IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第146話

 

 

 

「・・・・・・・・阿ー・・・ッ・・・」

 

「・・・知らない天井だ」なんて、何処かのシンジくんの言葉が俺にゃあ吐けれん。

じゃって知っとる天井だもの。いつかの戦いの後に運び込まれた医療室なんだもの。

そんでもって息がし辛い。

此れも覚えがある。呼吸器を付けてるあの嫌な感じ。

 

「じゃ、ま・・・くぜぇ・・・ッ」

 

俺はどゅるんッてか、ヅルんて感じで呼吸器を取る。

クシャミと咳がいっぺんに出そうな不快感が堪らねぇ。気持ち悪ぃ。

 

「(吐きそう。其れよりも腹減った。そんな事よりも喉乾いた。酒が呑みてぇ。酒が飲みてぇ)」

 

ぐるぐる何だかよく解らん感情が胸の内に滞る。

・・・そー言やぁ、さっきまで良え夢を見とった筈なんじゃけど・・・

 

「・・・・・現実は非常であるってか? 阿”ぁッ、痛ェ・・・!!」

 

ボンヤリ眼の先には、ギプスなんか包帯なんかでぐるぐる巻きになっとる右腕がぼんやり。

鈍い痛み・・・久々の慣れた鈍痛が全身を奔って敵わん。

此の痛みんせいで思い出さんでもエエ事も脳内で自動再生。

金の龍の背に乗って~♪・・・って所は先ず良いとしてもよ。あの”豚野郎共”の皮を剥いだ感覚やらが手に残っとる。

 

・・・気色悪。

じゃけども、俺ぁ此れっぽっちも不思議と『後悔』なんてものはない。

逆に・・・・・なんつーかこう・・・自然と口端が”歪んでしまう”。

 

「・・・糞ッ」

 

”彼”を・・・あの『怪物』を受け入れてしもうてから、あれの性格が若干うつってしもうたか?

其れでもそうでもせんと、喰われていたんは此方じゃったかもしれんけんな。

しっかし、ジクジク痛ぇなぁ。ナイフなんぞ掴むんじゃなかった。俺ぁ右利きじゃけんな。箸が持てんかったらどうしよう。

 

「あ~ぁ・・・ホント、マジで疲れたわぁッ。其れでも・・・まだやらにゃあおえん事があるなぁ」

 

眩しいなぁ。

窓から入るお天道様の陽が、君の銀髪に反射してホントに眩しいでよ・・・ラウラちゃん。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

酷く乱雑な喧騒から一夜明けた朝。

現と夢を我武者羅に駆け抜け、泡立てた様な硝煙と血肉の匂いを胸一杯に嗅いだ今回の吞兵衛は、何とも言えぬ表情で自らの左傍らにてくぅくぅうつ伏せ状態で寝息を点てる想い人の流れる様な銀の髪を梳く。

其れを知ってか知らずか。彼女の顔は何処か優しく朗らかだ。

 

〈・・・・・気持ち良さそうね〉

 

そんな彼へ語り掛ける声が一つ。

飲んだくれが其の声の方へ金と鳶のオッドアイを差し向ければ、其処には金眼白髪の少女がユラリと海を漂うクラゲの様に浮いてどこか寂しそうに微笑んでいた。

 

「なぁ・・・上手ういった?」

 

〈えぇ〉

 

ズタボロで包帯と点滴まみれの蟒蛇・・・もとい春樹は人間態を模る自らのISである琥珀に短く「ならば良し」と、あの奇天烈な笑い声をこれまた短く「阿破破ノ破ッ」と口端を歪ませる。

 

其の屈託のない気取らなく飾り気のない笑顔に彼女は、グッと下唇を噛み締めた。

「どした?」と彼が首を傾げれば、琥珀は何だかとても啼きそうな表情で「ごめんなさ・・・ごめんなさい、春樹・・・ッ!!」と首を垂れた。

 

「わ、私が・・・寝過ごしたせいでッ、はっ・・・春樹が、春樹に傷を・・・!!」

 

彼女は其の金の瞳からポロポロ雫を溢す。

そんなスンスン音を出す琥珀の様子に春樹は「AIでも泣くのね」なんて頓珍漢な考えを一つ思い浮かべた後、再びケタケタ笑う。

 

