※突然のストロベリーにご注意ください。
―――――其の日、IS学園に激震が奔った。
「ッ、え・・・・・えぇッ!!?」
ある者は二度見し―――――
「はうぅ・・・ぶへぇッ!」
ある者は鼻血を吹き出し―――――
「・・・尊、過ぎん?」
ある者は脳のキャパシティーオーバーの為、何とも幸せな表情で倒れ伏す。
ワールドパージ事件から幾何かの日数が経過し、普段通りの日常が戻って来たとは云え・・・またしても面倒事が起こったのか?
いや、違う。そんな早々に厄介事が立て続けて堪るものか。
実の事を云えば、あれ程血生臭く硝煙漂ったワールドパージ事件の事を一般生徒は誰一人知る由もなかった。
あの日の騒動は学園システムの誤作動と云う事となっており、真相を知る部外者は教師陣や極々一部の生徒だけである。よって大半の生徒はあの事件をいつもの様にほのぼのとした日常の中にあるちょっとしたスパイス程度に感じていた。
・・・しかして何故に今現在、学園の通路に黄色い声が鳴り響いているのか。
其れはやはり、生徒達の視線の先に居る人物のせいであろう。
「・・・? 今日は、何だか朝から騒がしいな?」
「まぁ、ここではいつもの事か」・・・と、知らず知らず内に噂の的となってしまっていたラウラ・ボーデヴィッヒはそう呟く。
流石は『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』を地で行き、隠れファンクラブを持つ御人だ。
彼女が普通に「おはよう」と挨拶をするだけでも皆ウットリ口角を綻ばせる。
だが、今日は一段と歓声大きく響いていた。
其れは何故か?
一重に言ってしまえば、其れは彼女の格好に要因があろう。
「おっはよ~、ラウラウ~!」
「ん? おぉ。おはよう、本音」
そんな何処か向けた声色で本音はいつものほんわか表情と声色で朝の挨拶をする。
無論、いつも呑気そうにのほほんとしている彼女でさえも『学園の妖精』と称賛されるラウラの変化に気付いた。
いや、気付かずにはいられない。
「―――――って、おぉッ!! 今日のラウラウ、”スカート”はいてるぅ~! しかも髪の毛・・・どうなってるの~? あみあみしてるパンみた~い!」
本音はいつもと違う彼女の姿に吃驚仰天する。
何故なら今のラウラは学園指定のひらひらと舞うスカート着用し、星の様に流れる銀髪を丁寧に編み込んだヘアスタイル・・・所謂、おしゃれをしていたのである
「しかも黒のタイツが似合ってるぅ。ラウラウ、かっわいい~! でも、いつもの軍人さんみたいなズボンはどうしたの~?」
「む・・・私だって一介の乙女だぞ。おしゃれぐらいお手の物だ」
「ホントに~? だったらその髪、誰にやってもらったのかな~? まぁ・・・考えなくてもわかるけどねぇ~」
彼女の発言に「ッ・・・むぅ」とラウラは頬を朱鷺色に染め上げた。
其の照れ顔に本音は勿論、周囲に居た生徒達もニヨニヨニタニタ何とも言えない表情でニヤける。
けれども、其の内の何人かは苦虫でも噛み潰した科の様な渋い表情を晒した。
『「阿―――――破破破破破ッ!!」』
其れも其の筈、彼女には異性の恋人が居るのだ。上記の様な奇天烈な笑い声を挙げる恋人が。
其れも唯の恋人ではない。曰く『学園の怪物』、曰く『学園の狂戦士』、曰く『学園の守護者』、曰くetc.etc.・・・・・
良くも悪くも様々な畏敬の二つ名を持つ男。彼の名は清瀬 春樹。熱血にして冷血にして鉄血の二人目の男性IS適正者だ。
渋い表情をした生徒達はそんな春樹を畏怖している一派や親織斑派閥の連中で、顔を真っ赤に照れているラウラは可愛く尊いが、其の相手が気に入らない連中であった。
「それにしても・・・きよせんってば、意外に器用なんだねぇ~?」
「そうだな。『フルメタル・パニック』とやらを参考にしたらしい」
「うんうんッ、やっぱりかわいい~」
「ふふッ。くすぐったいぞ、本音」
『『『(か・・・可愛い!!)』』』
・・・しかし、そんな生徒達もうりうり頬をすり寄せ合って子猫の様にじゃれ合う二人には大満足である。
