旧150話と旧151話を結合しますた。
「クフフフ・・・素晴らしい!」
どう見てもふざけたネタTシャツの上に白衣を羽織った芹沢(兄)博士は、静かなれどもケタケタ笑い声を上げてモニター画面を見つめていた。
其のモニター画面には、午前中に採った二人の被験者の検査結果が映し出されている。
特に喜んで見ているのは、彼が『新人類』や『ニュー・タイプ』と常日頃から揶揄しているあの吞兵衛のデータだ。
「楽しそうですね、博士」
「いつもよりだいぶハイテンションっすねぇ」
まるでアニメ映画でも楽しむ子供の様に目を輝かせる芹沢へ部下の一人が彼へ一服のコーヒーを差し入れる。
「あぁ、勿論だとも!」と芹沢は砂糖をドバドバ入れた其れを何とも美味そうに飲み干す。
「とてもついこの間までただの地方の中坊だったとは思えぬデータだ! 特に身体能力の急上昇が著しい!! これを見てくれッ!!」
そう言って芹沢は随分興奮した様子でモニターを部下達に見せつける。
其のモニターへ映し出されたデータを見て、部下達は目を見開いて「・・・はッ!?」とすっ呆けた声を漏らしてしまう。
何故なら其処へ映し出されていたのは、到底常人では考えられない数値であったからだ。
其の中でも特に目立った点を紹介しよう。
先ずは足の速さ。
ある特殊なルームランナーで計測した所によると、其の速さは時速七十km。
其の車並みの速さに加え、ハーフマラソンを三十分以内で完走するスタミナをも有している。
次にジャンプ力。
走り幅跳びを本人は軽い気持ちで行ったらしいが、推定でも縦二m・横八mを悠々と飛んでいる。
特に常人離れしているのは、其の筋力。
平気な顔で三百㎏のベンチプレスを片手で持ち挙げ、其の力から繰り出される打撃力はヘヴィー級プロボクサー並以上。
おかげで最後の検査として行ったスパーリングで、自動サンドバック人形パッペー君は無残なスクラップへと変貌してしまった。
「・・・いやッ、どこのアメコミヒーロー!?」
「確かに年下とは思えないガッチリした仕上がりだったけれども・・・ッ、まさかここまでとは!」
「加えて、あの異常な速度の回復力に耐久力・・・確かに博士が心躍るのも解る気がします」
「あぁ・・・本当に彼は生まれる時代を間違えているな。これが戦乱の時代に生まれて居れば、一国一城の主も夢ではなかったはず」
「『知世の能臣、乱世の英雄』・・・曹操タイプの吾人ですな、我らが刃は」
「しかも我々がアッと驚くような大酒飲みですしおすし。でも、なんで今も彼のIS適正は『E』のまま何でしょう?」
「それがまた謎なんだよねぇ・・・コレが!」
若干口角をヒクヒク引き攣らせながら研究者達や技術者達は感嘆詞と疑問符を述べる。
そんな「武器使わなくても十分強いじゃん」な人間が、世界最強の兵器と名高いISを纏えばどうなるか・・・正に『鬼に金棒』『虎に翼』『駆け馬に鞭』だ。
しかし、此処で「・・・・・あッ、そういえば!」と芹沢はある部下へ目を向ける。
其の部下は医療資格を持つ研究者で、もう一人の研究被験者であるラウラの担当をしている人物であった。
「銀の君、もといボーデヴィッヒ女史の方はどうだった?」
「そうですね。遺伝子強化素体と聞いていましたが・・・IS適正や反射神経が高いと言う点以外、特に一般人女性と変わらぬデータ数値ですね」
「いやいや、違う。私が聞きたいのはそういう事じゃない」
「はい?」
「うーむ。こういう事を云うと私が性差別主義者の様に聞こえるかもしれないが、誤解しないでくれたまえ。私が聞きたかったのは・・・彼女は”子供を産む事の出来る身体”かどうかだという事だ」
其の芹沢の発言に周囲は渋い顔を晒す。
ISという前時代の兵器をガラクタと変貌させてしまった発明品が世界へ広まった結果。「男よりも女の方が強い」と言う誤解が世間へ浸透してしまい、『女尊男卑』という間違った概念が世論を跋扈していたのである。
だからこそ、芹沢の今の言葉は前時代的『男尊女卑』の発言にとれるのだ。
「・・・よかったですね博士、ここに我々だけで。浅沼さんや金城さんの女性陣がいたら侮蔑の眼差しもんですよ」
「そうですよ! そんな事を外で言ったらメッタメタのボッコボコですだよ!!」
「それに不妊の原因は男性にもある場合があるんです。なにも女性だけに問題があると言う訳では・・・」
口々に苦言を呈す部下達に「わかっているとも!!」と両掌を見せた。
「別にボーデヴィッヒ女史の身体が不妊体質であるかどうかと云う話はしていない。私は、彼女が一般的な女性と変わらない身体であるという事を聞きたかっただけだ」
