IS/Drinker   作:rainバレルーk

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『カリギュラ効果』
隠されたり、禁止されたりするとそうされないよりも其の対象が魅力的に映り、余計に気になってしまう心理効果。
一例を挙げれば、「情報の閲覧を禁止されると、むしろかえって見たくなる」「開けるなと言われたら開けたくなる」「押すなと言われたら押したくなる」が挙げられる。
早い話が、ダチョ〇俱楽部。



第163話

 

 

 

―――――「はい。其いじゃあ皆、手元に飲みモンは行き渡ったかぁ?」

『『『はーい!』』』

 

「よぉし、よし! そいじゃあ作戦成功のお祝いを兼ねて・・・お疲れ様でしたー! カンパーイ!!」

 

宴会場へ響き渡る『『『カンパーイ!!』』』の大合唱。

其の合図と共に熱された金網鉄板からはジュウジュウ食欲をそそられる音と香ばしい臭いが漂って来る。

部屋一杯に漂う美味なる匂いと共に口の中へ放り込まれた肉の味に「うーん♥」と云った腹の底から美味さを伝える感嘆詞が各席から響き渡った。

 

「ほう、これが日本の焼肉か。学食の焼肉定食とはだいぶ違うな」

 

「そりゃそうじゃろう。こうやって焼きながら食うんがエエんでよ。ほれラウラちゃん、此れ焼けたけん喰いんさいや。俺ぁ他の席を回って来るけん」

 

そんな日本に来て初めて体験する焼肉へ関心を示すラウラの皿へ焼けたねぎタン塩をよそっているのは、乾杯の音頭を執った此の宴会の幹事を務めている春樹だ。

 

今回のスパイ捕獲作戦で多大な貢献をもたらしたワルキューレ部隊一行は、引率の先生並びにバックアップに回っていたIS統合開発部のメンバーと共に打ち上げパーティーへと繰り出した。

場所はIS統合開発部副本部長である長谷川が紹介してくれた都内にある評判の良い超高級焼き肉店。

 

「悪いな、清瀬少年。俺達も呼んでもらって、しかも君を差し置いてビールまで・・・」

 

「構んですよ。壬生さんらぁの御蔭で色々とスムーズィに進みましたしね」

 

「そうですぜ! まったく、若の無茶ぶりは骨身にこたえます・・・あッ、ビールお代わり!!」

 

「お前はほとんど出番がなかったろうが、小心狸!」

「あで!?」

 

「ちょっと春樹さん! これはどこまで火を通せばいいんですのッ? 私、こういうのは初めてなんですから教えてくださいまし!」

「や、焼き目がわかりません・・・」

 

「春樹、これはどのタレで食べたらいいの?」

 

「セシリアさん大丈夫じゃ、大丈夫。ホルモンはよー焼いた方が美味いでよ。シャルロット、其の肉はレモンで喰うと美味いでよ」

 

セシリアの様に焼肉を食べ慣れていない御嬢様達へ肉の焼き方を伝授しながら各テーブルへ挨拶周りをする春樹。

其の表情は酒を飲んでないにも関わらず何処か上機嫌で朗らかであった。

 

「おい、若大将。お前、随分と上機嫌だな? そのサイダー、酒は入ってないだろうな?」

 

「破破破ッ。大丈夫ですって、其の場の酔いに浸ってるんですよ。それより上手くやって下さいよ。折角、榊原センセが隣に来るようにしたんですから」

 

「ッチ・・・ガキが、余計な真似しやがって」

「せ・・・芹沢さん、このお肉焼けましたよ!」

 

照れた様に目を逸らす芹沢を揶揄った後、「ふぅ~、やれやれ」と溜息を吐いて自分の席へ戻れば、愛しい恋女房がトングをカチカチ鳴らしているではないか。

 

「春樹、ご苦労だったな。お前が席を回っている間にたくさん焼けたぞ」

 

「いや、俺を待たんと食やよろしかったろう」

 

「むッ。そう、つれない事を言うな。やはり、春樹がいないと美味くないのでな」

 

「も~ッ、ラウラちゃんはそんな可愛え事云うて! よしよししてやらぁ」

 

「えへへ♥」

 

「うへぇ・・・かんちゃん、なんかこのお肉甘すぎな~い?」

 

