―――――甘いようで苦い、醒めなければいい”夢心地の悪夢”な幻想に対し、セシリアさんは自分自身の手で終止符を打った。
ライフルの銃口から飛び出たショッキングピンクのレーザービームの光が、彼女のサファイアの様に碧い眼から零れる涙に反射しているんがホント印象的じゃ。
じゃけど・・・大変なのは其の後じゃった。
ピンクの炎が甘い悪夢を焼き尽くした瞬間、鈴さんの時の様に世界はひっくり返したジグソーパズルみてぇにバラバラと崩れ去って来やがった。
”前回と同じく”巻き込まれたら確実にヤベェと感じた俺は、余韻に浸って呆然とするセシリアさんの手を引っ張って此の世界の出入り口の扉へ駆け込んだ。
・・・幻想世界が崩れる前、チェルシー・ブランケット云うターミ姉ちゃんの皮を被っとったセシリアさんにボコボコにされてしもうとったけん、頭がグワングワンしてしもうたけど、ギリギリ間に合うた。
「・・・春樹さん・・・・・ごめんなさいッ」
幻想世界から脱出できた後のセシリアさんの開口一番が其れじゃった。
俺は走り過ぎて口ん中が血の味がしてしょうがなかったけん、気が利いた事も言えんと「別に、構ん」なんてゼーハァゼーハァ吐きながら遂々ぶっきらぼうにそねーな事を云うてしもうた。
じゃけん「阿呆か、俺!」なんて、気を取り直して俺は其の不愛想な言葉の後にこう続けた。「其れに、此処は「ありがとう」が適切なんじゃねぇの?」ってな。
・・・実を言うと、俺はセシリアさんの造り上げた幻想世界の原因を知っとった。
一学期の始めにあったクラス代表を決める模擬戦が行われる前に俺は彼女の事を調べとったからじゃ。
セシリアさんがイギリスでも有数の名門貴族の出の事も、コネとか無しで懸命に勤しんだ勉学で国家代表候補性になった事も、彼女の御両親が過去の列車事故で・・・・・多分、其の事が関係して、野郎を軽視していた事も俺にゃあ容易に想像できた。
じゃけぇ、俺は涙ながらに自分の事を語るセシリアさんの言葉を全部聞く様にした。彼女にあった悲しい事も、寂しかった事も、辛かった事も、全部全部じゃ。
そねーに着飾る事無く自分の内の事を正直に語るセシリアさんを・・・俺はスゲェって思うた。
じゃってそうじゃろう。誰だって自分の事は良く見せたいもんじゃ。じゃけど彼女はそんな事など御構い無しに正直に自分の身の内を俺みてーな野郎に話してくれた。
・・・・・俺も自分の事を隠さんと、もっと”あの娘”に対して―――――
《・・・・・き・・・るき・・・春樹、大丈夫!?》
「お、応。聞こえとるで、簪さん」
セシリアさんの身の上話が終わる頃。部分展開した琥珀ちゃんの左腕から本部に居る簪さんの声が聞こえて来よった。
「今度ぁセシリアさんを無事に確保したでよ」
「ご心配をおかけしてしまいましたわ」
《良かった・・・途中、春樹との通信が切れたから・・・・・》
「やっぱり、扉の先はジャミングがかかって砂嵐になるんか?」
《うん・・・》
そうかぁ。扉の先は圏外になるけん、簪さんらぁのサポートなんぞ有ってないようなもんじゃな。・・・こりゃあ、思ったよりもえろう大義ぃな。
《・・・ごめん、春樹。サポートなのに・・・私・・・ッ・・・》
「構ん構ん。俺ぁ大丈夫じゃけん、心配せんでエエ。じゃけどあれじゃわ・・・」
《だけど・・・なに? なにか欲しいものがあるの?》
「応。其の・・・そっちから酒か何かを、てかアルコールを送れんか?」
「春樹さん・・・」
ちょッ・・・セシリアさん、そねーな呆れた視線をせんでや。簪さんも「はぁ・・・」って溜息吐かんといて。
しょうがなかろうな! もうアルコール切れがして来たんじゃ!!
俺じゃって、何で電脳世界で手が震えて来るんか解らんのんじゃもん!
《簪御嬢様、清瀬君の右手が痙攣をおこしています》
おう・・・現実世界の俺の身体もアル中の症状が出よったな。
「布仏先輩、俺のズボンのケツポケットにもしもん時の紙パック酒が入っとりゃせんか? 無かったら、別に消毒用エタノールでも飲ましといて下さいや」
何て言うたら、簪さんが「ダメ・・・身体に悪い」と却下されてしもうた。
じゃったら、せめて酒を量子変換で電脳世界に送信できんか?
