IS/Drinker   作:rainバレルーk

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―――――Q、コメントが欲しいとか思っちゃうぐらいに追い込まれた事があるか?
―――――A、今が其の時だ!

Adoさんの『うっせぇわ』からの『レディメイド』って良いよね。



第159話

 

 

 

『英雄』

其りゃあ才知や武勇などが優れとって普通の人にゃあ出来ない様な事柄を成し遂げる人の事を示す言葉で、伝説や物語の中に出て来る『主人公』の事を指し示す言葉でもある。

そんな大業な言葉を冠する事を此の『世界』で許されているんは、たった一人じゃ。

あのどうしようもない鈍感屑で顔と主人公補正しか取り柄のないダメな方のバナージ・・・もとい『織斑 一夏』じゃ。

野郎は『インフィニット・ストラトス』と云う学園ラヴバトルコメディーの物語の中で、怪力無双の英傑にして大層な漁色家であったろう。

・・・じゃけども残念な事に此処は純粋たる『インフィニット・ストラトス』と云う『世界』じゃあない。

 

其れは何故か?

勿論其りゃあ『清瀬 春樹』云う”異物”が、大酒飲みの『俺』が此処に居るけんじゃ。

純粋たる物に一度異なる物が混ざれば、其れはもう別物じゃ。トマトジュースに酒を混ぜるとブラッディ・メアリーになるみたいにのぉ。

 

・・・じゃがしかしじゃ。

俺ぁあの鈍感屑に成り代わって『英雄』や『主人公』云うもんになるつもりなんぞ爪の先程もない。

何が何だか解らん内に此の世界に来て、半ば無理矢理に荒波に突き落とされて、強引に歪んだ憎悪と血みどろで揉まれた。

『モブ』であった俺にはとても酷な事じゃ。酒を飲まなきゃやっとられん。

俺ぁ『エヴァ初号機』のパイロットでもねーのに正体不明の無人ISを潰したり、暴走した軍用ISを無効化したり、テロリストと命の遣り取りしたり・・・精神体が二十代とは云え、十五のガキにやらせる事じゃなかろうが。

まぁ、其れに対する『報酬』はちゃあんと手元に転がり込んで来た・・・が、俺も欲深い人間になったもんじゃ。

もっと・・・もっと、もっともっと好き勝手にやってみとうなった。もっと欲しゅうなった。

 

さて、今の俺は一体何者じゃろうか?

『英雄』に片足突っ込んだ馬鹿か。『悪党』に成り損ねている阿呆か。

人か、魔か。

・・・俺はまだ人間じゃろうか?

 

〈あぁ、勿論。君は・・・ただの”人間”だ。どうしようもなく唯のね〉

 

阿破破破ッ!

あぁ、あぁ、あぁ・・・そう言ってくれるのはお前だけじゃ、”人喰いハンニバル”。

さて、ところで博士? 話は変わるが・・・ちょっと催眠術のやり方について教えてくんね?

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「うわー! ここが一夏さんたちが過ごしてる教室なんですね!!」

 

体育祭終了後、会場の後片付けが行われている余所で、観覧者の一人として招かれた五反田 蘭は普段IS学園生徒が学んでいる整然とした教室に感嘆詞を述べる。

 

「おい、蘭。あんまり騒ぐなよ。悪いな一夏、無理聞いてもらってよ」

 

「あぁ、別に構わないぜ。蘭には美味い弁当を食べさせてもらったしな」

 

病み上がりと云う理由で後片付けの労を免れた一夏は、IS学園入学を強く希望する蘭のお願いもあって自分が招待した五反田兄妹を連れて学園の案内をしていた。

 

「しっかし、聞いてたよりもスゲー設備だな。ちょっとしたSF映画みたいだぜ」

 

「そうか? 俺にはこれが日常なんだけどな」

 

「どんな日常だよ! それに学園祭と一緒で運動会も桁違いの迫力だったし・・・流石はIS学園だな!」

 

「ハハッ、そうかもな」

 

他愛のない親友との会話に一夏の心は少しばかり和らいでいた。

あまりにも殺伐とした騒動事が続き、つい此の前には電脳世界の意識だけとは云えども美味で醜悪極まりない料理を食べていたのである。

其のせいで彼は肉料理全般が食べられなくなり、体調を崩しがちになってしまった。

そんな中での一時の平穏に一夏はホッとしていたのである。

 

しかし、其れも彼の意図を酌んだ弾の思惑であった。

酷くやつれてしまった親友の為を思い、本当は話題にしたかった体育祭最後のプログラムで暴れまくっていた”二人目”ついて聞きたかった。

でも・・・其れが一夏にとって禁句である事を知っていた彼はグッと腹の底へ押し込めていたのであるが・・・・・

 