「あっち見ながら食べるから・・・って、お姉ちゃん。何でそんな顔して食べてるの?」

 

「いや、春樹くんにおススメされたヨメナカセって部分なんだけど・・・焼き過ぎたのかしら? 硬くてアゴが疲れてるだけ。決して、羨ましくてこんな顔になってるわけじゃないわよ?」

 

「御嬢様方、こちらのハツと上ミノも焼けました」

 

奇天烈な「阿破破ノ破!」と云った笑いが他の皆の笑い声と重なり、やんややんや騒がしい。

されど決して不快ではない心地の良い喧騒へ朗らかな表情を晒す春樹に対し、ラウラはとても嬉しそうな笑みを浮かべるのであった。

ちなみに二次会はカラオケだ。

 

・・・しかし、戦乙女見習い達の宴の裏側で、ある一人の少女が自分の人生の転機を決心していた事を知っていたのは、今宵酒を飲まずにいる蟒蛇だけである。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「・・・・・」

 

ギリシャの国家代表候補生であり、IS学園内でも数少ない専用機所有者であるフォルテ・サファイアは少しやつれた表情を晒しながら夜の帳が落ち切った廊下を歩いている。だが、血の気の引いた表情とは反比例する様に其の瞳はギラギラと脂ぎった光が宿っていた。

・・・時は夜の帳が降りる前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

「ぐスッ・・・う、うぅ・・・!!」

 

カーテンを閉め切った薄暗い部屋に響く咽び泣く声。

声の主のはフォルテ・サファイア。今回のスパイ捕縛作戦で捕縛されたダリル・ケイシー(本名:レイン・ミューゼル)のルームメイトであり、恋人だった人物である。

 

「ダリル・・・ダリーッ・・・ダリー・・・! う、うぁ・・・うわぁあああああん・・・!!」

 

ショックだった。

勿論、其れは恋人の正体が国際的過激派テロリストの構成員だった事もあるが、何よりも其の事を今まで自分に対して秘密にしていた事が何よりもショックだった。

強敵を相手に何度力を合わせて戦ったのか。何度同じ夜を過ごして朝を迎えて来たか。身も心も通じ合ったと思っていたのに・・・なんて裏切りだろうか。

 

フォルテは胸が張り裂ける悲しみを体感し、ハラワタが煮えくり返る怒りを巡らせ、尋常ならざる憎しみを抱いた。

なれど其の激情が込み上げる度に思い起こされたのは、ダリルとの優しくも甘い想い出ばかり。

 

「会いたい・・・会いたいっス・・・・・会いたいっスよ、ダリー!」

 

憎んで、怨んで、怒りを湧き上がらせても募る想いは愛しさばかり。

・・・さて、こんな結構特殊な愛憎に心を揉まれて涙を流している少女を訪ねるけったいな人物が一人居た。

 

―――――「ノックして、もしもーし!!」

「ッ・・・!」

 

部屋の外から聞こえて来たのは、聞き覚えのある・・・いや、良く知っている男の声。自分の愛しい想い人をお縄にかける作戦の総指揮を執った男、第二の男性IS適正者、清瀬 春樹の声だ。

 

「居るんかぁ? 居るんは解っとるんじゃでぇ、サファイア先輩ぃ?」

 

春樹は固く閉じられた扉へ寄り掛かってトントントントン何度も何度もノックをする。

 

「・・・・・」

 

しかし、フォルテは毛布を頭に被ったまま扉の鍵を開けようとはしなかった。

当然と言えば、当然の選択である。此の男のせいで自分は愛しい恋人の残酷な正体をする事もなければ、突然の別れを経験する事もなかったのだ。

普通は開けない・・・・・そう、”普通”なら。

 

「・・・・・何の、用っスか?」

 

「よう、ぼさぼさ髪で思ったよりも酷ぇ顔色じゃわぁ。まるで蚕豆みてぇな顔色ですなぁ」

 

何故、自分の恋人を破滅に追いやろうとした男に会おうと思ったのか。其れは彼女自身にも理解できなかった。

・・・ただ、ただ此の目の前で軽口を叩く男に出会えば何かがあるだろうと直感したのだろう。

 

「ま、エエわ。なぁ、サファイア先輩? 此れから作戦に関わった皆で祝賀会の打ち上げやるんですけど、一緒にどうですか?」

 

「ッ、この!!」

 

