IS/Drinker   作:rainバレルーk

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第187話

 

 

 

『清瀬 春樹』

言わずと知れた世界で二番目に発見された男性IS適正者である。

当初、彼は世界初の男性IS適正者たる織斑 一夏の付属品やらオマケやらとぞんざいな扱いを受けていた。

 

―――――しかし、其れも今や昔の事。

『ゴーレム事件』において、動機不明の襲撃をかけて来た所属不明無人IS機体を撃破。

『VTS事件』において、国際違法システムによって暴走状態となっていたドイツ第三世代型専用機を鎮圧。

『銀の福音事件』において、外部からのクラッキングによりコントロール不能となった軍用IS機体を鎮圧。

『文化祭襲撃事件』において、要人誘拐の為に学園へ侵入していたテロリスト達を撃退。

『キャノンボール・ファスト襲撃事件』において、専用機所有者を標的として襲来したテロリストを撃退。

『ゴーレムⅢ事件』において、再び専用機所有者を標的とし、戦力を増強して襲来したテロリストを撃退。

『ワールドパージ事件』において、外部からの強制クラッキングでシャットダウンした学園のシステムを復旧させ、混乱に乗じた不法侵入者を撃退。

『体育祭』において、前線へ躍り出る事のない後方指揮によって学園へ長期間潜伏していたテロリストを捕縛。

そして、『修学旅行襲撃事件』において長らく日本へ潜伏して勢力を強めていた国際テロ組織を特殊機動隊と共に撃退し、組織内において重要な戦闘員二名を捕縛。

 

更に技術面においてもIS統合対策部とデュノア社との共同開発によって製作された第三世代型IS『ランスロット・リヴァイヴ』の開発にも着手し、其の難航さから敬遠されていたEOS開発にも乗り出し、既存の機体性能を大きく上回る新型機体までをも開発したのである。

 

そんな今や其の筋では麒麟児との呼び声高い男は今―――――――

 

「・・・・・長谷川さんなんてキライじゃー」

 

部屋の隅っこで口元を酷くへの字に曲げてうずくまっていた。

 

 

 

 

 

 

京都の一件から三日後。

検査入院の呪縛から解き放たれた春樹が連行されたのは、警視庁の地下深くに建造された特別な者しか入る事が許されていない留置所であった。

 

「あぁッ・・・もう、確定演出じゃがん・・・畜生!」

 

こんな所に来る前から嫌な予感しかしていなかった春樹は、此れから会う人物が自分にとって、とてもとてもとても厄介な人物であろうと推理していた。

そして・・・・・其の予感はモノの見事に的中してしまうのである。

 

「・・・・・」

 

マジックミラーの外側の部屋。

其処には、ジットリ澱んだ眼を目の前のテーブルへ向ける白の拘束着と犬の矯正器具の様なマスクを装着した”黒髪の少女”が鎮座していたのだ。ある”人物”によく似た黒髪の少女がだ。正確には”世界最強のブリュンヒルデ”にだ。

 

「―――――糞ッ垂れ!!」

 

春樹は絶叫した。部屋に入るなり、少女の顔が見えるなり、彼は怒鳴り上げた。

幸いにも室内は特殊な防音が施されている為に隣へ声は届いてはいないが、同じ部屋に居た長谷川達の鼓膜を震わすには十分だった。

 

「解っとった、解っとったよ。じゃけど、じゃけど・・・おいおいおいおいおい、勘弁して下せぇや!」

 

眉間に深くシワを刻みながら春樹は長谷川を責め立てる。

だが、其れに対して長谷川は申し訳なさそうに「すまない」の一辺倒。一方の春樹の方は長谷川側の事情をなんとなく理解できてしまった為に其れ以上の怒声は上げなかったが、部屋の隅で壁際へ向いてうずくまってしまった。

 

「畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生・・・ッ」

 

「き・・・清瀬くん、大丈夫?」

 

ぶつくさと恨み言を呟く春樹を心配するのは、長谷川の秘書官である高良である。

彼はいじける春樹の肩を叩きながら「まぁ、これでも飲んで元気だしてよ」とある物を差し出した。

 

