専用機所有者達一行は山田教諭の案内によってアクセスルームへとたどり着いた。
室内へ入ると白一色で左右に五対、計十台のベットチェアがあり、部屋同様の白い其れらはまるでヘアサロンの様にも見える。
「思ってたよりも、なんか・・・しょぼいわね」
「・・・本当にここから電脳世界って場所に行けるのかな?」
電脳ダイブとSF染みた事を此れから行うには似つかわしくない部屋に木霊するのは、鈴の率直な感想とシャルロットの疑問符。
此の二人の言葉に残りの皆も沈黙しつつ、心の中では「確かに・・・」と同意の意を述べた。
「と、とにかくだ。さっさとその電脳世界に行って、システムを復旧せんとな!」
「でも・・・どうやって? 山田先生・・・私達を案内した後に慌てて出ていっちゃったし・・・」
「―――――大丈夫ですよ、簪御嬢様」
簪の当然の疑問符に答えた声へ皆が振り返る。
見れば、其処にはのほほんとしたクラスメイトと顔立ちの似た眼鏡生徒が佇んで居るではないか。
「虚さん・・・どうして? 本音は・・・大丈夫なの?」
「私もバックアップメンバーとして御嬢様・・・更識会長の指示でやってまいりました。あの子は「私、ふくたいちょーだから!」とワルキューレ部隊の皆さんの所へ」
「それよりもッ」と話を切り上げた虚は皆にベッドチェアへ体を預ける様に指示し、簪と共にバックアップ用のディスプレイが並ぶデスクへと移動する。
一方、ベッドチェアへと横たわった専用機持ち達は彼女に指示されたように所有する専用ISをベットチェアの脇にあるコネクタへ接続し、ソフトウェアを優先処理モードへ変更した。
「因みにだけど・・・電脳世界って、どういう所かしら?」
「鈴さん・・・これは遊びじゃないんですのよ?」
「わかってるわよ! でも、こんな事めったにないんだから・・・わかるでしょ、ラウラ?!」
「え・・・・・あ・・・あぁ、そうだな・・・」
鈴の無茶な同意振りに戸惑うラウラだったが、其れにも増して何処か様子がおかしい。まるで『心ここにあらず』である。
「ラウラさん、どうかしましたの? まさか、おかげんが・・・」
「い、いや。大丈夫だ、問題ない。ただ、ただな・・・」
「ただ・・・何よ、気になるわね。まっどーせ、春樹の事でしょ?」
「うぐ・・・」
其の言葉が図星だったのか。渋そうな顔を晒すラウラにやれやれとセシリアが溜息を漏らす。
「ったく、しょうがないわね。なら、春樹が帰ってくる前にちゃっちゃとこんな事終わらせて、みんなでなにか美味しいものでも食べましょ。勿論、春樹のおごりでね!」
「良い考えですわ。乙女に心配をかけさせた当然の報いになりますわね」
明るい声の二人に「まったく・・・不謹慎だぞ、二人とも!」と箒の諌言が響き渡る。されど其の二人に意外にも一夏が同調した。
「まぁ、そう言うなって箒。俺も清瀬に一泡吹かせるつもりなんだからな。それに・・・なにかあっても俺が皆を守ってやる!」
「一夏・・・」
「だってさ・・・どうするのよ、箒?」
「しょ、しょうがない! やってやろうではないか!!」
若干白け眼の簪を余所に皆の気分が盛り上がって来た調度其の時、「皆さん、其処までです」と虚の声が上がる。
「準備が出来ました。あとはこちらでバックアップをしますので、皆さんはシステム中枢の再起動に向かってください。それでは、御武運を・・・!」
『『『了解ッ!』』』
全員の返事を虚と簪は学園システムへの接続を行う。
其の瞬間、六人は落ちるようで吸い込まれるような不思議な感覚に包まれながら意識を奥深く迄沈み込ませた。
「みんな・・・がんばって」
◆
「ッ・・・此処は・・・・・?」
再び浮かび上がって来た意識と共に一夏達は目を開ける。
すると自分達が辺りは星を散らしたかのような煌めきが浮かぶ宇宙空間の様な場所に立って居る事が理解できた。
「綺麗・・・」
「なんだか幻想的な場所だね」
自分達を囲む状況にセシリアとシャルロットは目を輝かせるが、一方で鈴は「だけど・・・ッ」と訝し気な表情である方向を睨む。
見れば其処には扉が六つ、此方へ手招きする様に光り輝いているではないか。
「ふむう・・・この展開は知っているぞ。この扉を通らなければ、次に進めないようだな。それにこの扉のどれかがシステム中枢に繋がっていると見た!」
「ゲームのRPGかよ。でも、なんでこんなものが・・・?」
