―――――元来、清瀬 春樹と云う男は温厚な善人で諍い事や争い事が苦手な平和主義者。悪く言えば酷い臆病者。
しかして、彼にはある”才能”があった。
けれども其の才能は到底日常生活では決して開花しない・・・開花しては”いけない”ものであった。
其の為、幼少期の頃より春樹は其の外と内のギャップに苦しめられて来た。学校では陰湿ないじめを受け、社会に出てからはボーッとした不安に苛まれた。
だが、其れでも彼が道を踏み外す事がなかったのは、春樹を育て上げて来た両親の愛と教育の賜物である。
されども此の異常な世界、IS等と云う本来ならば存在してはいけない代物が蔓延る”異世界”に陥った途端・・・皮肉にも其の才能の蕾は徐々に徐々にだが開く事となる。
春樹は自身へ襲い掛かる理不尽な侮蔑や暴力に恩讐と憎悪を抱いて奮い立つ。でも、まだ”開花”には至らない。四分咲き程度で止まっている。
何故ならば、彼には”癒し”があったからだ。家族と強制的に引き離されたとしても、心を潤す癒しが側に居てくれた。今や相思相愛の仲となった『黒兎』の御蔭でまだ踏み止まれていた。
けれど・・・其れも”今”は違う。正確に言えば、身体測定を行った日より大きく調子を狂わされた。
加えて”今日”、美酒で調子を上げられてから一気にまた心を搔き乱されてしまった。
其のせいで彼のSan値は零に程近い所まで落とされた。
更にまたしてもIS学園を襲う事件が発生し、其れを鎮めようと校舎内に乗り込めば、襲撃者達が生徒会長へ性的暴行(誤解)を加えようとしているではないか。
・・・塵も積もれば山となる。
最早、彼のSan値は零を通り越してマイナスになってしまった。
発狂には至らずとも心は深淵を良しとした。
小指の爪先程度の良心と湧き水の様に湧き出る悪心を胸に秘め、春樹は刃を手に握る。
「・・・ッ・・・!!」
激しい火花散る剣戟を手合わせした地下区画の保管室前からアンネイムドの隊長はブォオーンッと自身が纏うIS、ファング・クエイクの四基あるスラスターを噴かせて勢い良く通路を駆け上がる。
途中、重々しい黒々した防御シャッターが行く手を阻むが其れを自身の拳とナイフで打ち砕いて切り開く。
≪ウぎぃイあァああアアアッ!!≫
其の間にも自分と部下達を繋ぐ通信インカムからは、酷く耳に残る汚らしい断末魔が轟き響き渡っている。
「く・・・ッ!」
尋常ならざる部下達の絶叫にアンネイムドの隊長は千冬との鍔迫り合いを一旦切り上げて彼等の元へと急ぐに急ぐ。
けれども・・・・・
「ッ・・・!!」
アンネイムドの隊長が部下達の反応がある場所に着くや否や、ハイパーセンサーと共に彼女は目を見開いた。
「あ・・・ア”ぁ”ッ・・・」
何故ならば、溜まりに貯まった水溜りの中で部下の一人が上半身の身包みを剥がされた上でうつ伏せに倒れていたのだから。
無論、アンネイムドの隊長は急いで彼に近付き、其の身体を起こして抱きかかえる。
「なッ・・・ぁ・・・!!?」
しかし、其の抱きかかえた部下の顔を見て彼女は恐怖に顔を歪めて思わず目を背けたくなった。何故ならば、部下の顔は真っ赤に染まっていたからだ。
けれども、別に其れは非常灯の明かりに照らされている事への比喩表現ではない。
「あ・・・ア”うッ、あ・・・・・・・・!」
”剥がされていた”のである。
「何を?」と問われれば、「皮を」だ。
なんと部下は顔を剥がされていたのである。表皮の下の筋肉が剥き出しとなり、顔面の骨が垣間見える程に皮膚を引き剥がされていたのだ。
しかも其れだけに留まらない。鼻は扉の様に切り離され、片耳は丁寧に削ぎ落とされていた。
「だッ・・・だいぢぃぉおう・・・・・!」
加えて胸から腹にかけてをこれまた綺麗に剥がされ、唇のなくなった口の中は欠けた歯が舌に突き刺さっているではないか。
「ッ、な・・・なんだッ・・・」