「阿? 元気なんて出る訳ぁないで・・・・・って、何ィイイ!!?」

 

春樹は其の差し出されたある物に釘付けとなる。

正確に言えば、彼は其のガラス瓶に釘付けとなった。春樹の金色の右眼よりも明暗濃い琥珀色の液体で満たされたグラマラスなボトルに一瞬で魅了されてしまったのである。

 

ボトルへ張られたラベルにはあるアルファベットが印字されていた。

MACALLAN』と。

更に其のアルファベットの羅列の下には英数字でこう刻まれている。

30』と。

 

「ま・・・まマ、ままま・・・マッカら・・・ッ!!?」

 

じゅるりッ」と春樹は溢れ出るよだれを垂らしつつ、鼻息荒く立ち上がると共に目にも止まらぬ速さで一気に長谷川との距離を詰めた。

 

「は、はは、はせ、はせがわ・・・長谷川さん!! 此れはッ!!」

 

「あ、あぁ。そうだ、そうだとも。M・A・C・A・L・L・A・N・・・マッカラン。あの名門中の名門、ザ・マッカランのスコッチウイスキーだ。それもシェリーオークの30年物。証明書だってある」

 

「ッ、シェ・・・シェリーオーク!? さ、さん、三十年もん!!?」

 

近年稀にみる動揺っぷりを露呈する春樹。だが、彼が此処までの醜態を晒すのも無理はなかった。

彼の両腕に抱かれたスコッチウイスキーは、正に憧れの品物であったからである。

 

『ザ・マッカラン』

ウイスキー愛好家は勿論、ウイスキー初心者でも其の名を耳にした事がある英国スコットランド北部のハイランド地方にあるスペイサイド地区で蒸留される高級スコッチウイスキーの名門。

其の製法とこだわり抜かれた完璧さと気品ある味わいから『シングルモルトのロールスロイス』と讃えられる一品である。

其れも三十年物の一品。百万円を出したって買えるかどうか怪しい代物だ。

そんな手元にあるのだ。両眼が金ぴかバッキバキになってもしょうがない。

 

「あと・・・これは先の一件での報酬だよ」

「へ?」

 

そう言って高良が春樹の目の前へ置いたのは、異様なオーラを纏った段ボール。

其の中身を覗き込んだ春樹は、思わず口の中一杯に溢れる生唾を呑み込んだ。

 

「渡すのが先送りになっていた前金と成功報酬を合わせた分が、”レンガ”二個と”コンニャク”八個。其れに追加報酬でレンガが二個・・・・・意外と地味に重かったよ、清瀬くん」

 

今まで見た事のない段ボールの中身と匂いに春樹は思わず「・・・・・おぇッ!」と嗚咽を漏らして其の場に尻餅をついてしまう。

けれども高鳴る動悸と引き攣る口端を無理矢理に抑えつつ彼は二つの越界の瞳で長谷川を見通す。

 

「・・・えッ・・・・・多く、ありまひぇん?」

 

「いや、当然の報酬だ。これが清瀬君、君に対する評価の形と受け取ってもらっても構わない」

 

「・・・うへぇええッ」

 

連続で巻き起こった余りの出来事に春樹は気が抜けた声を出してしまうが、何とかグッと堪えて目を三角にする。

 

「俺に・・・どーせぇと?」

 

「情報を引き出して欲しい」

 

「無茶言わんでくださいや!」

 

春樹はシンプルだからこそ難しい御題に表情を歪ませる。

しかし、長谷川とて一歩も引く気はないようで、口をへの字に曲げた彼に事情を話し出す。

 

「実は、彼女は難しい立場なんだよ」

 

「そうでしょうよ。国際過激派テロ組織の戦闘員で、未成年で、専用機が英国から強奪した機体で、しかもブリュンヒルデの複製人間の疑いもある。・・・・・長谷川さん、せっつかれてるんですね」

 

「清瀬君・・・君は聡いね、本当に聡い。そうだよ・・・そうなんだよ! 正直言えば、本当に面倒臭い! どうしてあんなの捕まえちゃったんだよ、清瀬君!!」

 

