IS/Drinker   作:rainバレルーk

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※突然のストロベリーにご注意ください。



第152話

 

 

 

―――――織斑 千冬は、”あの日”の事を忘れないであろう。

 

ワールドパージ事件が起こったあの日、あの時、あの瞬間。彼女はIS学園へ侵入した武装集団『アンネイムド』を率いる”隊長”と火花散る激しい鍔迫り合いをしていた。

驚くべき事にアンネイムドの隊長が人類の英知の結晶であるISを纏っているのに対し、人類最強の『ブリュンヒルデ』の名を冠する千冬はISスーツと一振りの刀だけの装備を持って此れに挑んだのである。

聞いただけでとんでもなく非常識な事なのだが・・・彼女は此の常識をいとも簡単に覆した。

ISのハイパーセンサーでも追い付く事の出来ない『抜き足』なる技法と類稀なる剣術で隊長を翻弄し、互角処か逆に彼女を追い詰めて行く千冬。

そんな彼女の挑発に完全に乗せられ、本気モードに移行したアンネイムドの隊長だったのだが・・・・・状況は一瞬にして変わってしまった。

 

何かの音が大音量で響いたのか、隊長の身体が一瞬硬直する。

其の表情はバイザーを被っている為に見えないが、何か彼女にとって不味い事が起きたと云う事は理解できた。

そして、アンネイムドの隊長は何を思ったのか。敵である千冬に背を向けてブースターを命一杯噴かしたのである。

此の突発的な行動に千冬は泡を食ってしまう。

 

先程まで本気の殺気をぶつけ合う敵だったが、彼女との戦闘に千冬は好印象を抱いていた。

裏表のない唯々純粋な武力の応酬。実戦から離れていたブランクと戦力のハンデはあれど本気を出せる相手に巡り合えた事は、退屈な教員生活の日々を送る彼女にとってとても幸運な事であった。

そんな好敵手足り得る相手が自分との勝負の決着を待たずして敵前逃亡した事に千冬は憤った。

だが、今は学園の防御システムがダウンし、此の機に乗じて侵入して来た襲撃者も多数いる。

確かに今自分が追い掛ければ、確かに彼女との勝負に決着をつける事は可能だ。けれども其れで自分の背後に居る無防備な教え子達にもしもの事があったら・・・・・其の一抹の不安が千冬の脳内によぎり、其の場に留まるを得なかった。

しかし、ちょうどそんな時に”あの男”・・・二人目の男性IS適正者である清瀬 春樹が現れたのだ。

一時は彼から教員としての責を責められる疑問符を受けたものの春樹が来たからには安心とばかりにアンネイムドの隊長の後を追う千冬。

久々の有意義な闘争に彼女の心は心なしか弾んでいた。

・・・・・弾んでいたのだが・・・そんな気分は一瞬の内に木っ端微塵で四散したのだ。

 

「な・・・何だこれは・・・・・!!?」

 

追い付いた先にあった場所・・・其処は『赤色』が支配していた。

点滅する非常灯が床や壁に飛び散った赤色を照らし、周囲からは今にも事切れそうな呻き声が木魂している。

 

まるでホラー映画やスプラッター映画の一幕であった。

肉屋の冷凍庫や冷蔵庫の中にある肉塊の様に壁側へ吊るされていたのは、上半身と顔の皮を剥がされた”のっぺらぼう”の兵士達。

そんな血の滴る肉のカーテン達に囲まれるように廊下中央へ鎮座していたのは、跪いて手を組んで祈る天使のオブジェ・・・ではなく、両手をナイフで串刺しにされ、ワイヤーによって羽を広げる様にナイフで剥がされた背中の皮膚を吊るされたアンネイムドの隊長であった。

 

「ッ、おい!? 大丈夫か?!!」

 

自分の時はバイザーで顔を隠していたが、彼女である事を確信した千冬はすぐさま近寄ると両掌に刺さったナイフと口に噛まされたワイヤーを解いてやる。

しかし―――――

 

「ッ、い・・・いやぁああアアぁアあああッ!!

