IS/Drinker   作:rainバレルーk

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※久々に長くなりました。



第160話

 

 

 

「緒方警視、先程の少年は一体・・・?」

 

IS学園の地下施設にて。

先のワールドパージ事件で襲撃者を内部へ招き込んだスパイ捕縛の情報を受けて駆け付けた警視庁公安部の一人が直属の上司へそんな疑問符を投げ掛ける。

 

今回の被疑者、ダリル・ケイシーの事情聴取を終えた一団が一旦本部に帰還しようとした時。公安部の一人が被疑者の居る部屋へ入って行くのが見えた。

IS学園の男子生徒服へ身を包んだ白髪に琥珀色の瞳を持った日本人離れしている容姿を持つミステリアスな少年。

無論、此の様な場所に関係者以外が立ち入る事など禁止されている為、少年を怪しんだ彼が事情を聞こうと近づこうとしたのだが・・・・・

 

「・・・やめておいた方がいいよ、清水ちゃん」

 

寸での所で彼の上司が引き留めた。

そんな上司の行動に対する疑問符が上記の発言である。

 

「IS学園の制服を着ていましたけど・・・やはり?」

 

「そうだよ、彼が噂の”二人目”。そんでもって今回の被疑者を捕まえた作戦を指揮した功労者さ」

 

「ッ、本当ですか? 被疑者って国家代表候補生でしょう? そんなヤツを捕まえるなんて・・・IS学園の生徒と云っても確か、まだ彼は十五でしょう?」

 

「あぁ、只者じゃないよね。僕が十五の時はなんて友達と遊んでばっかりだったなぁ。あんな・・・熟練の”殺し屋”みたいな目はしてなかったさ」

 

「・・・何者なんですか、彼って?」

 

部下の疑問符に上司はニヒルな笑みを浮かべて応える。

 

「この世界じゃ、知らない方が良い事だってあるよ。口外も無用さ。藪をつついて”蛇”を出すな・・・ってね」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ッ・・・!!」

 

ダリル・ケイシーは心臓を濡れた冷たい手で握られたかの様な感覚に襲われていた。

全身の毛穴から汗がとめどなく溢れ、空調が管理されている筈の部屋の温度が極寒に感じられる程の身の毛もよだつ寒さを感じていた。

喉奥を荒縄で縛られた様な息苦しさに胸を締め付けられていた。

 

「破ッ破ッ破ッ!」

 

其の原因である口を三日月に歪めて嘲り嗤う一人の自分よりも年下の少年に彼女は小鹿の様に震え、蛇に睨まれた蛙の様に畏れていた。

ダリルには、目の前にいる彼がまるで人間に見えなかった。其れは己に贈られるべくして来た人の形を成した『死』に見えたのである。

 

「一体・・・一体テメェは・・・・・テメェは一体何なんだ!!?」

 

「おいおいおい、真昼間に黄色い目の”悪魔”でも見た様な顔をするんじゃあないっすよ。其れに問い掛けてるのは俺の方なんじゃけども? まぁでも答えてあげまさぁ。俺はちゃんとした人間で、ちょっと此の前まで其処等にいるパンピーだった清瀬 春樹ちゃんでーす!」

 

ケタケタ笑う春樹に「嘘だ!!」とダリルは叫びたくとも口籠ってしまう。異様な雰囲気を醸し出す彼に未だ内なる恐怖が拭い切れていなかった為だ。

 

「じゃけども・・・破破ッ、答えを聞くまでもねぇっすね。其の動揺っぷり、正解って事で良えですよね。ケーシーパイセン・・・いや、今は『レイン・ミューゼル』か。ミューゼルパイセンって呼んでも? 其れとも今まで通りがお望みで?」

 

「ッ、テメェ・・・一体、どうやって・・・?」

 

「んも~ッ、ケーシーパイセンってばまーた疑問符を疑問符で返した。ジョジョな世界線だったら「質問を質問で返すんじゃあない!!」って感じでブチ回されとりますよ。まぁ、でも仕方ないっすよね。混乱するのも当然っすよ。じゃけぇちゃーんと説明しますわ。しかし・・・何処から話そうかねぇ?」

 

彼は少し悩んだ後に「あぁ、そうじゃ!」と閃いて、どうしてダリルに目を付けたのかを説明し出す。

 

「スパイの調査を本格的に始めたんは、キャノンボールの時かな。其の時にさ、変な電波を拾ったんじゃ」

 

「電波?」

 