休み明けには特にだ。
「そう言えば・・・きよせんって、身体の方はもう大丈夫なの~?」
「あぁ、大丈夫だ。それにしてもアイツの回復力にはいつも驚かされる。常人ならば、未だに病院のベッドの上なのだからな」
「すごいねぇ~! 流石は『不死身の刃』って呼ばれる事はあるもんねぇ~?」
「あぁ、本当に・・・すごかった・・・・・♥」
「・・・ん~?」と本音は首を傾げる。何故なら目の前のラウラが今まで見た事もない表情をしていたからだ。
乙女の顔どころか、もう見るからに『女の顔』である。同世代だと言うのに其の漂う色香は半端なものではない。
「(そう言えば御嬢様の話だと、きよせんってば本邸に呼ばれた時にさっさとラウラウの待ってるホテルに帰ったって・・・・・もしかして・・・もしかしてぇ~~~!?)」
呑気にのほほんとしている彼女でもラウラに何があったのかを予想する事は容易かった。
其れは周囲に居る何人かの勘の良い生徒達も反応し、『ま、まさか!!?』と再び激震を身体へ奔らせたのだった。
さて、そんな学園の銀妖精を雌の顔に変貌させた男はと云うと・・・・・
◆◆◆
「ヴぇろぉお阿ぁああ嗚呼ッ!!」
武道場に響き渡る黒い防具袴姿の男の野太い雄叫び。其れと同時に竹を打ち叩く音が場内へ響き渡る。
「ッ・・・く! せいやぁあああッ!!」
其処から繰り出される連撃の破竹音を受け止め、受け流す練習用薙刀を握る白い防具袴姿の生徒。
彼女は何とか此れを防ぎ切って攻撃に転じようとするのだが、相手はそう簡単に反撃を許す事はなく、「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」と鋭くも重い一撃を喰らわせた。
さすれば「ッ、きゃぁああ!!?」と白防具の生徒は其の大きな衝撃に堪え兼ねて薙刀を思わず手放してしまう。
「くたばりやがれぇええッ、おんどりゃぁアア!!」
「なッ!?」
其れでも尚、黒防具の男の手が止まる事はなかった。
床へ手を付して尻餅をついている白防具に止めを刺そうと薙刀を大きく振り上げるのだったが・・・・・
「そこまでよ!!」
「ッ、阿”ぁ”!?」
其の瞬間、黒防具の男に竹刀が投擲される。
無論、此れを彼は薙刀で叩き落とすと今度は自分に攻撃を加えて来た人物の方へ頭を向け、「ガルルル・・・!!」と唸り声を挙げたではないか。
完全に闘争スイッチが入った男に此れはマズいと白防具の彼女は急いで面当てを脱ぎ捨てて鴉の濡れ羽色の黒髪を曝け出した。
「ま、待って下さい! 私の降参です、”清瀬”さん!!」
そう言って白防具の生徒、四十院 神楽は今にも学友に飛び掛かろうとしている彼に待ったをかける。
すると先程まで唸っていた猛獣は薙刀の石突を床へ突き立ててドカリとの其の場へ座り込んだ。
そして、頭へ被っていた面当てを脱げば、其処には琥珀色と鳶色のオッドアイを黒い帯で目隠しをした二人目の男性IS適正者である清瀬 春樹が居た。
彼は目隠しを取ると自分に竹刀を投げつけて来た人物へ軽く会釈しながら謝罪の言葉を述べる。
「いや~、悪ぃ悪ぃ。思わず熱が入ってしもうたでよ。ごめんなぁ、ハミルトンさん?」
「だ、大丈夫よ、私は! それよりも神楽の方に謝りなさいよ!」
物凄い剣幕で迫るハミルトンに「ひぇ・・・ッ」と春樹は思わず身を引き、「すんませんでした!!」と素早く身を翻して四十院へ頭を垂らす。
「か、顔をお上げになって下さい、清瀬さん! 別によいのです、ハミルトンさん。私が未熟だった為にこうなったのですから」
「うわお・・・ありがとうございますだ、四十院さん。流石は旧家の御令嬢じゃ。お優しい~。其れに比べて・・・」
「なによ、このサディストッ?」
「いんえ、別にー!―――――って、誰がサディストじゃ!!」
「べーだ!」「いーだ!」と幼子みたいにいがみ合う二人を四十院は保母さんの様に「まぁまぁ」と諫める。
其の様子に周囲に居たワルキューレ部隊の面々はクスクスとせせら笑うのであった。
けれども何故に皆が朝から武道場へ集まっているのか?