「・・・お兄。私、絶対にIS学園に入るからね!」

 

「ッ、おいおい!」

 

「あらためて決心がついたの! もう何回もここに来てるけど、やっぱりIS学園がいい!」

 

「・・・はぁッ、やっぱり来るんじゃなかったか?」

 

「そう言ってやるなって、弾。でも蘭、IS学園の入学試験って難関じゃないのか?」

 

「ふふ~ん! 心配ご無用です一夏さん! 私って頭良いんです! それにISの適性だって高いんですからね!」

 

「そっか。なら、問題ないな」

 

「そ、それで一夏さん!」

 

「ん?」

 

「わ、私が・・・私がIS学園に入学できたら・・・・・そ・・・その、ISの事・・・手取り足取り教えてくれませんか?!!」

 

顔を真っ赤にして言葉を並べた蘭に対し、一夏は「あぁ、もちろん」と答えた。恋する乙女の振り絞った勇気に対し、いつもと変わりのない態度で答えた。

・・・丁度、其れと同時であったろう。

 

「―――――誰じゃッ、テメェら・・・?」

 

教室へ白髪金眼の蟒蛇が入って来たのは。

 

「ッ・・・!?」

 

蟒蛇の登場にギョッと表情を強張らせる一夏。

そんな彼の顔に何かを察したのか。弾は一夏を庇う様に前へ出る。

 

「な、なにッ? 誰よ、あんた?!」

 

「そりゃあこっちの台詞じゃい。おいボケの織斑。テメェ、また絡まれてんのか? 病み上がりで片付けサボるくらいなら大人しゅうしょーれって言ったろうに」

 

またしてもテロリストに襲われているのかと勘違いし、チャキリと蟒蛇は手元へリボルバーカノンを顕現させる。そして、其の銃口を何の躊躇もなく蘭へ差し向けた。

まさか銃を向けられると思わなかった彼女の表情は一気に青くなり、妹へ凶器が向けられた事に弾は吃驚仰天する。

 

「ま、待て! 待ってくれ!! この二人は敵じゃない!! 撃つなッ、清瀬!!」

 

「き、清瀬?・・・って事は、コイツが二人目の?!」

 

一夏の言葉に再び吃驚仰天する弾だが、其れでも蟒蛇・・・春樹は銃口を下げない。其れ処か、撃鉄を起こしたのだ。

今の春樹は未だ最後の体育祭プログラムであるバルーンファイトの興奮状態を引き摺っており、狂暴な本性を曝け出したままでいたのである。

 

「おい。こかァ、例え招待客でも関係者以外立ち入り禁止じゃった筈じゃが? 其れなんに敵じゃねぇとは・・・どういうこった?」

 

「こ、この二人は俺の親友の五反田 弾とその妹の蘭だ! だから敵じゃない!!」

 

「い、一夏?」

「い・・・一夏さん?」

 

ギョロリと脂ぎった異様な金色な眼の男にも驚いたが、其れよりも其のあまりにも弱々しく必死に弁解する彼の姿に呆気を取られる蘭と弾。

そんな二人を余所に春樹は「・・・ッチ」と舌打ちをしつつではあるが、銃口を下へと下げて武装解除を行った。

 

「なんで、お前がここに?」

 

「忘れもんじゃ。今さっき、此の前テロリストを引き込んだスパイを縄にかけたけんな。事情聴取を行うんじゃ。おッ、あったあった。ボイスレコーダーちゃん」

 

「て、テロリスト!? おい、一夏! どういう事だよ?!」

「一夏さん・・・!」

 

衝撃の言葉に動揺する弾と蘭だが、どう説明したものかと一夏は言い淀む。

其れを余所に春樹は目当てのモノを懐へ忍ばせると「あ、やっぱ今のなし。誰にも言わんでくれよ、お二人さん」とあの奇怪な笑い声を響かせて教室を出て行くのであった。

後に残ったは酷く重苦しい空気だけである。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

体育祭終了後、ダリル・ケイシーは運動会プログラムで火照った身体と焦燥感に駆られた心を強制的に”冷却”させられた。

IS専用機持ちの国家代表候補生と云えども、流石にたった一人で小隊クラスの緻密な連携がなされた奇襲作戦には打ち勝つ事が出来なかったのである。

 

