IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第125話

 

 

 

「・・・別に『酒を飲むな』とは言いません。今や悪習とも云える飲みニケーションを嬉々として行える貴男の事を尊敬しています。ですが・・・・・どこの世界に社長室でゲロを吐く馬鹿がいるんだッ、この馬鹿野郎!!」

 

日本デュノア支社での技術共有会議が終わった帰りの事。IS統合部所有の黒ハイヤー内に金城の怒号が響き渡る。

ハンドルを握っていなければ、腹パンをする勢いであったろう。

 

「ほ、本当に面目な―――――ッ、うげぇええあああ!」

 

「だ、だだ、大丈夫ですか、若?!」

 

そんな眉間に皺を寄せる彼女の叱り声に春樹は応えようとするも、定期的に襲って来る吐気に負けて手元のビニール袋へ胃の中の内容物をドボドボ吐き戻す。其のせいで車中はすっかり異様な臭いが立ち込めて居た。

 

「臭いッ! 浅沼氏、窓を!」

 

「承知! 若、お水をどうぞ!」

 

日本デュノア社社長室で起こったアルベールとの揉め事で、春樹は急激な飲酒と激昂によって一時は意識を消失してしまう。

だが、持ち前の異常治癒能力ですぐさま回復した春樹は逃げる様に其の場を跡にするのであった。

 

「んグ・・・んグ・・・ぷはぁッ。はぁ~・・・浅沼さん、水ありがとうございました。」

 

「いえいえ。それよりも若、落ち着きましたか?」

 

「阿ぁ・・・まぁ、何とか」

 

そう言って彼は自分の鳩尾を大きな溜息を吐きながら擦り、車窓の外を流れる情景を虚ろな眼で唯々ぼんやりと眺める。

 

『我が”デュノア家に来る”つもりはないかね?』

「・・・ッチ・・・!」

 

此の時、春樹は社長室でアルベールに提案された事を思い出しては忌々しそうに舌を打ち鳴らす。

 

昨年まで、此の清瀬 春樹と云う男は色々と特殊でありながらも地方の田舎に住む唯の少年だった。

しかして其れが男の身でありながらIS等と云う代物を動かしてしまった為、彼は様々な厄介事に巻き込まれて来た。其の度に幾度となく窮地に追い込まれ、時には危うく命を落としそうになった事も多々あった。

だが、其の御蔭で春樹は次々と武功を挙げる事が出来、織斑 一夏の”おまけ”から天下に名を轟かせる銀飛竜へと昇華した。

今回のアルベールからの提案もそんな彼の手腕と器を買われての事であったのだが・・・・・

 

「あの・・・金城さんに浅沼さんって、彼氏とかいるんですか?」

 

「なぬ!?」

「どうしたんですか、清瀬氏? ついに脳神経がやられましたか?」

 

突拍子もない春樹の問いかけに表情をしかめる二人だったが、此の疑問符に「今はいない」と返答する。

其の言葉に彼は更にこう続けた。

 

「なら、居る云う仮定をして・・・其の彼氏が堂々と「俺、二股するから」って言うたら、どねーします?」

 

「な!? そりゃなんと不届き不貞な!」

「フンッ。今回は浅沼氏に同意見です。私なら怒りの余り男の局部を切り取っていますね」

 

口を三日月に歪めながら澄ました顔でとんでもない事を口走る金城に「君は阿部定か!」と浅沼のツッコミが冴え渡る。

けれども其の言葉に春樹は何故か安心してしまう。「そうじゃよな。”普通”はそうじゃよなぁ」と胸を撫で下ろし、スーツの内ポケットに収めていたスキットルを取り出して中身を一気に呷った。食道を駆け奔る命の水が実に心地良い。

相変わらずの飲んだくれのロクデナシだが、先程よりもずっと心が安定している事には間違いなかった。

されど・・・そんな平穏が長く続く筈がない。

 

「・・・・・阿?」

 

「ん? どうかされたんですかい、若?」

 

三人の乗る黒ハイヤーがIS学園門前まで迫った其の時、春樹はある違和感を覚えた。

其れは何とも筆舌に言い表せないモヤモヤとした違和感であったが・・・・・確実に言える事が一つだけあった。

 

「チィイイッ・・・阿”ぁ”、またかぁあ!!?」

 

「ホントにどうかしたんですかい、若?!」

 