「初めからあったか・・・それとも、私達の存在に気付いた”侵入者が出現させた”? どちらにしても、私には見え透いた罠にしか見えんな」
「でもラウラ、どうするのさ? 箒の言うように扉の先へ進まないとダメなんじゃないのかな?」
「しかしだな・・・ッ」
光り輝く扉に警戒するラウラだったが、罠を危惧して膠着した所で今の状況が変わる訳がない。
彼等にそんな猶予は許されてはいなかった。
「んー、考えたって始まらないわ! 全員で一つ一つ突破するよりも、ここは手分けして扉に入って行くしかないんじゃない?」
「そうですわね。鈴さんの意見に賛成ですわ」
時間の猶予も限られている事もあり、ラウラも渋々此れを了承。
皆は互いの目を合わせて大きく頷くとそれぞれの扉の前へと立った。
「それじゃあ皆、せーので行くぞ」
『『『せーのッ!』』』
そして、皆は一斉に白く光る扉を一斉に開ける。
すると扉の名からは閃光が放たれるや否や、其の光は六人の身体を包み込んだのであった。
◆◆◆
外は天晴青空快晴。
・・・にも拘らず、学園内は陽の光が遮られた暗闇の中。灯っているのは非常灯の赤い電灯、けたたましく鳴っているのは非常ベル。
其の異様な状況下でもダウンした学園のシステムから独立した監視カメラはせっせと自らの務めを果たす。
しかし・・・彼らが映しているものにはある違和感があった。其の違和感とは、止まっている筈の風景が若干動いているかの様なのである。其れも歪な人の形をしているのだ。
例えるならば、透明になっている『プレデター』であろうか。
「ふーむ・・・」
そんな迫り来るであろうプレデター達を前に楯無は扇子を顎にやって唸っている。
大方、襲撃者達の使っている装置は周囲風景を投影し、迷彩効果を発揮させる”光学迷彩”であろう。
此の様な最新装備させた特殊部隊を惜しげも無く突入させる事が出来る国が幾つあるだろうか。
楯無の脳裏に浮かんだのは主に数ヵ国。其処からある条件で絞り込みを掛けるとたった一つの答えを導き出す。
「まぁ・・・そうでしょうね。”かの国”が一番ISコアを欲しているでしょうから♪」
答えを導き出して得意げに口角を引き上げた楯無だったが、傍から見ればただ突っ立てるだけの的でしかない彼女に向け、襲撃者達は小脇に抱えた銃口を差し向けた。
銃口の先にはサイレンサーが装備されていた為、銃撃とは思えないダンスのステップの様な小粋なリズムと共に弾丸達は一直線に彼女の体を食い破らんと突き進む。
「・・・フフッ♪」
だが、標的となっている筈の楯無は余裕そうに笑みを溢す。
何故に彼女がこんなにも余裕でいられるのか。其れは実に簡単な事である。
『『『!?』』』
放たれた弾丸達は楯無が予め空中散布していた自身の専用機『ミステリアス・レイディ』のアクア・ナノマシンの御蔭で時が止まったかの様に停止した。
SE節約の為にISを完全展開せずとも、通常兵器の弾丸程度なら問題はない。簡単に遮る事が出来るのだ。
「どう? 私ってばマジシャンみたいじゃない?」
「くッ・・・!」
目の前で起こった現状と楯無の余裕の表情に対し、襲撃者達は動揺しつつも防御隊形に陣形を変動する。
しかし、其れをそう易々と見逃す彼女ではない。
「貴方達の姿・・・見てみたーいなッ♪」
『『『ッ!!?』』』
楯無がパチンッと指を鳴らした刹那。
ズドォオーンッ!!と、ナノマシンを発熱させる事で水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こらせる技『クリア・パッション』で襲撃者達の光学迷彩諸共廊下を発破して破壊した。
「うッ・・・うぅ・・・!!」
「よいしょっと・・・ッ」
アクア・ナノマシンの爆発攻撃によって光学迷彩はおろか意識まで渾沌させられてしまった襲撃者達の手足を楯無は丁寧に丁寧に特殊ファイバーロープで縛り上げる。
そして、襲撃者達から没収した装備を脳内にある”答え”と照らし合わせながら答え合わせを行った。
「やっぱり・・・予想してた通り相手はアメリカの連中ね。でも、流石に彼等でも外部からIS学園のシステムをダウンさせるのは難しい筈・・・・・なら、一体誰が?」
学園校舎内に侵入して来た襲撃者達を倒した事で、楯無には考えを張り巡らして予想する余裕が出来た。
しかして此の余裕は慢心となり、敵に浸け入られる油断となってしまった事を―――――
ズダンッ!