「なら最初っからそう言ってください」
「言い方ひとつで炎上しますから気をつけて下さいよ、博士」
「しかし、なんでそんな事を聞くんですか?」
そんな疑問符に芹沢はさも当然の様にこう答える。
「あぁ。彼女には、彼と・・・清瀬 春樹くんとの間に”子供”を儲けてもらいたいからね」
其の発言に再び部下達は口角を引き攣らせ、ドン引きするのだった。
先程まで晴れていた空へ大きな大きな真っ黒い雷雲が忍び寄っていた。
◆◆◆
一方其の頃・・・・・
「・・・・・(・・・うぇえッ)」
芹沢達の話題に上がった蟒蛇若武者こと清瀬 春樹は、何とも言い表せないプレッシャーに圧し潰されそうになっていた。
今の状況を端的に説明しよう。
様々な検査が終わり、ご褒美のタダ酒を飲ませてもらう為に黒のハイヤーである武家屋敷に連行された春樹。
其処で彼はある和室に通されたのだが・・・
「・・・あんれぇ??」
まるで外観と同じ如何にもな内室に通されたのである。
見るからに高そうな掛け軸に洗練された装飾品。前に一見さん御断りの料亭に連れて行った貰った事がある春樹にも十分「ただの個人宅じゃねぇ!」と理解できる気品が漂っていた。
「ん? 大丈夫かい、清瀬君?」
「顔が青いぞ、我らが刃?」
そんな気負けしている春樹を知ってか知らずか、隣に居る長谷川や壬生が声を掛ける。
其れに「だ、大丈夫っす!」と答える彼だが、其の長谷川達の座り位置に春樹は益々緊張してしまう。
何故なら、壬生ならまだしも世間にも名の知れた政界の若獅子である筈の彼が自分と同じ下座位置にいるのだ。・・・という事は、上座に座るのは此の屋敷の家主であろう。
一体どんな人間が出て来るのだろうと内心ドッキドキだ。
「(俺ぁ酒を飲みに来ただけなのに・・・ッ。しかも此処って更識って・・・たまたまの同姓?・・・んなわきゃねーよな! 絶対あの会長や簪さんの御家じゃん!! 親御さん? 親御さんが出て来んの??)」
春樹が謎の焦燥感で心の汗をダラダラ流していると、スッと奥の襖が開け放たれた。
「どうも皆、お集まり頂き感謝する」
「ッ!?」
何とも上質な襖を開けて入って来たのは、どう見ても見るからに”カタギ”ではない雰囲気をムンムン醸し出す厳格そうな壮年男性。
そんな戦国武将の様な風貌の此の屋敷の家主であろう人物に対し、春樹が思った第一印象はと言うと―――――
「(あッ・・・・・あのふざけた水色髪色は、父性遺伝の方だったのね。つーか髭の色まで薄水色って・・・ッ)」
どうでも良い点に納得していた。
けれども其の隣では、真剣な面持ちで長谷川達が深々と頭を垂れる。
「ご無沙汰しております、更識”当主”!」
「やめてくれ、私はもう既に当主の座を譲った身だ。昔の様に”更識のおじさん”と呼んでくれてもいいんだぞ、”博文”」
どうやら長谷川は此の水色武将と旧知の仲らしく、男は薄く笑みを浮かべているが、長谷川の方は緊張の為か表情が強張っている。
「そして・・・・・君が噂の二人目の男のIS乗りか?」
「は、はい。清瀬 春樹っす。どうも、よろしくお願いします」
挨拶を返す春樹に「ほう・・・」と更識元当主は眉をひそめると、彼へ握手の為の手を差し出した。
「私は更識家前当主、名を『更識 天山』と云う。君の事はよーく・・・聞いている」
其の差し出された手を春樹は「ッ、は・・・はぁ」と手に取って握手を交わすのだが、更識は明らかにカタギではない雰囲気と視線で刺し貫く。
此れに春樹は「え・・・え~??」と疑問符ばかりが渦巻いて行くのであった。
◆
「・・・う~ン?」
「・・・・・此れ程までに”味のしない”美酒を飲むんは初めてじゃ」・・・と、後に春樹は此の状況を眉をひそめて語る。
何故ならば、美酒の芳醇な味を感じられぬ程に空気が山椒の如くピりりッとしていたのだ。
「はっはっはっはっはっ、これはどうも愉快だな!」
「は、はぁ・・・」
春樹としては、此の機会は『ワールドパージ事件を何とか頑張って治めたで賞』の賞品として招かれた酒宴。
檜の薫りがほんのりと香る春樹の右瞳と同じ琥珀色が入った酒樽とテレビのバラエティー番組でしか見た事のない和な御馳走が出て来た時は心躍るものがあった。
・・・しかし、其れも束の間の話。
自己紹介も兼ねた他愛もない世間話もしつつ酒を呷って行くのだが、段々とどうも周りの雰囲気が不可解な事に気付いた春樹。
檜の酒樽が半分になる前にもう既に酔ってしまったのだろうか?