理由を挙げるとするならば、其れは学園防衛独立施設部隊ワルキューレの隊長を任されている四十院 神楽の一声で有ろう。
「清瀬さん・・・いえ、”清瀬総隊長”。私達を鍛えてはもらえませんか?」
「・・・・・・・・はい?」
ワールドパージ事件終結後から少し経過した頃、昼食のラーメンをすする春樹に四十院はこんな提案をしたのである。
何故、彼女は此の様な提案をしたのか。其れは先の事件による原因が大きい。
ワールドパージ事件時、謎の武装集団襲撃を生徒会長である楯無から秘匿回線で伝えられたワルキューレ部隊の面々は、システムダウンによって怯える一般生徒達を蔭ながら護衛し、事件終結まで教師陣と共に全校生徒達を守り抜いた。
其れだけでも十分誇れる事なのだが、ある有様を見て其の自身は脆くも崩れ去る事となった。
「そ、そんな・・・なんですか、あれは・・・ッ!?」
事件終結直後、四十院は負傷した春樹の様子を見に行った其の時、彼女は見たのである。彼の身体へ刻まれた大きく生々しい戦傷を。
其れは刀傷であったし、銃傷でもあったし、火傷でもある。溝が出来る程に皮膚が抉れ、悍ましいケロイドが至る所に這いずっていた。
四十院は多大なるショックを受けた。自分達が何と軽い事で己を誇らしく思っていたのかが情けなく位に。
だから其の時、四十院は春樹に顔を合わせる事が出来なかった。
「いんや、別に気にせんでもエエんよ?」
・・・等と、へらへら彼は笑っていたが、其れで収まる四十院ではない。
圧倒的な熱量を持って春樹に鍛錬の稽古を頼み、其れに彼が折れる形で彼女は稽古の約束を取り付けたのである。
そして、此処にもまた一人・・・
「ちょっとお二人とも! いつまで遊んでいるのですか?!」
「阿?」
振り返れば其処には道義袴姿の金髪碧眼の美少女が一人、竹刀を持って佇んで居るではないか。
彼女の名はセシリア・オルコット。何処からか(主に本音から)ワルキューレ部隊の鍛錬の話を聞きつけて来た人物であり、彼女もまた四十院と同じ様にワールドパージ事件で奮闘した春樹が切欠で己の未熟さを哀れんだ一人だ。
そんなセシリアは「さぁッ、次は私の番ですわ!」とポカンと呆ける彼へ竹刀の切先を差し向ける。
「いやいやいや。面当て付けようや、セシリアさん。怪我してしまうでよ」
「構いません。これぐらいの緊張感がないと鍛錬の意味がありませんわ! それにハンデの目隠しも必要ありませんッ。本気でかかって来てくださいまし!!」
「いや、目隠しは俺が勝手に視覚以外を鍛える為にやっとるだけじゃし・・・それと本気でやったら危のうない? 悪ぃけど、セシリアさん・・・接近戦でぇれぇー弱いがん」
ISを使用したものならまだしも、此れは生身の訓練である。
最早、ISを纏わずとも怪力無双を誇るゴリラになった春樹にそう易々と勝てる訳がないのだが・・・彼の指摘に「むぅッ!」とセシリアは不満げに頬袋を膨らませた。
春樹は其れに対し、「しょうがぁねぇなぁ~」と溜息を漏らしながら練習用薙刀から竹刀へ持ち手を変える。
「解った解った。練習には付き合っちゃるけん。放課後は皆に射撃の事を教えてくれんさいよ? 流石に俺とラウラちゃんだけじゃあ辛いと思うけん」
「もちろんですわ! 皆さんにビシバシ指導の方をさせていただきます!!」
「そういう事じゃねぇんだよなぁ・・・」
流石にラウラのドイツ軍式鍛錬では、素人に毛が生えただけのワルキューレ部隊の面子にはキツ過ぎる為のセシリアなのだが・・・まぁ、此処は良しとしよう。