「そねーな事言うたって、しょうがないでしょうがッ! 撃墜しちまったもんを今更どーこー言わんでくださいや!!」

 

「二人とも言い争ってる場合ですか?! 色々と時間がないんですよ、本当に!」

 

ほぼ泣きべそ状態の二人に対し、これまた困惑顔の高良が叫ぶ。

其れに春樹は大きく溜息を漏らした後、一旦状況を整理する為にマッカラン三十年物の蓋を開けた。

 

「んッ・・・ンヒィイいい!!? うみゃ、みゃッ・・・ウンまぁアア―――――いいい!!!」

 

風情のない紙コップへ注がれた琥珀色の『命の水(アクア・ヴィテ)』に春樹は歓喜を上げる。

普段は千円前後の低価格酒類で酔いを楽しんでいる飲んだくれの吞兵衛のへべれけ大蟒蛇にはあまりにも強烈だった様で、舐める様に飲んだたったの一口で恍惚の表情を晒し上げてしまう。

其のとても十代の高校生がするべきではない表情に長谷川と高良は「「うわぁ・・・」」と口をへの字に曲げた。

 

「清瀬君・・・ほどほどに、ね?」

 

「解っとります。そんでもって、どういう状況で? 高良さんが、さっき時間がねぇって云うとりましたけど・・・やっぱり、ありゃあ国連の方が預かるんで?」

 

「あぁ、そうだよ。彼女の捕縛に対して、専用機を強奪された英国ならびに軍用施設を襲撃された米国が引き渡しを要求してね。それに乗っかる形で、今までファントム・タスクの被害に遭った各国も声を上げたという訳だ」

 

「そんで、漁夫の利の如く国連が搔っ攫うツー訳か・・・まぁ、妥当じゃろうね。其の引き渡しのタイムリミットまでに日本政府は各国よりも有益な情報を引き出したい訳ですな」

 

「本当に話が早くて助かる」

 

「じゃけど・・・なして俺なんすか? 日本警察はとっても優秀でしょうが。其れに・・・人権にゃあ反するが、奥の手で自白剤でも使えばよろしいんじゃないんで?」

 

お道化た様にとぼけた表情をする春樹。だが、一方で長谷川達の顔色は余計に暗くなってしまう。

 

「勿論・・・あまり大きな声では言えないが、薬物による尋問も行ったそうだ。それも更識家の専門担当者の手によってね。だけど・・・・・ハァッ~」

 

「・・・ッチ。無理じゃったと。IS統合部の人らぁに体内のナノマシンと自決用薬物を取り除いてもろうて安心、云う訳にゃあならんかったか。薬物耐性がある云うんは、面倒ですなぁ」

 

「本当にそうだよ。それに・・・・・これは、”本人”の要望でもある」

 

「はへぇ~、本人の・・・・・・・・・・・・・・・はい???」

 

長谷川の発言に春樹は鳩が豆鉄砲を食った様になり、思わず手から紙コップが滑り落ちる。

幸いにも能力が向上した反射神経のおかげで、一杯約十万円の液体を床にぶちまける事はなかったが―――――――

 

「は・・・えッ、えぇ・・・ちょ、ちょい・・・ちょいちょい、ちょい待ってッ・・・え、うぇ・・・な、なな、なしてぇん???」

 

あまりの動揺っぷりに春樹は思わず大切に飲む筈だった至高の一杯を一気に胃の腑へ流し込む。

味わう余裕など微塵もない。

 

「実は、君の前に彼女を尋問した者が居るんだが・・・一人は腕の骨を折られ、一人は指を食い千切られたんだよね」

 

「だよね・・・じゃねーですわ! えッ、大丈夫なんっすか其れ?!」

 

「幸いにも折られた腕が利き腕じゃなかったし、千切られた指の縫合手術も成功したそうだよ」

 

長谷川の話によると更識家の尋問官による取り調べが行われたのだが、其の際に今まで大人しかった被疑者が突如として大暴れし、担当していた人間を次々と病院送りにしたのだと云う。