「お、おい?!」

 

アンネイムドの隊長は狂った様な絶叫を轟かせながら暴れ回った。

千冬は此れを抑え込もうとして身体や顔に血飛沫を浴びてしまうが、正気に戻す為の平手打ちを炸裂。彼女はそんな漸く静かになった隊長の顔を覗き込んで聞く。「何があったのかッ?」と。

すると彼女はこう答えた。

 

「デ・・・『悪魔(デモン)』・・・悪魔(デモン)が!! いやッ! いやぁあああああ!!」

「何ッ・・・?」

 

瞳の焦点の合わぬ血まみれの青い顔でアンネイムドの隊長はそう喚き散らす。

先程まであんなにも冷静に自分と刃を交わしていた人物とは思えぬ変貌っぷりに千冬は唖然としてしまうが、彼女はそんな恐怖に打ち震える隊長の身体へ簡易的な治療を施した。

 

「一体・・・一体何があったのだというのだ? 貴様ともあろう者が何故ッ?」

 

「ブリュンヒルデ・・・先程言った、通りだ。悪魔・・・悪魔が出たのだッ! 燃える眼に鉛色の肌を持った人知を超えた化け物が!!」

 

先程よりも正気を取り戻したとは云え、未だ怯えた声でさえずるアンネイムドの隊長。

千冬は最初、彼女が何を言っているのか理解できなかった。しかし、此処に来る前にあっているのだ。

其の『化け物』とやらに。

 

「ッ・・・まさか・・・!?」

 

「あぁッ、其れなら下種野郎共共々向こうでのたうち回ってますよ」・・・と、あの男は眉をひそめて言っていた。

「のた打ち回る」とは言葉の綾だろうと思っていた千冬には酷くショックな真実である。

 

「も・・・もう任務は放棄せざるを得ない。部下達の傷も多大だ。任務失敗に加え、敵の虜囚になるくらいならば・・・・・ッ!!」

「ッ!!?」

 

そう言って隊長は拳銃で撃ち抜かれた腕を何とか漸う動かし、手榴弾の安全ピンへ指を掛けた。

本当なら自決用の毒物が奥歯に詰められているのだが、其の毒を奥歯ごと抉り取られていた為、此の方法を彼女は取らざるを得なかった。

しかし・・・

 

「・・・貴様のISはまだ動くか?」

 

「ッ、なに・・・?」

 

「私は・・・なにも見なかった」

 

其の千冬の発言にアンネイムドの隊長は目を剥く。

仮にも学園を襲ったテロリストに対して云う言葉では到底考えられない言葉であるからだ。

 

「不幸中の幸いだが、私達学園側の損害は微少だ。貴様の部下達がウチの生徒会長にケガを負わせたが・・・あれにも貴様らにもとっても良い勉強になっただろう」

 

「だ、だが・・・!!」

 

「それに・・・私は貴様の様な稀な傑物を失いたくはない。貴様の様な腕の立つIS乗りをな」

 

「ブリュンヒルデ・・・ッ!」

 

僅かな、ほんの僅かな剣による会合で有ったが、千冬は彼女の剣を気に入っての情けを掛けたのだ。

そして、其の情けにアンネイムドの隊長は甘える事にした。

ズタボロの四肢をISを展開する事で何とか動かし、其の手を持って瀕死の重傷を負った部下達全員と共に撤退を開始したのである。

武士の情けによって結ばれた友情・・・なんと美しい事か。

 

「―――――んな訳あるか、ボケがぁッ!!」・・・等と此の場に蟒蛇が居れば、そう叫んでいたであろう。

其れも其の筈。折角苦労して殺さぬ程度に痛めつけて捕獲した”手柄”を超個人的な私的理由で逃がされたのだから堪ったものではない。

けれども、此の時の彼は電脳世界に囚われた想い人と学友達と鈍感屑を助けるのに忙しかった為、文句など云える訳がない。

加えて・・・・・

 

「清瀬 春樹・・・アイツだけは、本当に・・・ッ!!」

 

千冬はアンネイムド達一行を無惨な状態にした春樹に対し、此れ以上ない多大なマイナスイメージを抱いたのだ。

学園を襲った敵とは言え、彼等に対する冷酷無慈悲にして残忍非道、常軌を逸脱した行動に彼女は例えようもない恐れを抱いた。

更に言えば、千冬は心配になった。此の人を人とも思わぬ血に飢えた獣の様な男に心底惚れているドイツの愛弟子の事が心配になった。

そして、いつか彼女の目を覚まさなければならぬと決心したのだった。

 

しかし・・・彼女は知る由もない。

此の時の決断によって、ある一組のカップルが酷い目に合うのだが・・・其れはまた別の話。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「・・・・・んッ・・・んぁ?」