《無理》
「即答かよ・・・しょうがねぇなぁ」
《わかればいい。なら、セシリアさんはこっちに帰還して》
「そんなッ!? 私も戦えますわッ、春樹さんに付いていきます!」
「ありがてぇけど・・・セシリアさん、向こうでバイタルをチェックして貰いんちゃい。君、幻想世界で他人になっとったんじゃけんな」
俺の言葉にセシリアさんは「むぅッ・・・」と口を尖らせる。可愛えけど、そねーな顔してもおえんでよ。
俺は目の前に出て来た現実世界へ戻れる扉へ彼女をエスコートしてやる。
「あ・・・あの、春樹さん?」
「うん? 何じゃーな?」
別れ際、セシリアさんは俺が着とる制服の裾をちょこんと掴んだ。そんでもって「あ・・・ありがとうございました。おかげで助かりましたわ」・・・なんて、真っ赤な顔で言うてくれた。
外見美少女、CVゆかにゃん・・・結構”来る”ものがあるでよ。
危ない危ない。俺が宗かな派じゃなければ、其のぷっくりした唇にキスしとるところじゃったわ。・・・・・まぁ、そねーな冗談はさて置いてじゃ。
「さて、アタリかハズレか・・・何が出るかな?」
俺は酒切れで震える手でゆっくりと扉のドアノブを引く。
じゃけど・・・此の時の俺は知らなんだ。此の扉の先で俺は”彼女”との決着を着ける事になるなんてな。
◆◆◆◆◆
「・・・・・何じゃあ此処ぁッ?」
扉を開けた先に広がっていた景色に春樹は自らの表情を訝し気に歪めた。
何故ならば彼の目の前にあったのは・・・いや、”建って居た”のは、シンプルなれども洗練された白い外壁の一軒家であったからだ。
一見すると鈴の幻想世界にも酷似していたが、周りを見てみると此の場所は彼女の世界とは違った住宅街である事が見受けられる。
小高い丘の上に立って居る為か、景観は良く。上を見上げれば青く澄んだ空が天を覆っているではないか。
「阿~・・・状況が解らん。誰の世界じゃ?」
彼は疑問符を浮かべるが、セシリアの世界の様に突然襲われる事も危惧してリボルバーカノンとMVS鉈を展開する。また首に縄を掛けられて引きずられるのは御免被るからだ。
そんな警戒心を露わにする春樹に対し、何の脈絡もなく目の前に建って居る一軒家の玄関がガチャリッと一人でに開いた。
「ッ・・・!!」
思わず身構え、恐る恐る開いた其の扉へリボルバーの銃口を差し向ける春樹。
扉の奥から出て来るのは果たして何か。自分の身の丈を優に超えるレプタリアンか。其れとも生者の肉を喰らうゾンビ共の群れか。
「あー、ぱぱだぁ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・阿”ッ?」
上記の其のどちらでもなく、彼を出迎えたのは淡い金色の髪を持った年端もゆかぬ幼子であった。
此の予想の斜め上を行く想定外の人物の登場に春樹は身を強張らせてギョッとする。
「ぱぱ、おかえりー!」
そんな動揺する彼を余所に小さい幼子はとてとてと駆け寄ると、満面の笑みでギュウッと春樹の足を抱き締めたではないか。
「お・・・お、おい・・・ッ」
「なぁにー?」
此の幼子は先程から自分の事をなんて言ったのか。間違いでなければ『ぱぱ』と云ったのか。『ぱぱ』って何だ。もしや『ぱぱ』とは父親の事を差す『パパ』なのか。
誰が?
自分が?
―――――と云った疑問符がマシンガンの様に脳内へ撃ち放たれる。
「ぱぱ、どうしたのぉ? おかおがこわいのよん」
明らかに今までの状況とは全く異なる。
今までの幻想世界では、細菌を排除する免疫抗体の様な存在がこう言う場合には現れた。
されど今の状況は、春樹自身が現れる事で世界が完成されるような―――――
「―――――”シャルル”~? どこに行ったのかなぁ~?」
「あ、ままだ。ままー! ぱぱがかえってきたよー!!」
「ま・・・ママ、じゃと?」
幼子の言葉に眉をひそめながら、春樹は再び一軒家の扉の方を見る。
「あッ、おかえりなさい。今日は早かったんだね」
「ッ・・・シャ・・・シャルロット・・・?」
すると・・・其処に居たのは、生後間もない赤ん坊を抱いたシャルロットが柔らかな笑みを浮かべて立って居たのであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