アンネイムドの隊長が辺りを見回せば、其処には抱き抱えた部下と同じ様に顔の皮、鼻、片耳、胸から腹を削られ削ぎ落とされ引き剥がされた虫の息の部下達が、杭で穴を開けられた掌へワイヤーを通された状態で壁に吊るされていた。
「なんなんだッ、これは・・・!!?」
まるで肉屋の貯蔵庫に吊るされた肉塊の様な見るも無残な部下達の姿に彼女は動揺の声を挙げる。
だが、声は通路の壁を伝って山びこの様に反響するばかりで後には恐ろしい程シンとした静寂が彼女を包み込んだ。
「だッ、だいぢぃぉおう・・・だいぢょうぅう・・・!」
そんな瞳孔を揺らすアンネイムドの隊長の胸倉を抱き抱えられた部下が掴む。
其の手は酷く血に濡れており、彼女のISに赤黒い染みを付けるが・・・彼はしっかりと其の胸倉を掴んでこう言った。
「に、ニゲろぉッ・・・これは、罠だ・・・ぁッ!」
「ッ!」
其の絞り切る様な声で隊長の鼓膜を震わせた後、部下は涙と血で潤んだ目を命一杯開く。まるで此の世のものではないものでも見るかの様な四白眼を晒したのである。
何故に此の様な眼を晒すか。
其れは―――――
「阿”ロロロぁ・・・ッ」
「ア”ぁ・・・ぁあ”ッ!?」
目線の先にあるであろう非常灯の明かりが差し込まない天井へ赤い一つ目の化け物がヤモリの様に張り付き、此方の様子を涎を垂らして伺っているではないか。
「ッ、な!!?」
部下の様子に気付いた隊長は天井を見上げて驚くが、最早既に時遅し。
彼女が驚嘆の声を挙げる頃にはズドンッ!と云った瞬きと爆発音が轟き響き渡る。
「げビャァッ!?」
天井から床へ向かって放たれた青白い弾頭は隊長が抱き抱えた部下の額を物の見事に撃ち抜いたと思ったら、其の額ごと頭全体をカチコチに凍らせた。
「ッ、貴様ぁ!!」
「阿”ぁ!」
部下がやられてしまった事に激昂した隊長はすぐさま得物を構えるが、其れよりも早く独灼眼の化物は彼女の機体目掛けてズドドンッ!と撃ち放つ。
然らば銃口から射出された”氷結弾”はファング・クエイクの四基あるスラスターを全て凍結停止させ、其の足を留めた。
「なッ!?」
「ヴェろぉおぁアア阿”ァ”ア”ッ!!」
其の瞬間を逃す化物・・・否、殆ど吹っ切れた春樹ではない。
一秒にも満たない躓きであったが、止まった隊長目掛けて春樹は襲い掛かるや否や、其の頭部目掛けてドゴンッ!!と拳骨を振り下ろした。
「ぐアッ!? ッ、この!!」
「グべらッ!?」
彼女は殴られた衝撃に衝撃を感じつつも握った得物ですぐさま反撃を行った事で春樹を後方へと吹っ飛ばす。
しかし、春樹はとても軽量化されたとは言え重量のある鎧を纏っているとは思えぬ程の軽快な立ち回りで宙返りを行うと、四つん這いの状態でガリガリ床を鉄爪で引っ掻いた。
「・・・貴様・・・・・何者だッ?」
目の前に佇む春樹にアンネイムドの隊長は、手垢が付き過ぎて擦り減ったスタンダードな台詞を並べ立てる。
無論、此の手の台詞に返答しなくても良いのだが、生真面目な春樹は丁寧に返す。
「生憎、私は貴様ら程度に名乗る名など持ち合わせてはいない」
「ッ・・・!」
獣の見た目と声色とは程遠い丁寧な文言に隊長は驚くが、キュッと漢数字一文字に噤んで得物を構え直した。
けれども、そんな彼女とは裏腹に今度は春樹の口が開く。
「意外と来るのが早かったな。しかし、十分な”練習”が出来た。其れに安心してくれ。私は貴女の部下を殺してはいない。まだ生きているし、治療すれば五体満足の状態で復帰できる」
「貴様・・・ッ・・・!」
「破ァ~・・・おいおいおいおいおい。そう怖い顔をするな。先に攻めて来たのは御前達なんだぞ。よって此れは御前達にとって必要な”罰”だ。被害者意識を持つんじゃあない。其れに―――――」
ガギンッ!・・・と未だ喋っている途中の春樹にナイフを突き立てんと隊長は一機に距離を詰めて迫る。
スラスターを潰されている為に瞬時加速には及びはしないが、素早く彼女は何とも容易に距離を詰めると彼の胸目掛けて刃を突き振り抜く。
