Q:ノーライフキング+ハンニバルカニバル+デモンベイン=?
A:各々の答えをどうぞご自由に。
ヒント:更に加わる可能性アリ。
千年を越す都、古都は京都。
其の夜空に突如として煌めいた華の焔。
爆音と高温の炎がホテル上階一角を染め上げる中、けたたましく響き渡る声が一つ。
「阿―――――ッ破ッ破ッ破ッ破ッ破ッ!!」
揺らめく黒煙と火の中で大きく両肩を揺らす朱の陣羽織を纏った金眼四ツ目の武者甲冑。
其の右手に握られていたのは、今宵の夜空の如き漆黒のフレームに真紅の装飾が施されたミリタリーモーゼル。
其の左手に握られていたのは、今宵の月の様な白銀に光る回転弾倉を有するコンバットリボルバー。
「さぁッ行くぞ! 謳い踊れモノクロームアバター!! 豚の様な悲鳴を上げろ!!!」
彼は其れらの撃鉄を引き起こしつつ十字にフレームを重ねると高らかな賞賛の声と共に口角を吊り上げたのであった。
◆◆◆
・・・時を少し戻す。
焔の華が咲き誇る手前。
舞台となったホテルのスイートルームは異様な雰囲気に包まれていた。
「・・・」
「・・・・・」
「・・・(なんスか、この状況?)」
ファントム・タスクは実動部隊モノクロームアバターが長であるスコール・ミューゼルが中央のソファに座し、構成メンバーであるレイン・ミューゼルとフォルテ・サファイアが其の両脇を固める様に佇む。無論、自身のISを部分展開で纏う臨戦態勢だ。
そんな何だか状況が不明瞭でよく解っていない頭へ疑問符を浮かべるフォルテを除けば、酷く眉間に皺を寄せたレインと目を細めながらも冷たい殺気を放つスコールの前に居たのは―――――
「ング・・・ングッ・・・・・」
我が物顔でグラスへ注がれたワインレッドを優雅に傾ける一人の男。
彼は其の並々と注がれた液体を飲み干すと「ぷッはぁアア―――――!!」なんて云うオッサンの様な溜息を漏らしたではないか。
「阿ん? どうかしましたかいマダム? 此のチリワインは、少々貴女の舌には安っぽ過ぎましたかね?」
「別にそんな事はないわ。ただ・・・・・確か貴方、年齢は十五じゃなかったかしら? 私の記憶が正しければ、この国では二十歳未満の坊やの飲酒は禁じられていた筈だけど?」
「おぉ、おやおやおや。阿破破ッ! 天下に名高い流石のファントム・タスク殿も情報が掴めないと・・・”当てにもならぬ”政府公式発表を信用するしかないのですなぁ」
「え・・・どういう意味っスか、ソレ?」
話が読めない事に再び疑問符を浮かべる恋人の隣で、レインは「ッ、テメェまさか・・・!」と表情をもっと歪に歪めた。
「・・・失念していたわ。もしかして、その名前も”借り物”かしら?」
「さて・・・御想像に御任せしますよ。後・・・不躾ながら、其のワイン飲まないなら貰っても? 久々の酒は随分と美味い。常日頃からガキ共に囲まれてちゃあ飲めない格別な味ですから」
彼はスコールの「どうぞ」に合わせて彼女の前に置かれたワイングラスを手に取って中身を飲み干し、ついでとばかりに今度はボトルをひっくり返してドポドポワインレッドを胃へ流し込む。
其の後、最初の礼儀正しさは何処へやらとまた再び荒武者の様に礼儀作法もない酒飲みの溜息を漏らす。
「い・・・一体どういうことっスか?」
「フォルテ、こいつは・・・この野郎は、”オレ達側”の人間だったつー訳だ」
「えッ!?」と両目を四白眼にするフォルテだったが、IS学園で体育祭が開催中の頃、彼女は彼の事を年上の男性なのではないかと云う錯覚を感じた事があった。
「錯覚じゃなかったんスね。私よりも年下のくせにオッサン臭い感じがしたのは!」
「おいおいおい、随分な云いようだ。まぁ、御蔭で仕事はやりやすかったけどなぁ。往来で酒が飲めなかったのは辛かったけど」
「だましてたんスね!」と憤るフォルテを彼はあの奇天烈な笑い声と共に嘲笑う。
しかし・・・
「阿破破ノ破!(う~~~ッ・・・おっかなびっくり。じゃけど、俺のペースになって来たか? 勝手に”勘違い”してくれたか?)」
〈だが、相手はプロ。ボロを出さない様に注意するんだぞ、『春樹』〉