 

雲の切れ間から顔を覗かせた朝陽は、其の威光でベッドへ身体を横たえていた銀色の妖精こと、ラウラ・ボーデヴィッヒの意識を覚醒させる。

 

「んー・・・あさ、か?・・・ンん?」

 

意識が覚醒したばかりの眠り眼の彼女が其の赤と金の瞳で認識したのは、視線の先で「くかー・・・ッ」と気持ち良さそうに寝息を点てる想い人、清瀬 春樹の寝顔であった。

窓辺から差し込む陽の光が、彼の白く変色した白髪を柔らかく印象付けている。

そんな春樹の表情に「・・・ふふッ」とラウラは微笑んで体を起こそうとしたのだが・・・・・

 

「ッ、い”!!?」

 

突如としてピシィッ!と云った鋭い痛みが彼女を襲ったのである。

 

「(い、痛い・・・! なッ、なんだこれは?! こ・・・腰が痛い、というより動くと股が・・・”中”が、痛い!!)」

 

身体の中、下腹部から来る今まで経験した事もない痛みにラウラは身を捩らせた。

 

「(や・・・やはり、裂けたのか? 見えなかったが、ナイフで切られたみたいに腹が痛い・・・ッ! なぜ・・・どうして昨夜、この痛みに気が付かなかったのだッ?)」

 

ズキズキ痛む腹を抑えながらも「・・・・・あ・・・ッ」とラウラは声を漏らして顔を上げる。

視線の先には勿論―――――

 

「(・・・そうか・・・春樹が、夢中にさせてくれたからだ。この痛みを和らげるために・・・)」

 

彼女はウットリ目を細めながら、大きく抉れた傷跡が無数に残る春樹の傷のある胸板へ頬を寄せて思い出す。

 

「(・・・昨日は、たくさん私の身体をさわってくれて・・・何回もキスしてくれて・・・・・それから、いっぱい・・・)」

 

昨夜あった生々しい”情事”が鮮明に脳内へフラッシュバックすると、腹を抑えていた手の力が徐々に徐々に抜け、愛しそうに撫で回す様になった。

 

「(いっぱい・・・いっぱい・・・”(ここ)”にそそいでくれたんだ・・・春樹のをいっぱい)」

 

下腹部を撫で回しながらラウラの呼吸は荒く「はぁー・・・はぁー・・・ッ」と浅いものとなり、其れと同時に程良く鍛えられた柔らかい胸筋へ自分の頬をすり寄せ始める。

 

はぁー・・・はぁー・・・ッ、気持ちよかったぁ・・・春樹、すっごくかっこよかった・・・・・身体、つらいけど・・・今日もしたいッ・・・・・だけど、またダメって叱られてしまうだろうか? でも・・・でもなぁ・・・ッ・・・

 

顔を真っ赤にし、もじもじ身体をくねらせるラウラ。

・・・そんな彼女に声を掛ける声色が一つあった。

 

〈・・・・・朝からお盛んね?〉

「ッ!!?」

 

振り返れば、其処には生暖かい目で此方を見る白髪金眼の少女、琥珀(人間態)が居るではないか。

彼女の登場にラウラはギョッとして声を挙げそうになったが、そんな唇を琥珀は〈静かにッ〉と人差し指で抑えた。

 

〈兎は年中発情期って云うけど・・・本当なのねぇ?〉

 

「い・・・一体いつから見ていたッ? 昨夜、お前はシャットダウンしていた筈・・・!」

 

〈さぁ? どうだったかしらねぇ? それよりも、どう? 身体の具合は?〉

 

琥珀はそう言いながらラウラの身体を触診し、ハイパースキャンをかける。

 

〈んー・・・バイタルに問題はないわね〉

 

「そ、そうか」

 

〈そうよ。もうちょっと時期が合致してれば、”受精”できてかもしれないのに・・・残念残念〉

「ッ、こ・・・ここ、琥珀!!?」

 

再びギョッとするラウラに対し、琥珀はキョトンと疑問符を浮かべた。

 

〈何よ、欲しいんでしょ? 春樹との”赤ちゃん”〉

 

「た、確かに・・・欲しいが・・・・・それは私の勝手であって、春樹を困らせたいわけでは・・・」

 

〈何が勝手よ。春樹だって欲しいからラウラとしたんじゃないの?〉

 

