IS/Drinker   作:rainバレルーk

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今回より、二つのやり取りを並行的に行おうと思っております。
・・・後、ちょいとした新キャラを触りで出します。
ヒント、CV:キリコ・キュービィー。



第140話

 

 

 

「な・・・なんでッ・・・」

 

「ん?」

 

「なんで、こんな事したんだよッ?!」

 

自分の前へ突如として現れた見知らぬ男に対し、勇者イチカは顔を真っ赤にして吠えた。

何故ならば、敵でありながらも戦いを通して友となる事が出来た宿敵・魔王を目の前で熟し過ぎた柿の様に潰滅されたからである。

 

「確かにッ、あいつは俺達の敵だった・・・・・だけど・・・だけどッ、何もこんな事をしなくたって・・・!!」

 

勇者イチカは涙する。

此れから親友として世界を共に支える筈であったライバルの無念さを悔いた。

・・・だが・・・

 

「ふむう・・・解ってはいたが、改めて君の口からそんな事を聞くと心外だな」

 

「なに・・・?」

 

「もう既に君と”もう一人”の世界は掌握している。私は、君を此の世界から助けに来たんだよ・・・『織斑 一夏』?」

 

其の男の発言に対し、イチカは彼が何を言っているのかが理解できず「え・・・・・?」と呆けてしまうが・・・次の瞬間、「ッ、ぐぁ!?」とイチカは頭を抱えてしまう。

激痛だった。鈍器で頭を殴られた様な痛みが脳内を駆け奔る。

 

「ッ、イチカ?!」

 

「貴様ァア!!」

 

勇者イチカの異常状態に先程まで蹲って跪いていた彼の仲間たちが、一斉に男へ自らの得物の刃を突き立てんと駆けた。

流石は最終決戦の魔王城まで駒を進めた歴戦の戦士達。ほんの刹那の瞬きの内に男との距離を一気に詰めた彼女達は、彼の肉を食い千切らんと各々の武器を振り上げる。

 

「・・・・・やれやれ」

 

しかし、男は慌てる事無く耳元へ自分の手を持って行くと、まるでマジシャンやイリュージョニストの様にパチンッと指を弾いた。

 

『『『《ッ―――――!!?》』』』

「え・・・・・ッ?」

 

するとどうだろう。男に襲い掛かって行った彼女達全員が、まるで雨に溶ける土塊人形の様にあっと言う間に崩れ去ったではないか。

此の訳の分からぬ状況に対し、イチカは唯只疑問符を浮かべるばかり。

・・・そして、そんな彼の隙を見逃す男ではない。

 

「・・・さてと」

「ッ!」

 

男は呆けるイチカの額へ自分の右掌を添えた。

其の瞬間、彼の意識は淡く水泡へ記す様に消失していく。

 

「あ・・・ぁあ・・・ッ・・・・・」

 

熱病にでも罹った様な灼熱が脳のみならず身体全体を駆け巡る様は、彼に不可思議な心地良さと浮遊感を与えた。

けれども、まだ此の時のイチカ・・・いや、一夏は知る由もなかった事だろう。

 

「・・・フフフッ」

 

此の男・・・ハンニバル・レクターが自分の事をどんな目で見ていたのかを。

まるで、良い”食材”を見る”料理人”の様な目付きだったのかを。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「(・・・・・・・・・・・・・・・阿ッ・・・?)」

 

暗く冷たい泥の様な水底で、春樹のぼんやりとした意識が芽吹く。

 

「(・・・あれ・・・・・俺、何やっとったんじゃったっけ・・・ッ?)」

 

コポコポッと、鼻口から零れる吐息が水泡となっては暗闇へ掻き消える。

 

「まぁ・・・エエわ。今は・・・・・何じゃあ、眠いわぁ・・・ッ」

 

其れと同じ様に彼の意識もまた闇夜へと消えてゆく。

冷たい感覚が指先から身体全体へと伝わって行き、途方もない睡魔が思考感覚を奪っていった。

・・・・・されど・・・

 

「・・・・・ッ・・・?」

 

突然、春樹の口元へ何かが触れる。

其れは液体で、其の液体は彼の唇を伝って容易く口内へと招かれた。

 

「ッ!!?」

 

瞬間、其の液体は春樹の舌へジワリと何とも言えない染み渡るかの様な衝撃を与えた。

実に久方ぶりの、けれど、いつも通りの”味”が眠りこけていた彼の脳を覚醒させる。

 

「あ・・・・・あぁッ・・・あ”ぁア”あ”ア”ア”阿”ぁア”ア”ッ!!