「―――――私が喋っている途中だと言うのに・・・全く無礼だな」
「ッ!?」
だが、振り抜いた切先を春樹は当然の如く掴み取る。
勿論、対IS用ナイフの刃先を掴んだ事で其の手からは血が滴るが、彼はしっかりと隊長の得物を掴んで離そうとはしなかった。
其れ処か―――――
「ウダラアアッ!!」
ナイフを掴んだ手とは違う方の拳骨でドゴンッ!と隊長の顔を殴打した。
―――――話は変わるが、春樹の纏っているIS統合対策部製新型EOS『義月一型』は従来の機体とは大きく違う点が明確に一つだけある。
其の点とは―――――
「ッぐ、がアッ!!?」
春樹の落とした拳骨に対し、アンネイムドの隊長は困惑する。
其れは頭部に受けた衝撃でもあったが、何よりも驚いたのは自分の頭部から聞いた事もないようなバビキィッ!と何かが割れるような音と激痛が奔った事である。
隊長が聞いた何かが割れるような音・・・其れは彼女の被ったヘルメットが割れ、頭蓋骨にヒビが入る音であった。
けれども何故にEOSの攻撃がISパイロットへ直接届いたのだろうか。ISにはパイロットを守る筈の”絶対防御”がある筈・・・・・其れなのに何故に?
理由を挙げるとするならば、其れは義月に搭載された絶対防御を阻害するジャミング装置の御蔭である。
此のジャミング装置なる代物は、元々IS学園に襲撃をかけて来たゴーレムⅢに搭載されていた技術であったのだが、其れを春樹は自らの異能である”ガンダールヴ”を使って新型EOSへ技術流用したのだ。
そうして義月は世界初の完全対IS兵器として誕生したのである。
「もういっちょ!」
「ッ!!」
加えて春樹の異能であるガンダールヴの効能によって攻撃力は通常よりも格段に上がっている為、一撃一撃が途轍もなく重い。
そんな拳骨を再び頭部に受ければ、間違いなく隊長の頭は熟した果物の様に潰されるであろう。
彼女は其れを避けようと咄嗟に避けた。
「ッ、ぐぎぃいッ!!」
しかし、得物ごと手を掴まれている為に完全回避は儘ならない。
何とか首を振る事で頭部への攻撃は避けられたが、上から下に振り下ろされた彼の拳骨はドゴンッ!と肩へと直撃。其の衝撃によって肩甲骨やら鎖骨やらが粉々に砕かれた。
「はい、もういっちょ!」
「まッ、待―――――」
尚も春樹は馬鹿の一つ覚えの癇癪を起した子供の様にアンネイムドの隊長へ殴打を繰り返す。
「はい、はいッ、はいはいはい!! まだまだ行くぞッ!」
「がはッ、ぐゲッ、ゲは、ぐあッ!!?」
春樹は彼女を殴る、殴る、殴る、兎に角殴る。乱雑なれど正確に筋肉を圧し潰し、骨を砕く。
「ッく、ぐぅうう~~~!!」
されどもアンネイムドの隊長も唯只殴られているばかりではない。どうにか彼の魔の手から逃げようと彼女は画策して行動するのだが、距離を取る為にスラスターを吹かそうとしても氷結弾の影響で機能停止。掴まれている手を振り解こうと残った片方の拳で彼を殴打し、的確に急所目掛けて足蹴りを放って暴れるが、逆に萬力の握力でナイフごと手を握り潰されてしまう。
更に絶え間なく隙間なく続く鉄拳殴打によって徐々に体勢を崩され、遂には春樹に馬乗りを許してしまった。
春樹と対峙する前に行ったかの名高きブリュンヒルデである千冬との戦闘には花があった。
端的に言ってしまえば、千冬は相手を翻弄し、自分が最低限の手傷も負わぬ様に最大限の注意を払って戦う大胆不敵なれど慎重なスタイル。
一方、打って変わって春樹の戦闘スタイルは実に泥臭く絵面もとても地味である。
・・・なれど、自分の受ける手傷など二の次で唯々相手を即倒す事を前提としたものであった。
「グッ・・・しゃらああッ!」
「のわッ!?」
其れでも彼女は諦めない。
最早完全に頭に血が上っていた為、隊長はファング・クエイクの拳を容赦なく春樹に向けて放つ。
・・・が、彼は打たれ強い。
「ッ・・・ヴェろぉおアアアッ!」
「ッ、がッハァッ!!?」