しかし、彼から放たれた言葉によってフォルテは後悔の念と共に春樹の顔面へ渾身の右ストレートがめり込む。しかも彼女の拳には専用機が部分展開されている為、其の威力は岩をも砕く。

けれども対する春樹の方も常人とはかけ離れた耐久力を有している。「ぶげらぁッ!?」等と踏んづけられた蛙の様な叫びを挙げれどもグッと体勢を堪えた。

無論、打撃のせいで口から出血はしたが。

 

「どのッ・・・一体どのツラ下げて! そんな事を言えるんスか?!! 信じられないっス! バカなんじゃないっスか?!」

 

「痛ぇえ・・・た、確かに傷心の人間に掛ける言葉じゃなかったわぁ。じゃけど・・・先輩が思ったより元気そうで良かったっすわ」

 

「ッ~~~! ふざけるんじゃねぇっス!!」

「うッゲぇええ!!?」

 

またしても彼女から穿つ様に放たれた打撃が、今度は鳩尾にクリティカルヒット。此れには流石の春樹も両膝をついてうずくまってしまい、更に其処へフォルテは鋭い蹴りを放った。

 

「グっが! げべバッ!!」

「お前のッ・・・お前のせいで!! 私は・・・ッ、ダリーは・・・!!」

 

元よりフォルテ・サファイアと謂う人物は何処かのドメスティックなヒロインの様な気性は持ち合わせては居ない。

けれども今までのストレスと一々癪に障る表情を晒す男によって遂に彼女の堪忍袋の緒が切れた。

フォルテは春樹を蹴り上げては踏ん付けてを繰り返す。顔を真っ赤にし、充血した宝石の様な瞳から雫を溢しながら何度も何度も何度も・・・・・

其の当たれば一溜まりもない攻撃を春樹は汚い叫びを挙げながら甘んじて受けた。

 

「どうして・・・どうして教えてくれなかったんスか?! ダリーがスパイだって事を知ってて、どうして私に教えてくれなかったんスか?!!」

 

「ハァッ、はぁッ、ハぁッ・・・! 教えた所で、どうなったって云うんですか? アンタに教えた所で・・・どうにもならんでしょうが! 其れに・・・下手に勘付かれて、先輩が殺されちゃ元も子もないでしょうに」

 

「ッ、うるさい・・・うるさい、うるさいうるさい、うるさいっス! 黙りやがれっス!!」

「グぼらぁッ!!?」

 

激情に駆られたフォルテは白髪に変色した春樹の毛髪を掴むと、其のまま壁へ彼の顔面を叩き付けた。

 

「わ、私ッ・・・私は! 私はダリルになら何をされたって私はよかったんっス! ダリルになら殺されても私は文句はなかったんっス!・・・私は、私はッ!!」

 

ズルズル潰れたトマトの様に壁を下へ下へと流れ伝う春樹を前にフォルテは両膝をついて幼子の様に「うわーん! うわーん!!」と喚き泣き散らす。

其れを顔面血だらけの春樹は折れた鼻を無理矢理はめ込んで見ていた。そして、彼女がスンスンとすすり泣く様になった時を見計らってある事を持ちかける。

 

「(あぁ。許さんでくれ、怨んでくれ。俺のやった事は決して許される事じゃないんじゃ・・・・・”此れからやる事”もな!)なぁ、フォルテ・サファイア先輩よ。気は済んだかい? 済んだんなら・・・俺の話、聞いてくれんか?」

 

白髪を自分の血で赤く染めているにも関わらず、相も変わらないニタニタ癪に障る笑顔を浮かべる春樹。

其の顔面へ向けてフォルテは返事代わりのダメ押しの一発をくれてやる。

 

「ッ・・・あぁ、痛ぇや。じゃけども話す気がねぇんなら、其のまんま聞き流しておくんなさい。なぁ、先輩ヨ。アンタは今、自分の人生の岐路に立ってる事をご理解頂きてぇ」

 

まるで講釈師の様に正座を組むと下卑たニヤケ顔から一転、ギョロリ琥珀色の鋭い眼を突き刺す。

其の眼にギョッとしたのは唯の一人、フォルテだ。

先程まで床にこぼれたトマトジュースを拭いたボロ雑巾の様な情けない姿を晒していたとは思えぬ眼光に彼女は心臓を掴まれた様な身の毛もよだつ感覚に襲われた。

蛇に睨まれた蛙の気持ちとは此の事で、ガマでもないのにフォルテはタラりと汗をかく。

 

