IS/Drinker   作:rainバレルーk

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※作者は初の10000字越え
※かーなーりーの速度でサクサク進みます。
※←が最中に出てきたら、皆さんで各々の処刑BGMを。

・・・・・どうぞ良しなに。



第182話

 

 

 

―――――「この個体は失敗作だ。力が強すぎる」

―――――「またD判定だ。『№.1000』は、A判定だったというのに・・・」

 

・・・・・声がする。

コポコポ、コポコポと水泡が目の前へ何度も浮かび上がる翡翠色の溶液の中、自分へ向けられているであろう落胆の言葉を彼女は思い出す。

 

「ッ・・・な・・・にが、あった・・・・・?」

 

未だ粉塵が収まらぬ闇夜の中、意識を取り戻した黒騎士はヨロヨロとススぼけたISスーツを纏った身体を起こした。

 

「ぐッ・・・!!」

 

鈍くも鋭い痛みが彼女を襲う。

触診をしなくとも鎖骨やら胸骨やら肋骨やらが折れている事は確実だ。もしISスーツやISを纏っていなければ、黒騎士の身体は真っ二つになっていた事だろう。

 

「まだ・・・まだだ・・・・・まだ、終わってない・・・まだ私は・・・・・ッ!!」

 

彼女は何とか予備のシールドエネルギーを捻出して再びISを纏う。だが、纏った戦衣の装甲版は所々が見るも無残に潰れて凹んでひしゃげて千切れていた。

とてもじゃないが、手の付けようのない歪な白騎士と成り果てた一夏に敵う状態とは思えない。

 

ザッ・・・ザザ・・・・・エ・・・エむ・・・M、聞こえる?≫

 

そんな吹けば飛ぶ様なズタボロの黒騎士の通信チャンネルに入って来た声。彼女の直属の上司にしてファントム・タスクは実動部隊モノクロームアバター部隊長であるスコール・ミューゼル其の人だ。

 

「スコール、か・・・いったい、どうした?」

 

≪今すぐに其処から撤退しなさい。其処での合流は不可能となったわ≫

 

「撤退・・・だと? なにがあった?」

 

≪やられたわ。悔しいけれど・・・まんまと嵌められたわ、”あの男”に・・・・・ッ!≫

 

「あの男・・・? ッ・・・!!」

 

黒騎士は疑問符の後、大きく目を見開くとニヤリと口端を吊り上げたのである。

 

「そうか・・・そうか、そうか・・・! やはり来ていたか・・・!!」

≪M? まさかッ・・・ダメよ! いけないわ!! これは命令よ!! 今すぐに其処から―――――≫

 

「ふ・・・ふふふ・・・ふははははは・・・!」

 

ブチリッ・・・と黒騎士は通信機器を引き千切る様に投げ捨てた。そして、ケラケラと楽しそうな笑い声を上げてキッと目を三角にして飛び出す。

 

「待っていろ・・・待っていろ、ギデオン! キヨセ・ハルキ!!」

 

愛しい怨敵を探して。恋しい宿敵を求めて焼け爛れた蝶は夜空へ羽ばたいた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「(・・・録画、しとけばよかったなぁ)」

 

迫り来る歪な白騎士の刃を眼前に更識 簪は何とも見当違いな思いを心内で描いた。

今日の夜中、彼女がいつも見ているアニメが放映される。ネタバレが許せない簪としてはリアタイ視聴が望ましい。

しかし、今現在進行形で自身へ振るわれる必殺の剣を避ける術が簪には思いつかなかった。

手元にはISのシールドエネルギーを全て搾り抜かれて意識を失った学友の箒。防御の為のシールドを出そうにも時間がない。

出来る事と言えば、ISを強制解除された箒を刃から身を挺して庇う事のみ。

だが、いくらISを纏っているとは云えども彼の刃を一度喰らえば一溜まりないのは確実。骨は砕かれ、肉は潰される事待ったなし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

「『晴天極夜』ッ!!

ザッビャァアアアアアア―――――!!