 

春樹は叫ぶ。

其れは驚きの声でも有ったろうし、喜びの声でもあったし、怒りの声でもあったし、憎しみの声でもあったし、悲しみの声でもあった。

其れを単衣に纏めて彼は”彼女”の名を呼ぶ。

 

ラウラちゃん!!

 

春樹は身体を飛び起き上がらせた。

ザバァッと水を勢い良く掻き分ける音が大きく鼓膜を揺さ振った。

 

「・・・・・えッ?」

 

だが、彼が目を開けてみると其処に広がっていたのは青々と茂った針葉樹林の樹木達で、水面から起き上がった感覚があったにも関わらず、春樹が腰掛けていたのは古めかしいロッキングチェアだったのだ。

 

「此処・・・何処ぉッ??」

 

呆けた声を上げながらも彼は自己防衛の為にリボルバーカノンとMVS鉈を展開しようとする。

 

「ッ、ありゃあ!?」

 

しかし、いつもの様に出て来る筈の武装が手元に現れる事はなかった。

其れも其の筈。何故なら春樹の左手薬指へ嵌められている筈の琥珀の指輪が無くなっていたからである。

不味い、実に不味い。丸腰状態のこんな状況で”敵”に襲撃されれば一溜まりもない。

ジットリと嫌な汗が額を伝った。

 

「―――――大丈夫かい? 随分と顔色が悪いようだけど?」

「!」

 

そう「やべぇッ・・・やべぇよぉ・・・ッ!!」と焦燥感を漂わせる彼へ一つの声が掛けられる。

春樹は其の声に聞き覚えがあった。其れもそうだ。一時は”彼”の出る”ドラマ”ばかりを見ていた事があるのだから。

其の声の方へおっかなびっくりしつつも春樹は視線を向け・・・琥珀色の瞳を四白眼へと見開いた。

 

「やぁ、春樹。”初めまして”になるのかな?」

 

そんな吃驚仰天する春樹に対し、カールした金髪の碧眼の紳士は、ロッキングチェアへゆったりと腰掛けながら人懐っこい笑顔を垣間見せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「ッ・・・う・・・・・うぅ・・・?」

 

勇者イチカ・・・改め、一昔前のなろう系主人公並みに痛い妄想世界で聖剣を振り回していた織斑 一夏はゆっくりと瞼を開ける。

 

「こ・・・ここは・・・ッ?」

 

目覚めた彼の視界へ入ったのは、裕壮な柔らかい光を灯すシャンデリアと光沢のある見るからに高級なロングテーブル。

其のテーブルの上には、此れまた見るからに手の込んだ豪勢な一品料理が並んでいた。

 

「おや・・・目覚めたかね?」

 

其の次に一夏の視界へ映ったのは、あのRPG風世界で出会った高級スーツに身を包んだ端正なルックスを持つ四十代後半の紳士。

彼は一夏の調度真正面へ座っており、薄くも朗らかな表情をしている。

 

「あんたは・・・・・ッ」

 

「紹介が遅れてしまって申し訳ない。私は、レクター・・・ハンニバル・レクター。アメリカで精神科医をやっている」

 

「精神・・・科医?」

 

「何故、アメリカの精神科医が此処に居るのか?」と云う尤もな疑問符が一夏の脳内へ浮かんだが、ハンニバルの「ところで、あの世界を覚えているかい?」と言った言葉によって彼はハッとする。

『あの世界』とは、此の部屋へ来る前に居た世界だ。そして、其の世界へ囚われる前に自らに与えられた使命も思い出した。

 

「そうだッ・・・俺は、ハッキングされたIS学園のシステムを復旧させる為に電脳世界に来たんだ!」

 

そう言うや否や、「こうしちゃいられない!」と席を立とうとする一夏をハンニバルは「落ち着きなさい」と抑える。

勿論、彼は「どうしてッ?」と強い口調で返すので、ハンニバルは淡々と「その件なら、もう既に解決している」と述べたのだ。

 

「か、解決した?」

 

「あぁ、そうだ。学園のシステムをクラッキングした犯人は此方で確保した。後は、システム再起動を待つばかりだ」

 

其のハンニバルの言葉に一夏はギョッとしつつ、今にも溜息を吐きそうな暗い表情をさらし、「また俺は、何も出来なかったのか・・・」と呟いた。

 

「どうして・・・そんな事を云うんだ?」

 

「だって、そうだろ。今回も清瀬のヤツが・・・ッ・・・」

 

