IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第138話

 

 

 

ジャッジャッジャーッ♪

ジャッジャッジャーァッン♪

 

―――――不意に耳をつんざく大音量で、脳味噌を揺らす音楽が脳内へ響き渡って来よった。

曲名は、小さい頃から土日の再放送枠でやりょーる『火曜サスペンス劇場』のメインテーマじゃ。

実に懐いでよ。あの番組の御蔭で俺はサスペンスや推理モンが好きになったんじゃ。

・・・・・いや、今はそねーな物思いにふけっとる場合じゃねぇな。

 

ウぎぃいッアッッ・・・!?

「は、春樹!!?」

 

右の脇腹へ鋭く突き抜ける激痛と焼き鏝でも当てられたみてーな燃える様な熱さ。

其の痛みと熱さが響くとこを触ってみれば、其処にあったんは、ピカピカ光る鋼の刃とヌルリ滑って垂れる真っ赤な血じゃった。

・・・最低じゃ。三文推理芝居の導入部分か?

 

「ごッ・・・ご、ごめんなさい! ごめんなさいッ、春樹!! ボ、ボクッ、こ・・・こんなッ、こんなつもりじゃ・・・・・ッ!!」

 

あんまりにも痛うて痛うて堪らんくて尻餅をつく俺の前で、俺のどてっ腹に誤ってナイフを刺してしもうたシャルロットは怯えた目と強張った表情でガタガタ震えてコッチも尻餅をついておった。

 

痛ぇ”ッ! 痛ぇ”え”よぉッ!!

 

酒も痛み止めも効かん此の電脳世界で、俺は久々の”純粋な激痛”にのた打ち回る。

肉体的ではなく、意識的な存在しかない此の世界じゃあ痛みに耐え兼ねて気絶する事もままならん。

 

「ど・・・ど、どうすればッ・・・どうすればいいの!? ボクッ、どうすれば!!?」

 

パニック状態で頭を抱えながら涙をボロボロ流すシャルロットに謀らずも俺は思わず「シメタ!」と思うてしもうた。

此れを利用しない手はないってな。

 

ハァッ! ハァッ!! だ、大丈夫・・・大丈夫じゃ、シャルロット。俺がッ・・・しぶとい事は、よー知っとるじゃろうがな」

 

「で、でも・・・でもぉ!」

 

「喧しいッ、泣くな! 俺は、お前を・・・無事に社長の所まで送り届けにゃあならんのじゃ」

 

「しゃ、社長って・・・お、お父さんのこと?」

 

応、そうじゃとも。

子供の為じゃあ、俺の為じゃあ、会社の為じゃあ、御家の為じゃあ云うて、俺にシャルロットとの結婚話を打診した親バカ拗らせた阿呆な男じゃ。

今でも思い出すとむかっ腹が立つ。何が「私は二人の女性を同時に愛している」じゃ、ボケェ!

 

「社長は・・・アルベール・デュノア云う人は、不器用なりにもお前を愛しとる」

 

「・・・・・」

 

「今は、男に現を抜かすよりも・・・漸くやっと、繋がりを持てた父親との関係を大切にしんさいや」

 

ほいじゃけど、自分の子供をちゃんと愛しとる事は確かじゃ。

 

「じゃけん・・・帰ろ?」

 

「う、うん! わかった、わかったから! もう喋らないでッ。」

 

よっしゃあ、どさくさに紛れて言質とったでぇ!

・・・あッ、ヤベ・・・クラクラして来たでよ。早うせんと。あぁ畜生ッ、畜生ッ!! でぇれー痛ぇ、ぼっこう痛ぇッ!!

 

そねーな腹に響く激痛を何とか耐えつつ、俺ぁシャルロットに肩を貸して貰うて、外にある現実世界への扉に急いだ。

・・・急いだんじゃけどなぁ・・・

 

「―――――ぱぱぁ、ままぁ、どこにいくのぉ?

 

「ッ・・・シャ、シャルル・・・!」

 

振り返ればヤツがいるとばかりに出やがったな、俺の息子(偽)!

まぁた面倒臭ぇ状況で出やがってからにッ。

あぁッおい、シャルロット! そねーな目でヤツを見るな!! あぁ、畜生!!

 

「もう・・・バレてんだよ、パチモン!」

 

俺は撃鉄を起こしたリボルバーを野郎に向ける。

じゃけど、此れの照準がブレるブレる。

おい、どーしたガンダールヴ! 震えるんじゃねぇッ、振るわせるんじゃねぇ! ありゃあ俺の本当の息子じゃねぇんじゃ! 躊躇うなッ!!

