IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第172話

 

 

 

―――――『五反田 弾』と『布仏 虚』の出会いは文化祭まで遡る。

弾は親友にして世界初の男性IS適正者である織斑 一夏の招きもあり、一部を除いて男子禁制と云えるIS学園を訪れた。

其の際、一夏を揶揄いに来た楯無の付き添いとして傍に佇んで居た虚を網膜で認識した瞬間、彼の身体へビビビッと電流が奔ったのである。

正しく運命の出会いと言っても差し支えなかった。今まで生きた中で出会った事がないタイプの美人であったのだ。

弾の経験上、十人の内八人の野郎共が振り返るタイプの美少女は十中八九、親友にして無自覚鈍感プレイボーイの一夏にウットリなのだが・・・・・何となんとッ、布仏 虚と謂う御人は違ったのである。

今まで「良いな」と思った相手が全員一夏に靡いていて付け入る隙も無かった弾にとっては、人生唯一の千載一遇の大々々チャンスと言っても過言ではない。

此の好機を逃さんと彼は恥も外聞もなく虚へアタックを仕掛けた。

 

一方、虚の方も一夏や学園の狂戦士と名高い二人目の男性IS適正者である清瀬 春樹とも違うタイプの弾の事を悪いとは思ってはいなかったようで、一生懸命に自分を口説き落とそうとする彼へ好印象を抱く様になる。

其の内、二人は専用機持ち共が血みどろのドンパチとポルノ映画張りの爛れた関係を築いている事を余所にピュアッピュアの純愛を育んでいく事となった。

 

しかし、愛に障壁は付き物と云える。

九分八厘で女子高と云えるIS学園へ通う虚と純度百%の一般男子である弾が容易に会える機会はオリンピック並みになかった。

一昔前ならば、余程の事がない限り疎遠となってしまう関係。・・・・・だが、今は通信機器が発達した現代だ。何時でも何処でも好きな人と繋がる事が出来るアプリを片手に愛を育んだ二人。

だが、其れでも距離と云う障壁はとても手強い輩だ。頻繁に連絡を取っていると言っても空虚な時間は確かに存在した。

けれども、そんな空虚な時を持て余して溜息を漏らしている弾へある日突然の光明が訪れたのである。

 

「ッ・・・ど、どうして・・・どうしてここに、弾さ・・・五反田さんが・・・ッ!!?」

 

「ど・・・どうも」

 

宿泊する旅館へ荷物を置いた専用機所有者一行は、京都観光の最初の目的地を金閣寺にするか鴨川にするか揉めていた。

揉めるくらいなら別行動するば良いのだが、生憎と一行の最強戦力と最弱戦力の目的地が綺麗に二つに分かれている為、もし最弱戦力が厄介事に巻き込まれた場合とんでもなく面倒臭い。其の為、集団行動は欠かせないので結局行き先は多数決となる。

 

さて・・・其処で初めての恋人との京都観光デートに浮かれている最大戦力は、カップル河原が有名な鴨川へ挙手。其れに釣られて想い人が居る全員が挙手。金閣寺が見たかった最小戦力は置いてけぼりを喰らってしまう。

 

されど場所は決まれども目的地までの足がない。其処で登場したのが、楯無が何処からか手配した人力車だ。

古都に似合うノスタルジックな雰囲気に感嘆詞が上がる。しかし、用意された人力車は一台だけ。其の事に疑問符を浮かべているのも束の間。一行の中で二人だけが両眼を四白眼へ剥いたのだ。

 

「なんでここに弾がッ?! 清瀬、お前!」

 

「なーして、其処で俺の名前を出すか。見当違いも甚だしいわ。おにぎりの具の中身しか喋れない様にブチ回してやろうか、テんメェ此の野郎?」

 

「はぁッ!?」

 

「こら、春樹くん煽らないの。まぁまぁ、落ち着いて一夏くん」

 

「・・・何が目的ですか、御嬢様?」

 

メンチを斬り合う春樹と一夏の隣でムッと虚は眉間に皺を寄せる。

どうやら弾の旅への参加は彼女も知らなかった様で、横を振り向くと妹の本音を始めとしたメンバーが「大成功ー!」とピースサインを振り撒いていた。

 

「本音、あなたまで私をだまして・・・!!」

 

「お姉ちゃんってば、人聞きの悪いこと言わないでよ~! サプライズだよ、サプラ~イズ!」

 

