IS/Drinker   作:rainバレルーk

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※話の展開が駆け足気味です。



第135話

 

 

 

恐らくセシリアの幻想を具現化したであろうと思われる電脳世界を訪れた春樹は、早々に此の世界より離脱する為に此の世界を構築している要因を手持ちのリボルバーカノンで撃ち抜こうとしたのであるが・・・・・

指を掛けた引き金を絞ろうとした瞬間。春樹の首に輪っか上のワイヤーが引っ掛かるや否や、萬力の力を込めて彼を後方彼方へと凄まじい勢いで引きずって行ったではないか。

 

うギぐげッェええエあ”え”え”ッ!!

 

絞首刑を受ける死刑囚が如く、酷く汚らしい断末魔と唾液を吐きつつズルズル引きずられてゆく春樹だが、彼がいつまでも唯只大人しく現状に甘んじている男ではない事を皆々様は御存じの筈。

 

ふざッ・・・けんじゃねぇ!!

 

ジャギンッと左手首から取り出したるは銀色に煌めく隠し刃、名をウルナ・エッジと申します。彼は此の刀身で自分の首から張った鉛色の絞首縄をブチリと切った。

無論、ワイヤーを切った事で身体は勢い良く地面に打ち付けられ、ゴロゴロとのた打ち回る。

 

「ゼーはぁッ、ゼ~はぁッ!! く、苦しかった! 何じゃーな一体!?」

 

首を締め上げられる力から脱した事で漸く空気を吸える事が出来た春樹は、泥と折れた草木に汚れる身体を震わせながら此の箱庭の何処かに潜んでいるであろう敵の様子を伺った。

 

「ふぅー、ふぅーッ!(く、糞垂れがぁ・・・ッ。完全に出鼻を挫かれた! 鈴さんの居った場所と違うて、完全に”出待ち”をしてやがった。糞がぁッ、獲物は俺の方か?!!)」

 

彼は身を屈め、青々と茂る細工垣根に身を寄せて辺りを伺う。

しかし、視界に映るのは美しい花々の色とムカつくくらいに清々しい青空だけだ。

 

ズダダダダダッ!!

「ッ、いぃいッ!!?」

 

そんな色鮮やかな景色からライスシャワーの如く降り注いで来たのは、美しい景色とは打って変わってくすんだ鋼色の弾丸達。

彼等は肉を食い破って骨を砕かんとと突っ込んで来るが、春樹は其れを寸での所で漸う回避する。

恰好なんて気にしていられない為、またしてもゴロゴロと地面に転がって此れを避けた。

 

「ぬぉおおおおおお! フザケんじゃねぇええッ!!」

 

連射される銃撃に追い付かれぬ様、彼はローリングを繰り返す。

一見すると其れは酷く滑稽で無様なモノであったが、本人は大真面目に真剣である為に滅多な事は言えない。

 

―――――ガジャッ

「ッ、其処じゃボケェ!!」

 

だが、そんな姿を晒す男にも反撃の合図が鳴る。其の合図とは、空になった弾倉へ新たな銃弾を差し込むリロードの音だ。

戦闘による超感覚を有している春樹は、其の音が鳴った方向へ銃口を差し向ける。

 

ズダンッ!!

 

漸く撃ち鳴らされた銃撃の音と共に銃口から射出された徹甲弾は敵に着弾したのだが、春樹は「ッチィ!」と忌々しそうに舌打ちをする。何故なら此の正体不明の敵は発射された弾丸を最小限の力を使って受け弾いたのだ。

 

「ッ・・・!」

 

しかし、着弾の衝撃を完全に受け流す事には失敗したのか。身を隠していたであろう細工垣根の中から敵は漸く姿を晒した。

 

「ッ・・・おいおいおい・・・!」

 

其の敵の姿に春樹はギョッとしてしまう。其れも其の筈。彼の視界に映ったのは、赤毛のブリティッシュメイドであったからだ。

 

「アンタぁ・・・誰じゃあ?」

 

表情を歪める彼の疑問符に対し、メイドは実に丁寧な礼節を弁えた様な態度をとる。

 

「お初にお目にかかります。私、オルコット家でセシリア御嬢様の専属メイドをさせて頂いております、『チェルシー・ブランケット』と申します」

 

随分と落ち着いた雰囲気を醸し出す彼女に春樹は「ほう・・・」と身体に付いた草花や泥を叩き落としながら唸った。『目の前に居る此の人物は、生半可な手数で勝てる相手ではない』と。

