―――――ありのまま、今起こった事を話すでよ。
『電脳世界の入り口で、俺が六つある内の一つの扉を開けてみたら、”熱の籠った瞳をしとる鈴さんに腰にバスタオル巻いただけの”ハズレ”が覆い被さっとった』
・・・・・・・・・・・・・・・阿”ッ?
おいッ・・・・・おい、オメェ・・・おい、オメェふざけるんじゃねぇーよ。
こっちゃあ酒で頭がメロメロの状態で鬼畜米兵のボケ共達とどったんばったんドンパチやって来たんじゃぞ。
其れもISなんぞ纏わんと、改良点が未だあるじゃろう軽量してもまだちょっと重い新型EOSで戦うたんじゃぞ。
御蔭で装甲版の隙間を縫うてナイフで刺されて血は出るわ、ライフル弾や散弾撃ち込まれて肉を抉られるわ、銃座で殴られて骨を折られるわ、散々な目に合うた。
しかもスキットルに銃弾が突き刺さっとるし。
あぁ・・・今回も今回でホント、向こう傷が増えたで。あぁ、酒飲みたい。アルコールを摂取したぁい。
・・・・・其れなのに・・・其れなのに・・・
オメェッ、何しょーるんならッ?!! 此のボケカスがぁあッ!!!
◆◆◆◆◆
「は・・・”春樹”!?」
此方をしかめっ面で伺う見た事もない”白い制服”を着た”見知らぬ男”の名を鈴は酷く狼狽えた様子で叫んだ。
「おい、鈴。こいつのこと知ってるのか?」
「えッ・・・え、えと・・・(あれッ? なんで私、この人の名前知ってるんだっけ?)」
虚無虚無しい眼で自分達を見る彼に動揺する鈴を余所にバスタオル装備のみの一夏は「誰だッ、テメェ!!」と凄まじい勢いで男の胸倉を掴み上げる・・・・・のだが、此れは最悪の悪手だ。
何故なら此の浜に打ち上がった魚の目をした様な男は、此処に・・・正確に言えば、此の”電脳世界”を訪れる前にあの”残虐非道な特殊部隊”『アンネイムド』を撃破した学園の狂戦士と名高い―――――
「・・・・・るんじゃねぇ・・・ッ」
「はぁッ?! なにブツブツ言ってるんだよ! いいからさっさと出て行けよ!! 警察呼ぶぞ、このやろ―――――」
「フザケルんじゃねぇええッ!!」
バキィイッ!と男は自分の胸倉を掴む一夏の腕を振り払うや否や、其の一夏の顎目掛けて下から上へ鋭くも重い掌底を打ち放つ。
無論、此の躊躇はおろか容赦もない正確無慈悲な打撃によって一夏は「ぶげぇッ!?」と踏んづけられた蛙の様な呻き声を挙げるが、男は更に彼の踏み出した足を膝から思いっ切り圧し折った。
「―――――ッ、うぎぃあああぁああッ!!?」
「い、一夏!!」
断末魔を挙げてうずくまる一夏へ声を挙げる鈴だが、そんな彼女を余所に男は一夏の黒い頭髪をもぎ取る勢いで掴むと、其のまま彼を部屋の窓辺へと円盤投げのスタイルで放り投げる。
ガシャーン!と割れて砕け散る窓ガラス。
其の後すぐ、どしゃりと地面へモノが叩き付けられる音が木霊した。
「ッ、一夏ぁあ!! ちょっと春樹! いくらなんでもやり過ぎよ!! あれじゃあホントに一夏が―――――
「喧しいッ!!」
―――――ッ?!!」
喚こうとした彼女に間髪入れずに学園のバーサーカーこと清瀬 春樹は怒鳴り返す。
其の彼の余りの酷く恐ろしい形相に対し、鈴は思わず圧倒されてしまって息を飲んでしまう。
「確かにッ、二人の愛の営みを邪魔した事は謝るわ! じゃけど、今はそねーな事をやっとる場合じゃなかろうがな!! 学園のシステム復旧はどうしたんならな?! つーか、いつの間にあの鈍感屑と恋人になったんじゃ、鈴さんはぁ?!!」
「し、システム復旧・・・? なんのことよッ、なに言ってるのよ! それに私は前から一夏と―――――」
鈴が其処まで言葉を発した後、「・・・あ・・・あれ?」と彼女の脳内に大きな疑問符が浮かぶ。
「一体いつから自分は彼と恋人同士となったんだろう?」と、「自分から告白したのか? 其れとも一夏から?」と。
思い出そうとしても、どうしても思い出す事が出来ない。
「まさかじゃと思うが、またあんな馬鹿みたいに遠回しの告白をしたんかッ?」
「ば、バカみたいな告白って・・・な、なによソレッ?」
「何じゃ、忘れたんか? ほれッ、『料理が上達したら、毎日私の酢豚を食べてくれる?』ってヤツじゃ」
「ッ、そうよ! 私は一夏に確かそう言って告白したのよ!・・・って、え?」
春樹の言葉に大きく頷く鈴だったが・・・次の瞬間、彼女の脳内にある映像がフッと再生される。
其れは、目の前の春樹と見覚えのない見知らぬ”筈”の金髪少女と共に玄米茶を飲みながら恋愛相談をする様子でもあったし、自分の心の内に溜まった鬱憤を見た事も触った事もない”筈”の赤黒い鎧を着て一夏にぶつけていた様子でもあった。
「そ・・・そうよ・・・あの鈍感バカったら、私の一世一代の渾身の告白を「毎日酢豚を奢ってくれるなんて、ありがたい」って解釈しやがったのよ!」
「応ッ、そうじゃ。そんで君は野郎はぶっ飛ばそうとクラス対抗戦で頑張ったろうがな!!」
「うん! でも、もうちょっとの所でゴーレムが邪魔して・・・き、て・・・・・」