「虚さん、もうすぐ誕生日・・・でしょ? 何か良いプレゼントはないかなって思って・・・虚さんにはいつもお世話になってるし・・・・・ちょうど、そんな時に本音から虚さんが彼氏さんと中々会えないって聞いて、それで・・・」

 

「さっすが私の簪ちゃん! なんてッ、なんて優しい子なの!!」

 

はしゃいで抱き着く楯無を「お姉ちゃん・・・うっとうしい」と照れた表情を隠す様に簪は俯く。

其れに対して虚は、「簪御嬢様、皆さん・・・ッ」頬を紅潮させて何とも言えない表情で瞳を潤ませた。

 

「(もしもが起こっても専用機持ちでも顔バレもない布仏先輩はで非戦闘員になる・・・なるほどな。其れで巻き込まれん様に別行動をさせる訳か)さてと・・・おいッ、”車夫”」

 

「・・・えッ、あ? あぁ、俺の事??」

 

「お前さんしかいねぇじゃろうがな、色男。とりあえず、お前さんは布仏先輩の専属じゃ。二人で京都を廻って来んさい。しっかり会えなかった分を埋めて来りゃあエエ」

 

「ッ・・・二人目、さん・・・・・」

 

「じゃけど・・・解っとるじゃろうな?」

 

「はい?」

 

全てを察した春樹はニコニコ笑顔で弾の耳元へ囁く。「布仏先輩に手ェ出したら・・・ハラワタ引き釣り出してやるからな」と。

ゾッとした事だろう。言葉の後に続いた笑顔が余計に恐怖を助長させ、思わず彼は悲鳴を飲み込んだ。

そんな事とは露知らず、照れた表情の虚は若干恥ずかしそうに弾の引く人力車へ乗り込むと皆の声援を背後にデートへ駆けて行った。

 

「生徒会長ってば、中々小粋な事するじゃないの。それにしても・・・あの弾が本音のお姉さんと付き合うなんて・・・なんか悔しい。弾の分際で」

 

「何じゃそりゃ。まぁ、あの人は先輩にゃあいっつも世話んなっとるけんな。此れぐらいは当然じゃろう。なぁ、楯無さんや」

 

「ふっふっふ♪ これぐらいの手配なんて朝飯前よ!」

 

「どんなもんだい!」とふんぞり返る楯無に「えばり過ぎじゃ」と春樹がツッコミを入れる事で和やかな雰囲気が漂う。

そんな雰囲気のまま一行は折角だから街の景観を見ながら行こうと徒歩で目的地まで行く事と相成った。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

古都、京都。

千年より遥か昔から都がおかれていた華の都は、鮮やかな彩ある秋の紅葉によって更なる美しさを誇っていた。

御蔭で街は観光客でごった返している。

 

「こりゃあ私服で来て正解じゃったな。学園の真っ白な制服で来とったら間違いなく目立っとったわ」

 

山田教諭のガイドで街を巡る一行は、もっと街へ溶け込み馴染む為に一軒の茶屋を訪れた。

どうやら此処では観光客向けに着物体験を行っている様で、現在は此れに興味を示した女性陣の着替えを男性陣が待機していると云う状態だ。

 

「・・・・・」

「・・・まだかのぉ」

 

しかし・・・空気が重い。

仲の良い二人なら兎も角。此の春樹と一夏は正しく水と油と言っていい程に険悪な関係であった。

例え店先でも本当ならこんな野郎の側になんぞ居りたくはないと思う春樹だが、なにぶんと嫌う相手である一夏に何かあっては不味いと仕方なく待って居るのだ。

 

「あのぅ・・・御二方?」

 

「はい?」

 

「待ってるのも退屈でしょうから、御茶菓子なんていかがでしょう?」

 

どうにも険悪な雰囲気を見兼ねた茶屋の主人が、二人へ店の名物を勧めた。

モノは京都名物と言っても良い生八つ橋である。

 

「そいつはありがたい。おいッ、折角のご厚意じゃ。頂こうじゃねぇか」

 

春樹は外向きの作り笑いを浮かべ、茶屋主人から勧められた生八つ橋を店自慢の抹茶と共に頂く事にしたのだが・・・険悪な二人の雰囲気が解消される訳ではなかった。

顔が良いとは云えども一夏の方はムッと不機嫌な表情のままで、どう見ても堅気ではない感じが漂えども愛想の良い春樹は、傍から見ればどう見ても異様に映った事だろう。

 