「”猟犬”を展開する前に彼女は背後から右肩へ十一式凍結弾頭、通称『氷結弾』一発を被弾。IS展開後は前後から炸裂弾及び貫通弾に加えて氷結弾、計二十四発を被弾。重度の凍傷と骨折並びに筋肉断裂を負いながらも学園防衛私設組織『ワルキューレ部隊』の弾幕を突破。しかし・・・最終的には、予め予想されていた逃亡ルートで待ち構えていた氷結弾装備の教師部隊によって鹵獲された。・・・と、あの凍結弾頭の直撃を受けても動けるなんて・・・・・敵ながらあっぱれと称賛を送りたいですね」

 

「そう、だな」

 

IS学園内における隠密作戦行動においてスパイの捕縛を聞き付けたIS統合対策部副本部長の長谷川は第一秘書官の高良からの報告に固唾を飲んだ。

無論、スパイの捕縛による安堵もあったが、其れよりも勝っていたのは今作戦を立案及び指揮したのが、たった一人の男子学生によると云う静かな驚嘆であった。

 

「(清瀬 春樹・・・君は、一体・・・・・ッ?)」

 

「長谷川先生、どうされますか?」

 

「今はダリル・ケイシー候補生・・・もとい、被疑者は?」

 

「現在はIS学園の医療施設で治療を受けているそうです。すぐにでも公安のテロ対策課が事情聴取で出張ってくるでしょう」

 

「身元は必ずこちらが抑えたい。私達も出向こう」

 

「勿論です。車は手配していますので、早速」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ワルキューレ部隊の奇襲と教師部隊の待ち伏せ攻撃によって重傷を負ったダリル・ケイシーは逃亡の果てに遂に中庭で撃墜された。

 

目の前で青白い弾頭が炸裂した後、彼女は白を基調とした病室で目を覚ます。

周囲には心電図の他に医療器具や点滴がぶら下がっている。

 

「・・・ッチ・・・」

 

しかし、特出すべきは腕へはめられた無骨な金属の輪っかだ。

起き抜けに暴れられては適わんと何処かの”二人目”がダリルへ手錠を装着したのである。無論、彼女のIS待機状態である首元のチョーカーは外されていた。

 

一体どれ程の時間が経過したのであろう。

時間への感覚はすっかり狂ってしまっていたが、心なしかダリルは満足感のある睡眠に浸った感覚に陥っていた。

所謂、心地の良い”安心感”に彼女は包まれていたのである。

皮肉にも今まで藻掻き苦しんでいた不安感からダリルは解放されたのだ。

 

其れからしばらくして、意識の回復した彼女の事情聴取が始まった。

 

「・・・ダリル・ケイシー」

「ダリル・ケイシーさん・・・」

 

まず最初にダリルの事情聴取を行ったのはIS学園の教員達。

性格と服装に難はあれど学生生活に何の支障もなく、成績も優秀であった彼女が起こした事は学園内を震撼させるには充分であった。

教員達はダリルに疑問符を投げ掛ける。「何故?」と。「どうして」と。

しかして彼女は何も答えない。『黙秘権』と云う当然の権利を行使し、何も喋らなかった。世界最強のブリュンヒルデが凄まじい無言の圧にも屈さずにだ。

 

「ダリル・ケイシー。あなたには外患援助罪の容疑がかけられている」

「単刀直入に聞こう。裏で糸を引いているのは一体誰だッ?」

 

次に事情聴取をしたのは、黒いスーツに身を包んだ日本政府直属の一団。

『IS学園に所属する生徒は、其の在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』等と云った内容が特記事項第二十一条に明記されているが、例外も勿論存在する。

何よりも此のIS学園は日本の領海内に存在し、先のワールドパージ事件で一番の被害を被ったのは日本政府に所属する日本国籍の代表候補生なのだ。

其れも世界に三人といない貴重で希少な男性IS適正者が重傷を負ったのだ。流石に黙っていられる訳がない。

此れが日本人でありながら自由国籍の生徒であれば此処まで大事になる事は無かったろう。

 

「・・・ッ・・・」

 

何とも言えない凍えた痛みが疼く。

サブマシンガンの様な執拗な疑問符の押収にダリルは終始一貫にして無言を貫いた。

 

「・・・しぶといな」

 

学園側も政府側も彼女の背後には米国政府が居る事には察しがついている。

政府としては米国の弱みを握ってやりたい所なのだが、生憎と日本政府も一枚岩ではなかったのだ。

 

「ダリル・ケイシーさん、もう大丈夫です」

「こんな窮屈な場所に押し込めてしまって申し訳ありません。もうすぐ場所を手配いたしますので」

 

「・・・・・(なんだ、コイツら?)」

 