バキィッ!と彼女の拳は春樹の被る兜へヒビを入れるが、構わず彼は肘鉄を放つ。
放った肘鉄が、隊長の顔の左側面に直撃。其のせいで顔を覆っていたバイザーが弾き飛ばされ、彼女の顔が露わになる。
其の隊長の顔立ちは眼光は鋭くも端正なもので、後ろで結んだ金髪がとても美しい。
見た目の年齢としては、千冬よりも少し下だろうか。
「ほう、此れは何とまぁ」
美人なアンネイムドの隊長の顔を見た春樹は何を思ったのか。「よっしゃ」と言って殴る事を止めた。
・・・だからと言って彼が攻撃を止めたとは言っていない。
「おりゃッ」
「ッ、ぎぃァアァアああああ!!?」
殴打を止めた春樹は隊長の足をISの装甲板ごとボギィイッ!と足を芋けんぴの様に圧し折るや否や、「そりゃ」と彼女を通路壁へ投げ叩き付けた。
「本当、此の世界の人間に外見が醜い者はいないな。醜いのはせいぜい、中身だけか? えぇ、おい?」
そんな事を呟きながら春樹はズドムッ!と隊長の四肢に向かって取り出したリボルバーの撃鉄を起こしては薬莢の雷管を叩く。
其れによって銃口から放たれた氷結弾頭が彼女の手足を撃ち抜く度に「ッ、がァア!!」と短くも悲痛な断末魔が暗い通路に響き渡る。
そして、顔を覗き込む様に息も絶え絶えなアンネイムドの隊長の顎を指で引き上げた。
「・・・美しいな。とても人殺しを生業としている者の目とは思えんよ。綺麗な碧い瞳だ」
「ッ・・・ば、馬鹿にする、な・・・!」
「馬鹿に等はしていない。私は美しい者は美しいと・・・素直な意見を述べただけだ。お解りか、レディ?」
彼女には不気味に映ったであろう。感じたであろう。
其の燃える様な色をした独眼も、しわがれた獣の唸り声の様な声色も、そして其の声と姿に対して似つかわしくない紳士的な口調も。
「くッ・・・殺すなら、さっさと・・・殺せ!!」
「うん? 殺す? 馬鹿な事を・・・そんな酷い事を私がする訳がないだろう」
どの口が言っているのだろうか、此の男は?
IS学園を襲撃し、楯無の隙をついて彼女を拘束した上で拉致誘拐しようとしたアンネイムドの隊員達を撃破した事は褒められる事だろう。
・・・だが、其の後が問題だ。
此の部隊の長である彼女を誘き出す為とは云え、彼は隊員達の歯を折り、皮膚を剥ぎ、鼻を削ぎ、片耳を切り落とした。・・・ハッキリ言ってやり過ぎである。
されど此の男に言わせれば、別に眼球を刳り貫いた訳でもないし、手足を切り落とした訳でも、彼等の命を奪った訳でもない。要するに”容赦”したと言うのである。
「本来ならば、部下達の手前で貴女を犯した上で辱めるのだが・・・其れは私の理念に反する。だから今日は其の美しさと私の慈悲に免じて貴女も貴女の部下達も”命だけ”は見逃してあげよう。・・・・・だが・・・”罰”は受けてもらうがな」
「なッ!!?」
そう言いながら春樹は優しそうな口調と共に自身の”左手”で隊長の身体を上から下へいやらしく撫でてやる。
するとアラ不思議。ISのSEがゼロになるか、本人の意思がなければ出来ない筈のISが強制的に待機状態へとなったのだ。
此れには流石のアンネイムドの隊長も今日一番の驚愕に身体を震わせた事だろう。
「心配するな。貴女の整った顔立ちと美しい瞳を傷付ける様な真似はしない。そうだな・・・背中か、腰か、腹か、胸・・・いや、胸は止めて置こう。女性にそんな酷い事は出来ん。まぁ、其れは考えながらでも良いか」
「い・・・いや・・・やめろッ・・・!」
「大丈夫、貴女の部下達で散々練習は出来ているからな。・・・手早く済ませるつもりだ」
「いやぁあああああああああああああああッ!!」
甲高い絶叫と共に春樹は何の躊躇も容赦もなく彼女のISスーツをビリビリ切り刻み、其の白い柔肌へ赤黒い血で濡れたナイフを―――――
◆◆◆
「(・・・んッ・・・あ・・・あ、あれ・・・?)」
楯無は朧げながらも意識を取り戻す。
「(えーと・・・私、なにして・・・たんだっけ? あれ、この音・・・)」
