IS/Drinker   作:rainバレルーk

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八升:ワールドパージ・女と酒は二合まで
第124話


 

 

 

―――――IS学園内で開催された専用機タッグマッチ戦において発生した『ゴーレムⅢ事件』と呼ばれる襲撃事件から幾何か過ぎた頃。

IS統合対策部に所属するある蟒蛇パイロットがこう云った。

 

「皆さん、新しいプロジェクトに着手してみませんか?」

 

吞兵衛が言うには、現在IS統合部が行っているIS第三世代型量産機体製造計画に並行して新たな機体開発を行おうと言うものだった。

しかし、機体と云ってもISではなく、国連がISにとって代わるという面目で開発したパワードスーツ。名をエクステンデッド・オペレーション・シーカー・・・通称『EOS』の開発である。

・・・けれども、いつもはやんややんやと騒ぎ立てるIS統合部の職員達も流石に彼の此の提案には難色を示した。

実を言うと此のEOSなる物。ISにとって代わると銘打っておきながら、色々と問題のある・・・いや、問題”しか”ない代物であったのだ。

 

欠点の例題を挙げるとするならば以下の通りである。

一、あって無いようなパワーアシスト。

二、重たすぎる機体。

三、シールドが無いのに生身の身体が露出。

四、反動が強すぎて使い辛い事この上なしな火器。

五、三十㎏ものバッテリーを背負っているとは思えない短すぎる最大作戦行動時間。・・・等と云った欠陥が多い。

 

・・・だが、蟒蛇には自信があった。

何故ならば、彼等の手中にはゴーレムⅢ事件で鹵獲した機体が一機あったからだ。

正確には其の機体の中にある”装置”であるが。

 

「今やIS業界市場は血を血で洗う果てしなく激しいレッドオーシャン。競争相手も強敵ばかりじゃ。じゃけども、打って変わってEOS業界市場は未だ平和なブルーオーシャン。市場に打って出るには今が好機じゃ!!」

 

『『『おーッ!』』』

 

そんな訳で蟒蛇は、IS統合部の全員を上手く言いくる・・・説得し、量産機体製造計画と並行してEOS開発を行う事となった。

当初、此の計画は前途多難なものになるだろうと思われていたが・・・周囲の予想に反し、順調な足取りで機体が開発されていったのである。

 

元々、IS統合部へ集まった職員達は一癖も二癖もある変人奇人変態の曲者揃い。加えて、彼等彼女等は生粋で筋金入りのヲタク共であった。

其の日常生活では一㎜も役に立たない知識や技術能力を駆使して機体の動力源、機能性、重量、機動力、etc・・・隅々にわたる問題点へ解決策を見出し、僅か一週間にも満たない短期間で試験試作機完成へと漕ぎつけたのであった。

 

そして、晴れやかな今日の良き日。

IS第三世代機体共同開発を行っているデュノア社の日本支社へ完成した試験試作機体EOSを持参し、技術共有と云う面目で訪れていた。

・・・・・訪れていたのであるが・・・

 

「・・・阿”ぁ・・・ッ」

 

新EOS開発計画の発起人である蟒蛇・・・もとい、世界で二人目の男性IS適正者である清瀬 春樹は酷く濁った眼でボーッとしていた。

 

「お、おい金城氏。なにゆえ若は、あんなにも浜へ打ち揚げられた魚のような目をしておるんじゃ? ちょいと前までは、爛々ハツラツとした目だったと言うに」

 

其の鈍く光る琥珀色と鳶色の眼に対し、計画中心メンバーの一人である浅沼は、隣に居る同僚である金城の袖を引っ張りながら疑問文を並べる。

其れに対し、彼女は「さぁ? 大方、二日酔いなのでは?」と素気なく返す。

 

「おぉ、Mr.清瀬。息災であったかね? 噂によると先の襲撃事件で、また君は武勲を立てたそうじゃないか」

 

そうしていると前からゾロゾロと部下を引き連れたデュノア社社長であるアルベール・デュノアが現れ、自然に春樹と握手を交わす。

共同開発を行っているとは言え、まさか態々大会社の長自ら自分達を出迎えるとは思ってもみなかった小心者の浅沼は此れにオドオドと動揺してしまう。

 

「いえ、私一人が自力で功を挙げた訳ではありません。功を挙げられたのは、此処に居る浅沼さんや金城さんの御蔭です」

 