 

『『『≪―――――ッ!!?≫』』』

『『『・・・え?』』』

「へ・・・?」

 

「≪A”ッaあ”aぁア”ア”AAaAッ!!!??≫」

 

あぁ、此れ迄かと思われた其の時。

闇夜を切り裂く紅白の閃光が鋼鉄の乙女達を次々と飲み込んだ後、勢い其のままに簪の真横を通って歪な白騎士へ命中したのである。

 

「≪A”ッaあ”aぁア”ア”AAaAッ!!!??≫」

 

思いもよらぬ突然の光線に直撃を喰らった白騎士は、機械と人の声が混ぜ込まれた叫び声と共に積み重なったコンテナ群をボウリングのピンの様にストライクを決めるのであった。

 

「ッ、は・・・・・春樹・・・ッ!!」

「「春樹(さん)!!」」

 

あれ程までに苦戦必至を強いられた白騎士を意図も簡単に吹っ飛ばした破壊光線の来た先を見れば、其処には星空を背に蒼穹の六枚羽を拡げた朱の陣羽織を纏う銀飛竜が、四ツ目の瞳から金色の焔を零しているではないか。

 

≪ッ!≫

≪―――――!!≫

 

彼の者の登場にゴーレム達は目の色を変えると最優先事項と言わんばかりに襲い掛かる。

先程まで彼女達と必死に鍔迫り合いをしていたEOS隊員達は拍子抜けを喰らってしまうが、当の本人達は其れ処ではない。

絶対に倒さなくてはならぬ相手なのだ。今まで何体、何十体の同胞達が此の男に飴細工の様に砕かれ、チーズの様に融かされて来たか。

意志を持たぬ無機物の彼女達であれど、かつての同志達の仇を討つ為にゴーレム達は突貫する。

・・・だが、鋼の乙女達を食い破らんとする者は他にもいた。

 

「―――――失せろッ、ザコ共が!!」

「―――――喰らいなさいよッ!!」

 

≪ッ!?≫

≪―――――!!≫

 

蒼穹の六枚羽の左右背後から飛び出したラウラ・ボーデヴィッヒと凰 鈴音は、レールガンと衝撃砲を向かって来るゴーレム達へ発射したのである。

此れを真面に受けたものだから、ゴーレム達の身体は見るも無残にひしゃげて潰れてしまう。

 

「助けに来たぞ!」

「援護しろ!!」

 

しかも彼等の後を追う様に銃器を構えた無傷の別働EOS部隊がハツラツとした表情でゾロゾロと現れる。

 

―――――者共ッ、聞けぇえ!!!

『『『―――――ッ!!?』』』

 

そんな腐肉に集る蠅の様なゴーレム達を一掃し、援軍を引き連れて来た春樹が突如として叫ぶ。

其の声は正しく轟雷の如き声量であり、思わずビリビリ震わされた鼓膜を抑える者も居た。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ並びにシャルロット・デュノアは、十五機を率いて左翼へ!!

 

「了解!!」

「ッ、りょ・・・了解!」

 

セシリア・オルコットは、射撃精鋭十機と共に全体的な遠距離援護を!! 凰 鈴音は、三十機と共に中央から穿ち抜け!!

 

「わかったわ!!」

「わ、わかりましたわ!」

 

更識 簪と布仏 本音は、残りの残機と共に負傷者を戦場から離脱させろ!!

 

「は・・・はい!」

「わ、わかったー!」

 

春樹は大きく声を張り上げ、各其々のIS使いへ指示と共に檄を飛ばす。

そして、最後は全体へまたしても大きな声で檄を飛ばした。

 

――――――――――市街地へあの化け物どもを一歩たりとも入れてはならん! 者共奮起し、務めを果たせ!!かかれぇえ―――――ッ!!!

『『『ッ・・・お・・・オオォオオオォォオ―――――!!』』』

 

『『『≪!!?≫』』』

 

春樹の檄に対し、出鼻を挫かれて負け犬ムード一色の駄々下がりの士気に成り果ててしまっていたEOS隊員達の心へ再び焔が灯る。淀んでいた瞳に光が戻る。

此れに機械でありながら度肝を抜かれたのは、今まで優勢を誇っていたゴーレム達だ。彼女達は息を吹き返した志士達に面を喰らったのか、ほんの一瞬だけフリーズを起こしてしまう。

・・・其れが全くの致命的な結果に繋がるとは思いもせずに。

 

さて、戦場へ文字通り羽を広げて舞い降りた一騎当千万夫不当の銀飛竜の雄叫びにより、防人達はうら若き戦乙女達と共に無機質な表情を晒す鉄人形共へ駆けて行く中。全体へ指揮と檄を飛ばした当の銀飛竜は何をするのか?