彼は其処まで言うと、おもむろに言葉を飲んだ。悔しそうに歯を軋ませ、視線を落としたのだ。

 

「・・・それは違う」

 

「え・・・・・?」

 

そんな気落ちする一夏に対し、ハンニバルを否定文を口にする。

まさか、そんな事を彼が言うと思わなかったので、一夏は少し驚いた表情で顔を上げた。

 

「彼・・・清瀬 春樹は、今回の騒動を纏め上げるには力不足だった。だから・・・”第三者”が介入する事になったのだよ」

 

「だい、さんしゃ?」

 

ハンニバルの言葉に対し、彼は疑問符を浮かべる。

何故ならば、此の任務の前に彼の姉である千冬から『機密任務』だと聞いていたからだ。

 

「それに・・・そんなに気を落とす事などないさ」

 

「え?」

 

「君の活躍は素晴らしい。皆を率い、先導して此の任務にあたっただろう? 並の人間が出来る事ではない。君の様な出来た弟君を持って、さぞかし姉君は誇らしいだろうね」

 

「ッ、い・・・いや、俺は・・・!」

 

しかし、其の様な疑問符はハンニバルの口から次々と出る賞賛の言葉によって掻き消されていった。

 

「俺はただ・・・ただ、自分にできる事をやっただけだ。みんなを守りたいから・・・ただの、それだけだ」

 

「それが一番難しいんだ。人間は、当たり前のことを当たり前の様に出来るとは限らないからね。それをしようとしている君は、尊敬に値すべき人物だ」

 

「あ・・・えっと・・・何だか、照れるなッ」

 

其の賞賛の言葉は月並みであったが、何故か彼の言葉を一夏は素直に受け入れられる事が出来たのである。

自分を”ブリュンヒルデの弟”としか見ていない事情を知らぬ周囲からの理由なき賞賛よりもずっと彼の心へ響いたのだ。

 

「こうして話してみると、聞いていたよりも君はずっと”魅力的”な人間のようだ。どうだろうか? 提案なのだが、学園システムの再起動まで私と会食など如何かな?・・・と言っても、見て御覧の様にもう既に用意は出来ているがね」

 

「えッ、でも・・・」

 

「無論、無理強いはしない。それに・・・この電脳世界では料理を味わう事は出来ても、実際に腹を満たす事は出来ない。加えて、”今なら”・・・この部屋から出て行って現実世界へ帰っても良い。君の自由意志だよ、Mr.織斑?」

 

「俺の事は一夏でいいですよ、レクター先生! 俺もあんたと話がしてみたいからさ!」

 

「なら・・・私の事もハンニバルで構わないよ、”一夏”」

 

二人は朗らかで楽しそうに会話を弾ませ、一夏はハンニバルの提案を二つ返事で答えた。

・・・けれども、こんな簡単に彼は返事をしても良かったのだろうか?

「”今なら”、この部屋から出て行くことが出来る」とは、どういった意味であろうか?

まるで・・・此の時を逃せば、二度と部屋から出て行く事が出来ない様な口振りではないか。

其れに加えて、『ハンニバル・レクター』と名乗る人物に食事に誘われた。

さて、此の織斑 一夏と謂う人物は普段読書を・・・するにしても、『ウィリアム・トマス・ハリス三世』が書く様な”サイコサスペンス”なジャンルを読むだろうか?

 

「これは私の得意料理の一つでね。生きの良い”新鮮な肉”を綺麗に捌いて、肉の風味を損なわない様に味付けした・・・すね肉の赤ワイン煮込み。そうだな・・・題名を付けるとするならば、『~”無礼者”のすね肉を赤ワインのフランボワーズソースで~』だろうか?」

 

「へーッ、俺も家で料理するけど・・・こんなの作った事ないな」

 

「それは良い。電脳世界とは言え、”実際の食材”を使っているからね。追々、レシピを教えようか?」

 

「あぁッ。頼むぜ、ハンニバル!」

 

・・・いや、読むわけがない。

ハンニバルとの短いながらも喜ばしい会話に気を良くした一夏は、意気揚々とナイフ&フォークを彼の作品へ差し向ける。

新しく出来た年の離れた友人の料理を楽しむ為に。

 

「フフフッ・・・ボナペティ(どうぞ召し上がれ)

 

其の様子をハンニバル・レクターは実に嬉しそうに、実に楽しそうに見詰めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





因みに此のハンニバル・レクターはドラマ版をベースにしているので、CV:ニャンコ先生です。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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