午前の授業がやっとこさ終わった。
なんとか三大欲求の一つに辛勝した俺は、これまた三大欲求の一つである食欲を満たす為、俺を呼ぶ織斑の声をガン無視で購買へ。
普段なら食堂で食うんじゃが・・・授業中に凰さんや篠ノ之さんが、朝の騒動の件でつかかって来て色々喧しかったし、織斑共々エンカウントしとうない。
酒ももうないし散々じゃ。
オノレ、ダメな方のバナージめ。全部アイツのせいじゃ。
そんな逆恨み気分で買ったサイダーとオニギリくんを片手にお気に入りの場所へ向かう。
今日も今日とて、ルンルン気分でボッチ飯じゃ。
―――
・・・と言う訳でやってまいりました。いつもの木陰ッ!
ここは滅多に人も来んし、日当たりもまあまあ良え。絶好の場所じゃ。
日当たりの良さじゃと校舎の屋上に劣るが、今あそこには織斑の野郎共がおる。
先にヤツらが屋上に行くだのなんだのを聞けれて良かった。危うく鉢合わせになるとこじゃったで。
・・・しっかし、流石は高コミュニケーション男か。パツキン転校生がまんまと付いて行きょうた。
あ~でも・・・何と言う事でしょう。織斑がいないだけで、この解放感ッ。リラックスできるでホント。
飯も食うたし、あとは気ままに本でも―――
「おい」
「あ?」
―――・・・読もうと思った矢先。
声をかけて来たのは、あの転校生の片割れじゃった。
「どーしたんな、ボーデヴィッヒさん?」
「・・・」
返事をすると黙っまま俺を直視するボーデヴィッヒさん。
・・・いや、あんたのほうから声をかけて来たんじゃろうが。何故に睨むんじゃ。
午前の授業でも俺の事睨んどったが・・・俺、この人になんかしたかのぉ? ボーデヴィッヒさんに人違いでビンタされた事はあるんじゃけど。
「・・・何故」
「へ?」
「貴様は何故・・・あの時、織斑 一夏に対して頭突きをした?」
え~と・・・いきなりやって来て、やっと口開けたらと思うたら・・・言う事それ?
「朝の事はごめんなさい」とか、ないんかい。
「答えろッ、清瀬 春樹」
しかも、なんで尋問口調なんじゃこの人? 俺、織斑にヘッドバッドしただけでなんも悪い事やっとらんし。なんでこうなるんじゃ?
こねぇな事なら、歯の一本でも折っとくんじゃった。
「いや、君に叩かれたけん・・・やったんじゃけど」
「なぜだ。叩かれたのなら、私を叩き返せばいいだろう」
「えッ、だって俺、織斑の事嫌いじゃもん」
「・・・なに?」
俺の言葉にちぃと驚いたのか、眉をひそめるボーデヴィッヒさん。
じゃが、本当の話じゃ。
あの鈍感屑系主人公のせいで、俺の人生やり直しプランはご破算。
二度目の高校生活をこねーな性欲を持て余す状況下で過ごさにゃあおえんし、周りの差別主義の糞女郎共からは陰口叩かれるし、散々じゃ。
あれもこれも織斑の野郎がISなんぞを動かしたけんおえんのじゃ。
「常日頃から、あの野郎を殴ろう殴ろうと思っとったんじゃけど・・・中々、そういう機会に巡り合えんでのぉ。そこであのビンタじゃ・・・実を言うと、ボーデヴィッヒさんからのビンタは恰好の良え機会じゃったんじゃ。ありがとな」
「・・・・・」
・・・ん?
いや、なんかおかしいな。叩かれたけんお礼を言うて・・・俺にそねーな趣味はないでよ。
見てみぃ、ボーデヴィッヒさんなんか若干引いとるで。
「あぁ、訂正さして。俺、叩かれて喜ぶ趣味ないけんな、ホントにないけんな。フリとかじゃないけんな」
「・・・教官から聞いていた話よりも、だいぶおかしな男だな貴様は」
教官?
そーいやぁ織斑先生の事、教官じゃって呼びょうたな。
・・・一体何者なんじゃ、ボーデヴィッヒさん?
つーかあの先生、俺の事なんて言ってんだ?
「それでだ。あの朝での事は・・・その・・・わ、悪かった」
「えッ・・・」
擬音語を付けるなら、平仮名で『ぷいっ』じゃろう。バツが悪そーに目を背けながら、ぎこちない謝罪の言葉を言うボーデヴィッヒさん。
・・・かわええなぁ。
「大方・・・あの後、織斑先生にこっぴどぉ叱られたんじゃねーんか? それで渋々来たんじゃねーんか?」
「な・・・なぜ分かったッ?」
あらやだ、この娘素直じゃ。ちょっと天然な所があると見たで。
「フッ。まぁ、兎にも角にも・・・ボーデヴィッヒさんや」
「なんだ?」
「もしかしなくても・・・ボーデヴィッヒさんって、織斑の事が嫌い?」
「ああッ、嫌いだ。大嫌いだッ」
ハァッ・・・そんな!