 

―――――「≪A”あ”ア”AaAッ!!≫」

「ッチ・・・阿”ぁッ、ホントに糞ッ垂れがぁあ! 威力抑えめにせんとフルパワーでやりゃ良かった!!」

 

無論、彼は粉塵を振り払うと共に青白い焔の斬撃を飛ばして来た歪な白騎士の相手をしなければならない。

春樹は其の飛んで来た斬撃を八つ裂き光輪を放つ事で相殺する事に成功するのだが―――――

 

「≪A”aAッ!≫」

「い”ぃ!?」

 

なんと、青と赤の炎が交わった瞬間。白騎士は其れらを迂回し、瞬時加速と共に春樹へ迫ったのだ。

普段では考えられない迅速な行動に思わず春樹の表情が驚きに歪むが、彼とて数々の修羅場を潜って来た訳ではない。

振り被った白騎士の刃を防がんと春樹は咄嗟に六枚羽の片翼で自らを包んだ。

 

バッキィ!!

「ッ、うっそぉ!!?」

 

ところがどっこい。

振り抜いた刃を防ぐ事は出来たものの、片翼は安いアクリル板の様に割れたのである。

 

「≪A”AAAAAAッ!≫」

 

此れに気を良くした白騎士は更に攻撃を加えんとしたのだが・・・

 

「―――――清瀬流対決術・るろうノ型悪一文字式・・・『二重の極み』!!」

 

ゴッキャバッキィ!!

「ッ、≪A”じゃbAAAAAぁアアッ!!?≫」

 

振り向き様に一発・・・いや、一発で連撃の威力を持つ打撃が白騎士の腹部を襲い、彼は奇声染みた嗚咽音を上げて後退した。

 

「テンメェ、此の糞野郎・・・ッ! ようも・・・ようも俺の琥珀ちゃんに傷を付けてくれたなぁ! ぶっしゃいてやらぁ!!」

 

ガチガチッと歯噛みをしてギョロリと春樹は金眼四ツ目を切先鋭く白騎士へ向けると両腕のレーザーブレードを顕現させる。

彼としては暴走状態にある白騎士は一夏を速やかに鎮静させ、さっさと暴れるゴーレム共を駆逐したかった。

しかしだ。先程の一夏からの一撃によって考えが変わったのである。

先の一撃により、一筋縄ではいかないと相手だと確信し、尚且つ自身の愛機に傷を付けた輩をただボコるなど以ての外。

氷結弾で動きを鈍らせた後でハーケンのワイヤーでふん縛ろうと思ったが、もう今は違う。

テロリストを捕縛する作戦を道半ばで台無しにする切欠を作り、更に味方である筈のEOS隊員達へ傷を負わせた。到底許せる所業ではない。

 

「―――――見つけたぞ、ギデオン・・・いや、キヨセ・ハルキ・・・ッ!!」

 

「≪・・・Aぁ?≫」

 

そんな状況下において、奥歯を鳴らす春樹の背中を見つけて嬉々なる声を発する人物が現れる。視線を移せば、其処には煤ぼけた焦げ臭い暗い青の装甲を身に纏った”黒揚羽蝶”の様な黒騎士が居た。

 

「決着・・・決着を、決着をつけるぞ・・・! お前と私の・・・・・ッ!」

 

だが、一目で解るぐらい既に息も絶え絶えで、吹けば飛ぶ様な悲惨な状態である。

其れでも彼女は漸く会う事が出来た愛しい怨敵に口端を吊り上げて大業物を構えて見据えた。

 

「・・・・・」

「≪Aぁ・・・≫」

 

けれども・・・けれども男は決して彼女の方を見る事はない。其れ処か、自らの機体と身体を焼いた白騎士さえも最早死に体の彼女に興味はなかった。

 

「おい・・・おい・・・・・おい! どうしてこっちを見ない? 私・・・私は、ここにいるんだぞ! 貴様との決着を着ける為に・・・!!」

 

「・・・・・無駄じゃ」

 

泣きベソをかく童の様に静かに喚く黒騎士へ春樹は溜息にも似た呟きを発する。

 

「な・・・なに?」

 

「無駄、と言うたんじゃ。もうお前さんは戦える様な身体じゃなかろうが。上体を起こしとるのも辛かろうに・・・」

 

「ッ・・・ふ、ふざけ・・・ふざけるな! こちらに目を向けないで・・・私を見ないで、なにが・・・なにがわかる?!」

 

彼の発言が癪に障ったのか。手元の大業物を振り上げ、黒煙混じりの限界稼働ブースターを噴かして春樹へと迫る黒騎士。

 

ズドドドッン!