「して・・・刃殿。先程から手が止まっているようだが、体調が優れないのか?」
「ッ、い・・・いえ。ちゃんと飲まさせてもらいますよ、はい!」
・・・・・いや、違う。
彼の目の前で共に同じ酒樽の美酒を茜色の酒器で呷る男・・・此の大邸宅の家主である更識 天山が春樹に対して言い知れぬプレッシャーを与えていたからである。
表情は穏やかなれども背後からは『ドドドッ!』と云う擬音語が浮かび上がっている様ではないか。
其の雰囲気を察してか。周囲に居る長谷川や壬生達も焦燥感の漂う汗が額から滲み出る。
「(・・・・・なして?)」
此の状況に春樹は心の中で表情を不快に歪めた。
其れもそうだろう。彼は美味い酒が飲めると聞いて態々出向いたのだ。
其れなのにどうしてこんな圧迫面接の様なで酒を飲まなければならぬのか? 此れでは折角の美酒が台無しだ。
「・・・はぁッ・・・」
だが、天山がどうして自分を警戒しているのかを春樹は理解できた。理解できてしまった。
此の目の前に居る『戦国無双』の『北条氏康』似のどう見ても職業が”ハンシャ”の吾人は、若しかしなくても政府関係者だろう。
其れは春樹が最も信頼している長谷川との対話を見る限りでは明らか。
そんな人間が、ISを扱えるだけのこの間まで地方の中学生だった少年を簡単に信用できる訳がない。其れも未成年で酒をカっ喰らう不良を。(※実は其れだけではないのだが・・・)
・・・其処で彼は行動を起こす事にした。
「あの・・・更識、さん? 一つよろしいでしょうか?」
「ん? どうかしたのか? それに私の事は天山で構わんよ、刃殿」
「なれば、天山さん。一つ此処で酒の肴になる話をしても宜しいでしょうか?」
「・・・ほう?」
其処から春樹はある哀れで卑しい飲んだくれの男の話をし始める。
個人名は出さねども、明らかに其の話は春樹自身が逢って来た此れ迄の自分自身の事だった。
勿論、其の事に長谷川や壬生も気が付いたのだが・・・彼等は春樹の話を止める事はしない。何故なら、此の話によって天山に春樹の事を良く知って貰える事になると思ったからだ。
其れに―――――
「其処で男は言った! 『イピカイエーッ、糞ったれ!!』。怒号と共に十字に組んだ腕から飛び出る黄金色の破壊熱線! 其れが直撃するや否や、其の鉄の表皮をドロリとアイスクロームの様に溶かした!!」
「「「おおッ!!」」」
―――――春樹はまるで一流の講釈師の様に語るのが巧かったのである。
自身の武勇伝を人に語るのは気恥ずかしい面も勿論の事あったが、話と喋りが波に乗るにつれてそんな事などどうでも良くなった。
春樹は語る。
『ゴーレム事件』を。『VTS事件』を。『銀の福音事件』を。『欧州襲撃事件』を。『文化祭襲撃事件』を。『キャノンボール・ファスト襲撃事件』を。
少しだけ話を盛っている部分もがあったが、ほとんど大まかには事実であった為に問題はなかった。
・・・・・しかし。
「鎧を着こんだ男が城に入った其の時、男が見たもの・・・・・其れは、敵の手によって慰み者にされかけていた水色髪の少女でありました」
「ッ、お・・・おい!」
「清瀬君ッ、それは・・・!」
『ワールドパージ事件』の話になった時、事情を知っていた壬生と長谷川は怪訝な表情と共に彼の講釈を制止しようとする。
其れも其の筈。其の水色髪の少女の実父が此の場に居るのだから。
「・・・構わん」
「し、しかし・・・!」
「良いのだ、博文。続けてくれ、刃殿」
けれども、制止する長谷川を余所に天山は春樹に其のまま話を進める様に促した。
そんな言葉に「・・・其れでは」と春樹は頷き、再び立石に水で口を開く。
「口に猿轡を噛まされ、腹と手から血を流す少女を見た途端・・・男の中で何かが千切れちまいました。男は怒りに身を任せ、黒ずくめの敵をバッタバッタと薙ぎ払っていきました」
