明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
―――――さて、生徒教員並びに観覧者達へ興奮と感動の大熱狂をもたらしたIS学園大運動会もそろそろ終幕と相成る。
50メートル走、玉打ち落とし、軍事障害物走、IS騎馬戦、IS棒倒し・・・と、多種多様な競技が行われて来た。
そんな最後を飾るのは『バルーンファイト』なるもの。
体育祭のトリを飾るには少々派手さに欠ける名称であるが、百聞は一見に如かずと云える程にド派手な競技内容であった。
まず、世界初の男性IS適正者である織斑 一夏を用意します。
次に彼の上半身へ大量のヘリウムガス入り風船を装着させてアリーナ上空に浮遊させます。
最後は簡単。其の風船をISを纏った抽選者達が撃ちまくるだけ。
・・・だったのだが―――――
「・・・おいおいおい・・・おいおいおいおいおい・・・!!」
前提条件である的当ての的である一夏が病み上がりと云う点を考慮し、其の代りとしてコスプレ生着替え走へ乱入して競技内容を滅茶苦茶にした二人目の男性IS適正者である清瀬 春樹がペナルティとして抜擢されたのだった。
勿論、只で撃ち落とされる男ではない。
射撃武装を構える量産型ISを纏った抽選者達と優勝賞品である一夏との相部屋を虎視眈々と狙う中華娘並びに武士娘へ対し、彼が手加減をする筈がなかった。
特に勝手に大会プログラムへコスプレ生着替え競走を組み込んだ生徒会長に対しては其れは其れは躊躇はおろか容赦の微塵もなかった。
「渇かず餓えず・・・無に還りやがれぇええッ!!」
「ッ、きゃぁあああああ!!?」
腰へ風船ぶら下げて浮遊しているとは云え、流石は学園の狂戦士。十字に組んだ両腕から放たれる金色の破壊光線は周囲の敵を文字通り蹴散らしていく。
「ちょ、ちょっと春樹! あんた、もうちょっと手加減しなさいよ!!」
「そうだぞ! いい加減に墜ちんかッ、このバカモノ!!」
「喧しいッ! 俺がそう簡単にやられるか!! 特にテメェだけは許さんぞ、此のバ会長ッ!!」
「ま、待って春樹君! 私はただみんなに楽しんでもらおうと―――――」
「問答無用じゃぁアアッ! 影も形も消し飛ばしてやらぁああ!! 喰らえッ、晴天極夜!!!」
場内へ響く絶叫と悲鳴に相反する様に観客席の観覧者達は、けたたましい爆撃音や土煙が舞う余りにも緊迫感のある情景に『『『ワァアア―――ッ!』』』と大興奮し、此処一番の大盛り上がりを博した。
「わー・・・かんちゃん、これはもう競技じゃないね~」
「もう、お姉ちゃんってば・・・だから止めといた方がいいって言ったのに・・・」
「うむ。やはり春樹はこうでなくてはな」
「容赦のないあの感じ・・・悔しいけど、やっぱりかっこいいなぁ・・・」
其の惨状を目にした競技不参加者である本音や簪は呆れた声を漏らし、ラウラやシャルロットは暴れ回る想い人の勇壮な姿に感嘆詞を吐く。
「はぁ~・・・やれやれってやつですわ」
そんな状況にセシリアは肩をすくめて溜息を吐くのだった。
◆◆◆
『ダリル・ケイシー』。
IS学園三年生で、アメリカの国家代表候補性の専用機体『ヘル・ハウンドVer2.5』の所有者である。
端麗な容姿に砂金の様に美しい金髪、モデル並みの長身スタイルにFカップのバストが特徴的で、世の男共なら誰もが振り向くであろう。
IS学園二年生で、ギリシャの国家代表候補生であるフォルテ・サファイアとは同性の恋人同士である。
普段は下着が露出するほどの短いスリットスカートと黒いガーターベルトを着用し、やる気のない態度が見られるが、其の性格に反して高い実力を持っており、先の『ゴーレムⅢ事件』においてはフォルテとのコンビネーション『イージス』は襲撃者ゴーレムⅢをたやすく撃破した。
一見、態度に問題がありながらも周囲から優秀であると慕われる人物だが・・・其れは彼女の”本来の正体”ではない。
「・・・」
体育祭も終盤にかかって来た頃。自分の出番を終えたダリルは体操服ブルマから特徴的な白い制服へと着替えていた。・・・まぁ、露出度は変わらないが。
そんな彼女の眉間には普段と違って更なるしわが刻まれている。
此のしわは一週間前にあった”ある出来事”によって付けられたものであった。
―――――「バレてる」
「・・・・・クソ・・・ッ」
恋人との情事の後にとった電話から聞こえて来た正体不明の人物からの声。
話の内容は上記のたった一言。しかし、其のたった一言がどれ程までに陰のある彼女の心を揺さ振った事だろう。
其の声によってダリルは今まで経験した事のないような苦悩に打ちひしがれた。
だからこそ彼女は悩んで・・・悩んで、悩んで、悩んで悩んで悩んで、悩み抜いた末に自身の秘密を愛する恋人に打ち明ける事にしたのである。
きっと最初は戸惑う事だろう。けれどフォルテなら・・・彼女ならきっと自分の事を理解してくれる。
・・・そんな淡い期待を胸にダリルは待ち合わせとなっている場所へと急いだ。
「フォルテ・・・?」
部屋へ入るなり彼女は恋人の名を呼ぶが、返事はない。
此処は二年生クラスの教室。文化祭の時、ある蟒蛇の計略よって大勢の前でフォルテに対する愛を叫んだ場所だ。