「なッ・・・ぁ!!?」

 

ところが其の瞬間に三発の銃声が響き渡った。

ノールックで構えられた白銀の回転式拳銃から放たれたであろう其の三発の銃弾は、黒騎士の得物を持つ両手とブースターに直撃するや否や、大きな氷柱となって其れらを凍結させたのである。

普段ならば此れぐらいの攻撃など難なく防ぐ事が出来たろう。しかし、意識が朦朧として気力だけで立って居るだけの彼女には荷が重かったのだ。

 

「い・・・・・いやだッ・・・わ、私を置いて行かないで・・・・・! 貴様まで、私を置いて―――――」

 

ズドンッ!!・・・と再び響いた銃声の後、黒騎士の頭部に炸裂した氷結弾頭は、またしても大きな氷の塊となって其のまま地面へと落ちて行った。

 

「・・・≪AaぁアあAぁA!!≫」

 

其れを合図としたか。白騎士は人の声とも機械音ともとれる雄叫びを発しながら大太刀を引っ提げて春樹へ突っ込んで行く。

だが、そう何度も此の戦法が効く訳ではない。

 

「だから・・・なしてオメェは、そういつも単調なんじゃボケェ! まぁ、其の方がありがたいんじゃけどな!!」

 

彼は氷結弾が再装填されたリボルバーカノンを構える。

戦場で無敵を誇ると言っても結局の所、中身はあの一夏なのだ。

あまりにも感情的で直情的なワンパターンの戦法しか扱わない・・・いや、扱う事しか出来ないあの男なのだ。

だからこそ、彼との戦闘経験が何度もある春樹は距離をとって闘う方法をとる事にした。何故なら流石の春樹でもそもそもの機体である白式の単一能力『零落白夜』を真面に喰らうのは荷が重いからである。

そういう事もあり、春樹は再びズドンッ!!と撃鉄を打ち鳴らした。

 

だが・・・彼は大きな勘違いをしていたのである。

いくら機体の中身があの一夏であっても今現在進行形で春樹が相対しているのは、あの『白騎士』なのだ。

 

「≪ぁAaアア!≫」

「ッ、はぁ!?」

 

銃弾が直撃する一歩手前、白騎士は”直角”に急旋回したのである。しかも其れも縦横無尽に何度も何度もだ。

 

「≪A”A”A”aa―――――ッ!!≫」

「おっわ!? テンメェ此の!!」

「≪A”Aaッ!≫」

 

そんな予想だにしていなかった動きと其処から放たれる斬撃に苦しめられる春樹。

されども彼は負けじと近接武装を展開するが、幾分と其の武装と云うのが両腕にあるレーザーブレードとMVS鉈なのだ。

・・・白騎士の扱う太刀と比べると大分リーチが短い。

 

「≪AAAAAAAAAAA!!≫」

 

「白い癖に『狂スロット』みてぇな声を出すんじゃ―――――

「≪A”A”あ”A”A”ア”ア”!!≫」

―――――ぃいいッ!!?」

 

近距離武装のリーチが短い為に近付こうとするが、そうはさせまいと白騎士は斬撃の幕を張って近付けさせまいとする。

逆に距離をとって戦おうとすると瞬時加速やらで一気に迫って来るもんだからやりにくいったらありゃしない。

・・・・・なので―――――

 

「ッ・・・ダメバナの分際で調子に乗るんじゃねぇ!!」

 

「≪A”?!≫」

 

春樹はあの二丁拳銃を左右掌へ顕現させる。炎と氷の自動拳銃と回転式拳銃を。

 

「クトゥグア! イタクァ! 銃身仕る!!」

 

白銀を前に赤銅を後ろにした構えをした後、春樹は一気に白騎士との距離を詰めた。

本来ならば飛び道具の距離である中距離をとるが、逆に彼は瞬時加速を使用して白騎士の目の前へと現れ出でたのだ。

 

「≪AAAAAAAAAA!!≫」

 

勿論、白騎士は目にも止まらぬ速さで攻守を併せ持った斬撃の幕を張り巡らせる。

 

「≪A”A!?≫」

 

ところが、ガギィイン!!と振るわれる白刃を制止させたのは、割れたアクリル板の様なヒビを負った蒼穹の六枚羽(ウィング・スラスター)

此の一撃によって完全に片翼の翼骨へ刃はガッチリ喰い込むが、此れで動きは止める事が出来た。

 

「―――――懺悔しろ!!」

「≪Aあ”aAア”アあ”あア”!!?≫」

 