 

「・・・・・大丈夫だよ、シャルル」

 

「ッ、シャルロット?」

 

すると、モタモタしょーる俺の隣でシャルロットが声を上げやがった。

俺は野郎の姿にまた当てられたか思うて「おい待てッ、此の状況で引き返すなよ!!」って、言いかけたんじゃけども・・・・・

 

「パパとママはねッ・・・ちゃんと帰って来るから・・・・・シャルルとマリーをちゃんと、ちゃんと迎えに行くから・・・ちょっとッ、ちょっとだけ・・・・・待っててくれる?」

 

ズビズビ涙で顔を濡らしながら、シャルロットは野郎に語り掛ける。

そねーな事を云う事は、思考汚染が払拭された云う事じゃろうか。

じゃけど・・・じゃけどな、シャルロットさんや? 此の状況で言うんは、不味いんとちゃう?

 

「・・・・・そっかぁ

 

「うん、だからね―――――

ワールド・パージ、異常事態発生。コレヨリ、障害排除へ移行スル

―――――・・・へ?」

 

ほらぁ・・・遂に本性を表しよったでぇ。

黒曜石みてぇな真ん丸御目愛で俺らぁへ照準を合わせて来よったでよ。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

ドグォオッン!!

 

絵本にでも出てきそうな白い一軒家から響き渡る爆発音と黒煙。

其処から窓ガラスを突き破って現れたのは、オレンジ色の鎧を身に纏い、小脇へナイフの突き刺さった男を担いだ戦乙女と黒い触手の様なものを携えた黒い眼の幼子だ。

 

「やめて、シャルル! ボクは君と戦いたくないよ!!」

 

「阿呆! 云って聞く相手じゃなかろうに!!」

 

《障害排除障害排除障害排除障害排除障害排除障害排除》

 

遂に本性を表したハッキングシステムは、春樹を抱えたシャルロットへ猛攻を仕掛ける。

しかし、攻撃を仕掛けられているシャルロットは、自分の子供の姿をしている敵に遠慮してしまっての防戦一方だ。

 

「そう云やぁ、『鋼の錬金術師』であねーな敵キャラが居ったな。あのキャラってどうやって倒したんじゃったっけッ?」

 

「春樹ッ、なにのんきな事言ってるのさ!!」

 

何処か間の抜けた言葉を紡ぐ彼へ文句を言いつつ、シャルロットは襲い掛かる黒い触手を盾やライフルで弾きながら防ぐ。

だが、春樹には考えがあった。

 

傍から見れば敵に一方的な攻撃を受けている様に見えるが、二人の背後には現実世界へ帰還する為の扉が直線状で佇んで居たのである。

 

「シャルロット、今じゃあ!!」

「うんッ!!」

 

彼の掛け声に応えるかの様にシャルロットは自身の前方へ一気にブースターを噴かせた。

もう扉を開ける時間すら惜しい為、此のまま一気に扉を突き破って無理矢理帰還を果たす算段だ。

・・・・・だがしかし!

 

《ッ!!》

「なぁッ!!?」

「春樹!!」

 

そうはさせまいとハッキングシステムは黒い触手をジャギュッ!と春樹の首へ絡ませた。

「また首かよ!!」と喚く彼を余所にシャルロットとハッキングシステムの間で綱引き大会が行われる。

此の綱引きで「ウぎグゲゲゲッッ!」と呼吸困難になりかける春樹だったが、次の瞬間―――――

 

ウギェッ・・・許せよ!

「え・・・?」

 

―――――ドガッ!と、彼はシャルロットの身体を蹴り飛ばす。

ISを纏っている為に彼女は対してダメージを負う事はなかったが、シャルロットを扉の方へ突き飛ばすには十分だった。

 

「は、春樹ィイ!!」

 

「・・・破破破ッ!」

 

彼女が最後に見たのは、いつもの様にされど久方ぶりに見る奇天烈な春樹独特の笑みと笑い声。

其の光景を聞きつつ見つつ、シャルロットは扉の先にあろう現実世界へ帰って行った。

 

「・・・ッチ・・・キザじゃったかな」

《障害・・・排除!!》

 

現実世界への扉を通って行く彼女をニヒルな笑みで見送った春樹にハッキングシステムは其の黒い触手を彼へ巻き付け、捕食する様に自分の方へ引き込んだ。

暗く黒い墨汁の様な肉の塊が彼を包み、氷の様な冷たさが指先から全身へ伝わっていく。

此の感覚に春樹は身近に感じながらも目を背けていた『死』を実感してしまった。

けれども不思議と彼は走馬燈を見るには至らない。

其れは何故か?

 

「ラ・・・ラウラ、ちゃん・・・・・ッ!!」

 

愛しい想い人の名を呟きながら、屈強なれども哀れな男は其の意識を深く深く暗い肉の塊の奥へと沈めて行った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

《も、もすもすこきゅーとすぅ~・・・・・貴女の・・・か、可愛い妹の・・・く、クーちゃんですよ~》

 

此処ではない何処か。されども地球の何処かにあるであろう研究所にある電話口から、顔を見なくても照れているのが分かる声が聞こえて来た。

 

「もすもすひねもすぅ~、可愛いクーちゃんのお姉さんの”束さん”だよ~!」

 