「・・・・・えッ・・・?」
―――耳に響いて来た銃声によって理解した。
だが、理解した所で所詮は後の祭り。今まで経験した事のないような激痛と熱さが脇腹を襲う。
「ッ、うぁ・・・ッ!!?」
其の余りの痛みに楯無は思わず体勢を崩して跪いた。
痛みが奔る脇腹を触ってみれば、手にはベットリと赤い体液がついたではないか。
「ヤバいッ・・・!」と彼女は急いでミステリアス・レディを完全展開しようと扇子を握る。
けれども、其の隙さえも敵は与えてはくれない。
ズダン!
「ぃッ・・・!!」
粉塵舞う暗闇の奥から飛び出した鉛玉が扇子を握る楯無のか細い掌を食い破った。
其の狙撃の衝撃によって彼女は扇子を取りこぼしてしまう。
無論、急いで落としてしまった扇子に無事な方の手を伸ばすが―――――
「―――――今だ、確保しろ」
「ぐッ・・・!」
静かな男の声と共に後方に第二陣を敷いて息を潜めていた特殊迷彩が施された大勢の屈強な兵士達が重傷を負った楯無目掛けて雪崩れ込んだ。
「フンッ・・・随分と手こずらせてくれたな、ロシア代表」
彼等は床へ彼女を押し付けて制圧すると、ある一人の兵士が口を覆っていたマスクを外しながら忌々しそうに呟くが、其れでも楯無は減らず口を叩く。
「はぁ・・・はぁ・・・ッ! 私ってば、どう・・・なっちゃうのかしら?」
「喋るな。日本からロシアへ鞍替えした尻軽と言っても、貴様は貴重なサンプルだ。当然、貴様も貴様のISもモルモットになってもらう」
男の言葉に彼女は悔しさの余りギリリと歯を食いしばるが、其れを舌を噛み切って自決しようとする行動だと勘繰られてしまい、楯無は兵士によって口を無理矢理抉じ開けられて自殺防止の猿轡を無理矢理嵌めさせられた。
「大事なサンプルだッ、絶対に殺すなよ」
「止血を急げ」
「むッ、む―――――ッ!!」
彼女は襲撃者達からの魔の手から何とか逃れようと暴れ回る。
されどISを使わなければ彼女は一介の非力な少女。自分よりも何倍も力のある兵士達によってあれよあれよと云う間に拘束される。
「ッ、大人しくしろ!」
「ッ!?」
そんな尚も暴れる楯無が癪に障ったのか。一人の兵士が彼女の頬へバキィ!と拳を入れる。
其れはかなり手加減されたものではあったものの、彼女のきめ細かな白い肌を青くするには充分であった。
「う・・・うぅ・・・ッ・・・」
自分の僅かな油断によって陥ってしまった窮地に楯無は悔しさの余り目を涙で濡らす。
きっと此の襲撃者達は自分を捕縛した後、電脳ダイブによって無防備となった専用機所有者達を狙うであろう。
其れだけは・・・其れだけは防がなければならぬ。
「(誰か・・・・・誰かッ、助けて・・・!!)」
されど願った所で彼女が待ち望むような白馬に乗った王子様などやって来る訳がない。
・・・・・精々、やって来るのは―――――
ズドォオーンッ!!
『『『ッ!!?』』』
「・・・ふぇ?」
―――――重苦しい防壁シャッターを破って現れた鉛色の鎧を纏う灼眼独眼の”鬼”ぐらいであろう。
「ヴぇろぉお”ぁア”ア”阿”ぁア”ア”ッ!!」
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