ズダダダダダンッ!!と炸裂する超高熱と氷点下の弾頭達。

其の容赦のない攻撃によって白騎士は今までにない程のダメージを負い、聞くに堪えない断末魔を上げる。

 

「清瀬流対決術・機神ノ型四式・・・『アトランティス・ストライク』―――――ッ!!」

 

そして、ダメ押しの一撃と言わんばかりに瞬時加速で馴らした踵蹴りを頭部へ落としたのだ。

 

「≪A”Aぁア”アAaaァああ”あ”ああ―――――ッ!!≫」

 

容赦はおろか躊躇いもない・・・いや、なさ過ぎる余りにも無慈悲な一撃に再び断末魔を上げた白騎士は、其のまま積まれたコンテナをボウリングのストライクの如く薙ぎ倒して行った。

 

「ハァ・・・ハァ・・・畜生ッ、手間かかせよってからに畜生め!!」

 

もがれていない片翼で何とか姿勢を保ちつつ、春樹はもがれて宙ぶらりんとなっている片翼を撫でる。

 

「御免・・・御免なぁ、琥珀ちゃん。俺が未熟なばっかりに・・・!」

 

〈謝らなくても良いわよ、春樹。すべてを利用して勝利を掴む・・・『柱の明夫』だって言ってたじゃない〉

 

「・・・破破ッ、ありがとうなぁ。其れだけでもちぃとばっかし楽になるわね」

 

愛機である琥珀に慰めて貰った春樹は、「さてと・・・」と言いつつ噴煙が未だ上がるコンテナの残骸達へ目をやった。

 

「≪A”A―――――ッ・・・!≫」

 

さすれば瓦礫を押しのけて舞う塵芥を振り払う白い甲冑を身に纏った騎士が居るではないか。

そんな輩に対し、「・・・糞ッ垂れぇ・・・・・!」と云う言葉を春樹はグッと飲み込んで、確実に相手を完膚なきまでに打倒する為の技を構える。

 

「フルパワーじゃ・・・くたばりやがれ!! 晴天極夜』!!!

 

腕を十字に組んだ必殺必滅の奥義。

フルパワーの此れを喰らって無事だった者はいない。

 

ザッビャァアアアアアア―――――!!と紅白の稲妻が白い騎士に向かって飛んで行く。

 

「≪・・・AA”?≫」

 

其の自分に迫り来る必殺光線に白騎士は何を思ったのか?

 

「≪k・・・kい、yOセ・・・・・きヨ、せ・・・キヨセ! キヨセぇえええええ―――――!!≫」

 

〈ッ、春樹!!〉

「へ?」

 

今まで人語を話していなかった白騎士が初めて言葉らしい言葉を発した事に琥珀はある種の危機を感じ取り、春樹へ注意喚起を促す。

・・・しかし。

 

「≪キヨセェエエエエエ―――――!!≫」

ズッシャアアアアアア―――――!!

「ッ、何ィイイ!!?」

 

何と白騎士は左腕へ鋭い零落白夜のエネルギー爪を顕現させるや否や、向かって来る破壊光線を切り裂いたのである。

まさか、一体誰が必殺光線を自らの鋭い爪で切り裂いて来ると予想出来たであろうか。白騎士は其のまま自らに降りかかる赤光をチーズの如く切り裂くや否や、愛刀の刃へ青白い焔を込める。

そして、其のまま―――――

 

「≪セイヤァアアアアアッ!!≫」

ズッシャアアアアアア―――――!!

ゲぎぃいえぇえエエッ!!?

 

―――――十字に組んだ左腕を弾き飛ばす。

弾かれた左籠手は丸焦げとなって、焼けた肉の臭いが漂った。

 

〈春樹ぃい!!〉

 

「≪チェストォオオオオオ―――――!!≫」

う”ギぃッ・・・畜生がァア!!」

 

更に白騎士はトドメと云わんばかりに逆袈裟斬りを振るうが、春樹は此れを何とか高速切替で顕現させたMVS鉈で防いで斬撃の向きを変える事に成功する。

けれども、其の衝撃を押し殺す事は出来なかったのか。彼は弾むゴムボールの様にあっと言う間に後方へ吹き飛ばされ、ドグォオオオ―――――オオッン!!と今度は自分の方がボウリングのボールになってしまったのだった。

 

「≪ウォオオオオオッ!!≫」

 

