもの様に春樹は笑って避難所を後にする。
あまりにも怒涛の展開に皆の中にはまだ呆気に取られている者がチラホラいたが、唯一人だけ彼の其の笑顔が一夏には人ならざる化け物に見えた。
◆◆◆
「ッ・・・かッはぁ!?」
「春樹!?」
『『『清瀬君(少年/我らが刃)!!?』』』
カツアゲ的交渉術を終え、臨時避難所となった格納庫から出た春樹は何の前触れもなく吐いたと同時に崩れ落ちる。
胃液の混じった吐瀉物は主にアルコールを主成分としていたが、其の色から見ても解る様に血が混じっている事は明白であった。
「阿・・・阿破破破ッ・・・緊張で吐いてしもうたわぁ。あぁ、胸が痛ぇッ」
「だから酒を飲むなって言ったろうが、この馬鹿!!」
「春樹ッ、春樹!!」
再びパニックになる皆の心配をよそに春樹はケラケラ笑いながら内ポケットから取り出したウィスキーを飲み込むと、又しても目を潤ませるラウラの頭を撫でてやる。
「清瀬君!!」
「大丈夫でさぁ・・・長谷川さん。俺の生命力の強さは御存じでしょう? これぐらい・・・直ぐに治りまさぁ」
「だからといって・・・!」
心配そうな顔をする皆だったが、相変わらず春樹はカラカラと愉快そうに奇天烈な笑い声を響かせるばかり。
しかして彼の体調を心配し、担架を持って来るように叫ぶ壬生を抑えた。
どうしてかと言うと、先の戦闘によって自分が弱っている事を勘繰られたくないとの事。
そんな強がる彼が、皆には強くも哀れにも愛おしくも見えた。
「ッ、おっと・・・ラウラちゃん、ちょっと手ェ貸してや」
・・・と此処で春樹は何かを察した様にフラフラまだダメージが残る身体を起こすや否や、シャキッと何事もなかったかのように制服の襟を正す。
「さて・・・どうかされましたかね、織斑先生?」
「・・・・・」
口角を引き攣らせて振り返ってみれば、其処には此方を静かに睨む世界最強の戦乙女が佇んで居るではないか。
今まで春樹へ注意が逸れていたラウラやIS統合対策部の面々は、彼女の登場に表情が一気に強張る。
「清瀬・・・貴様、最初からこれが狙いだったのか?」
「破破破ッ、さて何の事やら」
千冬の鋭い視線に彼はケラケラと笑顔を浮かべるが、二人の間に漂う空気は余りにも重い。
「ぬぬッ!?(これはなんという圧じゃ! く、苦しい!!)」
「清瀬・・・ッ」
其の慣れない重圧の空気に中てられたのか。ラウラやIS統合対策部の一部を除いた職員の息が浅くも荒くなった。
そんな彼らを気遣ってか。其の圧力を緩和しようと千冬との距離を詰めようとしたのだが、そんな彼の腕を心配そうにラウラが掴む。
「ラウラちゃん、大丈夫じゃで・・・」
「ッ、う・・・うん」
心配する彼女を抑えて離れると、春樹は自らの心を”墜とす”。
ワザと冷血で冷酷で残酷で残忍で無慈悲な状態に心を”堕とす”。
其れがどれ程まで彼の心へ負担をかけるかは想像だに出来ない。
そして、彼は其の崩れかけの心のままに背後へ控える皆に聴こえないような声量で
「・・・其れで先生ぇ? 俺の狙いってのは?」
「とぼけるなよ、小僧。貴様は最初から更識が目当てで今回の騒動を利用したのだろうが」
「阿破破破ッ、流石はブリュンヒルデ! じゃけど・・・「惚けるな」言う言葉はコッチの台詞じゃ」
「・・・どういう意味だ?」
「言葉のままなんじゃけどな・・・キチガイ兎の”犬”っころ」
春樹はギョロリと三角眼の中央から金の焔を瞬かせる。
「私が、犬だと?」
「俺の郷里じゃあ、スパイや裏切り者は”犬”じゃあ言うんですよ。織斑先生、今回の一件の首謀者が誰なんか・・・アンタぁ、知っとる筈じゃろうがなッ」
「・・・・・」
彼の言葉に千冬は無言と睨み眼で返す。