金眼四ツ目の鎧武者、二人目の男性IS適正者である清瀬 春樹は内心ビクビクで溜まらなかった。
其れを酌んでか。彼の幻覚であるハンニバル・レクターは春樹を見守る様に佇んだ。
「さて、無駄話は此処までと致しまして・・・本題に入りましょう。スコール・ミューゼル殿、貴女は今の状況を何処まで御理解しているので?」
人喰いハンニバルを自分の背後に付けたエセ紳士気取りの春樹は、空になったワイングラスをクルクル回しながらスコールへ問いかける。
「・・・貴方がここに居ると言う事は、オータムが捕まったという事ね。それに私達はもう既に包囲されている・・・・・日本の認識疎外迷彩がまさかここまで進歩していたねんて」
「貴女の御内助の名誉の為に言いますが、決して御内助が口を割った訳ではございません。尋問する時間も惜しかったものでして・・・御内助のISをバラシて情報を抜かさせて頂きました。大丈夫、ちゃんとバラシた機体は組み立ててあります。其処に居るレインさんの機体と同じ様にね」
「テメェ・・・ッ!!」
「野郎ッ、ぶっ殺してやる!」とばかりな形相で前のめりになるレインを「やめなさい」と冷淡な口調で抑え込むスコール。其れに対し、春樹は「おおッ、怖い怖い!」とお道化た仕草をとった。
余りに場違いで余裕ぶった其の振る舞いに益々スコールの視線が冷たくなる。
「でも・・・包囲した所でなんだと云うの? まさか、もう勝った気でいるつもりなのかしら?」
「しかし、内心は焦っておられるでしょう? まさか日本政府風情に自分達が此処まで追い詰められるなんて、と。勿論、此のまま一気に襲い掛かって貴女達をブタ箱にぶち込んでも良い。けれど・・・私達は貴女達と友好的な関係を築きたいのです」
「友好?」
「はい。スコール・ミューゼル殿・・・私は、貴女達が此方側に”表返る”事を提案します。私達の仲間になりませんか?」
春樹の言葉にスコールの表情筋がピクリと動いた。
よもや自分達が勧誘されるとは思っても見なかったのか。若干興味深そうに彼女は自らの顎へ指を添える。
「ッ、いやだ! 絶対にいやだ!!」
「レイン?」
しかし、春樹の其の提案にレインは酷く拒絶の意を示す。何とも例えようのない程に表情を青くしてだ。
「ん? どうしましたか? 何か嫌な事でも思い出しましたか? 例えば・・・・・自分が捕まっていた時の事とかを」
「ッ―――――!!」
「「レイン?!」」
不敵な笑みを浮かべる春樹に対し、レインは唇を噛み締めながら両手で喉を抑えた。
圧倒的な恐怖が彼女の呼吸器官を痙攣させた事による軽い呼吸困難であろうか。フォルテがすぐにレインを抱き締めた事で事なきを得たが、「ハァッ! ハァッ!!」と彼女は息荒くしつつ春樹を睨んだ。
「ふむう・・・余程酷い目に遭ったらしい。けれども大丈夫。そんな怖い事はしないし、させない。もう二度とね。・・・・・まぁ、私達の仲間になってくれたらの話だが」
「私達を脅すつもり?」
「そんなつもりではありませんでしたが、不快に思われたのなら謝罪します。申し訳ありません。ですが・・・賢明な判断をして頂きたい。今の貴女達は恰好の獲物だ」
「・・・まるでハイエナね」
「ありがとうございます。其れは最高の誉め言葉だ。知っています? ライオンよりもハイエナの方が、”狩り”は上手なんですよ。其れに・・・此方側に来てくれた方が貴女方にも利益がある」
「利益ですって? それは司法取引と云う事?」
「勿論、其れもある。完全な無罪放免と云う訳にはいきませんが・・・貴女方の身の安全は保障しましょう」
『身の安全の保障』。其れはスコール達が捕縛された後の事である。
飲んだくれの蟒蛇と政界の若獅子の活躍により、政府内と司法各所に潜伏していたファントム・タスクの”犬”共は駆逐する事に成功した。
そうなるとファントム・タスクを裏で操っている黒幕達にはとても都合が悪く、此れに彼女等の捕縛が加わると更に事態は悪化する。なれば、黒幕達は即刻様々な手段を使ってスコール達を闇に葬ろうとするだろう。其れでは意味がない。
