「・・・うぇっぷ・・・」
同志に会えた喜びから一転して、失意の鍋底を味わった次の日。俺は胸糞の悪い吐き気と共に起きた。
辺りには数えきれんぐらいの空薬莢が転がり、俺のであろうゲロがカラシニコフちゃんと床を汚しとる。しかも、時計の針はとっくの昔に始業時間を過ぎとった始末じゃ。
幸いにも制服が汚れとらんかったけん、真面目な俺は遅れながらも授業を受けようと急ぐ。
じゃけど、急ごうにも足がもたつくし、足を進めるたびに胃液が食道を逆流する。そんなんでも、やっとこさ教室にあと一歩のところまで辿り着いたんじゃが・・・・・。
キンコーンカンコーンと無情にも午前の授業を終わらせるチャイムが鳴り響きやがった。
そして、我らが担任からの出席簿アタックが俺の頭に降されたんじゃったとさ。
終。
・・・全然、めでたくない。
◆◆◆◆◆
「あ”ぁ”ぁ”~・・・ッ」
昼休み。
いつもの木陰で春樹は、何とも言えない呻き声を唸って寝転んでいた。
辺りには二日酔いを緩和させる為に飲んだペットボトル飲料が幾本か転がっている。
「物理的にも中身的にも頭は痛ぇーし、酒はもうのうなったし、こっ恥ずかしい夢は見るし・・・散々じゃで、糞タレがぁ~」
今の彼の文句に加える事があるとするならば、春樹を見るクラスの生徒の目が入学した当初の目に代わっていたという事だろう。
ラウラに初対面で叩かれたとはいえ、八つ当たりで一夏にヘッドバッドをした事やシャルロットとの相部屋の件で職員室に怒鳴り込んで行った事は瞬く間に広まってしまい、今や春樹の評判は断崖絶壁から突き落とされたかのように急降下してしまっていた。
「・・・大丈夫?」
「あぁ?」
そんな問題児に声をかけて来たもの好きが一人。
職員室に怒鳴り込む要因を担ったニセ男性IS適正者、シャルル改めシャルロットが心配そうな眼で春樹を見下ろしていた。
「・・・誰じゃーって思うたら、君か。つーか、なんでこねーな所おるんじゃ?」
「オルコットさんから、清瀬くんがいるならここじゃないかって言われてさ」
笑顔で言葉を交わそうとするシャルロット。だが、そんな彼女に対して春樹は酷く眉をひそめた。
「(あのお喋りさんめ・・・!)ハァーッ・・・心配せんでもええけん」
「なにが?」
「誰にも、君の秘密を言い触らしたりせんよ。じゃけん、無理に俺に関わろうとせんでええ」
「別にボクはそんなつもりじゃ・・・」
「うぇ~、気持ち悪ッ・・・」
ゴロリとシャルロットに背を向ける春樹。
また胃液が逆流してきたのか、表情を苦悶に歪める。
「・・・」
「・・・あ?」
そんな彼の背中をシャルロットはさすった。まるで母親が子供を寝かしつけるように優しくゆっくりと。
「・・・ふぅー・・・」
彼女が背中を擦る事で、心地いいのかゆっくりと呼吸を整える春樹。
そして、だいぶ楽になったのか。「もういい」と言わんばかりに上げた手を振った。
「なにが目的か知らんが・・・ありがとうな。だいぶ楽になったわ」
「どういたしましてだよ」
言葉を交わす二人に心地良い風が通り抜けていく。
サワサワと揺れる枝や葉の音が耳に快い。
「・・・気持ちが良いね、この場所は」
「あぁ・・・数少ない俺のお気入りの場所じゃ。じゃけぇ、あの野郎には絶対に教えたらおえんで」
「・・・ホントに清瀬くんは一夏の事が嫌いなんだね」
「おう。嫌いじゃ、大嫌いじゃなッ」
「・・・そんないい笑顔で言われても」
苦笑するシャルロットに「ふんッ」と鼻で笑う春樹。
こうして、なんとも和やかに昼休みは過ぎ去って行くのだった。
◆◆◆◆◆
放課後。
身体から毒素を空っぽに完全ゲロし、ついに俺復活!
午前も午後も、授業では山田先生に迷惑かけてしもうたけん申し訳なかったのぉ。
でも、もう大丈夫じゃ。
持って来た酒はもうないし、飲み過ぎる事はなかろう。阿ッ破ッ破ッ破ッ!
・・・・・あぁッそうじゃった、もう酒無いんじゃった。
・・・俺は明日から何を楽しみに生きて行きゃあ良えんじゃッ? ぬおぉおお・・・ッ!!