テロリズムのスパイである彼女を擁護する様な発言をするのは、親米派にしてISを重要視する派閥の人間である。

彼女等はダリルの為に弁護士を用意し、此処よりももっと手厚い看護医療をすると云った。

だが、其の余りにも見え見えな下心の魂胆をダリルは何かの罠ではないかと変に勘ぐって此れをスルーする事にする。

 

意識が戻っての短時間で彼女は多くの思惑を持った人物達に出会ったが、其の全員に自らの本心を少しでも話す事はなかった。

・・・・・・・・唯一人を除いて。

 

「よぉ、ケーシーパイセン。御加減は如何?」

「ッ・・・清瀬・・・!!」

 

ひょっこり部屋へ顔を出したのは、ニタニタと何処か気色の悪い笑みを浮かべる自分を捕まえる作戦を立案及び指揮した二人目の男性IS適正者であった。

そんな人間が何故、お盆に乗ったティーポットセットを手に現れたのか。彼女には理解できなかったが、此処で初めて彼女は自分の感情を表情へ表した。憤怒と嫌悪を丸出しにしたマイナスの感情を。

 

「テメェッ、一体どのツラさげて来やがった・・・!」

 

「此のツラですけどぉ? 阿破破破!」

 

ガシャンと似つかわしくない金属の音が病室へ響く。

ダリルの反応は当然と言えば当然であろう。彼女をカチンコチンの氷漬けに傷め付けたワルキューレ部隊の発起人が此の二人目の男性IS適正者、清瀬 春樹なのである。

そして、彼が自分を現在の窮地に陥れた事を彼女自身は本能的に感じ取っていた。

此の男こそ全ての元凶だ・・・と。

 

「おいおいおいおいおい、そねーにきょーとい顔で睨まんでくりんさいや。折角、リラックスの為にハーブティー持って来たんですぜ?」

 

そんなダリルの様を嘲笑うかの様に一笑した後、春樹は彼女の前で良い香りのするハーブ茶を注いで目の前へ置いた。

 

「疲れたでしょう。ちぃとばっかし休憩しましょうや。お腹もすいとるでしょう? 茶菓子もありますで。えーと、無難にクッキーでしょう? 煎餅でしょう? チョコレートに大福饅頭。どれがよろしいんで?」

「ふざけるんじゃねぇッ!!」

 

ダリルは自分に対して微笑んでお菓子を勧める春樹の首を出来るならば圧し折ってやりたかった。だが、今や鎖に繋がれた彼女に一体何が出来ようか。

下唇から血が出そうな程にギリギリ噛み締めて彼を睨み付ける事しか今のダリルには出来なかった。

 

「阿~ん? まさか・・・まさか、まさかまさか、まさか先輩・・・もしかしなくても俺を恨んでるんで? 破破破破破ッ! ソイツはお門違いってヤツじゃろうが!!」

 

其の睨み眼に対し、春樹は自分の琥珀色の両眼で彼女の瞳を覗きながら舌を出してあの奇天烈な笑い声を上げる。

 

「先に”裏切った”のはアンタじゃ! 俺を、俺達を・・・”あの人”を先に裏切ったのは、まぎれもないアンタじゃ!! 阿―――破破破破破破破ッ!!」

 

散々惜しみのない侮蔑でダリルを嘲笑った直後、彼は急に顔を無表情へ変えると本題を切り込む。

 

「さて・・・戯言は此処までにして本題に入ろう。まぁでも、先輩は答える気なんてサラサラないでしょう?」

 

「当り前だろうがッ! オレは今すぐにでも清瀬・・・テメェをぶっ殺してやりたいんだからよぉ!!」

 

「阿破破! 威勢が良えのは楽しいわぁ!! じゃあさじゃあさ! 答え合わせをしようや、答え合わせをよぉ!!」

 

「答え合わせ?」

 

「あぁ、答え合わせじゃ。アンタの正体についての答え合わせじゃ!」

 

春樹は嗤う。

眼から琥珀色の炎を溢し、口端を三日月の様に大きく歪める。

怪物の様に、バケモノの様に、獣の様に歯を見せて『答え』を其の口から紡いだ。

 

「もう”バレてる”んですぜ? ダリル・ケイシー・・・いや・・・・・亡国企業の『レイン・ミューゼル』さんや?」

「ッ!!?」

 

其の『答え』に彼女は目を四白眼にし、ゾッと顔を青くする。

そんな反応に春樹は益々満足の笑みを浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





書いた後で思ったが、前半のシーンいるか?
深夜テンションで書いた所だから何を思ってたんだ?
まぁ、ええか。
後に繋げる様に頑張ろう。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆

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