「阿破破ッ、ひでぇ顔」

 

〈ッ・・・わ、笑い事じゃないわ! 私が起きてたら、あなたにそんな怪我をさせなかった!! それなのにッ・・・!!〉

 

そう喚き散らす琥珀に対し、春樹は唇の前へ自分の人差し指を当てる。そして、「ありがとうな」と一言述べながら彼女の頭を優しく撫でた。

此の彼の行為に「えッ?」と琥珀は当初戸惑ってしまうが、其の優しい手触りに徐々に自らを頭を預ける。

 

「そう自分を責めんでくれよ。最後にゃあ助けに来てくれたじゃない。琥珀ちゃん、電脳世界じゃとあねーにデッかいドラゴンなんじゃなぁ。驚いたでよ」

 

〈で、でも・・・私ッ・・・私!〉

 

「皆迄謂うな。ありがとうな、琥珀ちゃん」

 

〈は・・・春樹・・・ッ〉

 

朗らかな春樹の表情に琥珀は安心したのか。そっと彼の手に自分の手を重ね合わせた。

そうしていると「ッ・・・う・・・うぅ、ん・・・」と、春樹の隣で銀髪の君が呟く。

 

〈・・・じゃあ、春樹。私は引っ込んでおくわね〉

 

「え?」

 

〈話、あるんでしょ? ラウラと大事な話が〉

 

其れを察してか。琥珀は少し名残惜しそうに彼の手を離れ、粒子体となって待機状態へ戻る。

すると入れ代わり立ち代わりで、銀の君・・・ラウラ・ボーデヴィッヒは其の灼眼をゆっくり開けて春樹の方を向く。

 

「・・・? は・・・るき?」

 

「応。おはようさん」

 

最初は薄らボンヤリした眠気眼であったが、すぐに身体へ電流でも走った科の様に「ッ、春樹!!」と彼の名を叫ぶと同時に飛び付いた。

其の衝撃はいくら傷の回復が異常に速い春樹でも少々キツかったようで、「痛ぁああ!!?」と唸る。

 

「す、すまん春樹!」

 

「だ、大丈夫じゃ。ちいとばっかし吃驚しただけじゃ。見た感じ怪我もなさそうで良かったわ」

 

今回のIS学園サイバー攻撃事件、後に『ワールドパージ事件』は意識による電脳世界での戦いだったので、ラウラ達に目立った外傷などはない。

けれども・・・

 

「当り前だ! それよりも春樹!! もう大丈夫なのか?!!」

 

電脳世界だけでなく、現実世界でもドンパチをやった春樹はそうもいっていない。

筋肉断裂、分離骨折、粉砕骨折、ナイフによる裂傷に刺傷、散弾やライフル弾による銃傷、全身打撲etc・・・例を挙げるとキリがない怪我をまたもや負っていたのである。

 

「応ともよ。俺の頑丈さはよー知っとるじゃろう?」

 

だが、そんな命に関わる重傷を負ったにも拘わらず。春樹は鬱陶しかったのか、両腕へ嵌められているギプスと身体の至る所に付けられた点滴やらを外す。

そして、ゴキゴキ音を鳴らしながら首を回して一言。

 

「あ~ぁ、酒飲みたい」

 

まったくどんな状況でもアルコールに対する情熱を失わない男である。

そんな彼にラウラは「お前という男は・・・ッ」と呆れた顔をしつつも安堵の微笑と涙をこぼした後、彼の為に酒を持ってこようと席を立とうとする。

・・・しかし。

 

「・・・ラウラちゃん」

 

其れを春樹は静かな声色で彼女を引き留めた。

其のどこか寂しそうな彼の面持ちにラウラは「まだ傷が痛むのかッ?」と心配そうに春樹の手を取った。

塞がったとは言え、生々しい傷跡が残る彼の手を。

 

「前から思ってたんだけどさ・・・俺は、その・・・なんだ・・・ッ」

 

「どうした? やはりまだ安静にしていた方が―――――」

「俺は、君の側に居てもええんじゃろうか?」

 

歯切れの悪い口から紡がれた其の言葉にラウラは「・・・・・は?」と呆気にとられるが、春樹は構わず続ける。

 