『何か嫌な予感がする』。例えるならば、先に起こったゴーレムⅢ事件に負けず劣らずの酷い厄介事の臭いがしたのである。

 

「浅沼さんッ、何か帽子かカツラとかって持ってません? 出来れば、サングラスもあるとありがたいんですが」

 

「そんなもんある訳―――――

「ありますで」

―――――あるのかよ!」

 

春樹の言葉に浅沼は四次元ポケットならぬ四次元リュックの中から黒サングラスと黒髪のウィッグを取り出した。・・・何故に彼女がこの様なモノを持っていたのかは、此の際置いておこう。

彼は此れ等を受け取ると、自身の白く変色した髪の毛と琥珀色の右眼を隠す。そして、何かあれば急バック発信する様に金城に指示をし、入場ゲート前で車窓を開けた。

 

「どうもこんにちは。私、IS統合対策部の真庭って云うもんです。今日は清瀬 春樹さんに面会があって来たのですが・・・よろしいでしょうか?」

 

「ダメです。今は警戒態勢が敷かれている為、来客はお断りしています」

 

偽名を用いて顔を覗かせた春樹に警備員は随分と冷めた面持ちで答える。

其の警備員の言葉に彼は疑問符を浮かべた。

 

「警戒、態勢? 其れは一体、何があったんで?」

 

「詳しい事は差し控えます。今日の所はお引き取り下さい」

 

「其れでは納得いきませんな! 我々は彼の為に時間を割いてきたのです。「はい、そうですか」と帰れるわけにはいきません。貴方、もしかして新入りの方ですか? 清瀬氏に掛け合って下さい、真庭と云えば解ります!!」

 

其れでも警備員はダメだと言葉を突っぱね、彼等に帰るように促す。

何度も此のやり取りを行った後、流石に不味いと感じた浅沼が間に分け入って事を取り成した。

此の彼女の言葉を合図に真庭(仮)は「後で覚えて居なさい!」と随分と使い古されたチープな言葉を吐き、車をバックする様に指示した。

 

「・・・・・今度、ネットの掲示板でスレ建てよー思うとるんです。テーマは『ウチの学校が襲われ過ぎな件について』って題名で」

 

「清瀬氏、洒落になっていません」

 

IS学園から少し離れた場所で、両手で顔を覆って項垂れる春樹に口をへの字に曲げる金城。其の隣では「どういう事ですか!?」と小心狸がオドオドしていた。

 

「ありゃあニセモン、パチモン、バッタモンの警備員じゃ。ホンモンの警備員さんは皆みんな女性の人じゃ。なんにあのバッタモンは白人野郎じゃった。しかも名札が川口って何じゃ。俺ぁホンモンの川口さんを知っとるし、あれは川口さんの名札じゃ! 其れにあの野郎、俺が新入りか聞いたら一瞬ギョッとしよったでよ。ありゃあクロじゃ」

 

「えッ・・・と、という事は・・・!」

 

「またしてもIS学園は襲撃に合っていると云う事でしょう。其れも外部にバレない様に隠蔽している。まぁ、あまりにもずさんな隠蔽ですがね。というか第一、清瀬氏が学園を離れている事など承知のはず。それなのに・・・」

 

あんまり冷静な考察を二人がするものだから、対照的に「ど、どど、どうするんじゃ一体!?」と浅沼がガタガタ震える。

 

「ハァ~・・・金城さん、取り敢えずは長谷川さんと壬生さんらぁに連絡を」

 

「了解」

 

「お願いします。あと、浅沼さん?」

 

「はい!」

 

「ちょっと無茶しようと思うんで、試作機の緊急メンテのお願い・・・できますよね?」

 

「・・・・・・・・へ?」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「むぅ~・・・」

 

IS学園前で春樹がまたしても悪巧みをする数刻前。IS学園の食堂では、何処かつまらなそうな顔でほうじ茶をすするラウラが居た。

手元には間違って買ってしまった”二人分”の思い出のある大福餅が鎮座しており、其れを彼女はモクモクと頬ぼるが、如何せんあまり美味とは感じなかった。

其れも其の筈、ラウラの頭の中はある人物の事で一杯だったのだから。

 

「春樹・・・大丈夫だろうか?」

 