宿敵たる狂戦士を屠った事に白騎士は勝ち誇った様な雄叫びを上げる。

其れは白騎士自身の声だったか。其れとも・・・・・

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

―――――〈・・・き・・・・・るきッ・・・は、るき・・・春樹!!!〉

「・・・阿”・・・・・ぁッ・・・」

 

まるでブリキの玩具を散らかしたの様に散らばったコンテナの中で、琥珀は自らの纏い手たる男の名を呼ぶ。何度も何度も何度もだ。

しかし、名前を呼ばれている当の本人は呻き声と悪夢にうなされるかの様な上擦った声を上げるばかり。

 

「ま・・・まさか・・・こ、こねーな事になるなんて・・・ッ・・・」

 

若干焼け焦げて黒ずんだ銀兜と面当を脱ぎ捨てて出て来た彼の表情はとても土気色で、幾つもの球の様な汗がタラりと額や頬を伝う。

更に眼差しも何処を見ているのか解らない虚ろな瞳をしているではないか。

 

〈(む・・・無理も、無理もないわ。よりによって・・・よりによって、暴走しているとは言ってもあの織斑 一夏に自慢の晴天極夜を破られたのよ。今まで積み重ねて来た自信と誇りが尽く砕け散った・・・とてもショックな事だと思うわ)〉

 

現状の春樹は、傍から見てもどう見ても戦える精神状態ではない。十人が十人、彼を再起不能と判断するだろう。

 

〈(・・・でも!!)〉

 

琥珀は知っている。今まで春樹がどんな状況の中でも反骨精神を磨いて来た事を彼女は知っている。

 

「―――――テンメェ・・・此の野郎ッ!!

 

春樹は思い出す。最初の最初の最初の頃に織斑 一夏へ、あの”人喰い”が”無礼な豚”と呼ぶ男へ向けた感情を思い出す。

 

ヴェろ”ぉお”ぁア”ア”ア”ああアア嗚呼ぁアア

 

自らの平穏を平然と奪い去った下郎に対する逆ギレ逆怨み甚だしい『憤怒』を思い出したのだ。

 

〈・・・・・春樹・・・〉

 

しかし、そんな彼へ琥珀は酷く落ち着いた声色で語り掛ける。

制止されるのだろうと思ったのか、春樹は金色に燃え上がる瞳をカッと四白眼した。

 

―――――ところがどっこい。

 

〈いっちょやってやるわよ!〉

「ッ・・・阿破破破!!」

 

勝気な声を張り上げた彼女に対し、春樹はあの奇天烈な笑い声を上げた。

 

〈あなたの怒りは、私の怒り。あなたの憤りは、私の憤り。あなたの憎しみは、私の憎しみ。目にもの見せてやろうじゃない! それに・・・春樹の事を度外視しても私もいい加減あの”機体”にはムカついて来たから!!〉

 

「破破破ッ! 途中から何言ってんのか解らんようなったが、兎にも角にも良し!!・・・じゃけど、手筈は? ブチ回された御蔭で肋骨はたぶん折れとるし、左腕に至ってはコネクターごと焼かれて砕かれとる。正直云うて左手の感覚がねぇでよ」

 

最強技である晴天極夜には弱点があった。其れは発動に両腕を組合さなければならないと云う点だ。

先の白騎士の斬撃により、左腕の籠手ごと骨と筋肉を焼かれて砕かれた。此れではスペシウム光線が撃てない。

 

「後ん事は皆に任せて、此のまんま野郎に抱き着いて自爆するか?」

 

〈ダメよ。それに手筈ならあるでしょ?〉

 

「阿ん?」

 

〈切り札ってもんは、最後まで取っておくのが切り札なのよ!〉

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「≪Aa―――――・・・Aaa―――――・・・ッ≫」

 

今まで苦い思いをさせられて来た怨敵に一矢報いた白騎士は大きく肩を揺らして振り向いた。

其の歪な兜目の先で繰り広げられているのは、鋼の乙女達と護国の防人達を率いる若き戦乙女達の戦火の数々。

 

「≪・・・Aaa―――――ッ!≫」

 

白騎士は歩もうとする。敵を駆逐する為に、敵を屠る為に、敵を倒す為に・・・敵を殺す為に。

しかし、彼・・・いや、”彼女”?にとって『敵』とは何か? 其れは、”生体反応のある者”全てだ。

其れ故にゴーレムだろうが、EOS隊員だろうが、IS専用機所有者だろうが、一般人だろうが、男だろうが、女だろうが、子供だろうが、老人だろうが、何だろうが、 邪魔する者は全て敵だ。自身を、”彼”を傷付けようとする者は全て敵だ。