其の声に応えたのは、ウサ耳のカチューシャを頭へ被った不思議の国のアリス・・・もとい、”今回も”事件を引き起こした黒幕であるISの発明者である『篠ノ之 束』だ。

彼女は何だかよく解らない消し炭のゲルをスナック菓子の様に摘まみながら、目の前へ設置されているモニターで電脳世界へ侵入しているIS学園専用機持ち達一行を観察していた。

 

「むふん♪ それでクーちゃん、どんな感じ?」

 

《はい。現在、シャルロット・デュノア様の”ワールド・パージ”にて清瀬 春樹様を拿捕いたしました》

 

電話の相手、クロエ・クロニクルの言葉に束は「イエーイ!!」とガッツポーズをした。

今回の一件、実は束の命令を受けたクロエが自らのIS能力で学園の独立システム内にハッキングを行った事による騒動であったのだ。

其のIS能力の名は『ワールド・パージ』。

其れは対象者に幻覚を見せる能力であり、此の能力で対象者を外界と遮断して精神に影響を与える事が可能。

仮想空間では相手の精神に直接干渉する事で、現実世界では大気成分を変質させることで相手に幻覚を見せる事が出来る。

今回は電脳世界にて相手の精神に干渉する事で幻影を見せる能力を使用し、己の心の内に秘められている自分でも気付いていない程の無意識な『本音』や『願望』で作成された世界で顕現させたのだ。

 

《ですが・・・束様、申し訳ございません。シャルロット・デュノア様には逃亡を許してしまいました》

 

「ん~? あぁ、あのオレンジ? いいのいいの、あんなのどーでもいい。あんなの、はーくんを誘き寄せる為のエサだよ、エーサ」

 

《はぁ・・・》

 

「そ~れ~よ~り~も~・・・早く早く! 早くはーくんにワールド・パージに見せてあげて!!」

 

《かしこまりました》

 

其れを合図にクロエは捕獲した春樹に幻影を見せる為、彼の脳にアクセスを開始する。

 

「クーちゃんクーちゃん、ちゃ~んとはーくんに束さんの好印象を”植え付けて”おいてね♪」

 

《承っております》

 

「むふふ~♪ 次に会う時の為にちゃんとしとかないとねぇん!」

 

そんな自分勝手な私的内容を含みつつもクロエは春樹に終わる事のない”悪夢”を見せんとワールド・パージを行う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――〈だが・・・『私』が其の様な傍若無人をいつまでも許すとは思わない事だ〉

 

《え・・・これは、一体・・・・・・・・ッ、きゃぁあああああああ!!?》

 

「あれ・・・クーちゃん? クーちゃん、どうしたのッ?」

 

通信口から聞こえて来たのは、今まで聞いた事がないクロエの悲鳴だった。

まさかそんな叫び声が聞こえて来るとは思わなかったのか、流石の束でさえも疑問符を浮かべる。

珍しくクロエが彼女に対して茶目っ気を披露したのか。勿論、そんな筈がある訳がない。

 

《―――――初めまして、篠ノ之 束博士》

 

「・・・・・誰だよ、お前?」

 

ザーッザーッと砂嵐の後に聴こえて来たのは、見知らぬ男の声だった。

 

《失礼。此方の名を名乗らず、貴方の名を呼んでしまった無礼に値する。しかし・・・先に無礼をはたらいたのは君の方だぞ?》

 

「束さんが誰だって聞いてるんだよ!! 誰だよお前?! クーちゃんをどうしたんだよ?!!」

 

見知らぬ男の声に束は発狂したかの様に叫ぶ。

だが、相手側通話口の男は「フッ・・・」と嘲笑うかの様にほくそ笑む。

 

《まるで玩具を取り上げられた子供のようだな。突然とは言え、もう少し落ち着いた会話が出来ると思っていたのだが》

 

「うるさい! うるさいッ! うるさいんだよ!!」

 

束は男の正体を探ろうとクロエが使っている通信機器へハッキングを掛けるのだが・・・そうしようとした途端、モニターが写真の様にフリーズしてしまう。

 

「な、なんで!? なんで動かないのさ?! お前ッ、何したんだよ?!!」

 

《無駄だ、やめたまえ。君のシステムをクロニクル嬢のISからハッキングさせて貰った。少しの間は君の足止めが出来るな。まぁ・・・其れだけあれば十二分だが》

 

男は薄く笑うとモニター画面前で「ぐぬぬッ・・・!」と唸る束に次の様な事を云い放っては、一方的に通信を切ったのであった。

 

《今まで私は君の傲慢不遜な態度と行動を見て来た。此れは其の今迄に対する”報復”だ。無礼な兎は、必要ない。あぁ・・・そうだ。最後に名乗っておこう。私の名は、レクター・・・・・『ハンニバル・レクター』だ。どうぞ宜しく、愚かで哀れな兎よ》

 

其の言葉を最後にツーツーッと通信の切れた音が通話口から木霊する。

こうして、天下に名高い『天災兎』と羊の皮を被った『人喰い』の会合は僅かな時間で終わってしまった。

だが・・・ある一定の人物達を除いた人間を道端の塵芥とみなしていた彼女には、彼が嫌でも印象に残った事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆

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