彼女が起きたと同時に聞いたのは、キィーンキィーンッと小気味の良い金属音であった。
「(・・・良い音・・・なんだか安らぐわ)・・・あッ」
そんな目覚ましで目を開けてみると目の前には金色の焔がポーッと灯っているではないか。
其の焔に朧げな意識のまま楯無は手を伸ばして一言・・・・・
「きれーい・・・」
・・・と、率直な感想を述べた。
述べたのであるが―――――
「・・・何ならな?」
「・・・・・・・・ふぇッ?」
小気味の良い金属音とは違う男の声であった。
其の声に驚いた事で一気に意識はハッキリとしたものとなり、よく見れば楯無の手は兜を脱いだ事で粉塵に塗れた春樹の頬を撫でているではないか。
「き、清瀬君!? ど、どうして君がッ? って、なにこの状況?!」
「おい、暴れんな。落っことしてしまおーがな」
覚醒した意識の中で辺りを見れば、自分が彼に所謂”お姫様抱っこ”をされている事に彼女は益々動揺するが、そんな楯無を余所に彼は高速機転する脚部のランドスピナーを巧みに操る。
「あッ!? そ、そう言えばあのアメリカの特殊部隊は?!」
「あぁ、心配すんな。全部”やっつけた”」
「やっつけたって・・・って言うか清瀬君、これなに着てるの?! これISじゃないでしょ!」
「五月蠅ぇのぉ。起きた途端にピーチクパーチク喚くんじゃねぇよ。其れよりも脇腹と右手、痛うないんか?」
「えッ、なんで脇腹と手・・・・・あぁッ、そう言えば!!」
「そう言えばじゃねーよ。モルヒネで痛みが鈍くなってるとは言え、簡単な手当てしかしてねーんだからな。安静にしとけや」
見れば、右手と脇腹には簡易的だが丁寧な医療処置が施されていた。
しかし・・・
「ッ、ちょッ、ちょっと! なんで私、お腹が剥き出しなのよ?!」
「治療の邪魔じゃったけんな、切った。大丈夫じゃ、切った布切れは包帯にしちゃったけん」
「「包帯にしちゃったけん」じゃないわよ! き、清瀬君、まさかあなた、私が意識を失っている間に私に何かエッチな事でも―――――」
「するか、阿呆。変な事ばぁ言うとったらお前、ここら辺に投げて行くぞ。其れに助けてやったんじゃけん、ありがとうの一言ぐらい言えれんのか?」
真っ赤な顔で身をすくませる楯無に対し、春樹は呆れた眼で刺しつつ溜息を吐く。
其れに対して楯無は顔を俯かせて漸く「あ・・・ありがとう」と礼を述べ、「ま、及第点じゃな。阿破破ッ」と彼は口端を歪ませた。
「其れで、どういう状況じゃ? 敵はあれだけなんか?」
「いいえ。まだ学園のシステムが回復していないから、まだね・・・まだ終わってないわ」
「阿? システムの復旧って・・・え、何て?」
疑問符しかない春樹に楯無は粗方の内容を便利な『かくかくしかじか』で説明する。
すると・・・
「・・・・・阿”ッ?」
「ひッ・・・!? か、顔が怖いわよ、清瀬君?」
「・・・悪ぃ」と謝る春樹だったが、明らかに目の奥はドス黒いナニかで一杯となった。
IS学園のファイアウォールを攻略し、システムをダウンさせる事の出来る人間など彼には一人しか思い当たる節がなかった。
「阿”ぁ、糞・・・面倒臭いったらありゃしねぇよ。阿”ぁ、もうヤじゃ」
事件の詳細を聞き、少々回復したSan値がまたしても減少して春樹は泣き出しそうな顔をしていると、何故か彼の頭を「よ・・・よしよし」と楯無が撫でたではないか。
「おッ、おぉ・・・何じゃ、気色悪」
「きしょくわ・・・ッ?! ちょっと清瀬君ッ! こんな美少女が労わってあげてるんだから、もうちょっと・・・その、言い方があるでしょ!!」
「悪ぃ、遂な。てか、慣れん事するなや。顔真っ赤じゃで、会長?」
春樹に指摘され、「ッ、も~! ホント可愛くない後輩ね!!」と頬を紅潮させてポカポカと春樹の胸を叩いた。
「っていうか、清瀬君・・・すっごくナチュラルに私の事、お姫様抱っこしてるけど・・・」