「ほう、このような若いお嬢さん達がか。IS統合部には君の他にも優秀な人材が豊富で羨ましい限りだ。知っているとは思うが、私はこの会社を経営しているアルベール・デュノアだ。どうぞよろしく」

 

そう言って隣に佇む二人へ手を指し示した春樹に対し、アルベールは感心した様に頷いて二人に握手を求めた。

此れに金城は相も変わらない冷静な態度で「金城です。よろしくお願いします」と握手を交わすが、浅沼の方は「あ、ああ、浅沼です! よ、よ、よろしくお願いします!!」と身体にバイブレーション機能が搭載されているが如く震えながら手を差し伸べる。

其のあまりに緊張している彼女の姿に溜息を漏らす金城の前で、アルベールはクスリと笑みを浮かべた。

 

「デュノア社長。この度は当社との技術共有の件で御社に伺わせていただきました」

 

「あぁ、聞くところによると君達はEOS事業へ新規参入するそうだね。しかし・・・酷な事を云うようだが、正直EOSは成長乏しい事業だ。いくら君達と云えども・・・」

 

「・・・・・阿破破破ッ」

 

場所を玄関ロビーから会議室へ移したのも束の間、新規事業のEOSに消極的な発言をするアルベールだったが、其れに今まで張り付けた鉄仮面な表情であった春樹があの奇天烈な笑い声で返す。

 

「・・・・・やはり、君には何か考えがあるようだね。Mr.清瀬?」

 

「勿論ですよ、社長。逆に聞きますが、私が今まで考えなしに事を起こそうとした事がおありで?」

 

「フッ・・・まさか。聞かせてもらうか、君の考えとやらを」

 

ニヤリと微笑む春樹にアルベールは背筋へジットリと汗をかく。

初めて彼と会合を果たしてから此の方、春樹の策謀には舌を巻くばかり。

そして、今回もまた此の奇天烈な笑い声を響かせる齢十五の少年に驚かせられる羽目となる。

 

「聞く・・・と云うよりも。”見る”と言うのが、正しいですね」

 

「ん? どういう意味かね?」

 

「浅沼さん、例のモノを」

 

春樹の声に「ガッテンでい!!」と浅沼が意気揚々とアルベールの前に出したのは、IS統合部がとても短期間で作ったとは思えぬ程に完成度の高い試験試作機EOSであった。

 

「・・・・・支部長、急いで我が社精鋭の技術班を呼んでくれたまえ」

 

「は、はい! 承知いたしました、社長!!」

 

此のIS統合部産EOSを目にしたアルベールは一気に目の色を変え、社内の技術者全員を呼ぶように指示する。

其の状況にケラケラと春樹は乾いた笑みを浮かばせた。

 

 

 

 

 

 

其れから一時間とせぬ内に会議室にはIS統合部製EOSを一目見ようとドッと人が押し寄せ、機体制作に携わった浅沼や金城に質問の雨あられが投げかけられる。

此の質問の応酬に若干コミュ障を有している浅沼は気負ってしまい、涙目を浮かばせながら春樹の方へ助けを求める視線を送るが、彼は口パクで「頑張ってください」とエールだけを送るのであった。

 

「・・・はぁッ・・・」

 

一方、やんややんやと繰り広げられる状況を他人事の様に見つめながら、春樹は部屋の隅っこで一人、鬱々とした溜息を吐く。

目の前にある新規プロジェクトも大切だが、彼の頭の片隅には”あの日”の出来事ばかりが巡り巡っていた。

 

『あの日の出来事』・・・と云うのは、やはり身体測定を行ったあの日であろう。

今でも目を瞑れば、思い浮かぶ理性をハンマーで壊す様な刺激的なシャルロットのあられもない姿と彼女に対する筆舌に尽くし難い言い表せぬ思い。

其れに―――――

 

「・・・・・ラウラちゃん」

 

シャルロットとの会合後、パニックに陥った自分を優しく包み込んでくれたラウラに対する罪悪感にも似た気持ちが未だモヤモヤと春樹の心へ巣くっていた。

 

彼がパニックに陥ったあの後、春樹は何とか処方されていた薬といつもの酒で発作を抑える事に成功する。・・・だが、一度抱いてしまった罪悪感と背徳感に彼は思い悩んだ。

結果として、春樹は今日までラウラとシャルロット双方との会合を避ける様になった。

されど、其れで自分の中にある鬱々とした気持ちが晴れる事は決してない。其れ処か、逆に彼の中にある闇は深くなる一方である。

 