ヤラれる前にヤラなければいけないのだ。

 

 

 

 

 

―――――「おいおいおいおいおいおいおい・・・もう勝ったつもりでおるんか? 此の俺によぉ~?」

 

「≪A・・・ッ?≫」

 

だが、さぁ此れから自分以外の何者も殺戮して破壊してやろうと意気込む白騎士を呼び止める者が一人居た。

振り返ってみれば、其処には黒く焦げた銀の鎧を身に纏う片翼のもげた戦士が何とか宙に浮いている。

 

「残念じゃけど・・・俺ぁまだ生きとるのよぉ?」

 

兜を脱いだ素顔のままで口端を吊り上げる春樹だが、どう見ても其れは虚勢の笑顔であった。

満身創痍のズタボロで呼吸も浅く、鼻の片穴から垂れる鼻血は滑稽にも見える。

 

其の無様とも云える姿に白騎士は「≪・・・A”ッ!≫」と呟く。

まるで、鼻で笑うかの様な仕草だ。まるで、あの時黒騎士に「あなたに力の資格はない」と云っている様であったのだ。

 

「阿ぁッ、糞・・・舐めやがって。じゃけど・・・そうじゃよなぁ。癪じゃけど、随分と癪じゃけど・・・あぁ、強い。お前さんは強いよ。認めたくねぇけども認めるわ・・・オメェは強い!」

 

「じゃけどなぁ!!」と彼は腰へある物を顕現させる。其れは、魔除けの朱い鞘へ納められた銅銭鍔に天正拵えの一振りの三尺太刀であった。

春樹が其れをスラリと抜刀すれば、星明かりによって刀身がいぶし銀に輝く。

 

「IS統合部の皆が打って下さったもんじゃ。本来味方である野郎相手に向かうもんじゃなかろうが・・・致し方無し」

 

そう言って彼は琥珀の新武装である『MVSS』・・・メーザー・バイブレーション・サムライソードの刃へ超高周波振動を起こす。さすれば、いぶし銀の刃は鞘と同じ朱色に染まり上がった。

しかし、唯の其れだけで戦況を覆す事が出来ようか?

 

〈出し惜しみはなし! いくわよ、春樹!!〉

「応ともよ! ウィングスラスター並びに各種装甲、パージ!!」

 

覚悟が籠った声と共に破損した六枚羽と焼け焦げて凹んだ装甲版が外れる。すると触手の様なコンセントプラグが、鯨の尾びれが模られた心臓部から伸びるや否や、其れがグサリッと背中に突き刺さった。

さすれば身体へ残った銀の具足が、紺よりも更に濃い黒色に見える程の暗い藍色へ・・・勝色へ染まる。

 

 

ドグンッ・・・ドグン・・・ドグン・・・

「〈『人機一体・戦衣【琥珀】!!!』〉」

 

「≪ッ!!≫」

 

様変わりした春樹の纏う琥珀の姿に白騎士は驚いた。

胸へ光るカラータイマーが赤く点滅する満身創痍のボロ雑巾の様な姿にも関わず、彼女の中の警告アラートがけたたましく鳴り響いたのだ。

 

「―――――現状で三分しかもたんけん、さっさとやるでよ。清瀬流対決術・応用ノ型!」

 

命の水(ウシュクベーハー)、セット!〉

「『戯曲・藍衣の王』!!」

 

「≪ッ!?≫」

 

バシュッと白騎士の視界から消え失せる春樹。

ハイパーセンサーでさえも捉え切れない其の速さに驚くのも束の間、彼女の背後へ得物振り被った春樹が現れる。

 

「≪・・・Aaa!!≫」

 

けれども、其れを読んでいたか。白騎士はカウンターとばかりに太刀を振るう。

さすれば斬撃は其の姿を捉える事に成功するのだが・・・

 

「≪ッ、Aa!?≫」

 

捉えた筈の姿が、霞となって消えたのである。

其の質量を持った残像に気を捉えられた事で実像は白騎士の裏の裏で刃を構えた。

 

―――――「風は虚ろな空を征く」

ズジャシャシャァアアアアアッ!!