「だ・・・大丈夫、”清瀬”? まだ具合悪い? やっぱり、僕との模擬戦やめる?」
「あ? あぁ、大丈夫。・・・ちょっと、これからの生活に打ちひしがれただけじゃけん」
「ホントに大丈夫?!」
昼休み、デュノアさんに背中を擦って貰ったお礼から放課後模擬戦をする事になった俺は第三アリーナへ来とる。
ちなみに呼び捨ては俺が許可した。名字だけだがのぉ。
意外な事に俺達の他にもアリーナを利用しとる人間はおり、皆なんか殺気立っとった。
なんで?
「もうすぐ『学年別トーナメント』だから、みんな気合が入ってるね」
「学年別、トーナメント? なんなんそれ?」
「え? あッそうか、清瀬は午前中いなかったもんね」
「あぁ?」
デュノアさんの話を大雑把に簡潔に纏めると、ペアを決めて学年別のトップを争うトーナメントをするそうじゃ。
・・・興味がないけん、話ほとんど聞いちゃあいないが。
「・・・あれ? 清瀬じゃないか!」
・・・おおっと、幻聴かな~? ついでに幻覚も”再発”したんかな~? アリーナの入口から厄介者が満面の笑みで近づいて来るでよ。
阿ッ破ッ破ッ破ッー。
「デュ・ノ・ア・さーんッッ??」
「ひぃッ!? ボク知らないよーッ!!」
オイオイオイ。
雨にうたれる子犬みたいに震える様子からするに偶然の様じゃのォ。
ホントに嬉しくないのぉー。
「偶然だな、俺達もこれから模擬戦でもしようかって言ってたところなんだよ。なぁ!」
「あ、あぁ・・・そうだな」
「・・・そうねー」
おい。ちょっと待ちぃや、織斑この野郎。
オメェ、昨日俺に頭突きされたろうが。俺、オメェに謝ってなかろうが。それなのに、なんでそねーにフレンドリーに話しかけて来るんじゃあ?
鳥頭なのかなー? ドマゾなのかなぁー?
あと・・・篠ノ之さんと凰さんがめっちゃんこ睨んで来るんじゃがー?
アレレ~? 織斑ぁ~、オメェまさか「俺達と一緒に模擬戦しようぜ」なんて言わんよなぁ~? 言うなよ~、頼むから言うなよ~!
「あらあら、うふふ」って笑うてないで、助けてやセシリアさーん!!
「俺達と一緒に模擬戦やろうぜ!」
おっふ・・・こいつホントに言いよったで、コイツ。
「午前中、授業に来なかったのは俺に頭突きした事を悔やんでたんだろ。いいんだ・・・俺は気にしてないからさ、清瀬!」
「えッ、あッおい、ちょっと!!?」
ちょっと待てやッ!
なにをテメェは、自分の良えように勝手気ままな解釈しとるんじゃ、ボケェッ!!?
オメェとは、例え夕陽の校舎で殴りおうても友情なんか芽生えんわッ!
あぁ、もう糞ッ! あんまり吃驚し過ぎて、ええように言葉が出て来ん!!
つーか、近づいて来るなッ!!
「おい」
・・・と、その時。上空から氷のように冷ややかな低い声が降り注いだ。
見上げれば、我が同志であるボーデヴィッヒさんが俺達を見下ろしていた。
「ねぇ、ちょっとアレ・・・」
「ウソ、ドイツの第三世代型だ」
「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど・・・・・」
彼女が纏っていたのは、黒をパーソナルカラーとした重厚感のあるIS。
昨日の実践授業じゃあ纏っていなかったけん、ドイツのISはどねーなもんかと思っとったが・・・カッコええのぉッ!
流石はドイツじゃ。昔から兵器類のカッコよさは抜群じゃ。
「貴様も専用機持ちだそうだな・・・ならば話が早い。私と戦え」
ボーデヴィッヒさんのISのカッコよさにうっとりしとったら、彼女はその灼眼の眼で織斑の野郎を睨みながらそう言い放った。
おぉッ・・・もし効果音が出るなら『ドドド』って感じじゃのぉ。
しかも彼女は何でか知らんが、織斑をご所望みたいじゃし・・・ここはあれじゃな、隙をば見つけて逃げるんが良えな!
ありがとう、戦いの乙女ッ! 俺、君に惚れそうじゃ!!