「随分と浮かない顔をしているが・・・どうかしたのかね、Mr.清瀬?」

 

「社長・・・」

 

そんな春樹に声を掛けた来たのは、問題となっているシャルロットの父親でもあるアルベールであった。

彼はいつもと違って元気のない春樹を気遣い、騒がしい会議室から連れ出して自身の臨時社長室へ通す。

 

「ワインかブランデーがあるのだが・・・どうだね、Mr.清瀬?」

 

アルベールは部屋に入るや否や、戸棚の美酒を春樹に勧めた。

彼は此れを仕事中と理由で一度は拒む。だが、芳醇な香りを放つ酒の誘惑に勝つ事は敵わず、一杯だけとブランデーを春樹は所望する。

・・・しかして此の蟒蛇が一杯の酒だけで事足り得るだろうか。答えは否、否である。

 

「阿破破破ッ! こりゃあ美味いのぉ!!」

 

「おおッ、良い飲みっぷりだ。どうだね、もう一杯?」

 

「勿論ですとも! 阿破破破ッ!」

 

此度の新型EOSの話を肴にグラスに酒を注がれれば注がれる程、其れを水の様にグビグビ飲み干してゆく春樹。

其の内にブランデーの入っていたボトルは空となり、今度はワインの入ったボトルに手を掛ける。

此の時、コルク栓を開けるのが面倒だと言ってボトル口を叩き折った。

まるで山賊だ。

 

「阿ーッ、美味い美味い! こねーな酒を毎日の様に飲めて、羨ましいですなぁ!!」

 

「ほう・・・羨ましいかね?」

 

飲んでいた酒が身体へ良い感じで回って来た為か、嫌な事を忘れて酔いに浸ってゆく春樹。

気分と共に口が良く回り出していく。

 

「んグ・・・んグ・・・かーッ、勿論でさぁ。世界第三位のシェアを誇る大会社の社長で、嫁さんは美人ッ。娘さんのシャルロットとは一悶着ありましたけんど・・・今じゃあ仲も良好でしょうが。誰もが羨みまさぁ! 阿破破破ッ!」

 

「・・・まるで他人事のようだな」

 

「阿? 何がです?」

 

「私達家族を円満に導いてくれたのは君じゃないか、Mr.清瀬。正しく君は私達のヒーローだ」

 

「ッ、阿破破破破破!」

 

随分なシリアス顔で語るアルベールに春樹はゲラゲラと奇天烈な笑い声を上げた。

「一体何が可笑しいのかね?」とアルベールが疑問符を投げ掛けると、彼は「アンタも同じような事を云うんじゃねぇ」と溜息でも漏らす様に肩を落とす。

 

「俺ぁ何にもしちゃあいませんよ。アンタらが勝手に助かっただけでさぁ。俺がやらなくても誰かがやってた。そうじゃのぉ、大方ダメバナ・・・もとい、おわんごの織斑が社長とシャルロットの千切れた縁を結び直したんじゃねぇですか?」

 

「つーか・・・こん話、前にもしましたでよ」と酒杯を呷りながら囁く様に呟く春樹に対し、「君は・・・本当に謙虚だな」とアルベールは感心の意を心の中で抱いた。

 

「実を言うと・・・Mr.清瀬、私は前々から君にある提案を持ち掛けたいと思っていたのだよ」

 

「提案?」

 

「そうだ、Mr.清瀬。我が社、いや・・・我が”デュノア家に来る”つもりはないかね?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・阿”ッ!?」

 

唐突なアルベールの思いもよらぬ言葉に春樹は驚きの余り力が抜け、持っていたグラスが掌から滑り落ちる。

グラスは重力のせいで真っ逆さまに床へと衝突すると、甲高い音と共に其の身体を粉々に散らした。

 

「破・・・破破ッ、破破破破破! いやはや斯様な美酒は久方ぶりじゃったけん、些か飲み過ぎた様じゃわぁ。・・・社長、今何て言うたんですか?」

 

「言った通りだよ、Mr.清瀬・・・いや、春樹君。我がデュノア家の跡取り、思惟ては私の義息子にならないかね?」

 

「・・・・・あーと、そりゃあ養子縁組言う意味あ―――――」

「無論、”婿養子”としてだ。シャルロットと共に我が社を盛り立てて行って欲しいのだよ!」

 