「あぁ、それと・・・放課後の鍛練時に生徒会の人らぁと一緒に次の”捕り物”の打ち合わせをするけんな」
『『『・・・・・えッ!?』』』
◆◆◆
「あ、待っ・・・あン♥♥」
何処か生々しい熱気が籠る一室に色っぽい艶やかな声が木魂する。
其の声の発生源を追って行けば、白いシーツをぐしゃぐしゃの皺だらけにする二人の乙女が、互いの絹の様な素肌を擦り合わせているではないか。
「はぁ・・・はぁッ・・・フォルテ、フォルテぇ・・・♥」
「だ、ダリル・・・ダリー・・・すきっす、スキぃ♥♥」
湿っぽい音を発たせながらフォルテ・サファイアとダリル・ケイシーは御互いの掌を重ね合わせて愛を確かめ合う。
「ダリー、だりー・・・きしゅ・・・キスしてくださいッス♥♥」
「お前、マジでキス好きだな? ほら・・・口開けろ」
「ン、あッ・・・♥」
呂律の回らない言葉と共に綺麗なピンク色の口内を覗かせる彼女にダリルは自分の舌をねじ込んで、フォルテの歯茎や舌を「じゅるッ♥ じゅる・・・♥♥」と音を出しながら蹂躙する。
「ダリー・・・だりー、ダりー♥♥ すきぃ・・・しゅきィッ・・・♥♥♥」
「やべぇッ・・・フォルテ、オレ・・・もう♥」
「わ、私も・・・もうだめッス♥ だりゅりゅへんぱぁあい♥♥」
「「イッ・・・ンあ”~~~~~♥♥♥」」
濃厚なキスの後、快楽に堪えられなくなった二人は終ぞ果ててしまう。
そんな気持ちの良い疲労感の後、ゆっくりと深呼吸して呼吸を整えたフォルテはしわくちゃなシーツで未だ汗ばむ胸元を隠して起き上がる。
「もうそろそろ行かないとダメッスよ、ダリル先輩?」
「別にいいじゃねぇか、一日二日サボったってよ。もうちょっと楽しもうぜ、フォルテ?」
「あッ・・・♥ ダリーってば、さっきもそう言ってた♥♥」
「そうだっけか?」
とぼけて笑うダリルに「もうッ♥」とフォルテは赤い顔をしながら立ち上がってシャワー室へ足を運ぶ。
其の姿を名残惜しそうに見送ったダリルは、枕へ付いた恋人の抜け毛を見つけると其れをウットリとした表情で見つめた。
・・・・・・・・調度、其の時である。
≪Prrr.Prrr.Prrr≫
「ん?」
不意にダリルの携帯電話が鳴り響く。
当初は、自分達のサボタージュを察知した教師からの着信音だろうと疎ましく思っていた彼女だったが・・・画面を視認した途端、ダリルは眉をひそめた。
「『非通知』だ?」
彼女の携帯は非通知からの電話を受けない様に設定されていたのだが、「電話に出ろ」と着信音は鳴り響く。
此の時、ダリルは別に電話を切っても良かったのだが、相手が誰なのか気になった彼女は通話ボタンONした。
「Hello、もしもし、誰だテメェ?」
少し不機嫌そうにそう電話を取ったダリル。
すると相手は―――――
≪やぁ、こんにちは。ダリル・ケイシー。お楽しみの後で恐縮だ≫
―――――機械音で変換された声で話しかけて来たのだ。
「・・・・・誰だッ?」
≪突然だが、用件だけ伝えるぞ≫
「誰だって聞いてんだよ、こっちは?! 何モンだッ、テメェ?!!」
一気に彼女の表情が険しくなるが、そんな事など御構い無しに相手は言葉を紡いだ。
≪バレてる≫
「ッ・・・・・!!?」
其れだけ言うと正体不明の謎の人物は一方的に通話切断する。後に残ったのは、口をへの字に歪めた四白眼のダリルだけであった。
此の不穏な一本の電話が、新たな騒動事の発端となる。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