「早く着いちまったか?」
現在、第三アリーナでは体育祭最後のプログラムが行われており、此処へ来る人間など誰もいない・・・・・・・・筈だった
「―――――失礼致します」
「ッ・・・!」
待って居ようと机へ寄りかかった途端に入って来た待ち人ならざる声。目をやれば、其処に居たのは緊張した面持ちで自分を見る三人の生徒達。
ダリルはそんな彼女達に見覚えがあった。
「何だよ。誰かと思えば、清瀬の野郎とつるんでる一年共か。昼間は随分と活躍してたな」
「・・・・・」
ダリルが喋りかけても彼女等はうんともすんとも答える様子はない。其れ処か此方をキッと睨み付けているではないか。
普段ならそんな失礼な後輩には”オハナシ”をするのだが、今の彼女に其の様な余裕はない。
「悪いが、オレは人を待ってるんだ。用があるなら別の教室を使え」とぶっきらぼうに言い放って顔を背けた。
「・・・サファイア先輩なら、来ません」
「・・・・・なんだと?」
ところが、不意に返って来た言葉にダリルは彼女等をジロリと睨む。
其の殺気立った視線に気負けして後ろへ足を引いてしまいそうになるが、其れをグッと堪えた彼女達は続きの言葉を紡いだ。
「サファイア先輩は先程、榊原先生に呼ばれて職員室へ行っています」
「・・・ッチ、なんだそれを先に言えよ。(あいつ、人なんか寄越さなくたってケータイで連絡を寄越せてってんだ)わかったわかった。それだけなら、もう帰って良いぞ」
「いえ・・・ケイシー先輩。貴女にも用があります」
「は? 何の用だよ?」
「ケイシー先輩・・・いや、ダリル・ケイシー。これより貴女を”逮捕”致します」
「・・・・・・・・は?」とダリルは疑問符を浮かべた後、耳に小指を突っ込んで耳垢を取る様な仕草をする。
「なぁ、今なんつった? オレを逮捕するって、言ったのか? 何の為にだよ?」
「貴女には、先のワールドパージ事件においてテロリストを学園へ誘導した容疑がかかっています。これは学園長から頂戴いたしました逮捕状になります」
そう言って彼女がダリルへ見せたのは、『逮捕状』と印刷された正式な書状であった。
「大人しくして下さると大変助かります。ですが、抵抗する場合は―――――
「クククッ、クハハハハハ!」
―――――・・・なにがおかしいのですか?」
彼女等の説明にダリルは呵々大笑とばかりに声を上げて笑った後、「ふざけるんじゃねぇッ!!」と近くにあった机を蹴飛ばす。
「下手に出てりゃあつけあがりやがって! 舐めた口きいてっと容赦しねぇぞ!!」
憤怒の形相を曝け出すダリルだったが、彼女・・・ワルキューレ部隊隊長、四十院 神楽は気負けせずにズイっと前へ出る。
そして、一言こう言い放った。
「・・・『バレてる』」
「ッ!?」
其の言葉にダリルの身体が硬直し、顔から一気に血の気が引く。
何故、彼女が其の言葉を知っているのか。様々な考えが頭の中を駆け巡るが、今言える事は唯の一つ。『ヤバい』だ。
「テメェ・・・!」
「ッ、動かないでください!」
拳に力を入れるダリルに四十院は注意と共に量産型IS『打鉄』の射撃武装を展開し、其の銃口を彼女へ差し向ける。
同じ様に四十院の後ろへ控えていたワルキューレ部隊隊員達も武装を展開した。
「ダリル・ケイシー・・・私達は貴女と無益な争いをしたいとは思いません。此処で大人しく縛に付いて頂ければ、悪いようには致しません」
「フン・・・随分と舐められたもんだ。ごっこ遊びのテメェらにオレが遅れると思って―――――」
「―――――いるのか?」と最後まで言葉を紡ぐ前にズダァアッン!!・・・と、一発の銃声。
其れと同時に鋭い衝撃と肌を刺す冷たさがダリルの背後を襲った。
「ッ、ぐッぁアア!?」
彼女は悲痛な声と共に前のめりで机を掴む。
そして、痛みの奔る箇所を触ってみれば、手に伝わったのは文字通りの氷の冷たさであったのである。
「て・・・テメェら・・・!!」
「抵抗する気配が見えましたので・・・申し訳ありません」
見れば、ダリルの身体にはポツポツと赤い点が光っており、彼女の背後にあった窓ガラスは銃弾が通過した影響によって穴が開いていた。
「レーザーサイト・・・か。よく言うぜ。テメェら最初からオレを撃つつもりだったろ?」
「・・・・・」
「・・・ククク・・・あぁ、そうか。そうかよ、ちくしょうが!」
四十院は何も答えなかったが、視線を伏せる。
其れを察してか。ダリルは苦笑いをする様に口端を少し上げた後、首元にあるダークグレーのチョーカーへ手を伸ばした。
「こういう時、日本じゃこういうんだったけか? 『毒を喰らわば皿までも』ってな!!」
「ッ、させません!!」
彼女のISを展開する方が早かったのか。其れとも四十院らの銃撃が早かったのか。
・・・解っている事は、二年生クラスの教室に大きな大きな氷柱が立った事。
そして―――――
「ダリル先輩ってば遅いっスねぇー」
「・・・えぇ、そうね」
職員室でフォルテ・サファイアが来る筈のない待ち人に待ちぼうけを喰っている事だけであった。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