「先輩ヨ、アンタが歩む道は二つに一つじゃ。一つは・・・すっぱりと忘れる事じゃ」

 

「わす、れる?」

 

「応。サファイア先輩ヨ、アンタはギリシアの代表候補生で尚且つ其の中でも極々限られたエリート中のエリートである専用機持ちじゃ。そんな優秀な人材であるアンタが高々一時の色恋の過ちで、人生を棒に振ってはおえんでよ。じゃけぇ・・・忘れちまえ。人間は忘れる事の出来る生き物じゃ。忘れちまえ、忘れちまえ」

 

「・・・・・」

 

春樹の言う通り、知らなかったとは云え、フォルテは国際的テロ組織の構成員と恋仲であったのだ。表には決して出せない下手をすれば専用機の剥奪並びに代表候補生の権利すら失いかねないISパイロットとして最大の汚点である。

「忘れちまえ」・・・春樹の言葉は全くもって的を得ていた。しかし、そんな言葉一つで忘れられるのならば苦労はない。

ダリルとフォルテ、此の二人がどんな馴れ初めで恋人になり愛を育んだのかを春樹は知らない。だが、二人がどんなにも強い絆で結ばれている事は事情を知らずとも火を見るよりも明らかな事実。

だから・・・・・此れを利用しない手はなかった。

 

「そうじゃ、忘れちまえ。あねーな女の事なんかよぉ。悲哀に打ちひしがれて泣いてる先輩を余所に呑気にグースか寝ょーるんじゃけんな。あんなヤツは”苗床”になって当然じゃ」

 

「ッ・・・なんスか、その・・・苗床ってのは?」

 

真剣な表情から一転し、「おや、ご存知ない?」とまたしても春樹は口端を耳まで裂けるくらいまで釣り上げる。

 

「意識不明の重体である事言う意外は健康的なIS適正の高いそそられる乙女の身体じゃ・・・・・次世代のIS適正者を”産ませる”には十分な素体じゃろう?」

 

「ッ、そ・・・そんなの、非人道的行為っス! まるで女の子を赤ちゃんを産む為だけの道具みたいな言い方・・・あんまりっス! 酷過ぎるっス!!」

 

「じゃけど、あながち冗談とも言い切れんじゃろう? 今やISは核弾頭以上の世界のパワーバランスを示す基準になっとる。しかし、ISの機体数には限りがある・・・じゃったら? ISを動かす為の最後の”パーツ”の質を上げるしかなかろう?」

 

カチカチッと歯を鳴らす春樹にフォルテは顔を強張らせる。

彼の言っている事は当たらずも遠からずだ。今や世界情勢はISによって左右されていると過言ではない。其れも核兵器による軍拡が行われていた冷戦時代並みの不安定さだ。

しかし、前時代と違って絶対的兵器であるISには限りがある。其処で重要となって来るのがISを纏うパイロットの育成だ。

だが、育成する人間の皆が皆優秀なパイロットになるとは限らない。ならばどうするか? 極端な話が最初から”造って”しまえば良いのだ。

ある程度育ってしまった適正度の成長性も解らない少女達を育てるよりも、高いIS適正を約束されたデザインベイビーを育てた方がよっぽど良い。

そうした一例がドイツの生体兵器技術によって誕生した遺伝子強化素体であるラウラだ。

けれども彼女の様な一例はコスト面において膨大な予算がかかる。なれば、時間はかかるが確実かつ低コストな素体を造りたい。

そうなると・・・・・

 

「競走馬でも、優秀な雌馬とこれまた優秀な種馬を掛け合わせりゃ早い駿馬が生まれる。ようは其れの人間版じゃ」

 

「・・・・・やめろっス・・・」

 

「素体が若けりゃ若い程、産める子供は多いけんなぁ。後は、”種”じゃな。どんな種がエエじゃろうか? IS適正が高いのを産んでもらう為にゃあ色んな種を種付けした方が―――――」

やめろって言ってるじゃないっスか!!