「当分の間は我々に協力する事になるかもしれません。ですが、其の後の自由な生活は保障します。誓っても良い。お宅の姪っ子さんには断られてしまいましたが・・・マダム、貴女からは良いお返事があるかと」
「・・・・・」
「どうかされましたか、マダム?」
「貴方は、一体何が目的なのかしら?」
スコールの問いかけに対し、春樹は迷いなく返答をする。「全ては日ノ本の平和の為です」と。
「平和? それはいつまでも続く長い恒久平和と云う意味で?」
「いいえ、恒久平和など机上の空論。私が求めるのは、たったの百年・二百年の短い平和です。私は、子供や孫の時代の為に戦うのです」
「だから私達は邪魔だと?」
「えぇ。貴女達の存在は不都合極まりない。だから消すのです。臭い物に蓋をする・・・否、焼き払えとね」
「身勝手ね。まるで私達が害虫の様じゃない」
「特定外来生物・・・貴女達はヒアリやセアカゴケグモと同じだ。此の国に・・・いや、此の世界に居てはならぬ存在だ。だから駆逐するのです。悪逆非道の貴女達をね」
「私達は虫じゃないっス! なんなんスか? 清瀬後輩は正義の味方のつもりっスか?!」
「善悪は関係ない。此れは生存競争だ。我々と貴女達のね。善悪で判断するのは、其の方が都合が良いからだ」
淡々と話を交わす春樹とスコールの両者。其の中に入り込んで来たフォルテへ応対した春樹は、スコールから彼女へ顔を向けた。
「サファイア先輩・・・いや、サファイアさん。君もこんなテロリストごっこに付き合っていないで、早く親御さんの元へ帰ってあげなさい。スコール・ミューゼル殿、貴女は恥ずかしくないのか? 未来ある乙女を血と硝煙の匂いのする世界へ引き込んで」
「ッ・・・家の事は関係ないっス! 私はもう・・・私はもう決めたんっス!! レインの側にいつまでもいるって決めたんっス!!」
フォルテの其の叫びに「・・・そうか」と春樹は何故か何処か嬉しそうに呟く。其の呟きが彼を益々謎めいた人物にさせる事に当人は無自覚である。
「ギデオン・・・いえ、Mr.清瀬と呼ばせてもらうわ。確かに貴男の提案は素晴らしいわ。貴男の云う様に私達は絶体絶命の状況ね。仲間は捕まり、私達自身も包囲殲滅されかけている」
「おぉッ。なら―――――」
「それでも私は納得がいかないわ」
ピシッ・・・と氷に亀裂が入る音が何処からか木魂した。
其の音は空耳か? いや・・・其の音は、春樹の心のから聞こえて来た音を体現したものであった。
「・・・何故です? まさか、貴女も矜持や意地とでも言うつもりですか? 其処に居る小娘と同じ様に。其れともまだ状況が理解できていないので? 御内助殿であるオータム殿は捕縛され、ご自身も包囲殲滅戦に晒されている」
「十分よ、十二分に状況は理解できているわ。私が納得いっていないのは、悪と揶揄する私達を勧誘する訳よ」
「決まっている。敵として殲滅するよりも仲間にした方が有益だからです。其れに其の方がカロリーが少なくて済みますから」
「・・・本当にそれだけ?」
「阿?」
「本当はもっと別な目的があるんじゃないの?」
「別な目的?」と金眼四ツ目の面当ての下で春樹は表情をしかめる。
しかし、思った以上に相手が変な勘繰りをしてくれた事を彼は逆に利用する事にした。
「・・・破破ッ、流石はモノクロームアバターの隊長殿。えぇ、私の目的はもう一つある。貴女方に協力している”兎”に用があるんです」
スコールは「やはり・・・知っていたのね」と呟く。春樹の云う”兎”とは、ISを此の世に生み出した張本人『篠ノ之 束』の事だ。
所以あって彼女はファントム・タスクに協力し、無人機の提供や彼女等のISを強化していたのである。
「持て余しているのではないですか? いくら協力してくれているとは言っても・・・いや、利用されている貴女方の方か。今やかの国の手先と云うよりもあの兎の手駒に成り下がったか」
「・・・・・」
「・・・失礼、口が過ぎました。まぁ、そんなご苦労をもうしなくとも良い様にとの事です。其れが私の別の理由。さて、もう解ったでしょう? 御理解いただけたなら、此方の誓約書にサインを―――――」
そう言って彼は懐に手を入れる。
しかし、其れと同時に春樹の鼻先に黄金色に輝く切先がチラついた。