 

「じゃけぇあねーな拘束着を・・・納得ぅ」

 

「それで、お願い出来るよね?」

 

「其れと此れとは話が別なんですが?? ツーか、なして俺? あねーな顔しとるんじゃけん、家族団らんの時間を作ってあげたらエエですが! 俺ぁもうあの血族と関わりとーないんですが?」

 

「それでも本人の希望なんだ! どんな小さな情報でも良い! お願いだよ清瀬君!!」

 

「十五のガキに頼む内容じゃねぇ!! ってか、引き渡し日っていつですか?!」

 

「明日」

 

「ホントマジでッ、おわんごじゃねぇーの?!! えッ、待って! 俺らぁもう一人、ファントムタスクの連中をとっ捕まえたんじゃけど? ソイツは?!」

 

「誰かさんの御蔭で、本当に酷い幼児退行をしちゃっていてね! 箸にも棒にも掛からないから特別警察病院へ収容されてるよ!!」

 

「マジかよッ、糞ッタレ!!」

 

どうやら先の京との一件で春樹達が捕縛したファントムタスク構成員であるオータムだが、捕まえる際に余程の怖い思いをしたのか。「あぇーうー」の喃語しか話せなくなったのである。

其れも精神科医お墨付きの幼児退行だ。

 

「え、えー・・・クッソ、マジで面倒クセぇー・・・!」

 

春樹は大きく俯いて嘆く。手柄を立てたのに何でこんな目に遭わねばならぬのだと嘆いた。

・・・しかし、其処は大酒飲み。転んでもただは起きぬ。

 

「・・・・・追加報酬は?」

 

「・・・出来るだけ要望には応えるつもりだ」

 

「情報を引き出せるかは保証しません。ツーか、出来る訳ないでしょうに・・・其れでも貰いますでよ」

 

「無論だ。元より無理を承知で頼んでいるのだからね」

 

「・・・解りました。では、条件を幾つか出します」

 

長谷川の其の言葉に春樹は大きく深呼吸をした後、徐に右眼の眼帯を外してギョロリと金色の瞳を露わにした。

 

「まずとりあえず・・・三十年物のバランタインを後で飲まして下せぇ」

 

 

 

 

 

 

 

ー◆◆◆ー

 

 

 

「・・・・・」

 

一体どれ程の時間が経ったのだろうか。

 

百鬼夜行の京の夜。

”不思議の国のアリス”によって仕立てられたドレスを身に纏い、自らに寄る羽虫共を撥ね退けた『M』だったが、今まで見下していた”白騎士”から致命傷の一撃を受ける羽目となる。

其のせいで、遅れてやって来た”想い人”との逢瀬を堪能する間もなく地に伏されてしまった。

 

悔し涙に濡れた意識が舞い戻った時、彼女がまず見たのは見知らぬ天井と医療機器。

逸早く自分が虜の身である事をMは悟るが、専用IS機体を失い、思った以上に深い傷を負った為か、敵の包囲網を無理突破する事は出来ない事は明白。

何とか持ち前の治癒能力で身体を動かすまでには回復するが、厳戒態勢のまま事情聴取が行われる事となった。

 

時間制限がある為、無茶を承知でMの担当を受け持ったのは、対暗部組織たる更識家が誇る尋問部隊。

だが、彼女とて国際過激派テロリストの戦闘員だ。昼夜問わずと行われる少々手荒な真似をされても根を上げる訳がない。

其れ処か、隙を突いて尋問官の腕を圧し折り、取り押さえようとした尋問官の指を食い千切ったのである。

此の手負いながらも大暴れする彼女に流石に困ったのか。更識家尋問官達は、『押してダメなら引いてみな』と云った風にMの要望を聞く事にした。

所謂、司法取引染みた御用聞きである。

そして―――――

 

「―――――ノックしてもしもーし」

「ッ・・・!」

 