「うん、美味い旨い。京都で喰う八つ橋は格別じゃ」

 

「お粗末様です。失礼ですが、御一行様方は何処からいらっしゃったので? お連れの方々がえらい別嬪さんばかりでしたけど・・・」

 

「あぁ、私達は東京からですよ。折角、日本に来たんじゃけん京都へ行きたいって言われましてね。友達も誘って来たんですよ」

 

そんな他愛もない会話で春樹が場を持たせていると何処からか「にゃぁあ」と可愛らしい鳴き声が聞こえて来た。

何だと思い、一夏が自分の足元を見ると其処には白い猫が此方を覗いているではないか。

彼が抱き上げてみれば、猫は嬉しそうに喉を鳴らす。

 

「ごろごろごろ・・・」

 

「おッ、ニャンコちゃんじゃねぇか。こちらの子なんですか?」

 

「いんえ、ウチは猫は飼っていませんが・・・何処から入り込んで来た?」

 

「可愛えのぉ。おい、俺にも抱っこさしてくれや」

 

そう言って春樹は手を伸ばすが、白猫は彼を見た途端に「フシャーッ!」と毛を逆立てた。

 

「ッ、ハハ! 動物は人の気持ちがわかるんだな」

 

「・・・ッッケ。今日一の笑顔をしてんじゃねぇよ、畜生め」

 

何処からともなくやって来た白猫にフラれた事に春樹はムクれて懐へしまっていたスキットルの中身に口を付ける。

そうして燃える火酒で自分自身を慰めていると・・・・・

 

―――――「どこにいっていたのサ、『シャイニィ』」

「阿ん?」

 

二人に近づいて来る気配。

振り返ってみれば、其処には腰まで届く燃え上がる様な赤い髪のツインテールと肩から胸元に掛けて大胆に開けさせた真っ赤な着物にピンヒールという何とも奇抜なファッションに身を包んだ隻眼隻手の美女が居るではないか。

其の女性を見た途端、一夏の腕の中へ蹲っていた白猫は彼女へと飛びついて行った。

 

「おかえり、シャイニィ」

「にゃん」

 

二人の前で嬉しそうに抱えられている処を見ると、どうやら此の女性が白猫の飼い主なのだろう。

しかし、現れた飼い主の風貌にポカンとする一夏に対し、何故か表情を崩さずに春樹は上着のポケットの中へ手を突っ込んだ。

 

「・・・其の猫、お宅の猫さんで?」

 

張り付けた表情で疑問符を投げ掛ける春樹。

すると女性はシャイニィと呼ばれた白猫を肩へ置くと開けた胸元から取り出したキセルを口へと差し込んで紫煙を燻らせた。

 

「そうサ。名前はシャイニィって言うのサ」

 

「可愛い猫ちゃんで。連れには懐いとったが、どうも俺は嫌われてようで」

 

「フシャーッ!」と再び春樹に対して威嚇するシャイニィ。

其れを落ち着かせる様に女性はシャイニィの頭を撫でてやる。

 

「ふーん・・・どうやら、シャイニィは君から漏れ出す殺気に脅えてるみたいなのサ」

 

「其れは失礼を。御免ねシャイニィちゃん。怖がらせてしもうたみたいじゃなぁ」

 

しかし、謝っては見ても猫のシャイニィは毛を逆立てたままで警戒を解こうとしない。

其の事に春樹が残念な表情を浮かべると女性は顔一杯に平たい笑顔を浮かべた。

 

「私はいいと思う。とても15の少年とは思えない良い殺気・・・流石はファントム・タスクを何度も退けた事をやった事はあるサね。清瀬 春樹君?」

 

カチリッ・・・と何処からか金属の音が聞こえて来た。

一夏は其の音に聞き覚えがあった。いや、何度も自分に向けられて来た音を忘れる訳がなかった。春樹の愛用するリボルバーカノンの撃鉄を引き起こす音を忘れられる訳がなかった。

 

「ッ、清瀬!!」

 

「騒ぐんじゃねぇ。じゃが構えろ、織斑」

 

「へぇ。じゃあソッチの君が千冬の・・・やっぱり姉弟だから似てるサね、織斑 一夏君」

「なッ・・・!?」

 