「あぁ、電波信号。普通なら見逃してしまう、聞き逃してしまうんじゃけど。俺の勘がビビビッと来てね。んでもって調べてみたら大当たり。其の電波信号が出てからちょっとしてから大事件が起きる事が解った。ファントム・タスク絡みの事件がよぉ。後は電波信号の発信元を突き止めるだけ・・・じゃったんじゃが、此れも巧く行かんかった。なにぶんと信号が短いのなんの。つきとめる難航したでよ。あの事件がなかったら、もうちょっとかかってた」

 

「・・・オレはテメェの為に自分の墓穴を掘ったわけか」

 

「イグザクトリーってか、破破破!」

 

一々オーバーリアクションを取る春樹のウザい事ウザい事。

されども拘束されている為に殴りに殴れない生殺し状態で、精神的に唯々甚振られる時間が続く。

もう彼女としては早く斬首して欲しい気分だ。

 

「でも・・・それだけでオレがファントム・タスクの人間だって事はわかんねぇじゃねぇか」

 

「あぁ、そりゃ簡単じゃ。アンタのISを”バラした”けんな」

 

「ッ、なんだとテメェ!!?」

 

彼のとんでも発言が再び飛び出した事でダリルはまたしても吃驚仰天し、手錠のされていない手で春樹の胸倉を掴んだ。

其れも其の筈。最早、戦友とも云える愛機が分解されたとなれば、パイロットしては堪ったものではない。

恐怖に染まった表情から一転して青筋を浮かせる怒気の形相に何故か春樹は嬉しそうに口端を吊り上げる。

 

「大丈夫、大丈夫。バラしてぶっ壊した訳じゃねぇって。ちゃんと分解して、情報だけ抜き出して、ちゃんと組み上げたから。芹沢さんには文句やら皮肉やら言われてしもうたけど、其処はちゃんとしたで?」

 

「・・・けど、それだけじゃダメな筈だ。あれには何十にもロックをかけていた。それをそう簡単に―――――」

「其れが出来ちゃったんだなぁ・・・此れが!」

 

其の発言にダリルは奥歯を噛み締めてへの字にひしゃげ、一方の春樹は彼女と相反する様に益々口を三日月にした。

そうだ。目の前に此の男は銀の福音事件の時、IS発明者である篠ノ之 束が妹である箒の為に作成した第四世代型IS、紅椿を短時間の間に解析した『能力』を有しているのだ。

 

「抜き出した情報から色々解ったんじゃぜ? アンタの本名もじゃけど、アンタが本当に所属する組織の事もちぃとばっかし解明する事が出来たんじゃ。今まで謎にしか包まれていなかった組織の事が少し解っただけでも値千金と違うか? ファントム・タスク実働部隊が一つ、モノクローム・アバターのレイン・ミューゼルさんよ?」

 

春樹はそう奇天烈な笑い声を上げると共にダリル・・・いや、レインの手を振り解く。

 

「・・・・・じゃあ、なんなんだよ」

 

「阿ん?」

 

「じゃあ一体何なんだよ!! オレのハウンドから抜いた情報でもう何もかもわかったんだろッ? だったらなんでオレに構うんだよ?! オレを甚振ってそんなに楽しいのかよ、このサディストが!!」

 

「あぁ、勿論じゃとも。楽しい、めちゃんこ楽しいで?」

 

「ッ・・・て、テメェ!!」

 

再び手錠のされていない手で彼の胸倉を掴もうとするレイン。

・・・だが、そうはならなかった。

 

「ぐァッ・・・!!?」

 

春樹は自分へ伸びて来た彼女の手を振り払うと、すかさずレインの其の手と喉を掴んだ。

其の力は手加減しているとは云え、首を絞めるには十分すぎる。

 

「苦しいかい? 俺も痛かったし、苦しかった。オメェが引き込んでくれた厄介は、俺の身体に穴を開けて、骨まで折ってくれた。血だってようけー事でた。しかも、其れだけに留まらんと・・・オメェらは俺の大切な”仲間”まで傷付けようとしやがった。十分・・・オメェをなぶり殺しにする理由にはなるんじゃねぇか?