 

「メイド、か。リアルで本物のメイドさんを見るんは初めてじゃ。・・・いや、此処ぁ電脳世界じゃけん”リアル”って言葉はオカシイな」

 

「セシリア御嬢様の御学友であられる清瀬 春樹様でございますね。先程は礼節も弁えない手荒な真似をしてしまい、申し訳ございませんでした。ですが、御嬢様に危険が及ぶかと思っての行動です。どうぞご了承ください」

 

「そういう事なら、構わん構わん・・・・・なんて、言うと思うたかボケェ!」

 

春樹は怒号と共にズダンッ!とチェルシーに向かってリボルバーカノンを発砲する。

だが、其の行動を彼女は読んでいたのか。回避行動をとると共に袖口に忍ばせていたサブマシンガンをズバババッ!と発砲した。

此れを春樹は何とか避けると再び撃鉄を撃ち鳴らす。

 

「此の・・・ッ! メイドはメイドでも戦闘メイドか、テメェ!!」

 

「御免あそばせ」

 

激しい銃弾と銃撃の応酬が両者の間で繰り広げられるが、銃の構造状先に弾が無くなったのはリボルバーを使う春樹の方で、彼は持ち前の反射速度と逃げ足で逃走する。

 

「(畜生めッ! 『オーバーロード』に出て来る『プレアデス』ってより、『ブラックラグーン』の『ロベルタ』かよ!! なら、フリントロックライフルでも使っとけや!!)」

 

「其処です」

 

「うわぁおッ!?」

 

シリンダーに弾を装填しようとしても彼女は其の隙を与えてはくれない。

春樹は唯只逃げるばかり・・・ではなかった。

 

「・・・・・何処へ行こうと言うのです?」

 

「おわっと!」

 

チェルシーは不様に逃げるばかりに見える春樹を足止めする様に鉛玉の雨を降らせると、此の銃撃に彼は「・・・バレた?」と苦笑いを晒した。

何故に苦笑いをしたかの理由としては、春樹は逃げる振りをしてセシリア達が楽しくお茶会をする場所に突っ走っていたからだ。

 

「やっぱし・・・近づくのはダメな感じ?」

 

「当り前です。折角の家族団らんの時間を邪魔する気ですか、貴方は?」

 

「家族団らんの時間ね・・・じゃあ、あの二人はセシリアさんの親御さんか。美人なのは遺伝じゃのぉ」

 

「お仕えする私としても嬉しいお言葉です。ですが、不義の輩にはご退場頂きたいのですが?」

 

「・・・御断りじゃな!」

 

そう言って春樹は弾切れのリボルバーの代わりに今度はショットガンを展開した。

 

 

 

 

 

 

グワシャァアア―――アアアンッ!!

 

銃弾の応酬が幾度となく度重なり、二人の戦場は箱庭内にある離れの屋敷へと移った。

 

「糞ッ! どんだけ広いんじゃ、此処ぁ?!」

 

春樹としては、セシリア達のいるお茶会場から大分距離を離された為に渋い顔をする。

ISを全展開すれば怪力無双の力を誇る彼でも今はほぼ生身の左腕だけの部分展開。米軍特殊部隊アンネイムドを屠った時には新型EOS義月を纏っていたが、今は其れもない。

現状、春樹は劣勢に立たされている。何とか壁際に隠れながらチェルシーの攻撃を耐えるばかりが精一杯だ。

 

「もう十分抵抗されたと思われますが・・・如何でしょう?」

 

「阿呆か。こっちはセシリアさんを連れて帰らにゃあおえんのんじゃけんな!」

 

そう言って春樹は壁から立てた中指を彼女に見せつけた。

其れに対し、チェルシーは溜息にも似た鼻息を吐くとつらつらと言葉を並べる。

 

「別に私は貴方を殺そうなどとは思っておりません」

 

「阿”ぁ? どういうこっちゃ?」

 

「私は此の”夢の世界”から貴方を排除したいだけです。御嬢様が奥様と旦那様と共に笑っていられる為ならば、私はどんな事でも致しましょう」

 

慈しみに満ちた表情で語るチェルシーに無言で答えていた春樹だったが、ふとある事を彼女へ問いかけた。

 

「・・・・・ブランケットさん。”人”に”夢”と書いて何て読むか知っとるか?」

 