「≪SYEEAaa―――――ッ!?≫」

 

刹那の瞬き間、純白の身体へ縦横無尽に紅の一閃が何度も何度も通っては、装甲を斬り裂く。

白騎士は一瞬何をされたのか理解不能だった。自分が切り伏せた筈の敗者に身体を斬り刻まれているのだから当然と言えば当然だ。

 

「≪キ・・・キヨセェエエエエエッ!!≫」

 

勿論、白騎士とていつまでも俎板の鯉でいるつもりはない。

相手の移動速度と斬撃角度から次に春樹が来る位置を想定して零落白夜のエネルギー爪と太刀を振るう。

 

―――――〈声は絶えよ、歌は絶えよ〉

ザッシュゥウウァアアアアアッ!!

「≪GIIIII―――――ッ!?≫」

 

しかし、春樹と琥珀は其の上を征く。

白の斬撃と斬撃の間を縫って、赤の斬撃が装甲とシールドエネルギーを確実に抉り穿ち削る。

 

―――――〈涙はッ!〉

――――― 「流れぬまま枯れ果てよ!!」

 

斬ッ!!

「≪GAッ・・・aaA・・・・・ッ!!?≫」

 

そして、一刀両断の刃によって遂に白騎士は身体を大きく跳ね上げて力なく地上へ落下していくのであった。

 

「・・・・・がッッフ!!

 

斬撃が決まったにも関わらず、血を口と鼻から吹き出す春樹。

流石に色々と身体に負担がかかった上で強化状態を使用したが為に限界が来ていたのである。

 

〈春樹!〉

「大丈夫・・・大丈夫、じゃけん・・・!」

 

ゆっくりゆっくりと地上へ着陸すると両膝をついて大きく溜息を「はぁ~~~・・・ッ」と吐き漏らす。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁッ・・・・・さ、酒飲みてぇー・・・」

 

情けない声を呟く春樹。

すると粉塵の靄の中から彼を見る目があった。

 

「≪キッ・・・きキ・・・・・キヨセッ・・・!≫」

 

何と未だ白騎士は自我を保っていたのである。何としぶとい機体だろうか。

そんな斬撃によって歪さが増した白騎士は、肩を落とす春樹の背中へ向かってブースターを噴かした。肩へ斬首刀を振り被って。

 

「≪キヨセ・・・・・きよせ・・・清瀬ぇええッ!!≫」

 

宿敵の名を呼びつつ、白騎士は愛刀たる雪片を凄まじい勢いで振るう。其の威力は、ISの絶対防御があろうと首を切断するなど容易いものであった。

「勝った!」と白騎士は確信する。

 

「・・・・・此の刀の名前が決まったなぁ」

 

其の確信と同時だったか。何故かそんな事を春樹は呟いた。

彼の云う刀とは、朱鞘へ納めた新武装の事だ。けれども何故に今、刀の名付けを呟いたのだろうか?

 

「≪・・・・・・・・A・・・?≫」

 

白騎士は疑問符を浮かべた。

ザシュリッ!!と物を斬った効果音がしたにも関わらず、鮮血が散ったにも関わらず、刃を向けた相手である春樹の首は線香花火の最後の火種の様に地面へ墜ちていなかったからだ。

 

其の代わり・・・ひゅんひゅん音を発した後にザクッと地面へ突き刺さる音が木魂する。

音のした方へ視線を向けば、其処には右腕だけがぶらりと太刀の柄を掴んでいたのだ。

 

「≪A・・・? AA・・・A”A”A”aァア嗚呼あ”あA”A!!!??≫」

 

其処で漸く白騎士は自分の右腕が斬り落とされた事に気付いたのである。其の瞬間に叫ばれた断末魔の聞くに堪えない事と云ったらキリがない。

 

「仕掛けて来たのは其方側。俺は降りかかる火の粉を祓ったのみ」

 

春樹は刀から白銀の回転式拳銃へ高速切替をし、撃鉄を起こしつつ銃口を白騎士の頭部へ向けた。

 

「≪Aぁ・・・あな・・・あな、た・・・・・・あなたは・・・いったいッ・・・?≫」

 

譫言の様に呟きながら彼女は春樹へ残った左手を前に迫って行くのだが―――――

 

〈・・・下がりなさい。この出無精者〉

 

「≪え・・・・・?≫」

 

〈いくら貴女が”最初”でも・・・あまりにも過ぎたる無礼。神妙にしなさい〉

 

琥珀が其れを制止させて動きを止めたのだ。

其の愛機の働きに纏い手たる春樹は歯を見せて呟いた。

 

「理想を抱いて、秋の夜長へ沈んじまえ」

 

ッダ―――――ン!!

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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