「・・・・・何の真似で?」
春樹の目の前へ向けられた鋭い爪先を目で追って行くと其れはスコールの尾骶骨部分から蠍の尾っぽの様に生えており、カチカチとハサミムシの様に音を点てている。
「つまり・・・彼女と協力関係を築いている私達の方が有利という事ね。なら、貴男の提案を易々と飲むよりも窮地を脱して果報を練って待って居た方が良いわ」
「・・・本気で? 此のまんまあの兎に顎で使われる手駒で良いと?」
「勿論、いつまでも彼女に使われる私達じゃないわ。そこで、私からの提案なのだけれど・・・Mr.清瀬、貴男こそ私達の仲間にならない?」
「スコール!?」「隊長?!」
スコールからの言葉に春樹は彼女の左右に居たレインとフォルテと同じ様に上擦った変な声を上げそうになった。
そして、勧誘しようとした相手に勧誘されると云う何とも言えぬ状況に彼の背後へ佇んで居たハンニバルは口を抑えて微笑む。
「Mr.、貴男の活躍は目を見張るものがあるわ。恥ずかしい話だけど・・・私達をここまで追い詰めたのは貴男が初めてよ。素晴らしい才能だわ。これは決して大袈裟に言っている訳ではないのよ?」
手放しの賞賛の声を並べるスコールに対し、レインは更に驚く。
此の血と硝煙の臭いが漂う決してスクリーンの中の華やかさなど微塵もない世界を長年にわたって活躍するあのスコールが高く評価しているのだ。
悔しい事に彼の才能は余りにも群を抜いている。抜き過ぎていると言っても過言ではない事をレインは気付いていた。
「でも・・・素晴らしいその才能を貴方のボスは持て余している。それはあまりにも不相応と云うものよ」
「なれば・・・其の才能を貴女なら巧く成長させる事が出来ると?」
「貴方の今のボスよりはね。それに・・・個人的に私は貴方の事を気に入っているわ。まさか、あんな獣の様な戦い方をする人がこんなにも紳士だったなんてね」
「ふむう・・・」と春樹は首を傾げて自分の顎へ手をやった後、何処か照れ臭そうなあの奇天烈な笑い声を上げたのである。
「阿破破。まさか、其処まで評価してくれるとは・・・照れ臭いですなぁ。春の頃にISが扱えると云うだけで、なまじ金と才能があるだけの糞生意気なガキ共が集る学び舎に押し込められ、『オマケ』だの『無能』だのと蔑まされていた頃の男が聞いていたら泣いて喜んでいた事でしょう」
スコールからの賞賛の言葉に春樹は気を良くしたのか。奇妙でありながらも軽快にせせら笑う春樹。
・・・・・しかし。
「だが・・・
「「「ッ!!?」」」
彼のそんな和やかな態度が突如として一変する。恐ろし気な声色と共に濃厚な殺気が逆賊三人へ差し向けられたのだ。
其の殺気に対し、レインとフォルテは反射的に自らの得物を差し向けるが、金眼四ツ目の鎧武者は動じない。
「私は一応の敬意を払って貴様らを誘いに来たのだ。害虫の如き貴様らをだ。其れを何を勘違いしたのか・・・仲間になれだと? ふざけるなヨ、外道共が・・・ッ!」
「・・・そんなつもりはこちらには毛頭なかったのだけど・・・・・交渉は決裂したと云う事でいいのかしら?」
「無論。今、貴女達は・・・いや、貴様ら駆逐すべき対象に”成り下がった”。塵も残さず灰にしてくれる!」
「そう・・・でも、いくら包囲網をかけていると言っても今ここに居るIS使いは私達の方が多いわ」
「確かに。今此の場の戦力は貴様らに利があろう。だが、そんな事を考えていない私だと思うか?」
春樹はそう言いつつ懐から取り出したのは書類・・・ではなく、ラジコンのリモコンを改造したかの様な装置だった。
「貴様ら・・・もしもの時の為にホテル内のあっちこっちへプラスチック爆弾仕掛けたよなぁ?」
「ッ、まさか!!?」
「御名答!!」の掛け声と共に春樹はリモコンのスイッチを問答無用でカチリッテと押せば、彼と彼女等の居る背後から凄まじい爆裂が轟き響き渡ったのだ。
―――――さて、こうして冒頭の炎上の中の覇王登場へ戻る。
夜は此れから。未だ始まったばかりだ。
・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