―――――『メロスは激怒した』
昭和を代表する作家の一人、太宰 治の著『走れメロス』に出て来る有名な一節じゃ。
じゃけども、何でメロスは激怒したんじゃろうか? 其れは彼が王の暴虐ぶりを人づてに聞いたからに他ならん。
其の後、暴君の残酷ぶりを聞いてブチ切れたメロスはナイフを持って王の元へ乗り込んで行く事で物語が動き出すんじゃ。
・・・冷静になって考えてみると、メロス短気過ぎじゃね?
人づてに暴君の残虐ぶりを聞いて憤慨するんは別に構わん。じゃけど其れでブチ切れて、すぐに単身王宮へ乗り込むって・・・・・阿呆と違う?
そねーな事する前に結婚式を控える妹の元へ帰ってやれーや。其の結婚式の準備の為に王都へ来たんじゃろうがな。
・・・じゃけれども、逆に考えてみればメロスは其れだけ正義感が強い男じゃという事じゃ。顔も名も知らぬ暴君の被害者達の無念を必要以上に痛み入る事が出来る共感能力が高い優しい人間じゃーいう事じゃ。
”ヒーロー”云う存在は大抵こねーな輩ばっかりじゃろう。自らの危険を顧みずに大義を成そうとする良くも悪くも自分勝手な種類の人間じゃ。そう・・・あの織斑の様に。
野郎は大して親しくもない他者の痛みを自身の痛みの様に感じ、憤慨し、其れを改善しようと行動する事の出来る人間じゃ。
じゃけん野郎には其の大徳に見合った”人気”がある。おまけにイケメンとくれば、何をしても何をしようとも黄色い悲鳴がキャーキャー巻き起こるじゃろうな。
其れに異常な状況下へ放り出されてもすぐに適応する能力も持っとる。
そんな皆のヒーロー織斑くぅんに対して俺はどうじゃ?
荒事や災い事があっても其れが自分の周囲の事でなけりゃあ対岸の火事と捉え、傷付きたくない一心で事なかれ主義を貫かんとする。加えて、俺は癇癪持ちの捻くれ者で放り出された環境下にすぐに適応する事も出来ん。
ホンマ、野郎とは比べる間でもねぇくらい・・・まるで月とスッポン並みに大違いじゃわぁ。
・・・じゃけど・・・じゃけどなぁッ・・・・・
「なッ、なんだ!?」
こねーな俺でも・・・・・
「むッ、むぅ―――――!!」
”吐気のする悪”は、わかる・・・ッ!
阿”ッ?
何やっとるんじゃ、オメェら?
・・・ブチッ
何を寄って集って血に濡れた更識の躰を組み敷いとるんじゃ?
・・・ブチブチ!
何を口に物を咥えさせて、そいつの綺麗な顔に青紫色の腫物を付けとるんじゃ?
・・・ブチブチブチィッ!
フザケた事やってんじゃねぇーぞ、テメェら此の野郎共ッ!!
ブッチンッ!!
「ヴぇろぉお”ぁア”ア”阿”ぁア”ア”ッ!!!」
此の時、俺の中で何かが引き千切れる様な音が轟く。
じゃけど、そねーな事は今はどうでもエエ。
今、俺がやるべき事・・・其れは―――――
「どいつもこいつも有罪じゃ!!」
―――コイツら全員を半裂き八つ裂きにする事だけじゃ!!