何の脈絡もない此の問いにチェルシーは疑問符を浮かべる。

そんな彼女に対し、「英国人に漢字の読み方を聞くのは、間違っとるか?」と前置いた後で答えを発表する。

 

「人に夢と書いてな、”儚い”って読むんじゃ。儚いって解るか? 例えるなら、綿飴を水に浸けたようなもんじゃ。まぁ、俺が何を言いたいのかって言うと・・・・・此の世界は間違っとるよ」

 

「・・・・・」

 

「確かに、此処はエエ場所じゃ。遠目じゃけども、あんな笑顔のセシリアさん見たのは初めてじゃ。じゃけど、結局は此処は思い描いただけの幻想世界に過ぎん。甘いが、苦しい夢じゃ」

 

春樹は更に「其れに―――――」と言葉を続けようとしたのだが、其れは止められる事となった。

何故、止められたのか。其れは彼のすぐ脇に安全装置の外れた手榴弾がカランカランと投げ込まれた為である。

 

「ちょッ!? 俺まだ喋ってる途ちゅ―――――」

ドグォオオンッ!!

 

轟音轟く爆音と共に春樹が身を隠していた邸内の壁はおろか、天井までもが崩れ落ちた。

そんな大惨事に合いながらも粉塵立ち込める瓦礫の中から「ゴホッゴホッ!」と咳き込みながら彼は身を起こす。

しかし・・・・・

 

チャキッ

「・・・おう・・・」

 

其の起こした頭にチェルシーはサブマシンガンの銃口を突き付ける。

 

「チェックメイトです」

 

「・・・其の様じゃのぉ」

 

淡々とした会話が二人の間で交わされる。されど、いつまで経っても彼女がサブマシンガンの引き金を引く事はなかった。

 

「・・・撃たんのか?」

 

「私の仕事は貴方の殺害ではありません。私の仕事は、此処から貴方を排除する事です」

 

「あー、そう。んで? 俺を排除してどうするんよ? 此のままずっとアンタはあのお茶会を見守り続けるんか?」

 

「勿論。解ったのなら、早く此処から―――――」

「・・・阿破破破ッ!」

 

再度此の幻想世界から出てゆく様に促すチェルシーだったが、其れを遮る様な奇天烈な嘲笑が木霊する。

 

「・・・何が可笑しいのですか?」

 

「破破破ッ、じゃって・・・じゃって傑作じゃからじゃよ。好き好んで下手な悪夢よりも酷い此の夢に居ろうなんて・・・アンタは筋金入りのトッパーか、真のマゾヒストなんじゃろうな。アンタは極上の道化じゃのぉ、チェルシー・ブランケット? 阿破破破ッ!」

 

そう言いながら春樹は嘲笑う。どうしようもなく尊厳など踏みにじるかの様に何の遠慮もない笑い声を上げる。

其の実に不快な笑いは、チェルシーの神経を逆撫でするには十分過ぎるものであった。

「・・・黙りなさい」と静かなれど熱の籠った口調で彼女は銃口で春樹の頭を小突く。

 

「此処が、この場所が、『悪夢よりも酷い夢』? 此の素晴らしい世界を侮辱する権利など、貴方にはありません。撤回なさい、今すぐに」

 

静かに静かに・・・けれども内に溜まった膿を吐く様に彼へ疑問符をぶつけるのだが、其れに対して春樹は―――――

 

「破ッ・・・嫌じゃね。もう一度言ってやらぁ。此処は悲劇のヒロイン気取りが作った醜悪な世界じゃってな!」

「ッ!」

 

―――あまりにも情け容赦のない最悪な返答をしたではないか。

其の御蔭で彼はチェルシーにドガ!と顔を蹴られる羽目となった。

更に彼女は「うげぇッ!?」と汚らしい声を挙げて瓦礫の上を転がる春樹へ馬乗りになって胸倉を掴む。

 

「撤回なさい・・・あの方の苦しみや、寂しさ・・・悲しみを理解できないようなものが、その様な侮蔑を云う事を許しません!」

 

チェルシーの言うセシリアの苦しみや悲しみとは何か。

セシリア・オルコットと云う少女はイギリスでも名門貴族と言われるオルコット家の出自であり、縦ロールに整えた長い金髪と透き通った碧眼が特徴的な美しい容姿に加え、イギリスのIS国家代表候補性へ選ばれる程の頭脳明晰さだ。

しかし、誰にでも人目にはつかない裏面がある。

其れは、あのお茶会に参加している彼女の両親がもう―――――

 

