※今回は空白が多いですが、演出のつもりなのであしからずです。
「ラ・・・ラウラ、ちゃん・・・・・ッ!!」
「―――――・・・ん?」
此処はドイツ郊外にあるドイツ軍士官寮。
其の一室でゆったりとした部屋着姿のラウラ・ボーデヴィッヒ”大佐”は、サバイバルナイフを片手に対面式キッチンで料理を行っていた。
しかし、ふとした瞬間に聞こえて来た想い人の声に芋の皮を剥く手が止まる。
「おい、何か言ったか?」
「ん? 何がじゃ?」
彼女はおもむろに”目の前で”寛ぐ『春樹』に声を掛けた。
「いや・・・別にな」
「おいおい、やっぱし俺も手伝おうか?」
「何を言うか。お前は新兵共の訓練終わりで疲れているだろう?」
IS学園を卒業してから”五年”・・・二人には様々な事があった。
第一に春樹の年齢が十八を迎えた頃、ラウラは全校生徒が祝福して見守る中で彼へ給料半年分で購入したと言う結婚指輪を贈ると共に逆プロポーズを申し込んだのである。
そして、第二に晴れて公の夫婦となった二人は学園を卒業した後、ラウラ達は彼女の祖国であるドイツでIS部隊育成に携わっていく事と相成ったのである。
「其れを言うなら”ラウラ”だってそうじゃろ? 史上最年少で大佐になって、前よりも大きい仕事を任せられる様になったんじゃけんな。疲れているんじゃないか?」
「私がしたいからするのだ。別に良いだろう?」
「ラウラ・・・ッ」
春樹はラウラの放った言葉がじんわりと心に染み渡って行くのが手に取る様に理解できた。
此処最近、二人は仕事の忙しさにかまけて夫婦の時間が取れずにいたのだ。
「ラ~ウラ!」
「わッ!? ちょっと危ないではないか!」
彼女の言葉に感動したのか。立ち上がった春樹は調理をするラウラへあすなろ抱きなるものを介する。
「ラウラ・・・俺、今幸せじゃで?」
「春樹・・・!」
其れから二人は二人だけの世界を形成し、イチャイチャいちゃいちゃ・・・・・
―――――する訳がなかった。
「―――――なら、戯れはここまでだ」
「・・・・・へ?」
慈愛と愛情に満ちた声色から一転、酷く冷淡な呟きと共にザクリッ!と云った木霊が響く。
其れはまな板に置かれた皮を剥かれた芋を切った音か?
・・・そんな訳がない。
「ッ、ぐぁあ・・・ッ!!?」
肉を抉るオノマトペの後に聞こえて来たのは、息の詰まった春樹の断末魔と床へ膝をつく音であった。
「ラ・・・ラウラッ・・・ど、どうして・・・!?」
彼は腹部から血を流しながら、怯えと疑問符が混じりに混じった上目遣いをラウラへ突き刺す。
けれども返って来たのは・・・・・
「春樹はな、私の事を『ラウラちゃん』と呼ぶのだ・・・わかったか、この”ニセモノ”め!!」
「!!」
彼女の氷の様に冷たい見下した眼と細くも程良く筋肉質なおみ足から繰り出される脚撃であった。
其のラウラの蹴りはバキィッ!と彼の頭部へと直撃する。
「せぇえい!!」
「ッ、うげぇ!?」
更に彼女は首根っこを掴むや否や、今度は其の矮躯からは想像もできない程の力を込めて春樹を・・・いや、春樹の皮を被ったハッキングシステムの鳩尾へローリングソバットを決めた。
「お前の様なニセモノ如きがッ! ”春樹不足”に悩む私の慰めになると思ったかッ、この”おわんご”が!!」
そうラウラは機嫌の悪い兎の様に「ブーッ!」と想い人から移った訛りのある息を荒らげながら金色の焔を左眼から零しつつ、右腕部へ部分展開したシュヴァルツェア・レーゲンの拳を容赦はおろか躊躇もなくドゴォッ!!と再び頭部へと叩き込む。
・・・しかし。
「ッ、ぬ!?」
「あ・・・ア”あ”ア”ぁア”ア””阿”あ”あ”ぁ”ッ!!》
其の拳をハッキングシステムは容易に掴み取り、ギョロリと黒曜石の様に真っ黒な瞳をラウラへ差し向けたのであった。
◆◆◆
ラウラ・ボーデヴィッヒと云う吾人は、微量ではあるものの体内へ医療用ナノマシンを有している。
しかも独軍秘術であるヴォーダン・オージェに完全適応し、進化型人類化している春樹と頻繁にキスによる経口接触をしていた影響からか。其のナノマシンは本人の与り知らぬ所で変異体となってしまい、身体的異常の治癒は勿論の事、精神的異常の排除までをも想定とした働きを担う様になったのだ。
だからこそ、今回の騒動の根幹となっている『ワールド・パージ』の効力が彼女には薄かったのである。
ドグォオオッッン!!