 

夕焼けが差し込む廊下へ響く震えた声色。ポタポタと落ちる水音。

両手で顔を覆いシクシク涙をこぼす彼女に対し、「・・・・・御免な、御免よ」と春樹は掠れた囁き声を呟いて立ち上がった。

 

「じゃけども其れとは違うもう一つの道がある」

 

「ぐすッ、ぐす・・・ふぇ・・・?」

 

「もう一つの道はなぁフォルテ・サファイア先輩ヨ? レイン・ミューゼルと・・・いんや、ダリル・ケイシー謂うどうしようもない人間と一緒に墜ちてやる道じゃ。共に地獄へ堕ちてやる術じゃ」

 

疑問符と共に顔を上げたフォルテの瞳を見通しながら春樹は語り掛ける。

 

「・・・しっかし、此の道はお勧めしないですよ? じゃって、そねーな事をすりゃあ先輩の人生は滅茶苦茶になる事は確定するんじゃもん。じゃけぇ、二つ目の道は絶対に選んではおえん選択肢なんです。絶対に絶対の絶対にダメな事なんです」

 

念を押す様に、説得する様に、言い聞かせる様に、説教する様に。

 

「今なら専用機を剥奪される可能性ぐらいで済みます。代表候補生としての箔に傷は付きましょうが、アンタなら其れを乗り越えられると俺ぁ信じていますだ。じゃけん絶対に、絶対に墜ちてはならん。あんな人間の為に自分の人生を棒に振ってはならん。絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に血迷った事をしてはならんですよ」

 

「絶対にやめろ」と刷り込む。

其れと同時にある事も彼女へ吹き込んだ。

 

「今日、今夜、今宵、生徒会ならびにワルキューレ部隊の面々は打ち上げの為に学園を一旦離れて”留守”にするが、魔が刺してはいけませんぜ。サファイア先輩は人生で良い選択をせにゃあおえん。じゃけん、決して一緒に堕ちてやるな。救い出せないのなら、一緒に墜ちる事を選んではおえんのですけんな」

 

「破破破!」・・・ケラケラ相変わらずの浮かべた後、春樹は踵を鳴らして其の場を跡にする。

 

「ッ・・・・・勝手な、勝手な事ばかり言って! 一体全体何のために私の所に来たんスかッ? 一体、清瀬後輩は何がしたくて・・・・・―――――ッ、え?」

 

跡に残されたフォルテは短く恨み節を呟いた後、何かに気付いた様に彼女はハッとして背向けて立ち去る男を見据えた。

すると彼は見計らった様に手を振ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――「ダリル先輩に会わせて下さい」

 

時は戻り、夜の帳が降り切った頃。厳重に警戒された病室の前でフォルテは真剣な面持ちで言葉を並べ立てた。しかし、千冬は「・・・ハァッ・・・」と眉をひそめる。

 

「サファイア・・・何度来ても同じ事だ。意識不明だとしてもテロリストに会わせる訳には―――――

「わかってるっス。だから・・・だからこれで最後にするっス」

―――――ッ・・・なに?」

 

いつもならば泣いてすがり付く様を晒すフォルテだが、今回は様子が違う事が目に見えて明白だ。

そんな覚悟を決めた彼女が懐から取り出したのは、自分の名前を署名した『退学届』であった。

 

「・・・本気か?」

 

「はいっス。もう・・・私、疲れたんスよ。ISのパイロット・・・やめるつもりっス」

 

フォルテの決意に千冬は「・・・そうか」と短く呟く。

 

「だから・・・だから、今日は先輩にお別れを言いに来たんっス。織斑先生、会わせてはもらえないっスか? お願いしますっス・・・!」

 

決意を固めた彼女へ対し、千冬は最初無言を連ねた。だが其の内、千冬の頭の中へ浮かんだのは「お前のせいだ」と自分へ向けて恨み節を叫んだテロリストの憤怒の瞳。

 

「・・・・・五分だけだ。手早く済ませろ」

 

「ッ、先生! ありがとうございますっス!!」

 

其の罪悪感からなのか。千冬は顔を背けて病室への道を開け、フォルテに最後の面会をする事を許可した。

 

「私も・・・甘くなったものだな」

 

「フッ・・・」とキザっぽく微笑む千冬。

・・・・・けれども、きっと彼女は此の判断を一生憶え、後悔する事になるだろう。

 

「お、おお、お、織斑せんせーい!! 大変ッ、大変ですぅうう!!」

 