 

琥珀の炎を両目から漏らしながら鋭い殺気が籠った視線を彼女へと突き刺す。

またしてもゾッ・・・とした凍てつく感触がレインの身体を包み込む。

物理的にも精神的にも窒息しそうになる。此の氷の剣の様に鋭い視線で殺されそうになった。

 

「・・・・・・・・破破破破破ッ!」

「ッ・・・!」

 

また此の笑いだ。奇妙で奇天烈でいて不気味で気色悪く恐ろしい怪物が牙を見せて舌なめずりをしているかの様な形相。

凍り付く。ガチガチと歯が小刻みに震え、瞳孔が此れでもかと見開かれる。喉への強い圧迫感と共に脈が痛い位に早くなる。

 

レイン・ミューゼル・・・彼女の此の学園へ来る以前の過去を誰も知る由もない。

しかし、過激派テロ組織と位置付けられる組織に在籍する彼女が普遍的で一般的な少女の様な人生を送って来た筈がない。

古い新しいに関わらず、レインの記憶にしつこい油汚れの様にこべりついている硝煙の臭い。其れと同時に鼻腔へ自然と思い出される血生臭さ。

忘れていた筈の・・・忘れたい感触が、こんな得体の知れない人間によって呼び起こされる。

 

「・・・ッ・・・!」

 

『怖い』。

実にシンプルな言葉が心を支配し、鈍く重い不安感が精神を蝕む。

けれども・・・そんな永遠に続くかの様に思えた苦痛が、此れもまた突然に終わりを告げる。あの笑い声と共に。

 

「・・・破ッ破ッ破ッ!」

「ッ、ゲッほ! ゲホゲホッ!!」

 

口端を吊り上げた状態で春樹はレインから手を放す。

窒息寸前で手を離された事で肺にやっと酸素が入って息が出来る様になったが、彼女は後ろへ倒れ込む。

 

「阿破破ッ、悪い悪い。酷い事してしもうたなぁ、”ケーシーパイセン”。ワザととは云え、やり過ぎてしもうた。痕にならなきゃ良えんじゃけどな」

 

そんな彼女を尻目に彼は他人事の様な言葉を並べ、持って来たハーブティーに手を付けて「美味い、美味い」とのたまわる。

其の余裕綽々な姿の春樹にレインは睨み眼を突き刺す。

 

「は、ハァッ・・・ハァ・・・! い、一体・・・一体テメェは・・・・・いったいテメェは何がしたいんだ!!?」

 

「別に。言ったでしょう、休憩をしましょうってよぉ~。飲まないの? 結構、美味く淹れられたと思うんじゃけど。あぁ、チョコレート貰うでよ」

 

だが、彼は飄々とした面持ちでチョコレートを口へ放り込む。

本性が解らない。目的が分からない。まるで此の男の内が理解できない。其れが益々不安感と恐怖心を煽る。

 

「ん~、美味ぁい。知っとる? 甘いって味覚は心を落ち着かせる。食べんさい、飲みんさい。ちぃとばっかし、楽にはなるんでね?」

 

「・・・・・」

 

其の感情に煽られたレインは半ば強いられた形で春樹の言葉に乗せられ、彼の持って来たハーブティーと茶菓子を口へ含んだ。

味なんて分からない。

 

「そう、怖い顔せんでよ。首を絞めたんは悪かった。でも、其れだけで済んで良かったって思ってくれよ。ま、パイセンが本題をさっさと話してくれ云うんなら話す。なぁ、ケーシーパイセン? ”俺達の陣営に来ない”?」

 

「・・・・・はぁ?」

 

レインは思わず心の底からの疑問符をうっかり吐露してしまった。

先程、自分の首を本気で其れも笑顔で潰そうとしていた輩からの言葉とは思えぬ。

 

「言ってしまえば、勧誘さ。ヘッドハンティングってやつさね」

 

「それは・・・オレにダブルスパイになれって事か?」

 

怪訝な表情を晒す彼女に対し、春樹は更に続ける。

 

「スパイ? まさか! そんな危険な事なんてさせる訳ないじゃろ? そんな事はしなくても良いし、させない。ちゃんとした仕事をあてがうさ。例えば・・・テストパイロット生への指導や技術的側面のアドバイス。まぁ、最初は組織に対する事を話す事になるじゃろうが・・・其の後の生活は保障するでよ」

 

「・・・司法取引をオレにしろってか? オレに・・・仲間を売れってか?」

 

「応、売ってくれ。そうすればアンタの未来を保証してやれる」

 

裏表のないスピーディーなレスポンスに更に更にレインは眉間へしわを此れでもかと寄せるが、御構い無しに春樹は懐へ忍ばせていた書類を彼女へ広げて見せた。

 

「日本政府からの正式な誓約書じゃ。新しい身元に新しい居場所や諸々を保証してくれる。此れ手に入れるんに結構な苦労をしたのよん?」

 

再びお道化た仕草で笑いかけて来る春樹に対し、レインは当然の疑問符を投げ掛ける。「どうしてそんな事をするのか?」と。

彼の前に来た親米IS派の連中の様に「貴女は優秀だから」とか、「君は強いから」だとか、そんなあからさまな太鼓持ちの言葉が聞こえて来るのかと思っていたのだが―――――

 