「ハァアア―――ッ!!」
《ッ―――――!!》
黒漆にも似た黒色の鎧を身に纏ったラウラは、正体を現したハッキングシステムへ向けてレールカノンをぶっ放し、ワイヤーブレードで其の体躯を切り刻まんとした。
此れに自らの身体を変化させて対応するハッキングシステムだが、彼女からの予想以上で想定外、躊躇も容赦もない攻撃に悪戦苦闘する。
《ワールド・パージ異常発生。強制介入、強制介入、強制介ニュ―――――
「やかましいぞ、このおわんごが!!」
―――――げボラぁアアッ!!?》
的確に正確に相手の急所を斬り、抉り、穿ち、削ぎ落とすラウラ。
「私がここ数日どんな思いでいたのか知っているのか?! いや、別に解らなくても構わん! だが、よりにもよって私の前で春樹を偽った事を精々後悔するがいい!!」
《ッ!!?》
「終ぉわぁありぃだぁああッ!!」
遂に彼女の猛攻に耐えられなくなったニセ春樹の顔面へラウラは光り輝くプラズマ手刀を振り払う。
此れをニセ春樹は何とか高質化させた自らの両腕を変化させた触手刀で防ぐのだが、彼女の勢いと刃の鋭さに耐える事には至らない。
其のままラウラは殆ど力任せにズバシュゥウッと触手ごとニセ春樹の首を刎ね飛ばした。
「そりゃ!」
《げビャッ!?》
其の宙を飛ぶプラズマ手刀で刎ね飛ばしたニセ春樹の頭へ彼女はダメ押しとばかりにシュヴァルツェア・レーゲンの大型レールカノンをズドンッ!と撃つ。
正確無比な此の一撃に彼の頭部は短い断末魔と共に破裂し、其の肉片を辺り一面へ散らせた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ッ!」
ニセ春樹を文字通り木っ端微塵に還したラウラは喘息にも似た吐息を吐き連ねる。
流石にニセモノとは言え、想い人と同じ姿をしている敵を倒した事に罪悪感を感じているのであろうか。
「ッ、はるきぃ・・・はるきぃい・・・・・ッ!!」
・・・・・何だか様子がおかしい。
絹ごし豆腐の様に白い肌は真っ赤に紅潮し、灼熱の赤い右眼と金色に萌える左眼は熱を帯びた様に潤んでいた。
「寂しいぞぉ・・・切ないぞぉ・・・・・春樹ぃい・・・ッ!!」
此処最近、彼女は想い人に合えない鬱屈とした気持ちを洗濯機から拝借した春樹の使用済みシャツや下着を嗅ぐ事で発散していたのである。
されども終ぞ其れだけでは済まなくなってしまい、ある意味でラウラは禁断症状に陥ってしまっていたのだ。
調度其の時に今回の騒動だ。ニセモノとは言え、久方ぶりに出会えた春樹の姿に彼女のリビドーが滾ってしまったのである。
《・・・ッ・・・・・!》
しかし、其の隙を狙ってか。頭部をなくした筈のニセ春樹の身体が一人でに起き上がった。
彼は一人で身悶えるラウラに気付かれぬ様ゆっくりゆっくりヌルリヌルリと距離を詰めて行き、首を刎ねられた傷口から洗脳の為の細々とした触手を出す。
そして、其れを彼女の耳へと突き―――――
ガブリッッ!