身体測定の一件から想い人の春樹は自分を避ける様になった。

いつもはピッキングで開く筈の部屋の鍵も内側に何十にも別の鍵を取り付けられてしまい、忍び込む事が出来ない。

其の御蔭で此処何日、彼と対面しての会話をしていないか。考えるだけでも気分が落ち込む。

 

「むぅう~ッ・・・春樹ぃ・・・!」

 

もしや春樹に嫌われたのではないかと云う嫌な思惑がギュウギュウと彼女の心を締め付け、胸が張り裂けそうになる。

今や乙女達の相談役となってしまったセシリアには、「春樹さんがラウラさんを嫌うなんて事はありませんわ!」と太鼓判を押されたが、如何にも卑しい勘繰りが内に巣くうばかり。

 

「―――――どうしたの?」

 

そんな落ち込む銀髪の乙女に声を掛ける人物が居た。

彼女は陽光の金髪を揺らし、妖しげな笑みを浮かべてラウラの前へと座る。

 

「そんな悲しそうな顔しないでよ。なにかあったならボク、相談に乗るよ?」

 

「シャルロット・・・・・いや、実はな―――――」

 

ラウラは親友であるシャルロットに自分の思いの丈を話始める。

・・・彼女が春樹の心を追い込んだ張本人だと露にも知らないまま。

 

「大丈夫だと思うよ。ラウラの考えすぎなんじゃないかな?」

 

「しかしだな・・・」

 

自らの思いの内を吐露しても未だ不安顔をする彼女の頭をシャルロットは優しく撫でてやる。

其の優しい手にラウラは少々ぐずりながらも気分を落ち着かせてゆく。

・・・そして、其れを確認したシャルロットは漸く自分の本題を切り出す事と相成った。

 

「ねぇ、ラウラ。ボクの事ってどう思う?」

 

「え・・・」

 

シャルロットから投げかけられた疑問符にラウラは少し泡を食ってしまうが、彼女は素直に「シャルロットは私の親友だ!」と胸を張って答える。

其れに気を良くしたのか、シャルロットは更に「じゃあ、ボクの事・・・好き?」と聞き返す。

無論、此れにラウラは「勿論だぞ! 私はシャルロットの事が好きだ!」と答える。

 

何とも他愛もない会話で、見る人から見れば何とも百合百合しい光景なのだろう。

・・・けれども、其の次に出て来た話の内容が問題であった。

 

「じゃあさ、ラウラ・・・春樹の事、”一緒にシェア”しない?」

 

「・・・えッ・・・?」

 

シャルロットの言葉にラウラは目を真ん丸にしてパチクリする。

 

「は、春樹をシェアとは・・・一体どういう事だ?」

 

「言葉のままだよ、ラウラ。ほら、このまえ一緒にベリーのクレープとイチゴのクレープをシェアしたでしょ? あの時のクレープ・・・美味しかったよね」

 

「あ、あぁ。だが、それがどうして―――――」

 

「ボクだって春樹の事が好きなんだよ」

 

柔らかな表情から一転、シャルロットは瞳の中から光を消した。

其の余りの変わりようにラウラはギョッとしてしまう。

 

「ボクだって春樹の事が好きなのに・・・どうしてラウラだけ春樹に愛されるかな? ズルいよ・・・ズルいズルい・・・!」

 

「シャ、シャルロット・・・?」

 

「だからね、ボク良い事考えたんだ! ねぇラウラ、知ってる? アメリカでは三人で愛を育む”スリップル”って形があるんだよ。それを応用しようよ。春樹とボクとラウラで一緒に幸せになろうよ!」

 

シャルロットの力説にラウラは圧倒されつつもこう返した。「それは・・・春樹も望んでいる事なのか?」と。

 

「・・・勿論だよ」

 

「ほ、本当かッ?」

 

「うん。春樹だってボク達が仲良くしているのは、うれしいはずだよ。ね、いいでしょラウラ? それとも・・・・・ラウラはボクと一緒なのは嫌かな?」

 

「わ、私は・・・・・ッ!」

 

答えを急かすシャルロットに心を搔き乱されたラウラは言い淀んだ・・・・・其の時だった。

 

バチィイッ

「「ッ!?」」

 

部屋の明かりが突如として一斉に掻き消える。

其れが新たなる騒乱の幕開けの合図となった事を此の時、誰も知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 





此の章がこれまで以上に長くなる事をついさっき確信致しました。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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