「あれ?」と、またしても鈴はフリーズしてしまう。
確かに春樹の言う通り、彼女はクラス対抗戦で鈍感な一夏を相手に”IS”を纏って試合を行った。
しかして此処でもまた鈴はある矛盾に気が付く。
「あ・・・あれ? でも、今の私は中学生で・・・でも、クラス対抗戦は”一学期”にやったんでしょ? だから・・・・・あれぇ??」
「おい、鈴さん? 大丈夫か?」
泉の様に湧き出る疑問符に次ぐ疑問符に対し、頭を抱えてウーンウーンと唸る彼女を余所に春樹は「まぁ、ええわ」と壊れた窓ガラスの外を見る。
すると其処には体を丸めた状態で絶叫を挙げて転がる一夏の姿があった。
「オラぁッ!!」
「ゲッばぁあ!!?」
さすれば春樹は颯爽と窓から飛び出すと、そんな一夏の鳩尾をサッカーボールでも蹴るかの様に萬力の力を込めて蹴り上げた。
メキメキィッ!と筋肉と骨が千切れて砕ける生々しい音の後に響いたのは、実に汚らしい胃液と唾液混じりの断末魔だ。
「な・・・なんでこんな事するんだよぉ・・・ッ!? 誰なんだよぉ、お前はぁ・・・!!」
「阿ぁ? おいおいおいおいおい、何忘れとるんじゃよオメェ? 俺とオメェはドドメ色の糸で結ばれた仲じゃろうがな。えぇッ、織斑ちゃぁあん?」
其の声と共に再び響いたのは、またしても酷く耳障りな生々しい音と潰された蛙の様な断末魔。
其れが何度も何度も何度も何度も何度も響き渡る。
そして、いつしか其のメロディに「阿破破・・・阿破破破ッ!」と云った奇天烈な笑い声が混じる様になった。
「オラオラオラァッ!! こんのボケカスがァア! 死なん程度に殺してくれるわぁああッ!!」
「ゲぼばぁあッ!!?」
・・・いくらアンネイムド達との戦闘の後とは言え、アドレナリンが出っ放しの状態で正気を失った春樹を傍から見れば、唯の悪党である。
「う、うわぁ・・・ッ」
其れを窓の外から眺めるのは、フリーズから漸く立ち直った鈴であった。
そんな彼女のドン引きの目に気付いたのか。何とも不様な姿を晒す一夏が「ッ、り・・・鈴・・・!」と手を伸ばす。
「た、たすけ・・・助けてくれッ、鈴!」
「・・・ッ・・・!」
其の酷く哀れな姿に鈴は”ある事”を確信した。
其の”ある事”とは―――――
「やっぱり・・・あんたは一夏じゃない。”偽物”よ!」
「!!」
「全部・・・全部思い出したわ。そうよ、あの鈍感バカがあんな告白で私の恋人になってくれてるなら、とっくの昔に私達は付き合ってるわよ!!」
彼女の視界に映っている織斑 一夏は、鈴が「こうだったらいいな」と造り上げた”幻想”であったのだ。
「それに・・・それにどんなにボロボロなっても、一夏はそんな無様に助けを乞うような事はしないわ!! 絶対によッ!!」
「・・・・・」
そう鈴の張った声に対し、一夏・・・いや、ニセ一夏は何処か機械的にゆっくりと立ち上がると無機質なノイズ混じりの音声を発する。
「ワ・・・ワールド・パージ、異常発生。コレヨリ、ショウガイハイジョヲ開始スル》
そんな一夏の声とは似ても似つかない声と共にニセ一夏の白目が墨でも入れたかの様に真っ黒に染まり上がり、瞳は金色に変色した。
・・・・・したのだけれども・・・
「おんどりゃぁアア!!」
《!?》
本物だろうが偽物だろうが一切関係ない様子で、殴打を加えようと拳を振るう。だが、そんな彼の拳をニセ一夏は先程とは打って変わって容易に掴み取った。
ニヤリとほくそ笑むニセ一夏。
普通なら此処で拳を掴まれた春樹はギョッとした表情で動揺し、ニセ一夏の反撃を許してしまう・・・・・筈だったのだが。
「どっせい!!」
《ッ!?》
間髪入れずに春樹は部分展開した琥珀の左腕部でニセ一夏にスマッシュを打ち放つ。
余りに想定外の攻撃にニセ一夏は後方へと殴り飛ばされてしまった。
「さぁて・・・其れじゃあトドメといこうかのぉ」
土煙を上げて倒れるニセ一夏に対し、春樹は武装の一つである鍵鉈を展開する。
其の刃で確実に頭を・・・いや、例え頭をかち割らずとも手足の一本や二本を大根の様に叩き斬るつもりだ。
「―――――ちょっと待って春樹」
「阿?」
しかして、そんな彼を静かに呼び止める声が一つ。
其の声に応えて春樹が振り返ってみれば、其処には自らの専用IS『甲龍』を身に纏った鈴が佇んで居るではないか。
「私に・・・やらせてくれない?」
いつもの目の輝きを取り戻した彼女に春樹は「・・・阿破破ッ」と口角を三日月に歪めると「どうぞ」とばかりに道を譲る。
《り・・・り、リリ、リりりンんんんンン!!》
「私を惑わせた罪・・・・・しっかり落とし前付けて貰うわよッ!!」
そう言って鈴はズドムッ!!とニセ一夏はへ最大出力の衝撃砲を喰らわせた。
すると其の破壊力故か。ニセ一夏の身体はまるで引っ繰り返したジグソーパズルの様にバラバラとなり、其れと同時に夕陽に照らされた世界も崩れ始めるのであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