普通の者ならば、其の射殺す様な視線とオーラで大抵は萎縮して押し黙ってしまう。・・・が、今彼女の目の前にいるのは、狂気の表情を浮かべる手負いの獣。
こういう手合いが一番危険だ。
「・・・阿破破破破破ッ!!」
「ッ・・・何が可笑しい?」
「いやいや・・・俺がエロゲやらエロ漫画やらエロ同人に出て来る唾棄すべき糞下種野郎なら、此れをネタにアンタの熟れた四肢を貪って、其の胎ん中にタップリと俺の”種”を植え付けてやるんじゃけどなぁ・・・っと思ってですね」
酷く下卑た邪な表情でそう語る春樹に千冬は嫌悪と取れる表情を晒すが、其れを彼はニタニタと嬉しそうに眺める。
「阿比比比ッ・・・じゃけど心配せんで下せぇよ、先生。俺はまだ・・・・・まだ其処までは”墜ち”とりゃしません。じゃ~けぇ~ど―――――」
「ッ!?」
突然、春樹は千冬との距離を一気に詰めるや否や、両肩をガッチリと掴むと彼女の耳へ囁く。
「俺の世界を”侵そう”もんなら、”犯される”覚悟をしときんさいよッ・・・! そうあのキチガイにも、アンタの”妹”にも伝えとけやッ!!」
「ッ、く!!」
千冬は春樹の手を振り払うと、思わず平手打ちの構えを取る。
「ふん!」
「!?」
しかして其れを防がんと彼女の前へ春樹の背後に居た筈のラウラが割って入って来たではないか。
「ラウラ・・・!」
「たとえ教官と云えども・・・これ以上、春樹に手出しはさせません!」
驚く千冬を余所にラウラは彼女の平手打ちを打ち防ぎ払うと、組手の構えを取る。其の構えは若干の震えがあるものの、彼女の目には確かな闘志が籠っていた。
まさか、自分の愛弟子に邪魔をされる等とは思ってもみなかった千冬は思わず目を見開く。
其れを春樹はニヤニヤと暫く眺めた後、ゆっくりと背後からラウラへ腕を巻き付ける。
「落ち着け、落ち着け。もう大丈夫じゃで・・・ラウラちゃん」
「あッ・・・・・」
そう彼はラウラの耳元へ優しい声色を呟くとソロリソロリ後ろへ退いて行く。
そうして一定の距離を置いた所で春樹は彼女を担ぎ上げるや否や、「其れじゃあ撤収~ッ!!」とばかりにIS統合対策部の面々を率いてスタコラさっさと其の場を後にする。
こうして、まるで一か月以上かけたかの様なたった数時間のゴーレムⅢ襲撃事件は、呆気ない幕引きへと至った。
「清瀬ッ・・・何故、お前が”その事”を・・・・・!!」
跡に残されたのは、春樹の発言に綺麗な顔を曇らせる千冬だけであった。
◆◆◆
「はぁ・・・はぁ・・・ッ!」
「た・・・束様ッ・・・鼻から血が・・・ッ」
此処ではない何処か。
今回の襲撃事件の黒幕は、ゴーレムⅢのメインカメラを通してディスプレイへと映し出された映像に息を浅く荒らげる。
「だってッ・・・だってだって、だってクーちゃん! はーくんがねッ、はーくんがスゴいんだよ!! ほんとにスゴいのッ!!」
「束様・・・清瀬様の映像を見るたびに語彙力がいつにも増して悲惨です。それに・・・先程からファントム・タスクの皆様より―――――」
「あー、いいのいいの。あんなやつらなんてほっといても。それよりも・・・・・うふふ♪」
ウットリと画面の中で暴れ回る春樹に不思議の国のアリスはウットリと恍惚の表情を浮かべる。
「はーくん、はーくん・・・! 君を見てると束さんのお腹の奥が切なくなるんだよぉッ・・・! ふふふッ、次は君の為に何をしようかなぁ~?」
『類は友を呼ぶ』等と云う言葉があるが・・・果たして此れは其れに当てはまるであろうか?
答える者は誰もいない。
・・・ここいら辺でで酔い覚ましはいかがでしょうか?
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