「嫌だ、理由がねぇよ。それに俺は清瀬達との先約があるからな」
いや、勝手に決めんな。
「貴様にはなくとも私にはある。貴様が誘拐などされなければ、教官がモンド・グロッソを二連覇出来たのは容易に想像出来る」
・・・ん?
えッ、あれ? もしかして、ボーデヴィッヒさんが織斑の野郎が嫌いな理由って・・・あの先公関係なのか?
「あんた馬鹿なんじゃない? そんなの一夏じゃなくて、一夏を誘拐したやつが悪いに決まってるじゃない」
「だとしても足を引っ張ったのは事実だ。教官が二連覇出来なかったのもな」
見るに見かねた凰さんが野郎を庇うが・・・ボーデヴィッヒさん、それを一刀両断。
な、なんてサバサバしとるんじゃ・・・素敵ッ。
「悪いが、また今度な」
「ふん、ならば・・・戦わざる得ないようにしてやる!!」
そう言ってボーデヴィッヒさんはカノン砲のようなデカい銃口を織斑に向けた。
・・・ちょっと待て、この距離だと俺も巻き込まれるじゃん!?
「この野郎ッ!!」
ドガッ!!
「うげッ!!?」
『『『なッ!!?』』』
俺は咄嗟に撒き込まれを防ぐ為にすぐ傍まで近寄っていた織斑を思いっきりフルパワーで殴り飛ばした。
野郎が吹っ飛んだ事で、ボーデヴィッヒさんの狙っていた砲身は大きく其れる。
「今だッ、撃て!!」とは言わんかったが、俺は彼女に目で合図を送る。
「!」
それを知ってか知らずかは解らんが、ボーデヴィッヒさんは野郎目掛けて引き金を絞る。
・・・じゃけど・・・
「こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人は随分と沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」
「・・・ッチ」
その射撃線上にデュノアさんが割り込んで入って来た。
ッチィイ! 邪魔すんなよぉッ!
あとホットビール馬鹿にすんなッ。意外とあれ美味いんじゃぞ!!
「ふんッ、フランスの第二世代如きが私の前に立ちふさがるとはな」
「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代よりは動けるだろうからね」
睨み合う二人。
その間、デュノアさんに遅れを取りながらも篠ノ之さんや凰さんが守りを固める。
この間に俺はアサルトライフルを取り出し、織斑の阿保面をボコボコにしようと近づいていると・・・
『そこの生徒! 何をやっている!』
おっと邪魔が入りやがった。
大方、。騒ぎを聞きつけた担当者が叫んだんじゃろうな。
「ふん・・・今日ところは引こう。だが、次こそは・・・!」
そう言ってクールに去って行くボーデヴィッヒさん。
「ラウラ・ボーデヴィッヒはクールに去るゼ」と勝手なアテレコを後ろからしとったら、デュノアさんから声をかけられた。
「助かったよ、清瀬」
「あ、なにがじゃ?」
「あの時、清瀬が一夏に攻撃していなかったら、一夏諸共皆がボーデヴィッヒさんの砲撃に巻き込まれるところだったよ」
「えッ、そうなのか!?」
あ、この野郎、それ俺のセリフ。
「ボーデヴィッヒさんが一夏に向けたのは、たぶんドイツで試験試作中の大型レールガン。あんなのを密集空間で発砲されたりしたら、一夏だけじゃなくて皆が大ダメージを負うところだった。清瀬が一夏を攻撃した事で、砲撃のタイミングが逸れたから、ボクが割って入る事が出来たんだよ」
「そうだったのか、清瀬!」
「清瀬ッ・・・お前という男は!」
・・・うん、なんか勘違いされとるようじゃな。
確かにタイミングはピッタリじゃった。あのままデュノアさんが出しゃばらんかったら、織斑の野郎”だけ”に大ダメージを負わす事が出来たのにのぉ・・・。
「・・・春樹さん、本当ですか?」
あー・・・やっぱりセシリアさんは勘違いしてくれてないな。場を乱さない為に同調してるように見せとるだけで、めちゃんこジト目じゃ。
・・・まぁ、俺もこれ以上は騒ぎに巻き込まれたくないけんな。
ここは同調しとくか。
「ウン、ソウジャヨー」
「清瀬ー!」
「うわッ、来るな」
ガンッ
「へぶッ!?」
「「い、一夏!!」」
あ、ヤベ。
感動して気持ち悪い顔で近づいて来るけん、つい殴っちゃった。
・・・ついでにもう一発殴っとこう。
「おやめなさい、春樹さん」
「・・・へーい」
・・・・・・・・はい。という訳でリハビリ投稿でした。◆◆◆◆◆