「阿? あぁ、こっちの方が慣れてるからな。お米様抱っこの方が良かったか?」
「い、いや・・・このままで、良いわ」
「慣れている」という言葉を聞き、楯無は納得してしまう。
そう言えば此の男、最近は見ないがあの”ドイツの妖精”をいつも抱き抱えていたなと。
・・・チクッ
「(・・・あれ? なんで、私・・・・・あれぇ??)」
「阿? おい会長、どうし―――――ッ・・・!?」
キキィッと春樹はターンピックで急ブレーキをかけて停止する。
突然の出来事に「どうしたの?」と彼女は疑問符を投げ掛けようとしたが、すぐに其れを飲み込んだ。
「ガロロロ・・・ッ!」
「!」
何故ならば、彼女の目線の先には歯を剥き出しにして通路の曲がり角を睨む春樹が居たからである。
彼は手元に赤く震える鍵鉈MVSを発現させると其れを構えた。
「会長・・・しっかり俺に掴まっときんさいよ」
「お、おろしてはくれないの?」
「其れじゃとアンタを守れんからな。エエな?」
鋭い目付きの春樹からの発言に楯無は珍しくしおらしい態度で「は・・・はい」と頬を赤くする。
対する彼はそんな彼女の表情など余所に停止していたランドスピナーを再び高速回転させた。
「ッドゥウラァア!!」
「!!」
ランドスピナーの高速移動とターンピックによる動作と共に春樹はMVSを振り上げる。
対する相手側も構えた日本刀を突き刺さんと構えたのだが―――――
「ッ、ブリュンヒルデ!?」
「清瀬!!」
其の相手とは黒のボディースーツを身に纏った千冬であった。
両者は互いの姿を一目で認識するや否や、あわや刃が直撃するギリギリの所で得物の動きを止めるのであった。
「何じゃー、先生か。吃驚したわぁ、も~。つーか、何じゃあな其の恰好は? 『退魔忍』かよ。エロアニメに出て来るぐらいめちゃんこエロいわぁッ、痴女じゃがん」
「この緊急時にお前というやつはふざけた事を・・・ッ。それよりも楯無、大丈夫かッ?」
「は、はい!」
出会った人間が敵ではなかった事に胸を撫で下ろす楯無だが、春樹は何処か不機嫌そうに表情を歪める。
「大丈夫じゃなかったわ、阿呆。会長は危うく下種野郎共の手で男キズモノにされる所じゃったんじゃぞ。冷やして頬っぺたの腫れが引いたとは言えども・・・・・織斑先生、アンタぁ何しょーたんなら?!」
「ッ・・・それは・・・」
「別にいいのよ、清瀬くん! 私は自分のやるべき事に従事しただけよ」
彼女は千冬を庇う様に発現するが、春樹は「ッケ・・・!」と口を鳴らした。
「ッ、それよりもお前たちの方へ敵のISパイロットが向かわなかったかッ?」
「阿? あぁッ、其れなら下種野郎共共々向こうでのたうち回ってますよ」
彼の聞き捨てならない言葉に千冬は「・・・清瀬、それはどういう事だ?」と言葉を連ねたかった。連ねたかったが、其れよりも先に彼女の通信インカムへ連絡が入る。
≪お・・・織斑先生ッ、緊急事態です!≫
オドオドと動揺した簪の声に「どうかしたのか?」と千冬が答える前に春樹が其のインカムを奪い取って答えた。
「どしたんなら簪さんッ?」
「おい、清瀬―――――」
≪春樹ッ・・・!? 戻って来て、くれたの?≫
「応。すぐ傍に楯無お姉ちゃんも居るでよ。其れよりもどうしたんならなッ?」
≪じ、実はね―――――≫
帰って来てくれた春樹に喜びの動揺を感じつつも簪は恐る恐る其の緊急事態なる事情を話す。
すると其の話を聞くや否や―――――
「・・・・・阿”ぁッ?」
―――――と、酷く低い声色を出してビキリッとインカムを握り潰さんと力を籠めた。
そして、「お、おい清瀬?!!」と呼び止める千冬の声を碌に聞かぬまま楯無を抱えた其のままで凄まじい速度を出し、彼女等が待つ部屋へと急ぐのであった。
ストレス限界突破、プレスウルトラな春樹のテーマ曲は『Glitter & Gold』です。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