《―――――ッ!!?》
「なッ・・・!?」
―――――刺す前にニセ春樹は胴体を何者かに”食い千切られてしまった”。
其の肉を食い千切る音に我に返ったラウラが振り返ると・・・・・其処に居たのはなんと―――――
◆◆◆◆◆
大陸歴2022年。
人と魔が入り乱れる『アイエス大陸』では千年前に封印された魔王が復活した事で、世界は混迷を極めていた。
しかし、そんな世界を救わんとする救世主が現れたのだ。
彼の名は『イチカ』。
大陸の極東部にあるジッポン国の出身の唯の少年であったが、魔王復活に際して出現した聖剣に選ばれた勇者である。
当初、イチカは自らに与えられた使命に戸惑っていたが、『みんなを守る』と云う信条を胸に魔王軍との戦いに打って出る事となった。
其の勇者イチカのパーティーを紹介しよう。
まずは彼の幼馴染であり、優秀なジッポン国の剣士『ホウキ』。
同じくイチカの幼馴染であり、シナ帝国の拳闘士『リン』。
大陸の西にあるエゲレス王国の名門貴族にして銃士『セシリア』。
マーニュ公国の王族でありながらも戦う決意を固めた治療師『シャルロット』。
プロセン連邦の軍人で魔族の力を使う事が出来る魔法騎士『ラウラ』。
そして、まだ若く未熟な彼等をサポートする勇者のイチカの姉にしてジッポン国守護者として名高い聖騎士『チフユ』に隠密忍者の『タテナシ』と『カンザシ』。
更に謎の協力者である魔女『タバネ』。
そんな頼もしい面々と共に勇者イチカは魔王が送り込んで来るゴーレムや数々の困難へ立ち向かい、諸悪の根源が潜む魔王城へと進軍して行く。
そして、現在―――――
「うぉおおおおお―――ッ!!」
「無駄無駄無駄無駄ァアッ!!」
勇者イチカは魔王城で魔王との最終決戦に挑んでいる。
此の地に到達するまで様々な困難があった。
最初は国の違いや立場の違いで対立していたが・・・共に困難を踏破し、道を切り開いていく事で結束が固まり彼等は強くなった。
途中、シャルロットが魔王軍にさらわれ、ラウラが闇墜ちする等のハプニングもあったが、イチカは持ち前の勇気で此れを解決した。
「イチカ、負けるな!!」
「頑張ってイチカ!!」
彼の周囲には共に魔王と戦う皆の姿があった。しかし、彼女達はぜぇぜぇ息を切らして膝をついている。
其れも其の筈、魔王は戦闘中に三段階の進化が出来るタイプであったのだ。
近接戦闘型の第一形態から魔法使い型の第二形態、そして人外型の第三形態。
「ヴェろぉア”ア”阿”ぁアアッ!!」
魔王の第三形態。其の姿は正に異形であった。
鋼の髪は怒髪衝天し、勇者イチカをギョロギョロとした金眼四ツ眼で睨み抜いている。
背中には青海泥の蝙蝠の様な翼が広がり、胸には血みどろの結晶が光る。
「破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ! 勇者イチカよ、貴様の命運も最早尽きた。今からでも我に屈すると言うのならば、命ばかりは助けてやらん事もない」
「黙れ! イチカが貴様程度のものに負ける者か!!」
「貴様には聞いておらんわッ、小娘がァア!!」
「ッ、うわぁああああ!?」
「ホウキッ! お前ぇええ!!」
爆風に吹き飛ばされる剣士ホウキを目にした勇者イチカは手にした聖剣を振り上げ、勢い良く魔王へ突貫する。
幾つかの火花と共に凄まじい剣戟が幾度となく繰り広げられ、其の後に両者は激しい鍔迫り合いへと至った。
「認めよう・・・我に挑む貴様の勇猛さを認めよう。だが、此の我に勝つ事など絶対にありえん。今、こうして貴様が生きて居られるのは我の慈悲だと感謝しろ」
「ぐ、ぅう・・・ッ!!」
イチカは圧倒的な力を誇る魔王の圧に苦い表情を晒す。