部屋唯一の出入り口である冷たい鉄扉をノックして現れたのは、片手に魔法瓶、もう片手に歪に膨らんだビニール袋を引っ提げる金眼四ツ目のフルフェイスマスクを被ったMの想い人・・・ギデオン・ザ・ゼロこと、ウルティノイド・ゼロこと、二人目の男性IS適正者である『清瀬 春樹』であった。

彼は「よっこらっしょっと」とMの前にあるパイプ椅子へ腰掛け、ガサゴソと袋の中身を取り出す。

 

「腹減っとらん? カプ麺の自販機あったけん、適当に買うて来たけど・・・何味がエエ?」

 

「・・・は?」

 

そう言って春樹がテーブルの上へ並べたのは、世界初のカップ型インスタントラーメンであった。

 

「シーフードやらカレーやら、最近じゃとホットチリとか味噌もエエけど・・・俺ぁやっぱりスタンダードオリジナルが鉄板なのよね。あぁ、塩も美味いよな」

 

「・・・・・おい」

 

「阿? おい、まさか・・・カプ麺を知らんとか言わんよな? 此れはな、安藤 百福いうとんでもない偉人が―――――」

 

「違うッ、そんな話はしていない!」

 

「阿? あぁッ、そうじゃったな。そねーな邪魔なもんしとったら食えんわなぁ」

「ッ!?」

 

春樹の言葉と共にMはギョッとした。何故なら彼の背後からヌルッと白銀に輝く長い尻尾が現れたからである。

尻尾の先はギチギチと三つ又に分かれたアーム状態であり、其の先端がMに装着されている拘束具を解いた。

 

「ほい。俺は箸の方が使いやすいけん箸じゃけど、君はフォーク使いんせぇ」

 

困惑するMを余所に春樹は湯を注ぎ入れた二人分のカップ麺を配膳し、手腕と口が自由となった彼女へフォークを渡す。

 

ー◆ー

 

「ッ、何をやっているんだ!?」

 

此の何気ない彼の行動に固唾を飲むのは、隣の部屋でマジックミラー越しに二人の様子を見る長谷川達と前任者である更識家尋問官達であった。

けれども彼等が焦るのも無理はない。

手負いの手錠と足枷をかけられた状態で大人二人を病院送りにしたのだ。其れが拘束具を外され、更にフォークなる武器を持てばどうなるか・・・・・ゾッとする。

 

「おい! 今すぐ止めろ! ギデオンだか、ウルティノイドだか知らないがッ、素人に任せるべきじゃなかったんだ!!」

 

「待ってください!!」

 

しかし、長谷川はそんな焦る尋問官達を止めた。

無論、彼の行動に尋問官達は抗議するが、長谷川は彼等を何とかなだめて尋問を続行させるのであった。

 

 

 

ー◆ー

 

 

 

「どう、美味い?」

 

「・・・・・」

 

熱湯注いで三分経過したカップ麺を酷く荒んだ目で食べるMに語り掛ける春樹だが、勿論返答などはない。

そんな大した会話もないまま食事が終わると、さも当然の様にカップ麺の空き皿を春樹はソソクサと片付ける。

 

「・・・・・本当に貴様は、あのキヨセ・ハルキか?」

 

其の春樹の姿に対し、Mは漸く口を開く。

今まで会合して来た彼とは余りにも様子が違っていたからだ。

 

「・・・応。こねーに穏やかな状況下で会うんは初めてじゃったな。お前さんに呼ばれて、こねーな所に態々連れて来られた可哀想な男こと、清瀬 春樹たぁ俺の事じゃ」

 

テロリストを前にしながらも食後のお茶を飲みつつ答える春樹。

其の堂々たる風格といつも彼から漂って来る不思議な”香り”にMは目の前の男があの想い人である事を確信し、思わず口端を綻ばせる。

 

「そんで・・・そねーな男に何の用じゃ云うんじゃ? サイレント・ゼフィルスさんよ?」

 

「・・・・・」

 

「阿ん? おい、聞いとるんか?」

 

「・・・えッ・・・あ、あぁ・・・聞いている。聞いて、いる・・・」

 

「其れで、俺に何の用じゃ云うんじゃ?」

 

「あ・・・あぁ・・・・・わ・・・わか・・・わからない

 