「俺はアンタが好きなんじゃ」

「ッ!?」

 

返って来たのは余りにストレートな言葉に彼女は遂に口をへの字にして歯を見せた。

 

「おっと勘違いすんじゃねぇ。そう言う意味じゃねぇけんな。阿ー・・・何て言やぁエエの? レイン・ミューゼル・・・いや、ダリル・ケイシー。アンタはエエ人じゃ」

 

「・・・良い人? まさかテメェ、オレが善人だと言いてぇのか?」

 

「阿呆か、テロリスト招き込んだ人間が善人な訳なかろうがな。俺が言いてぇのはな・・・アンタ、ケジメってもんを付けようとしたろ?」

 

「・・・・・」

 

心の奥底を見透かされた気がした。

此の男は何を何処まで知っているのか。

 

「警告したじゃろう? 『バレてる』ってよ? じゃけどもアンタはすぐに逃げんかった。其れ処か、あの人に・・・サファイア先輩に全部話そうとしてたろ?」

 

「・・・・・バカ言うな。オレがすぐに逃げなかったのは、脱走の準備と機会をうかがってただけだ」

 

「確かに馬鹿な事言うとるな、俺は。じゃけど、すぐに逃げなかったのは事実じゃろうが。アンタは、優しい人じゃ」

 

「・・・・・めろ・・・」

 

「最初は遊びのつもり・・・いや、任務の為の偽り愛ってやつじゃった。ところがどっこい、アンタは本気になっちまったマジになっちまった。フォルテ・サファイアって言う人に骨の髄まで惚れちまったんじゃ。『ミイラ取りがミイラ』になるって訳じゃねぇけども、アンタはサファイア先輩を置いていけなくなったんじゃよ。じゃけん―――――」

 

「やめろッ!!」

 

拒絶の声が部屋へ響き渡り、ティーカップの中身に波紋を揺らす。

 

「テメェは一体オレをどうしたいんだよ?!!」

 

「どっちが良い?」

 

「はぁッ?!」

 

「色恋に惑わされて決断の遅れたマヌケなテロリストか。其れとも愛の為に組織を裏切った人間か・・・どっちがエエ? どっちが・・・サファイア先輩の為になる?」

 

ニタニタと下卑た表情を浮かべる男にレインはちょっぴりの後悔を抱いた。

どうして自分はこんな恐ろしい怪物に捕まる前に逃げなかったのか。あの『警告』の後、いくらでも逃げる機会はあった筈なのに。

一体どうして彼女は逃げなかったのか。

 

「・・・テメェは、オレが出会って来た中でトップクラスの嫌な男だな」

 

「誉め言葉として受け取っとくでよ」

 

春樹の言う通り、レインはスパイとして致命的な失敗をしていた。利用する筈の人間を心の底から愛してしまったと云う失敗を。

 

「アンタが捕まった事で、サファイア先輩も多少なりとも責められる。そんでもって疑われる。テロリストと交際していた重要参考人としてな。そうなりゃ一体どうなるかは・・・解らないアンタじゃあるめぇし。さっさと逃げちまえば良かったんじゃ。恥も外聞もなく全部を捨てて逃げてくれりゃあ・・・俺も容赦何ぞせんかったのに」

 

品のない笑顔から一転し、春樹は苦虫でも買い潰したかの様な渋い表情を晒す。

 

「俺は・・・アンタら二人を気に入っている。今回の捕縛作戦も本意じゃなかった。じゃけどやらにゃあおえんかった。いつまでも此の学園に危険を呼び込む存在を居らせる訳にゃあならんのじゃ!」

 

其のまま彼は頭を下げて頼み込む。「裏切ってくれ」と、「”表返ってくれ”」と。

 

「引き返せる、まだアンタは引き返せる位置に居るんじゃ! ソッチに行くな、コッチに来いッ! 此方側に来てくれ!! どうか此の通りじゃッ!!」

 

「清瀬・・・ッ」

 

先程まで自分を嘲笑っていたのがウソのだった様に頭を下げる春樹にレインは何を思ったのだろうか。

されど・・・・・

 

「・・・清瀬、それは無理な相談だぜ」

 

「ッ、なしてよ? あぁ、ケーシーパイセンに埋め込まれとった自決用のナノマシンやら薬物はもう取り除いとる。其れの心配をしてるんじゃったら―――――」

「違ぇよ、そうじゃねぇッ! これはオレの意地の問題なんだよ! 捕まったからと言ってオメオメと仲間を売れるもんか!!」

 

叫ぶ様に言い放ったレインに対し、春樹は今度は冷ややかな視線を彼女へ差し向ける。

 