「ん?」

 

パタパタと走って来たのは、母性の塊と緑髪を揺らす丸眼鏡の山田教諭だ。

相変わらず焦燥感に駆られるとドモリ癖がある彼女に千冬は「まぁ、落ち着け。どうかしたのか?」と溜息交じりの疑問符を投げ掛ける。すると・・・

 

「ハァッ、はぁッ! た、大変です! だ、だだ、第四格納庫が! 第四格納庫がッ、何者かによって破壊されてしまいました!!」

「ッ、何だと!!?」

 

一気に千冬の表情から余裕がなくなり、両の眼が一瞬だが四白眼になった。

山田教諭の言った第四格納庫。其処にはスパイとして捕縛したダリル・ケイシー改めレイン・ミューゼルの専用機であったIS『ヘル・ハウンドver2.5』が一時的に保管されていたのだから焦るのも当然と言えば当然だ。

 

「格納庫には教師部隊が護衛についていた筈だ!」

 

「そ、それが皆さん”凍らされて”いて! あッ、でも皆さん命に別状はありません! 低体温症で一時的に意識を失っていたみたいで!」

 

「何ッ? 凍らされていた・・・だとッ?」

 

山田の言葉に千冬は「まさか・・・!?」と自分の背後にある病室へ向けて勢いよく振り返った。

彼女の記憶違いでなければ、フォルテの首にはダークグレーのチョーカーの様なものが巻かれていた筈だ。

 

「―――――クソッ!!」

「織斑先輩!?」

 

千冬は走る。

そして、勢い良く病室の扉を開ければ、ゾワリと冷たい絶対零度の空気が肌を撫でるではないか。

 

「・・・織斑先生、まだ制限時間まであと二分半以上もあるっスよ?」

 

冷凍庫並みに冷え切った室内に居たのは、水色に近い白のカラーリングと機体の各所に氷を連想させる水色のクリスタルが施された自らの専用機体『コールド・ブラッド』を身に纏ったギリシャの代表候補生・・・いや、反逆者と成り果てたフォルテ・サファイアが眠っている恋人を抱えていた。

 

「さ、サファイアさん!? なんであなたがここに?!!」

「山田先生ッ、それよりも緊急ブザーを!!」

 

「無駄っスよ、先生方。アラームの配線は予め凍らせておいて使えなくしておいたんで」

 

焦燥感を漂わせる二人を余所にフォルテは何食わぬ顔で室内の壁面を圧倒的冷気で冷却し、ぽっかりと大きな穴を開ける。そして、彼女は犯罪者への入り口に足をかけた。

 

「やめろッ、サファイア!! 貴様は自分が何をやっているのか解っているのか?!!」

 

「もちろんっスよ。私のやっている事は正気の沙汰じゃねぇっスし、私は自分の人生を今から棒に振ろうとしてるんっス」

 

「ッ、解っているなら何故?!!」

 

投げ掛けられた怒号の疑問符にフォルテは場違いにも程がある表情を彼女に向けたのである。

 

「私、たぶんきっと今の事を後悔するっス。でも・・・愛する人と一緒に地獄に堕ちれるんなら、それはきっと幸せな事なんスよ」

 

幸せ一杯のウエディングドレスに身を包んだ花嫁の様な微笑を浮かべたフォルテは、千冬と山田教諭の前へ氷壁をそびえ立たせ、鳥籠の外へと駆け奔って行ったのだった。

 

「サファイア・・・ッ!!」

 

氷壁の先で遠くなっていくISのブースター音を千冬はきっといつまでも覚えている事だろう。噛み締めて切れた唇から垂れた血の味もだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「―――――春樹、何を見ているのだ?」

 

「ん? あぁ、月じゃよ月。今日は綺麗な御月さんじゃなぁ思うてなぁ・・・月が綺麗じゃなぁ、ラウラちゃん?」

 

「うむ、そうだな。綺麗な月だ」

 

「(ありゃ、通じんかった)じゃけども・・・・・・・・ちゃんとした御祝儀、渡したかったなぁ」

 

「ん? 何か言ったか、春樹?」

 

「いんやッ、なーんでもねぇでよ。さて、デザートじゃデザートじゃ! 行くでヨ、ラウラちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
やっぱり〆でもう一話投稿せねばならなくなってしもうた・・・・・おっふ。
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