目を爛々と輝かせて溌溂と語るアルベールに春樹はふらりとバランスを崩してしまう。

危うく転びかけるが、何とか態勢を持ち直すと「な、何故にそねーな話に?」とすっかり酔いの醒めた表情で疑問符を投げ掛ける。

 

「春樹君、君は我が家に多大な恩を与えてくれた。娘のシャルロットも君を好意的に慕っている。だが、それだけで君を取り立てる訳ではない。君には他者とは違う三つの秀でた部分がある」

 

「・・・と、言うと?」

 

「まず第一に君には戦いの才覚がある。ISなどなくとも・・・もし生まれる時代が違っていれば、君はあのシャルルマーニュにも勝るとも劣らない英雄として史記に記されていた事だろう。第二に私は君に勝手ながら経営者の才覚があると思っている。粗削りだが、磨けば必ず光るものを持っているだろう。その証拠に君は我が社とIS統合部の懸け橋となり、共同開発によって私の悲願であった量産型第三世代機を完成させてくれた。加えて今回の新型EOSの件が世間に出れば、どれ程莫大な利益を生むか計り知れない。以下の二つだけでも、君はかのブリュンヒルデの弟に劣らぬ処か勝っている」

 

「其れは・・・あまりにも過大評価と言うモノ。俺ぁ唯只我武者羅に突っ走って来ただけの事。そんな唯の功名餓鬼に其の様な過度な期待は・・・・・」

 

「まぁ、最後まで聞きなさい。そして最後、これが大切だ。第三に人を惹きつける得も言われぬ魅力が、所謂カリスマが君にはある。これがなければ人を率いる事は適わない。かく言う私もこれを持っている・・・つもりだった。君に出会うまでは」

 

「・・・・・」

 

「恩情云々の前にこの三つの秀でた才をもっている君は、私の後見として相応しい人材だ。だから・・・だから私は君に我が社を継いで貰いたいのだよ!! シャルロット共にねッ!!」

 

酒が入っている為か、余りにも熱いアルベールのラブコールに春樹は目を見張った後にガリガリと頭を掻き毟った。

 

「阿~~~~~ッ、もう! じゃけど、社長!!」

 

「わかっているともッ。君には意中の女性がいるのだろう。そして、その人物はシャルロットの親友であるドイツの代表候補性だという事もわかっている」

 

「解っているのならば、何故に?! 何故に其の様な酷な事を云うか?!!」

 

激昂し、琥珀色の右眼から焔を溢す春樹にアルベールは目を細めて語り出す。

 

「春樹君、私は二人の女性を同時に愛している。一人はロゼンダ、もう一人はシャルロットの母親だ」

 

「まさか・・・・・まさかとは思いますが、俺にアンタと同じ真似をせぇって言うか? 俺に屑の真似事をせぇってか?」

 

「そうは言っていない。さっきも言ったが―――――」

 

「其れが詭弁だと言よーるんじゃ、俺は!」

 

春樹はアルベールから注ぎ口の折れたワインボトルを奪い取るや否や、其れを一気に逆様にして飲み干した。

 

「俺ぁッ・・・俺はね、社長! ラウラちゃんの事が好きなんじゃ、でぇれぇー好きなんよ! じゃけど、シャルロットからも迫られて心がグラつきょーるんよッ! 俺ぁ其れが許せれんのじゃ!!」

 

「ッ、春樹君・・・」

 

「あねーな可愛らしい子が一途に俺を想うてくれるんなら、其れに対して俺も一途に想わにゃあおえまーがなッ! 其れなんに俺は二心を抱きかけとるッ、こりゃあラウラちゃんとってもシャルロットにとっても無礼じゃろうがなッ!! のわッ!?」

 

酒が入った心のままに喚き散らしたのが祟ったか。再びバランスを崩し、春樹は今度こそ床に膝を打ち付ける。

 

「春樹君!」

触るんじゃねぇッ!!

 

「ッ・・・!?」

 

見損なった・・・見損なったぞッ、アルベール・デュノア!! アンタは”俺の心を裏切った”ッ!!・・・ッ!!?」

「は、春樹君!!?」

 

彼は血走った琥珀色の焔が零れる眼でそう叫ぶと遂に後ろへ仰け反って倒れ、「ゲぼッ!?」と腹に納めていた筈の酒を吐き戻す。

急性アルコール中毒であろうか否かは判らぬが、其れから数分間、春樹の意識は消失してしまうであった。

今日はまだ色々と面倒事がIS学園で待っていると言うのに・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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