こんな所で出会う事になるなんて・・・!
どいつもこいつも織斑織斑と五月蠅い中で、こねーな子が転校して来てくれるなんて・・・お兄さん嬉しいんじゃ!
「清瀬 春樹・・・なんだこの手は? それに何故、目頭を押さえている?」
「ぐすッ・・・気にせんで。この手は仲直りと友好の握手じゃ。改めてよろしくな、ボーデヴィッヒさん」
「慣れ合うつもりは―――「織斑先生に言うで」―――・・・仕方ない、してやろう」
俺は喜びに打ち震えながら、ようやく同志に会えた事への記念にボーデヴィッヒさんと固い握手をする。
ここ最近あった嬉しい事の三本指には入る出来事じゃ。
―――――――
「るーらるらるー♪」
放課後。寮の廊下で陽気な歌とヘタクソなステップを踏む春樹。
「(今日は織斑に一発喰らわす事が出来たし、同志にも会えた。あ~、気分が良えのぉ~!)う~む、ちょびっとだけじゃが・・・今日は飲んじゃお~と!」
彼の様子は朝の不機嫌さから一転している。
余程、自分と同意見の人間に会えた事が嬉しかったのか、上機嫌で自室に戻る。そして、早々にシャワー室へ赴くと天井裏に隠してある上物のスコッチウィスキーを取り出した。
「大なり小なり合わせて、八本ぐらい持って来たのに・・・半年も持たず、もうこの一本だけか。自分で言うのもなんじゃが、飲み過ぎじゃのぉ。じゃけど、あれじゃ。『わかっちゃいるけど、やめらんね』っと」
ゴチャゴチャ戯言を言いながら、制服姿のままソファに腰かけると瓶の蓋をキリキリと開け、最近買った自炊用茶碗へコップ代わりにトプトプ注ぐ。
琥珀色の済んだ液体は、そそるような何とも芳しい香りがたっている。
「ん~、良え匂い。布仏さんから薫ったもんの百倍二百倍は良え香りじゃッ。・・・ゴクッ・・・阿破破破ッ、飲む前からヨダレが出ちまうで。じゃあ、えと・・・そうじゃな・・・『同志に会えた事』へ乾杯ッ!!」
茶碗を高く上げての乾杯音頭をとり、そのままウィスキーを一気に呷る―――――
ガチャリ
「し・・・失礼しまーす」
「・・・あ”ッ?」
・・・前に鍵を閉めた筈の扉から、何者かが入って来たのだ。
だが、流石は春樹か。想定外の訪問者に動揺せず、茶碗に注いだウィスキーを一滴も溢す事無く瓶へ戻すと部屋の入口に向かった。
「なんじゃあこの野郎ッ! 無断で俺の部屋に入るたぁ、どこのどいつじゃ!!・・・って、オメェは・・・」
「ご、ごめんなさい!!」
玄関にいたのは、春樹の怒号に吃驚する転校生のシャルルだった。
「あ”ぁ”ッ、なんで噂の貴公子が俺の部屋に不法侵入しとるんじゃ? 事と次第によっちゃあ・・・ブチのめすぞ」
「ご、ゴメンナサイ!!・・・って、あの・・・清瀬くん? 織斑先生から聞いていないの?」
「なにをじゃ?」
「えと・・・あの、その・・・君のルームメイトが・・・ボクだって事を」
「・・・・・は?」
『THE WORLDッ、時よ止まれ!』と春樹の脳内に聞き馴染んだ声が轟く。
「あ~・・・悪いんじゃが、デュノアさん。今俺、疲れとるみたいなんじゃ・・・聞き取れん見たいじゃったけん。ちょっと、もう一回言うてくれるかのぉ・・・今なんて言った?」
しかめっ面一転、目を大きく見開く春樹。
彼の表情にシャルルは小さく悲鳴を上げそうになったが、恐怖を押し込んで口を開いた。
「きょ、今日から”ルームメイトになる”シャルル・デュノアです。あ・・・改めてよろしくね、き・・・清瀬くん?」
「・・・・・・・・マジか」
「えッ、えと・・・?」
その言葉に絶句し、頭を抱えて跪く春樹。
彼の行動に目の前にいるシャルルはオロオロとする。
「・・・なぁ、デュノアさん」
「な、なにかな清瀬くん?」
「会って早々なんじゃが・・・『暦お兄ちゃん』って、言ってもらえる?」
「こ、コヨミ・・・え、なに―――「早う」―――あッ、うん。こ・・・コヨミオニイチャン?」
「もっと滑舌良く」
「こ・・・暦お兄ちゃん?」
「そうッ、もっと可愛く!」
「暦お兄ちゃん!」
「そう、その感じ!」
納得のいく発音とアクセントに納得した春樹は勢い良く立ち上がり、シャルルに向けて言い放つ。
「はい、ダウトッ!!」
・・・・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。