「・・・アンタ、状況が解ってんのか? 今のアンタは学生でもなけりゃ、兵士としての身分も無い単なるスパイ。もしかしてアンタらの組織のケツ持ちをやってる”あの国”が助けてくれるなんて期待してるんならお門違いじゃで? アイツらはアンタを助けん。何故なら司法取引を持ちかけようとすれば、確実に足がついて不利益を被るからじゃ。トカゲの尻尾切りでアンタは切り捨てられるしか選択肢が無いんじゃで? もしそうはならなかったとしても・・・最悪、アンタは殺されるか、次世代を産む為だけの”苗床”にされかねんのんじゃぞッ?」

 

「そうだとしてもだ。テメェら平和ボケした日本人には解らんだろうが・・・オレはこの生き方以外知らねぇんだよ」

 

再び鋭い視線で自分を睨んで来たレインに「はぁ~~~・・・ッ」と重苦しい大きな溜息を吐き漏らした。

 

「・・・いやじゃ」

 

「は?」

 

「いやじゃ・・・いやじゃ、いやじゃいやじゃッ、いやじゃいやじゃいやじゃ! 俺ぁアンタと戦いとうないッ! 俺はアンタを助けたいんじゃ!! 其れなんに、なして・・・なして拒むんじゃ?!」

 

春樹は叫ぶ。

まるで癇癪を起した幼子の様に泣き叫んだ。

嘲笑い、侮蔑し、今度は泣き叫ぶ。まるで情緒が不安定で仕方ない精神病患者の様だ。(※実際、彼は重度の精神病を患っている)

ボロボロ其の琥珀色の瞳から涙を流し、彼は再びレインに語り掛ける。

「まだやり直せる」と。

「此方側へ寝返れ」と。

・・・しかし、彼女からの返答は変わらない。レインは『マヌケなテロリスト』のレッテルを受け入れると改めて宣言したのだ。

 

「・・・じゃあサファイア先輩はどうなるんじゃ? アンタを想って待ってるあの人はどうなるんじゃ?」

 

「・・・・・オレの事を思うならアイツを、フォルテの事をよろしく頼む」

 

「ッ、ふざけるんじゃねぇ!! フザけんじゃ・・・ふざけんじゃねェッ!!」

 

遂に激昂した春樹は彼女の胸倉を掴むが、レインは申し訳なさそうに彼から視線を逸らす。其の仕草に春樹は苦々しい表情を晒し、「・・・ッチ」と忌々しそうな舌打ちと共に首元から手を離した。

春樹は未だワナワナ震える手を必死に抑えつつ、ティーカップの中身を全て飲み込むと懐へ手を伸ばす。

彼の一番の精神安定剤である酒を飲むつもりであったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――いや、違う。

 

「そっか。じゃあ仕方ねぇよな」

 

「? おい、なにを―――――」

 

自分の耳に詰め物をした春樹が取り出したのは、小型ラジオの様な珍妙な機械。其れをレインの耳元へ持って行き、カチリッとスイッチをONにしたならば・・・・・

 

キィイイ―――――ッンン!!

「ッ、がッァあアアああ!!?」

 

耳元へ大音量で轟いたのは、とても酷く不快な金属音であった。

無論、此の音から逃れようとレインは身を捩るが、そうはさせまいと春樹は彼女の頭を機械へ押さえ付ける。

 

「しょうがねぇよな、しょうがねぇよなぁ。催眠術初心者の俺がやりやすいように薬物入りにお茶を用意したんじゃけどもそんなに飲んでもらえんかったし・・・うん、もしもの為に用意して良かった良かった」

「あ”ァア”ア”ア”ア”ぁあ”あ”ッ!!」

 

暴れるレインの断末魔等気にせず、彼は唯々淡々と作業的に彼女へ催眠音波を聞かせ続けた。

 

〈・・・ハルキ、そろそろ止めた方がいい。これ以上は”壊れる”〉

 

「はーいっと」

 

〈しかし、あんな大きな音を点てても良かったのか?〉

 

「勿論よ。人払いは済ませとるし、もしバレても扉が一定時間開かなくなっとる。ISでぶっ壊さない限りは無理」

 

〈だが、念には念を入れよう。手短に済ませる〉

 

「応ともよ」

 

春樹は隣に佇む幻影と共に「あ”・・・ぁア”・・・・・ッ・・・」と白目を剥いてピクピクあらぬ表情筋を動かすレインへある施術を施してゆく。

 

〈さて・・・それでは何を”刷り込む”?〉

 

「博士、刷り込む前に”抜き出さない”と」

 

・・・あまりも不穏な事をしている事は間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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