〈・・・さぁ、”惨劇”を始めようか? ハルキッ?〉
其ん時、久々に聞いた”男”の声が・・・酷く馬鹿に頭へ響いた。
◆◆◆◆◆
IS統合対策部製作の新型EOS、Jp式自動装甲機動甲冑兵器『義月一型』。
謳い文句としては、今まであった既存EOSの持っていた問題点を払拭した機体と言っても良い。
あってないようなパワーアシストと重すぎるバッテリー問題は大幅に改善。
生身の身体が露出する事に関しては全身装甲甲冑にし、装甲版を軽量化する事で防御力問題と重量問題を解決。
他にも改善された点は多々あるのだが・・・一方でデザインは、流石はヲタクが集まって製作したと云える程に偏っていた。
モデルデザインは『機動戦士ガンダム』からジオン公国軍主力量産機である『ザクⅡ』を主とし、其処に『コードギアス』からKMFの推進機関であるランドスピナーや基本兵装であるスラッシュハーケンを付け加え、更に此れに『装甲騎兵ボトムズ』から仮想戦闘データ等を読み込ませた。
正に「ぼくのかんがえたさいきょーのEOS」として誕生した、してしまった義月一型。
「ヴぇロロロォ・・・ッ!」
其の姿は異形と呼ぶに相応しかった。
一本角が生えた頭部を覆うフルフェイスマスクからは赤いモノアイが怪しげに灯り、全身はカラーリングが未だ施されていない為、ガンメタリックカラーが鈍い光沢を有している。
「な・・・なんだッ!?」
「どこから湧いて出た?! あの方向には守備隊を置いていた筈ッ!」
そんな絵本から飛び出して来たキャラクターかの様な義月に襲撃者である流石の米軍特殊部隊員達にも思わず動揺が走った。
しかして彼等の心への撃侵は此れだけに留まらない。
「ゲヴぇロぁアア阿ぁアアアッ!!」
『『『ッッ!!?』』』
何を隠そう試作試験機である義月一型を纏っているのは、あの学園のバーサーカーとして名高い清瀬 春樹なのだ。
彼は大凡とても人の声とは思えない絶叫を轟かせながら脚部のランドスピナーを高速回転させて突貫を仕掛ける。
其の雄叫びと動作行動に特殊部隊員達に再び激震が走った。
「ッ、全体撃てぇ!!」
無論、彼等は動揺はすれども流石は米軍の精鋭兵か。一糸乱れぬ動きでサプレッサー装着のアサルトライフルを構えて一斉射撃を行う。
タタタッタン!と、ダンスのステップの様な銃声と共に銃口から発射された銃弾は一直線に義月の鉛色の装甲版へ向かって飛んで行く。
「ウだら阿ぁアアアッ!!」
「「ゲべぁあッ!!?」」
『『『なッッ!?』』』
されども此れで止まる銀飛竜・・・いや、”鬼”春樹ではない。
学園ゲート前の拠点制圧を行った時の様に自分へ飛んで来る銃弾を物ともせず、突貫射線上に居た兵士二人へ体当たりした。
タックルされた二人はメキャメキィッ!と生々しい音を発しながら他の兵士達を巻き込んで後方にあった通路壁へ強く身体を打ち付ける。
「阿”羅羅羅ぁアアいぇえあッ!!」
「げぇえあッ!!?」
そして、春樹は其のまま手当たり次第に強く握り締めた鉄の拳と鋼の脚をフルパワーで振るい捲る。
しかも唯無茶苦茶に拳や脚を振るっている訳ではない。
「な、なんだ・・・・・ッ・・・!!?」
ひとたび拳を振り被れば、振り被った腕の肘が背後から奇襲を仕掛けようとした兵士の顎を砕き、其のまま拳を振るえば、必ず彼らの何処かの骨ごと体内の臓腑を圧し潰す。
ひとたび脚を振るえば、肉を抉る様な一撃と共に必ず兵士共を藁の様に薙ぎ倒した。
「なんなんだこれは・・・ッ!!?」
目の前で起こる理解しがたい凄惨な状況に此処まで兵士達を率いていた『班長』は目を剥く。
「(兵士達が、同胞達がッ! 戦場を跋扈し、砲火を疾駆した百戦錬磨の我ら『アンネイムド』がッ・・・! まるで藁の様にッ、虫けらの様に!!)」