「悲しみ? 苦しみ? んなもん知るか。どんな悲しみを抱えていようが、どんな憎しみ抱え込んでいようが、他人からすりゃあどーでもエエ事なんじゃもん。理解する事なんぞ出来る訳なかろうがな」

 

「ッ、知ったような口を!!」

 

チェルシーは振り上げた拳を其のまま春樹の顔面へ叩き付ける。何度も何度も叩き付ける事で女の力と云えども、地味に痛い。

 

「其れにッ、ウゲ! 人間はなッ、ぶゲッ!? 偶に自分の事も解らん、ガふ! 解らんよーになるんじゃ! 他人の気持ち何ぞ解るか、阿呆!! 人の気持ちが解るなんてのはなッ、所詮は詭弁じゃッ! 心なんて厄介なものが理解なんぞ出来るか!!」

 

其れでも彼は尚も言葉を吐き続ける。其の度に「だま、りなさい!」と殴られるが、其れでも続けた。

話は変わるが、IS等と云う兵器を動かせてしまった為に春樹は日常を奪われ、此れまで多くの理不尽な目に合わされて来た。

其の事から大きな差異はありながらも似通った境遇を持つセシリアの心を全部とは言わないが、ほんのちょっとでも理解する事が出来た。

だが、唯の其れだけで「君の気持ちは良く解る」等と云ったキザな言葉が吐ける程に彼は己惚れが強い訳ではない。

 

「ッ・・・なら・・・なら何故、彼女に構うのですか?! もういいでしょう!! 彼女の事など放っておいてください!!」

 

此処で疑問符を投げ掛けながら春樹を殴るチェルシーにある変化がみられて来る。

紅葉の様に燃える赤毛が徐々に徐々に金色にあせてゆくではないか。加えて口調にも変化がみられた。

 

「どうして・・・どうして彼女に・・・・・どうして”私”の様なものの為に・・・!!」

 

「”理解したい”からじゃ!!」

 

チェルシーの・・・いや、”セシリア”の手が止まる。

 

「り、理解・・・? で、でもあなたは先程―――――」

 

「おう。人を理解できるなんてのは所詮は詭弁じゃ。じゃけどな・・・じゃけどな、理解する事が出来んけん、人は人を理解したいんじゃ! 知ろうとしたいんじゃ!!」

 

春樹は起き上がり、憧れの人物に”偽装”する事で自分の本心を隠していたセシリアの頬を両手で優しく包んだ。

 

「俺はなんも知らん! 君が今までどんな苦しい目に合って来たか、どんな悲しい目に合って来たか・・・どんな、どんな寂しい思いをして来たかを俺は知らん!! じゃけぇ教えろッ! 君の内をッ!!」

 

「は・・・春樹さんッ・・・・・春樹さん!!」

 

彼の叫びに呼応するかのようにセシリアは宝石の様な碧眼からポロポロと涙を流し、咽び泣く様に彼の胸へ顔を埋めた。

そんな彼女を慰める為、春樹はそっとセシリアの頭を優しく撫でてやる。

・・・されど其の眼はある方向へキッと刺し貫いていた。

 

《わ・・・ワ、ワールド・パージ、いじょ、いじょ、異常発生》

《ワールド・パージ、異常発生》

《コレヨリキョウセイカイニュウニイコウ、キョウセイカイニュウニイコウ》

 

其処に居たのはフラフラと此方に近づいて来る真っ黒な両目を晒した三人の人物であった。

一人はセシリアの母親、一人は同じくセシリアの父親・・・そして―――――

 

「ぐずッ・・・春樹さん」

 

「阿?」

 

アンチシステムが造り上げた幻想へリボルバーカノンを向ける春樹の手の上にセシリアは自分の手を乗せる。

其れが何を意味するのか理解した春樹はそっと自分の得物を下ろす。

 

「どなたかは存じませんが、少しの間だけでも私の心は穏やかな時を過ごす事ができましたわ。ですが・・・・・やはり、いつまでも過去に囚われている訳にはいきませんの」

 

《カイニュウカイニュウ、カイニュウ》

 

セシリアは自らの専用機『ブルー・ティアーズ』を展開し、青い花弁達を宙に舞わせた。

 

「さようなら・・・私のやさしい幻想・・・ッ」

 

涙で震える声を精一杯振り絞りながら、ゆっくりとスターブレイカーの引き金へ指を掛けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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