「俺ぁいっつもボロボロで、泣き言ばっかりじゃ。なーんで俺ばっかりこねーな目に合うんじゃろうなぁ。こんな俺じゃあ、君を守る事なんて出来んなぁ。運よく今までやって来れただけじゃろう。其れに君も・・・ッ・・・」

 

春樹は口を濁す。

彼はいつかの事を思い出したのだ。

激情型鬱病の症状として酷い自己嫌悪に陥ったあの時を。自身に対するラウラの本心を疑ったあの時を。

 

「俺は・・・弱い。其れに・・・俺は異常じゃ。此の世界にとって俺は・・・”異質”なんじゃ」

 

彼は思い出す。

電脳世界で、自らの幻影と話した内容を。

 

皆さんもご存じの様に『清瀬 春樹』と云う男は、此の世界・・・『インフィニット・ストラトス』と謂う”作品”の登場人物ではない。元は、酒好きで飲んだくれの唯のロクでなしに片足突っ込んだ社会人だ。

其れが何の因果か知らぬが、こんな異常な世界・・・『異世界』へと迷い込んでしまった。

 

幸いにも自分の身内家族は元の世界と変わらずであったが、酷く苦しい出来事ばかりに合って来た。

一つあっては骨を砕き、一つあっては血を流し、一つあっては心を潰した。

そんな苦しい中で不思議な縁に導かれて出会ったのが、ラウラ・ボーデヴィッヒと言う人物である。

だが、其れには問題がある。其れは、彼女が此の世界の主要人物・・・『ヒロイン』の一人であると言う事だ。

今まではラウラとの甘い蜜の時間に此の問題を先延ばしにしていたが・・・もう其れも其れ迄である。

此のまま彼女との関係を続けても良いのか。原作通りに、元の”シナリオ”の流れの方がいいのではないか。様々な考えが春樹の心と頭をぐるぐるぐるぐるぐるぐる回った。

・・・そうして、彼はある一つの答えを導き出したのだ。

 

「じゃけどなぁ、ラウラちゃん・・・・・そねーな俺でもエエじゃろうか?」

「え・・・ッ」

 

春樹はラウラの手を包む様に握り返す。まるで壊れ易い物を触る科の様に。

 

「君の事が・・・俺は君の事が、好きなんじゃ。君と居ると心がほころぶんじゃ。君と居ると俺ぁ幸せなんじゃ」

 

恥ずかしそうに何度も顔を俯かせてしまいそうになるが、其の度にグッと堪えて彼女の眼を見据える。

 

「じゃけん・・・じゃけんラウラちゃん。俺の・・・・・俺の(ひと)になってくれんか? たった一人の俺の愛する人に。こんな哀れな俺の想い人に」

「ッ・・・は、春樹・・・!」

 

ラウラはギョッと呆気にとられた様に目を見開いた後、何度も何度も何度も頷いた。再びポロリポロリと灼熱の眼と厳つい眼帯に隠された琥珀眼から雫を流しながら。

 

「あぁッ・・・あぁ! あぁ、勿論だ!! わ、私もッ・・・私もお前といると、幸せなのだ! 愛してる・・・私はお前を愛しているぞッ、春樹!!」

 

決定的な瞬間であったろう。

「何が?」と問われれば、其れは『恋』が『愛』に変わった決定的な瞬間であったろう。

そんな嬉々とした涙を流すラウラを春樹はそっと抱き寄せ、ぎゅーうっと抱き締めた。

病み上がりな為、有らん限りの力は出せないが、しっかりと彼女を抱き締める。其れが尚余計にラウラの心を揺さぶった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・けれども、彼女は知らない。

 

「(原作? シナリオ? 知れた事か! 此の人は・・・此の女は俺のもんじゃッ、俺だけのもんじゃ! 誰にも渡さないし、誰にも渡すつもりはない!!)」

 

彼の中で、あの怪物から受け継いだものが花開いている事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・そして、二人は知らない。

 

「・・・・・・・・春樹・・・ッ」

 

部屋の外に想いが通じ合って抱き合う二人の様子を光のない目で見る金髪の君が居る事を。

 

 

 

 

 

 

 

 





後味に不穏が。
でも此の不穏は先延ばし。
今はイチャラブを先行する。
それでもまだちょっと不穏回がちょっと続きます。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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