勿論、兵士達は棒立ちのまま殴られ蹴られていた訳ではない。
ある者はライフル弾を使用したアサルトライフルやショットガンを超至近距離で発砲し、ある者は鎧の隙間を縫ってサバイバルナイフを突き刺した。されど・・・此れが止まらぬ。
彼等の撃った銃弾は確かに弱い部分の装甲版を突き貫いては肉を抉り、斬撃は肉の筋を綺麗に切り裂いては血を床へ流させた。
だが、止まらぬ。止まる訳がない。
「ッ、ゲボェえええええ!!」
「ッ!!?」
時折、春樹は襲っては襲い来る兵士達に向かって嘔吐を吐き散らす。
高速格闘と高速移動によって胃の中がシェイクされ、最悪な気分となって口から出る。
其の最悪な吐気が余計に春樹の逆鱗へ触り、彼の暴虐に拍車をかけた。
「(眼前の・・・何だかよくわからんッ・・・いやッ、コイツは一体・・・・・本当になんだッ!!?)」
班長は自分でも気付かぬ内に迫り来る目の前の春樹に釘付けとなり、額から玉の様な脂汗をたらーりたらりと流しつつ恐怖する。
・・・一方で、そんな彼と同じ様に春樹へ釘付けとなっている人物が居た。
「(な・・・なに・・・一体、なんなの・・・?)」
未だ手足を拘束され、口に猿轡を咥えさせられた楯無である。
彼女は突如として現れた鉛の鎧を纏う夜叉に目を奪われた。だが、米軍特殊部隊員達が突然抱え込まされたような不安感や恐怖心を楯無は抱く事は不思議となかったのである。
「何故か?」と問われれば、彼女は戸惑っていた事だろう。けれども、何故か此の正体不明の夜叉に只ならぬ”安心感”を抱いたのだった。
楯無は無意識ながらも理解していたのだろう。あの一つ目モノアイの下には、あの小生意気な後輩のしかめっ面がある事を。
「・・・・・グルルルァアッ・・・!」
「ッ!?」
粗方の兵士達を再起不能にした夜叉はギョロリッと遂に残った班長達へ灼眼を向け、血と折れた歯が付いた拳をゴキゴキと鳴らした。
「・・・逃げろ・・・ッ」
「は、班長?」
「いいから逃げろッ、撤退だ! 責任は私が持つ!!」
『戦ってはならない』と班長は本能から理解できた。
目の前に居る此の”化け物”は、腕が千切れようと足が捥げようとも必ずや自分達の喉笛を喰い千切って来るだろう。
改めて任務を確認しよう。
米軍特殊部隊『アンネイムド』の今回の目的は、IS学園へ所蔵されているゴーレムⅡ・Ⅲから回収された未登録ISコアと二人の男性IS適正者が所有している専用機を強奪であるI。
だが、最早任務を続行するには不可能な状況に陥られてしまった。先行して突入した”隊長”には申し訳ないが、これ以上の被害を出す訳にはいかない。
「ッ、ですが班長! このロシアの女狐だけで―――――」
班長の意見に反論しようとした部下の一人が其処まで言葉を続けた後、急に押し黙ってしまった。
此れは何故か? 答えは簡単―――――
「うッ、げ、ゲぇ・・・!!?」
「ッ、ディアボロⅡ!!」
其の喧しい口の中に重々しい色をしたスラッシュハーケンを突っ込まれてしまい、其の射出された錨の勢い其のままで壁へ叩き付けられたからだ。
「阿”ぁ”ア”ッ・・・・・!」
「ッ、な・・・なん、なんだ・・・・・」
「・・・ウッバッしゃぁア”阿”ア”ア”ア”ッ!!」
「なんなんだッ、お前はぁあああああああッ!!」
暗い暗い赤い非常灯しか光が灯っていない空間に響き渡る誕生以来変わらぬ銃撃と閃光と硝煙の香り。
しかして・・・其れも永遠には続かない。
やがて瞬く銃声と火花が終わる頃には、酷く生々しい嫌な音が小さく暗闇へ木霊したのであった。
次回はグロに挑戦しようと思います。まぁR‐18Gにはならないので軽いお気持ちで。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