「・・・阿?」

 

「わ、わからない・・・わからない、と言ったんだ・・・!」

 

Mの返答に春樹はフルフェイスマスクの下にあろう眉間へ深いシワを刻んで、大きく大きくこれでもかと「ハァ―――――???」と溜息を漏らした。

 

「わ、私・・・私は、キヨセ・ハルキ、お前に・・・お前に色々と、色々と聞きたい事があった」

 

「じゃあ聞きゃあよろしいがな。いやッ、ツーかお前さん、自分の立場解っとる? 聞くのは、尋問するんは俺の方なんじゃけどッ?」

 

「だが・・・いざ、貴様を前にした途端に言葉が・・・・・あれほど溜め込んでいた言葉が消えてしまった。それに・・・それに貴様を前にしていると心地の良い熱と共に胸へ圧迫感が大きくかかる・・・・・キヨセ・ハルキ、貴様ッ、私に何をした?!!」

 

「ッ、んなモン知るか―――――!!」

 

若干頬を薄紅色にしてモジモジするMの様子に対し、春樹は「コイツぁッ、面倒臭い!」と云わんばかりにフルフェイスマスクで覆われた頭を抱える。

 

因みにだが・・・・・清瀬 春樹と云う男は、何処かの”ダメな方のバナージ”、もとい”ダメバナ野郎”の様な固有スキル『鈍感:A』以上を保有している訳ではない。

其れ故に彼は少々だが、”人の気持ち”なるものが理解できる。其れ故に―――――

 

「キヨセ・ハルキ・・・貴様は昼と夜と問わず、私の頭の中から離れなかった。その金色の眼が私を捉えて離さず、その叫びが私の耳を奮わせてかなわない! 何なんだッ・・・何なんだ、貴様は?!」

 

身を乗り出して発する彼女の言葉が、つたない恋の詩を謡っている様に見えて仕方がなかった。

思わず春樹はパイプ椅子を蹴り飛ばし、さっさと部屋から出て行きたい気持ちで一杯になる。

けれども春樹、此れをグッと堪えた。せめてマッカラン一杯の仕事はしようと云う放棄しても一向にかまわない無駄な責任感があった。

 

「俺は・・・俺ぁ、”復讐者”じゃ」

 

「・・・なに?」

 

「俺ぁ、俺を見下して蔑んで馬鹿にしやがった連中へ復讐する為に力を振るう”リベンジャー”じゃでよ」

 

「ッ・・・そうか、そうか・・・貴様も、お前も復讐したいが為に・・・・・そうか!!」

 

「阿?」

 

下から上へ見上げる様に春樹は金の焔が零れ墜ちる四ツ目を彼女へ突き刺すが、其れがMの琴線に触れたのか。どういう訳か、彼女は何故か嬉しそうに口端を緩めたのだ。

 

「私とお前は、同一の存在だったのだな。私と同じ様に復讐を果たす為に戦う存在だったのだな!」

 

「え・・・あ、あぁ・・・う、ウンソウダヨー?」

 

思わずシリアス口調で言ってしまった厨二臭い台詞に大きく共感するMに一瞬戸惑ってしまう春樹。

しかし、何とか頑張って感情を表出さない様に持ち直して、今度は此方の番だと身を少し乗り出す。

 

「じゃあ・・・お前は何者なんじゃ、サイレント・ゼフィルス?」

 

「違う!」

 

「阿?」

 

「私は、サイレント・ゼフィルスではない。それは機体の名前だ」

 

「じゃあ、コードネームのMって呼べばエエんか?」

 

「それも違う。私・・・私の名は『マドカ』。織斑 千冬の”妹”の『織斑 マドカ』だ!」

 

「ッ、は!? お、おい・・・其れは一体どういう意味―――――」

 

 

ドワァオオオオォォオオオ―――――オオッン!!

 

・・・・・どうやら戦鬼の手中に囚われの姫騎士を救いに勇猛果敢な勇者が攻め入ったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 





・・・・・はい。という訳で今回は此処まで◆◆◆◆◆
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