「そ・・・そうなのか? だったら・・・だったら、うれしいのだが・・・・・」

 

〈心配しなさんなってヤツよ。それよりもシャワー入ってきたら? チェックアウトには余裕を持った方が良いわよ〉

 

「そ、そうだな」と琥珀に促されて呼吸を整えたラウラは浴室へ入り、丁度良い湯加減を捻る。

其れを見送った彼女は今度はニタニタ微笑ながら自らの主へ視線を移す。

 

〈さーてと・・・起きてるんでしょ? 我らが刃さん?〉

「・・・阿”ぁアアアア阿ああ、もうッ!! 君等は俺を萌え殺す気か!!?」

 

すると悲鳴にも近い叫びを響かせながら春樹は飛び起きたではないか。

彼は腰に掛布団を巻いて立ち上がるとガリガリ頭をかいた後、頬杖をついて琥珀色と鳶色の瞳を琥珀へ向けた。

其の表情は酒を飲んでいないにも関わらず、ほんのりと赤みを帯びている。

 

〈別にそんなつもりは微塵もないわ。勝手に春樹が藻掻いて苦しんでるだけじゃない。それよりも・・・どうだったラウラの”味”は?〉

「おいおいおいおいおいおいおいおい・・・琥珀ちゃ―――――んッ??」

 

ギョロリと両眼を琥珀色に変えた春樹に彼女は「てへぺろッ」と舌を出してサッサと定位置である指輪の中へ引っ込んでしまう。

「あッ、待てコラ!」と云ってももう遅い。

 

「じゃけど・・・赤ちゃん・・・・・子供かぁ・・・」

 

溜息を漏らしつつ彼は自分の顔を両手で覆って俯く。

昨夜、春樹は己の欲望に身を任せ、愛する人との逢瀬を堪能した。

今まで手を出したくても屈強な己の自制心の御蔭で手を出せずにいた恋人と漸く身も心も結ばれる事も出来たのだ。

心底とても嬉しい事なのだが、其の恋人が其れ以上の事を望んでいる事に動揺を隠せずにいたのである。

其れも勿論の事だろう。前の世界から数えて二十代後半と云っても、今は肉体的にも法的にも十五の少年なのだ。

彼は生涯で初めてできた恋人に浮かれてはいたが、此れからの将来についてはボウッとした不安感が渦巻いていた。

 

「・・・阿破破ノ破ッ。今更、何を怖気づきょーるんじゃ俺ぁ? 覚悟なら決めた筈じゃろうがな・・・!」

 

春樹はニヤリと口角を引き攣り上げ、あのいつもの奇天烈な笑い声でほくそ笑む。

そんな獰猛な笑みを浮かべた後、彼は部屋の掃除を始める。流石に散らかしたまま部屋を出て行くのは癪に障ったのだ。

「よっしゃッ、じゃあやりますか!」と気合を入れ直し、其処等へ散らばった服や下着、丸めたティッシュを袋に詰めて行く春樹・・・だったのだが、ふと彼の琥珀色の瞳にあるものが留まる。

其れは掛布団を畳もうとベッドから剥いだ時だ。

 

「阿ッ・・・!」

 

シーツに付いた”赤いシミ”。

ワインとも、ケチャップとも違う赤。”血の赤色”だ。

其の”赤”を目にした途端、彼はワナワナ手を震わせながらシーツを無意識で手に取ると其れを躊躇いもなく口へと含んだ。

 

じゅる・・・じる・・・ッ

 

春樹は其の赤を堪能する。

少しの生臭さと鉄の味のする赤を涎をダラダラ垂らしながら「まむまむまむ」と味わってゴクリと飲み干す。

シーツに付いた赤が薄いピンク色になるまで吸い尽くす。

 

はぁ・・・ッ・・・ふぅーッ!・・・ふぅー!!・・・ら、ラウラちゃん!!

 

ブヂりッ・・・と、心の中の鎖が千切れる。

そして、血走った金眼を水の音が滴る方向へ向け、ズカズカと歩んで行き―――――

 

「ッ、な!? は、春樹?!! 起きたのか・・・・・って、なんだその眼は?! 明らかに正気じゃな・・・―――――んぁ”アッ♥♥♥

 

・・・・・ヤレヤレと琥珀は指輪の中で溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
・・・そろそろ次章にとりかかなければなりませぬな。
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