「ほう。それで男はその襲われていた女子を助けたのだな?」
「えぇ。けれどもしかし、男の腹は治まっていませんでした。男は少女を安全な所へ一旦預け置き・・・床へ転がる敵に更に一手間加えようとしたのです」
「・・・・・え?」
其の春樹の言葉に長谷川は疑問符を浮かべた。
何故なら、彼は春樹が話そうとしている”其の先”の話を聞かされていなかったからである。
「男は・・・敵の生皮を手持ちのナイフで剥ぎました。ベリリッベリリッと顔皮を剥ぎ、躊躇はおろか容赦もなく敵の鼻と耳を削ぎ落したのです」
「なッ・・・!?」
「お・・・おい、冗談だろッ・・・我らが刃?」
彼の口から出た衝撃的な告白に対し、長谷川と壬生はドン引きの表情を晒す。しかし、「・・・話はまだまだこれから」と春樹は前置きをして喋りを続けてゆく。
「其の後、男は敵の大将とも戦いました。敵大将は”装甲機”を纏っていましたが、夜叉と化した男の敵ではなく、手下と同じ様に其の生皮を剥ぎ取ってやりました。・・・・・けれども・・・」
「けれども? けれども・・・どうしたんだ?」
「ッ・・・事が終わった後、不可思議な事に襲撃者達は跡形もなくなっていたのです。そう、逃げられたのです」
天山の疑問符に春樹は一瞬バツの悪い顔を晒した後、忌々しそうな声色で此の事件で一番口惜しく悔しい事情を話すのだった。
そして、彼は突然立ち上がり、天山の側まで来ると其のまま頭を下げて額を畳に圧しつける。
所謂、『土下座』をしたのだ。
「御嬢様を傷付けた悪辣な賊徒を逃してしまった事は、全て俺の・・・私の責任です。申し訳ありませんでしたッ! 出来るならば、私に挽回の機会をお与えください!!」
「き、清瀬くん・・・!?」
「我らが刃・・・!」
深々と頭を下げる春樹に長谷川と壬生は驚き焦って思わず立ち上がってしまう。
・・・けれども、そんな二人を余所に天山は額を畳に擦り付ける春樹の両肩をガッチリと掴んだ。
其の動作に思わず春樹はビクッと身体を震わせてしまうが―――――
「頭を上げてくれ、刃殿・・・いや、清瀬殿」
「しかし・・・私は・・・!」
「確かに娘を襲った悪漢共を取り逃がした事は誠に残念な事だ。しかし、貴殿が助けに来てくれた御蔭で、娘があれ以上の毒牙に掛かる事はなかった。礼を言うのは私の方だ」
「天山さん・・・ッ」
「改めて言う。私の娘を・・・”刀奈”を救って頂き感謝する。本当に、本当にありがとう」
そう言って天山は顔を上げた春樹の手を握って謝礼の言葉を述べる。
其の言葉が嬉しかったのか。春樹は再び俯いて肩を震わせた後、あの酷く目立つIS学園の生徒制服の袖で顔を拭った。
「・・・して、清瀬殿。貴殿は先程「自分に挽回の機会を与えて欲しい」・・・そう言ったな? そういう言葉が吐けるという事は、何か考えがあるのだな? それと・・・博文、お前も清瀬殿に何か聞きたい事があるのではないか?」
「えッ・・・あッ、は、はいそうです! 清瀬君ッ、敵の・・・テロリストの皮を、皮膚を剥いだって・・・・・えぇッ、ちょっと待ってくれ!! 聞いてないぞ、僕はッ!!」
春樹のまさかの衝撃的告白に長谷川は今になって漸く別の焦燥感が額からにじり出るのが理解できてしまう。
其の珍しく目に見えてアタフタする彼が愉快だったのか。思わず春樹は苦笑いを浮かべてしまうのであった。
「何が可笑しいのかなッ? 清瀬君!?」
「阿破破ッ・・・いや、すいませんすいません。お答え致しますから、長谷川さん。えと、でも其の前に天山さん・・・一つよろしいですか?」
「何だね、清瀬殿?」
「あの・・・・・”かたな”、さんって・・・誰ですか?」
「・・・・・・・・なに?」
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