「しかし、もう其れも飽きた。人間が我に敵う事などないのだ! 猿が人間に追い付けるかッ? 此の我にとって貴様は猿以下なんだよ、勇者ァアアッ!!」
此のまま圧し潰さんと魔王は更に力を込めた。
あわや最早此れまでかと思われた・・・・・其の時である。
「ッ、違う!!」
「阿”ぁッ?」
「人間に不可能はない! 俺は諦めずに立ち向かえる人間だ!! お前みたいに血も涙もない自分勝手な野郎に負けるもんかよぉおおっ!!」
そんなイチカの叫びに応えるかの様に彼の握った聖剣が凄まじい光を放ったのだ。
「なッ、何ィイイッ!!?」
「ウゥオオオオオオオオッ!!」
其処からイチカは態勢を持ち直すと一気に魔王をズザシュゥウウッ!!と一刀両断したのだ。
「うぎぃい嗚呼あああッ!? 此の激痛ッ、此の熱さ! お、我がこんな人間如きにぃ・・・人間如きにぃいいッ!!」
断末魔を上げながら地面を転げ回る魔王を前にイチカは「はぁッ、はぁッ!」と肩で息をする。
「あぁッ、糞ぉお・・・いやだぁ、死にたくない・・・死にたくないよぉお・・・!!」
「・・・ッ・・・」
刻々と迫る死の瞬間に魔王は泣き言を言いだした。其れを聞いたイチカは何を思ったのか、彼へと近づいて行くではないか。
周囲はトドメを刺すものばかりだと思っていた。・・・・・だが!!
「ッ、な・・・何をしてるのよ、イチカ!!?」
何と彼はあろう事か魔王に治癒魔法をかけたのである。
此れには周囲はおろか。イチカによって瀕死の重傷を負った魔王でさえも驚嘆した。
「な・・・なぜだ・・・何故、我を助ける?」
「前に言ったろ。俺は『みんなを守る』んだって・・・別に俺はお前を殺したいわけじゃない。人と魔族が共に生きて行くにはお前の力が必要なんだ。だから、俺にお前の力を貸してくれ!!」
「ッ・・・・・!」
勇者イチカの言葉に魔王は目を真ん丸にし、周囲の者たちは呆れる様にほくそ笑む。
そんな周囲の反応はなど御構い無しに彼は笑顔を浮かべながら手を差し出す。
「だから・・・だから、俺と友達になろうぜ!」
「・・・フッ・・・おかしな人間だな」
其の手を魔王は苦笑いを浮かべながら握る。
こうして短くも長い勇者と魔王の戦いは幕を引くのであった。
「そう言えば・・・魔王、お前の名前って何て言うんだよ?」
「何?」
「友達になったんなら、名前で呼び合おうぜ! 俺の名はイチカ! ジッポン国のイチカだ! よろしくな!!」
「知っておるわ。だが、しょうがあるまい・・・とくと聞け我が名を! 我が名は、『はる―――――
「はぁッ・・・余りにも酷い出来の、醜悪過ぎる三文芝居だ」
―――――ゲッばッ!!?」
さぁ、此れから魔王が自分の名を述べようとした其の瞬間・・・ブチュッとミニトマトが潰れる様に彼の頭が弾け飛んだ。
「・・・・・・・・えッ・・・?」
最初、勇者イチカには何が起きたのか理解する事が出来なかった。
頬を伝う飛び散った魔王の脳漿を指で摘まんで取った所で漸く状況を理解する事が出来た。
「ひ・・・・・・・・ッ!!?」
其れを理解した瞬間。彼の背筋は凍り付き、顔は血の気が引いて真っ青になる。
其れもそうだろう。先程まで笑顔で話していた相手が―――――
「おっと・・・すまない。あまりにも癪に触ってしまったもので・・・力加減を誤ったよ」
「・・・ッ・・・・・!」
聞きなれぬ声にイチカが振り返ってみれば、視線の先には高級スーツに身を包んだ端正なルックスの如何にも機知に富んだ紳士が薄い笑みを浮かべて佇んで居た。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