急いで立ち上がった自分の名前を当てられた事と千冬の名前が出た事に一夏はギョッと動揺するが、春樹の方は随分と落ち着いた様子でポケットの中の銃口を彼女へ向けたまま動かない。

されど殺気は先程以上に濃厚で、其のせいで彼女の肩へ乗っていたシャイニィは逃げるように下り去ってしまう。だが、隻眼の女性からはまるで堪えた様子は見られない。

 

「・・・ギャラリーがいる所で死合うつもりはないのサ。私はこう見えても有名人だからネェ。あまり事を荒立てたくないのサ」

 

「なら・・・利害は一致している。また後で機会があれば・・・其れでよろしいか、”ヴァルキュリア”?」

 

「ッ・・・へぇ、面白いネ。ますます興味が湧いて来るのサ」

 

そう言って隻眼の彼女は足元で怯えるシャイニィを拾い上げると「邪魔したね」と言って其の場を跡にするのだった。

 

「ッ、おい清瀬!」

 

「喧しい。喚こうとするんじゃねぇ。ありゃ今ん所敵じゃねぇよ・・・先生らぁに連絡入れる必要もねぇじゃろ」

 

「は?! 敵じゃないならなんでッ? って言うか、誰だよアレ?!」

 

「俺を見定めの品定めって感じか。ッチ、気が悪ぃ。あとオメェ、一応はブリュンヒルデの弟じゃろうがな。”前大会の覇者”ぐらい憶えとけ」

 

「はぁッ?」と一夏が怒気を含んだ疑問符を発した。

だが、其れと同時に室内の奥から「どうかされたんですか?」と何処か間の抜けた声が聞こえて来た。

振り返ってみれば、其々の専用機体パーソナルカラーである着物を纏った専用機所有者達を引き連れた山田教諭が居るではないか。

其処からノミで刻んだ様に深く刻まれた眉間の皺が一転し、山田教諭の背後で恥ずかしそうにコソコソ佇む愛しい恋人にISを纏っていないのにも関わらず、瞬時加速並の速度で距離を詰めた。

 

「破破破ッ! えろう美人じゃわぁ、ラウラちゃん!!」

「きゃッ!? こ、こら! いきなり抱き上げるな馬鹿者!!」

 

自分機体のパーソナルカラーである黒を基調とした下地に季節独特の柄である紅葉した紅葉の柄があしらわれた振袖を纏うラウラに思わず表情が綻ぶ春樹。

 

「ちょっと春樹! 僕達だって振袖に着替えてるんだからね!」

「そうよそうよ! お姉さんだって着替えてるんだから反応してよ!!」

 

「シャルロットは兎も角、楯無はホントに着物から別の着物に着替えただけじゃろうが。新鮮味ねぇよ」

 

「ガーーーんッ!!?」

 

「まぁ、似合ってるけどよ。皆、綺麗じゃねぇか」

 

「ッ、春樹くん・・・もう好き!!」

「僕も僕もー!」

 

「退けッ、更識 楯無にシャルロット! 春樹は私のだぞ!! 抱き着こうとするな!!」

 

シリアスな雰囲気から一転。ラブコメの騒がしさが周囲を支配する。

其の余りの落差に呆気に取られてしまう一夏だが、彼の方も他人事ではない。

 

「お・・・おい、どうだ一夏? 似合っているか?」

「ちょっと箒、抜け駆けしないでよ! 私の方はどう一夏?!」

 

「え・・・えぇ・・・ッ」

 

一夏も一夏の方で箒と鈴と言う其処ら辺の酔っ払いよりも質の悪い幼馴染に絡まれてしまった。

 

「・・・いつもの感じ」

 

「でも、これぐらいがちょうど良い感じがしますわ」

 

「八つ橋おいしいねぇ~」

 

「本音・・・太るよ?」

 

「そうかなぁ~? でもちょっとお胸がきつい感じがする~」

 

「私も胸囲が少しばかり苦しいですわ」

 

「着物は帯できつく締めますからね。先生も着物を着たら胸がきつくって」

 

「・・・・・テメェら、コノヤロウ」

 

「「「簪さん!?」」」

 

そんなこんなで一行は目的地である鴨川の『鴨川等間隔の法則』で有名な三条河原へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 





そろそろ次回辺りで劇薬を投下する予定。
そう言えば・・・『秋』は英語でなんて言うんでしたっけ?
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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